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全員バトン  作者: 森野昴・シンG・しいたけ・ぼるてん・黒イ卵・間咲 正樹・陸 なるみ・マックロウXK・砂臥環・砂礫零・秋の桜子・かわかみれい・べべ
13/15

1月 (べべ)

 蛇がいた。


「ブラボー! &、ハッピーニューイヤー!」


 白と、黒の、蛇だった。


「ブラボー! &、ハッピーニューイヤー!」


 やつの声で。

 あの子の声で。

 蛇が、瞳を細めながら、叫んでいた。


「……終わった……筈だろう」


「「ブラボー! &、ハッピーニューイヤー!」」


「なぁ! 終わった筈だろう、ループは!? 死んだ筈だろう、お前は!! なんでいるんだ? なぁ!?」


 唾液を細かくし、唾にしながら吐き飛ばす。

 視界が揺れる。動揺が、無意識に眼球をくゆらせる。

 手が震え、足が一歩を踏み出す。前ではなく、後ろにだ。


「終わった?」


「終わった?」


「あぁ、終わった。終わったな」


「あぁ、繋ぎ繋がれ、回し回され、グルグルグルグル巡ったバトンも、遂に終わりの時を迎えた!」


 クツクツと蛇が笑う。

 かんらかんらと、蛇が笑う。


「何度巡った?」


「それはもう! 回り回って12回!」


「いくつ繋いだ?」


「それはもう! 巡り巡って12回!」


「大層なものだ。感心するよ」


「よくもまぁ、ここまでゴチャゴチャ詰め込んだ!」


 辺りを見渡す。

 こんな化け物が、こんな正常な世界にいるのに、誰も騒ぎ立てる者はいない。


 皆、笑顔で歩いている。

 笑顔でピアノに手を伸ばしている。

 笑顔で、年越しを祝っている。


「訳わかんねぇよ! くそ、なんで、ぇ、え? なんでだ? 俺はお前を殺したよな!? そうだよなぁ!?」


「あぁ、あぁ、殺した。殺したな」


「1つ前の話だったか?」


「どうだったか、忘れたな」


「最後の輪廻だぞ!? 忘れてなんとする!」


 黙れ。

 黙れ黙れ黙れ!

 いちゃいけない異物だ。消さなきゃならない存在だ。

 もう、あんな繰り返しは起こさせない!

 天羽々斬はどこだ? もう一度ドテッ腹から真っ二つに裂いてやる。


「なんで……なんで無いんだ」


 だが、俺が対抗しうる唯一の武器は、どこにも存在していなかった。


「なんで……」


「何故と問うたか?」


「そりゃそうだ!今は一月、13回目だ!」


 蛇はグネグネと絡み合い、鱗を泡立たせながら縮んでいく。

 しばらくすると、そこには……年不相応に怒張した肉体を持つ、一人の老人がいた。




「年の初めは小さな書き物。森の奥で揺蕩う蝶。静かな静かな期待の文」




 その厳格な声色は次第に崩れ、本命をほのめかす娘の色香へ。




『2月はどうだ? 甘酸っぱいな。シンシンと降る雪の日に、ジンとくるよな悲しき青春』




 小さなシルエットは、豊な実りを持つ迷彩服の女性へと姿を変える。




【狂い初めは3月か! ははは! 蔓延するは菌糸の狂気! 舞えや歌えやの大騒ぎ!】




 ぶわりと迷彩服が舞い上がり、緩いローブに姿を変える。とがり帽子に杖を持つ、賢者のいで立ちが今は憎い。




陽昇ひのぼる天から舞い降りるは、子供の反らした蹴鞠か羽根か? 否や、危険な爆発物だ! 過激に叫び、喜劇に励んだ訓練の日々!>




 肌も露わな装飾を、巌が如き鎧に変える。剣を地面に突き立てば、凛と響くは悲劇の嬌声。




《黒い卵に閉じ込めた、日常の世へいざ参らん。ほぅ、言霊遊びとは重畳。げに楽しきものよなぁ?》




 鎧は砕けて塵と消え、溢れ出るは花嫁衣裳。なれど着込むは女子おなごにあらじ。頬の赤らむ戦国武将。



〈あの世を嘯く妄想は、数多の国を巻き込まん。この世は正に一本の樹よ。枝葉の数だけ世界があろうて〉




 骨格がボキボキと組み代わる。小柄な体に詰め込むは、国の傾く絶世の美だ。




≪海と陸の境目は、夏こそ特に似合うもの。ここで神のまじないは、本質的な楔となったぁ!≫




 肌が一気に異国の色へ。たった1人を愛した女は、毒の蛇を片時も離さない。




〔暗がりの中から湧き出た伝記は、少年を滾らせる熱き灯。三つ首の猛犬よ、逃げねば目玉をほじくるぞ!〕




 くるりと回ればその手に土瓶つちがめ。日本最古の女王が笑い、ゴキリと首を真横に回す。




[砂粒一つ転がして、ようやく自覚し焦ったか? 巡り巡って回り回った、環境の歪みは手遅れの域ヨ]




 カコンと土器は洗面器へ。銭湯帰りの土地神に、湯上りの温かみは微塵もない。




(違和感の砂は増えに増え、もはや止まらぬ砂礫の雪崩。神も仏も巻き込んで、輪廻の邪神を討たんと舞った)




 その身を炎が包み込む。炎上する寺から歩み出るは、くすぐり好きの名大名めいだいみょう




{秋は過ぎ去り冬が来て、桜が恋しと日々眠る。悲しき校舎に夕日が差せば、いよいよ最後の大一番}




 炎は増し、男を包む。火の鳥が生まれ、卵を産んだ。産まれ出でるは懐かしの巫女。幼き頃の新聞仲間。




⦅川上から清らかな水だぁ! 全てを包み、全てを治める! あぁ、邪神を引き裂く覚悟の証。なんと優美な大団円か!⦆




 少女の瞳が裏返る。天を向くと顎が外れて、腕が飛び出し肩を掴む。服を脱ぐように現れたのは、1年を共にした大親友。




「死なんよ。死なん。混沌の邪神はいくつ居た? 何人の頭に眠っていた?」


「…………」


「この輪廻には、いくつの知恵が集まっていた? その数だけ、神がいるという仮説を、何故否定できる?」


「……俺が……感じた歪み、は……」


 12回。

 つまり、こいつのいう事が正しいなら……。

 12体、邪神は存在する?


「……ふざけんなよ……そんな、暴論……」


「占めてまるまる12回。他者の頭を飛び移り、材料集めて鍋にした。残るはどんな具材が良いか?」


「…………っ」


 あはぁ、と親友は微笑む。

 裂けたように、鮫のように。

 かつては同衾しかけ、かつては聖弾を放ち、かつては爆発に飲まれ、かつては推理にいそしんだ。

 その面影は、今やない。


「喜劇は入れた! 日常は入れた! 青春は入れた! 狂気も入った! 悲劇はどうだ? これも追加だ! 謎解きだって美味いぞきっと! 伝記に神話に歴史もぶち込め! ぐるぐるグルグルかき混ぜろ! ここは魔女の鍋の底!!」


「そん、な……だって……」


「数多の色をぶち込めば、最終的には何色になる? べべち()べべち()い黒色だぁ! 全てを塗り潰す台無しの色だぁ!」


 全てを飲み込んでやった。

 あの子もこいつも。あの世もこの世も。

 あぁ、あぁ、この一連で、全てを覗いた12カ月。だが、最期に残った要素はどうか。


 恐怖。


 そう、恐怖だ。


 まだこの鍋に、恐怖は入っていなかった。


 ならば、この場は、この1月は。


 恐怖によって描かれる。それが新たなピースなのだ。


 ははははははは!! ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!

 狂ったように笑う邪神。

 死んだはずの存在。

 大団円の対極。


「俺は……俺の、してきた事は……」


 全て無駄だったのか?

 全て、自分の頭の中で回ってたはずだ。

 あの時代も、あの事態も、全て彼が望み、起こり、捻じれて、元に戻ったはずなのだ。

 なのに、この仕打ちか。


 全てを無視して壊すだけか。


 そんな事が、許されるのか。


「後は、お前が、屈するだけだ」


 やつの片目だけが、ギョロリと彼を見る。

 肩が跳ねた。ビビったのだ。当然だ。

 今目の前にいるのは、全てだ。整地した道筋をほじくり返す害悪だ。


 だが、諦めきれない。

 このまま、恐怖で終われるものか。


 ビター上等。ハッピー希望。なれどバッドはいただけない。

 エンドは薔薇の花束を共に。出演者全員で一礼するのが常というものだ。


 何か、何か手は無いか。


 敵は最悪の13人目。

 12人の中の裏切り者。

 そいつに一泡吹かせるには、どうしたらいい?


「っ!」


 その時、頭に浮かんだのは……




    ◆  ◆  ◆




 月に並びし逓送ていそうしゆく物語始まりき

 起伏きふくある激しきものになるか否かが

 出方で決まるかとみてきりきり舞い


 奈落ならくに沈みゆるか天に昇ゆるのかの

 楽観的に見ゆるが良しとするべきと

 舞台は何ぞとしゆるかと思いせり


 手広く各方面へと渡るが良しからむ

 一月は年のはじめなれば年神としがみを招く

 壮行そうこうされるは門出かどでなる月のものたち

 生まれいずる子は目出度きことなに


 申し送る言の葉はとくとなしと思ふ

 伸びやかに渡られむことを願うのみ

 概念のみとなりしこのふみの並びとや

 ち並ぶ後続にと渡すものとは何ぞ

 立志りっしするもその意満たされたるやと




    ◆  ◆  ◆




「……つまり、さ」


「あ?」


「これを……さ。ここに残さなきゃ、いいんだろ」


 彼の手が、光輝く。

 邪神の顔がぐにゃりと歪む。

 その顔は、13のどれかに見えたか。はたまた、まったく知らない顔か。


「貴様……!」


 彼の手に握られているのは、伝説の聖剣……などではない。

 そこにあるのは、一本の筒。

 運動会でしか見られないような、ただのプラスチックの棒。


 13人分の受け渡しで擦り減った、ボロボロのバトンであった。


「お前が12人いて、1人減って、残り11人って事は……さ!」


「返せぇ! それを!」


 邪神が腕を振るう。

 一歩も動かずとも、腕が勝手に伸びて彼を薙ぎ払う。

 吹き飛ばされピアノにぶつかる。鍵盤が豪奢な悲鳴を上げ、彼の頭を割った。

 だが、視界をあけに染めつつも、彼は言葉を止めることはない。


「ゲホッ……! あと、最低でも11回……! どこかで回って、11回、全部でアンタを殺せば!!」


「餓鬼がぁぁぁああああ!!」


 伝説の剣を見た時よりも、明かに恐怖した声で、邪神が咆哮する。

 力は入らない。しかし、腕なら動く。

 視界が霞む。だが、今なら見える。



「……なぁ……見てんだろ……!」



 バトンを突き出す。

 邪神にではない。





 今、この物語を見ている、()()()()にだ。





「繋いでくれ……!」



 俺は、もう無理だけど。



「繋いで……繋いで……あんたが……!」



 そう、君が。

 君たちが。



「好きな物語で、終わらせるんだ!!」



 最期のバトンは、君に託す。

 どんな勇者にも、どんな凡人にもなれる世界で。

 笑い、泣き、焦り、悩み。


 繋がり、手渡し、見守って。

 最期に、お疲れ様と叫ぶ。


 それを、共に味わおうではないか。


「くそがぁああ!!」


 彼の頭上に、死が迫る。

 親友の姿は、もはや保てていない。友の体で友を殺すなどという事にならないのが、唯一の救いか。

 否、救いはこれからか?



 さぁ、選ぶといい。



 彼の死の間際、差し出されたバトン。

 手に取るか、否か?


 是ならば画面に手を当てるといい。……そこからは、君だけの物語だ。


「……頼んだ……」


 小さな呟き。

 それと同時に……世界は暗転した。




    ◆  ◆  ◆




【全員リレー:キャスト】















①森野昴















②シンG














③しいたけ

















④ぼるてん
















⑤黒イ卵

















⑥間咲 正樹


















⑦陸 なるみ




















⑧マックロウXK



















⑨砂臥 環





















⑩砂礫零



















⑪秋の桜子




















⑫かわかみれい



















⑬べべ



















⑭&、You……












 ~Fin~  ……?

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