5話 華麗なる?脱出
朝。目覚めてまず周囲を確認する。
近くに誰か、リリーがいるかを確認する。
誰もいないことを確認して弥はホッとした。
だが油断してはいけない。あくまでこの部屋にはいないということを確認したに過ぎない。
扉を開けた瞬間に赤髪とエンカウントするかもしれない。
弥は気を引き締めて扉を開けた。
すると幸いにも赤髪はいなく、キッチンなどを確認してもリリーはいなかった。
ひとまず安心といったところか。とはいえ隣に引っ越してきているのだから安心とも言い難い。弥は変な緊張感を覚えながら朝食の準備を始めた。
昨日言った通りみづきは家に帰っていないらしく弥は1人分の食事を作る。
不思議だ。前まではこの生活体系であったのにも関わらず何となくの寂しさを感じる。それにいつもよりも多い量の朝食を作ってしまっている。みづきのいる生活に慣れ始めている。あれほどまでに騒々しい生活に。
そんなことを考えながらベーコンを口に運んでいると何か叫び声のようなものが聞こえた気がした。
普段ならば気のせいと片付けるのだがこの状況ではそうはいかない。
弥は声の聞こえた方に歩いて行く。もちろん行った先は行き止まりであり、さらに玄関の前でもなくただの壁である。
おかしい。この官署ンはすべて防音加工がされているので隣の家の音が聞こえるという事はない。
それにこの方向はリリーが住んでいるところではなくごく普通の一般家庭であったはずだ。
やはり気のせいだったのか?
そう思った矢先、目の前の壁が長方形に割れた。
そしてそれに驚く隙も与えないまますぐにガッチリと装備を固め、ヘルメットをかぶった人、数人が弥の前に現れた。
「ターゲット発見。直ちに保護し、護送します。」
その中の一人がそう言いながら弥を拘束する。
この声はもしかして・・・
「みづきか?」
そう弥が言うとヘルメットを取ってみづきが顔を見せた。
「えぇ。いろいろ戸惑っていると思うけど説明は後。今は何も考えずに身体を預けて。」
そう言われて身体をひょいっと担がれて穴の中へと連れられる。
すんなりとやってるがみづきはとんでもない力の持ち主なのか。
そんなことを思っていると防災訓練や有事の際に使用される簡易的な滑り台のようなものが行った先にありスルスルと下へと降りていく。
一般的にあれは学校などの比較的階層数の少ない建物で使うものであり安全な速度で下へと降りることが出来る。しかし今回は滑り台の強度はあるとはいえ、高層マンションの最上階から下へと降りるものであるのでとんでもない速度が出ている。
しかしながら弥は長男。
それも後に大企業を継ぐ男だ。
こんなことでキャーと叫んでいては威厳に関わる。
弥は口にグッと力を入れて出ようとする声を殺す。そして恐怖を極力感じないように目を閉じる。
そんな時間が何分か続いて一緒に降りていたみづきがぎゅっと自分のことを強く抱きしめる。
急になんだと思うと直後に知りに衝撃を受ける。
どうやら地上に着いたようだ。
口元と目元の力をふっと抜き、目を開けるとコンクリートでできた部屋と一代の黒塗りの車がある。
こんな部屋このマンションにあったか?そう考える隙も無くみづきに車に乗せられて車は走り出す。
一体どこへ行くのだろう。そう思って外を見てもトンネルの中のように暗く全く分からない。
弥はひとまずみづきに状況説明をお願いした。
「ここはこのマンションに秘密裏に建設した緊急通路。そこから今は別の住居に移動している途中。」
「いや、それは何となく分かるんだよ。どうして昨日の今日でこんなことが起きたのかを聞いているんだよ。」
「あの女に居場所がばれた。暗殺者が隣にいるなんて状況にすることはできない。だからこうして逃げている。」
「それも分かっている。でもこれもリリーにはバレてるかもしれないぞ?」
「それも問題ない。気を引くために弥のパンツを玄関に5枚ほど置いてきた。罠だと気づいたとしても食いつくしかないはず。」
「そうか。ならば…、ぬをっ!?」
普通に聞き流そうとしたがさらりととんでもないことを言ってきたぞ。
「そんなんでどうにかなるわけないだろ!!」
「大丈夫。これを見て。」
そう言ってみづきは電子パネルを取り出してある映像を見せる。
そこには何かを顔にギュッと押し当てながら悶絶している赤髪の女性の姿があった。
「とりあえずこれで1時間は稼げるはず。」
「…。ちなみに聞くがあれは洗った、もしくは新品のパンツだよな?」
そう言ってみづきを見ると目を逸らした。
弥は頭を抱えた。
「分かった…。パンツのことについては後でゆっくりと話を聞こう。」
弥は色々なことを諦めてただ目的地に着くのを待った。
しばらくの間暗い道を進んでいき、ようやく光が見える。
いったいどこにいるのか。弥は眩い光の先を見つめた。
するとそこには…。
ジェットコースターが見えた。それにマスコットキャラクターも。
ここはもしかして…。
「もしかしてランド?」
「いいえ。シーよ。」
みづきが答えた。
「どっちでもいいわ!!」
弥の声が外まで響いたのか、マスコットキャラクターが飛び上がった。固まった笑顔のまんまで。
おまけ
早朝。私はダーリンを襲撃するための準備をしていた。
もちろん殺すための襲撃ではない。愛の襲撃である。
一通りの道具を準備して玄関を飛び出す。
そこで私は出会ってしまったのだ。五枚のパンツに。
私のDNAが即座に反応した。
そして
モチカエレ。こう囁いた。
しかし、その後に理性が訴えかけてくる。
落ち着くのだ。誰のかも分からないパンツではないか。
それに仮に彼のだとしても何故こんなところにあるのか。
罠なのでは無いのか。
私の理性と本能が戦いあった。
その結果、
本能がコールドゲームで圧勝した。完全試合だった。
そして家に戻って匂いを嗅いで確信する。
これは彼の、それも使った後の…。
「あぁ〜ん♡」
リリーの記憶はここで途絶えた。
久しぶりに更新しました。
今回は冨樫ることはないと思います。
多分…。