四話 隣をご覧下さい
元気ですか。4話です。話がようやくまとまったので投稿しました。最後まで読んでいただければ幸いです。
リリーの編入から二週間が経過した。学校ではリリーのアタック、家ではみづきのアタックに疲れながらも、だんだんと慣れてきて対処法が分かってしまうという怪我の功名的な結果を得てしまった。
まずはリリー、これに関しては一番楽だ。なぜならみづきという壁が一枚存在するので基本的に校内でアタックを受けることがないからだ。しかしながらみづきのアタックをかいくぐったりみづきが用事でいなかったりするときはもう止めることができなく基本的にかくれんぼ状態になる。
それでも見つかったときもあったがそのときは・・・・、思い出したくもない・・。
そしてみづきに関しては基本的に無視で大丈夫だ。突飛なことを言ってくるがそれに一々反応していては疲れるしみづきの思うつぼだ。
だがこれにも問題がある。最近無視をしたり、冷たく反応すると何故か少し喜ぶようになったのだ。
自分がこのイレギュラーな環境に適応しているようにみづきも適応しているのかもしれない。主に悪い意味で。
さて、回想終わり。
こんな日々に残念なことに慣れて今日もまたリリーに警戒しながら家へと帰還していたのだが今日は妙にリリーの気配を感じない。
というのもここ二週間二人に追いかけまわされ、隠れてやりすごしたりした結果俺は二人の気配というのを感じ取ることができるようになったのだ。
いつもなら帰り道に毎回気配を感じて何回かアタックをされるがその気配探知によって方向を読み取り、それにみづきが対処するというシステムが出来上がっていたのだが、こういったある意味でのイレギュラーを見せられるとどこからか奇襲されるのではないかと変な緊張感が走る。いやそもそも毎回奇襲ではあるのだが。
何となく変な空気のままいつもの裏ルートでばれないように帰る。
何故か二人とも家に入るたびため息をついて各々家事を行う。今日はみづきが食事当番、弥が風呂当番の日だ。
しかしながらまだ妙な違和感を感じる。なぜ今日は来なかったのだという違和感を。それはみづきも同じようでいつもならお風呂の用意できた?と言いながら全裸で浴室に侵入してくる時間なのに今日はそれがない。
料理に時間を掛けているとも考えられるがどちらにせよ今日は裸エプロンではなかったのでみづきも何かを感じ取って警戒しているのは確実だろう。
というかさらっととんでもないこと考えてるな俺。
待てよ、ひょっとしてリリーの狙いは・・・。
弥の頭に一つの考えが浮かぶ。
この迷い、迷走、これが狙いか?攻めるだけでは駄目だと気づき一球緩急を入れることにより次の攻めに活かそうとしているのではないか?
実際に俺とみづきはこの緩急に警戒してびくびくしている。さらに言えばずっとリリーの顔が頭の中で反芻されるかのように思い浮かぶ。これが狙いだとするなら恐ろしい子だ。
まぁ、結果的にその日はそのせいと言っていいのかそのおかげと言っていいのか分からないがみづきからのとんでもアプローチというのはなく弥はごく一般的な夜を過ごした。
次の日。昨日の違和感はとっくに無くなり弥が朝食を作っているとみづきもいつものように下着姿で攻めてきたのでそれを右から左へと綺麗に受け流して学校へと向かう。
しかしながらここでもある違和感を感じる。
いつも通りならば学校に着く数十メートル前でリリーが故意に偶然の出会いを演出してくるのに今日はそれが無くすんなりと校門をくぐり教室に着いた。
もちろんみづきもこれに違和感を感じているらしくいつもは弥とくっついてパワープレイでのイチャイチャに試みるのだが今日はものすごいオーラを放ちながら弥の近くにいるだけで何があってもいいように迎撃体制を整えている。
しかしそれを裏切るかのようにリリーは現れずにそのまま授業が始まった。何事かと思い一応担任にも聞いてみたが家の用事としか言われていないと詳細は分からずじまいとなった。
これにみづきは強く反応して授業中であろうと休み時間であろうとオーラを出しまくりの状態で日常を過ごし、弥にも注意するようにと念押しした。家の用事が自分暗殺の可能性もあるからな。しかしこれもリリーは裏切り結局その日1日何事もなく下校時間となった。
変に緊張していたせいか弥もみづきも精神的に疲れて会話もなくいつものように裏下校し弥は食事を作りみづきはお風呂の準備をしていた時だった。
ピンポーンとチャイムが鳴った。
珍しいな。宅配物は頼んでいないしセールスはフロントで止められる、同様に友人が許可もなしに入ることは出来ない。
となるとこのマンションの住人となるがそんな社交的な人間は少なくともこの階にいないし、回覧板も勝手にポストに入れられているはずだ。
弥は少し不思議に思いながらモニターで応答しようとするとそこにはよく見知った人間の姿があった。
『どうも〜、隣に引っ越してきたものです〜。』
見間違えるはずがない赤髪の少女。リリーだ。
「みづきーーーー!!」
弥は大声で風呂場にいるみづきに叫んだ。
何事かとみづきは走って現れて弥はモニターを見るようにと指示する。みづきはモニターをチェックすると目を丸くして弥に自分の傍を離れるなと指示する。
「どうするんだ?」
「居留守を使う。迎撃しようにも私たちが開けなければならないからあちらに分がある。」
「了解。」
確かにこれが最善の手だ。きっとリリーは2人がいることに気づいているだろうがこのままでは手が出せないはずだ。
しかしおかしい。この部屋は角部屋で隣には4人家族が仲睦まじく暮らしていたはずだ。実際昨日も挨拶を交わしたことだし。隣に引っ越せるはずが…。
そう思考をまわしているとリリーに動きが見えた。
電子キー差し込んで鍵を開けてそのまま玄関を開けて侵入してきた。
「隣に引っ越してきましたリリーで〜す。弥さんはいらっしゃいますか〜?」
「弥、自分の部屋に避難して。」
みづきはそう言って弥を突き飛ばして玄関に向かう。
弥も急いで部屋に向かおうと走る。後ろからは刃物と刃物がぶつかり合う音が聞こえる。
弥が部屋の前に到着してドアを開けようとした時だった。
後ろからトントンと肩を叩かれる。
この気配は…。後ろを振り向かないまま急いで扉を開けようとすると相手の手が強引に弥を振り向かせた。
そして…。
ズキューン!!
弥の唇に柔らかい感触が伝わった。
振りほどこうと手で突き飛ばそうとしてもリリーはがっちりと弥の首を掴んで離れようとしない。
弥も必死になり何度も押したりもがく。
その過程で弥は何か柔らかいものを触った。
するとリリーが、
うんっ♡と反応してそのおかげで弥はリリーを引き離し、口から大きく息を吸い込んだ。
「意外と積極的なのですね♡」
「誰が言ってるんだよ!!」
弥がそう叫ぶとリリーはまたしても弥に襲いかかろうとする。
弥はまるでいじめられている子供のように体を丸めて身を守ろうとする。その時、ドタドタと走ってくる音が聞こえてきた。
これは…、
「こいつは私が食い止めるから早く部屋に入って。」
みづきがこのピンチに駆けつけた。しかしその身はボロボロで頬に浅い切り傷も見える。
「そんなに疲弊した身体で私を止められるとでも?」
「えぇ。命を懸けて。」
この時弥の中では2つの感情が戦いあっていた。
1つはみづきの言葉通り逃げようという臆病な気持ち。
そしてもう1つは…。
「待て!!」
弥は2人の間に割って入った。
「弥どうして!?」
みづきは叫ぶ。
「あらあら。男らしいですね。ますます好きになりましたわ♡」
「1回話をまとめたい。座って話をしよう。」
そう言って弥はリビングへと向かう。
その後ろを跳ねるようにリリーがついて行くがみづきが間に入ってブロッキングする。
「それで、どういうことか説明してくれるか?」
弥は隣にみづきを座らせてリリーに向かって話す。
「どういうことも何も、出来るだけ一緒にいたいから引っ越して来ちゃった♡」
「隣には家族連れがいたはずだが?」
「彼らには力づくで退いてもらいました。」
その言葉を聞いて弥、そしてみづきも立ち上がる。
「お前こんなことのためにあの家族を…!!」
弥は怒りを露わにする。
「えぇ、都心の一軒家をプレゼントしました♡」
「は?」
弥は思考が停止した。
「大変でしたよ。引越しの手伝いをしたり、引越しの荷物を急いでここに持ってきたりで。おかげで学校に間に合いませんでした♡」
シリアスな展開と思いきやまさかの一言に弥、それにみづきも口をポカンと開けたままだった。
「そういうことですのでこれからよろしくお願いします♡あとこれは引越しそばですので早めにお食べ下さい。それでは♡」
そう言ってリリーは部屋を出ていった。
しばらく二人の間には静寂が広がる。
「おかしいわ。」
みづきが最初に口を開いた。いや、開きっぱなしだったので正確には閉じたとも言う。
「ここは久遠家所有のマンション。入居するときに軽い素性検査をするはず。あの女がそれに合格するはずが…。まさか…、」
みづきは青ざめた顔でそう言って急いで自室に向かい数分後正装で現れた。
「弥はここに居て。キーに関してはさっき変更させたからとりあえずは大丈夫なはず。多分今日は帰れないと思うからしっかりと戸締りして。何かあったら知らせて。」
そう一方的に弥に伝えるとみづきは家を出た。
一体どうしたんだ。確実に緊急事態なのは分かる。
何かが起きようとしているのか?
弥はこれ以上は考えないようにしてみづきの言う通りに家の鍵を全て確認してその日は早めに就寝した。
これが後に大きな問題に発展することも知らずに…。
おまけ
弥はみづきが出ていった後にあることも気になっていた。
それはリリーの持ってきた引越しそば。別に美味しいのかという興味ではなくこれにも何か狙いがあるのではないかという疑念だ。もしかしたら盗聴器であったりカメラであったりが仕組まれているかもしれない。いや、もしかしたらこのそばに毒、それか媚薬が入っているのかもしれない。
兎にも角にもこれはすぐに処分しなければ。
そう思った瞬間に携帯に通知が入った。
内容を確認するとメッセージで
『何もしていないのでご安心を』
名前にはリリーと書いてある。
弥はすぐにブロックしてそばを冷凍庫へとしまった。
するとまた通知。
『冷凍すると美味しくないですよ』
ブロックしたアカウントではない新しいアカウントのリリーからだった。
それも弥はブロックして今度は機内モードにした。
怖い怖い。早くご飯を食べて寝よう。
そう思い台所へ向かうと謎の手紙が。
もしかして…、弥は恐る恐る手紙を開く。
『せっかくこの日のために10割そば作ったのに残念です。食べ物は粗末にしてはいけませんよ!』
弥は手紙をゴミ箱に捨てる。
軽い食事を終えてさっさとベッドに入ろうとするが何故かベッドの中にも手紙が。
嘘だろ。この部屋には入っていないはずだぞ。
手紙を開くと、
『おやすみなさいダーリン♡』
という内容とともにセクシーブロマイド写真が入っていた。
弥はこれもゴミ箱に入れて床についた。
引っ越そう。
そう心に決めながら。
絶賛zoomを使用している作者です。
その影響もあり出かけなくなったせいかだんだんボケてきています。例えばミュートにしないまま独り言を言ったり歌ったり。食事の時に目の前にソースがあるのに五分くらいソースを探したりと。
自分の50年後が心配になります。
そもそも生きてるのかなぁ。
作品の話になりますがおまけが本編に関連することもあると思います。まぁ、基本的にはシナリオの都合上使えない小ネタになるとは思いますが。
長くなりましたが読んでいただきありがとうございました。
5話でお会いしたいです。