二話 急な展開となりました。
朝。ゆっくりと体を起こして、伸びをした後に、セットしていた目覚まし時計を解除する。
不思議なものでいつも目覚まし時計の鳴る前に起きてしまう。
まぁ、今日は二人分作るのだから都合がいい。
キッチンへ向かおうと部屋から出ようとドアを開けようとすると、なにか重い感触がする。
みづきの引っ越しの荷物に引っかかったかとドアの先を見るとみづきの荷物ではなかった。
「すぅ・・・。すぅ・・・。」
みづき自身だった。
体を丸めて半袖短パンで寝息を立てていた。寝返りのせいなのか少しはだけていて可愛らしいおへそがちらりと見える。
てか、これ俺が見たらアウトな奴じゃね?
いやそれよりも、もしかして一晩この状態で!?
そういえばなんか昨日の夜はなんだかがさごそ音がしていた気がするがこういうこと?
「んん~~~~っ!・・・あっ、弥。おはよう。」
ドアの衝撃で気づいたのか軽く伸びをしてみづきが挨拶をしてきた。
「おはようさん。とりあえずなんでここで寝ていたのか聞こうか?」
「それは、SPだから。弥とはなるべく近くにいて護衛しないと・・。」
そういいみづきが立ち上がると、寝ている間ずっと背中に敷かれていたのか、くしゃくしゃの雑誌と工具のようなものが出てきた。
みづきもそれに気づいて慌てて回収しようとしたが、弥のほうが早かった。
『ピッキングの初歩~これであなたもアルセーヌルパン~創刊号』
「とりあえずもう一つ聞きたいことがあるんだけど。」
「次からは上手にできるように練習しておくわ。」
「うん。せめて罪悪感程度は持ってほしかったな。」
それどころか次の犯行予告までされたぞおい。
若干の不安を覚えつつ朝食の準備に取り掛かった。
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朝食も何か特別なものを作るでもなく簡単にトーストと目玉焼きとウインナー程度で済まして学校へと向かう。
登校中、殺し屋女に警戒してみづきが弥の傍で四方八方を見回していたのは仕方のないことだとは思うが、あまりにも挙動不審であり周囲からは異質な目で見られたのは言うまでもない。
努力空しくといえばいいのか、幸いにもといえばいいのかあの女は現れなかった。
諦めたのだろうか、いやそれはない。
自分のことをプロと謳っていたし、彼女自身、また来ると言ったのだ。
いつ来るか分からない、この緊張状態を解くわけにはいかない。
教室に入ると由伸がにやにやしながら手招きしてきた。
「どうした、妙にうれしそうじゃないか。」
「笑いもこみ上げてくるぜそりゃ。学校中で噂だぜ。お前とみづきと謎の美少女が泥沼の三角関係だってよ。」
「はぁ!?」
詳しく由伸に話を聞くとどうやら、昨日の暗殺未遂を見ていた生徒がいたらしく、その生徒がその状況を謎の女がみづきから俺を奪おうとする、略奪愛に見えたらしく、そしてさらに今朝のあの挙動不審なみづきを見てあの女を警戒していると思われたらしい。
一つ以外は合っているのだが、そのボタンの掛け違いがとんでもない状況を想像させてしまっている。
まぁ、実は殺されかけているなんて言ったらいよいよ学校中がパニックになるだろうし、これはこれでいいのか?
まぁ、とにかく親友には状況を知ってもらうことにした。今後面倒くさくならないように。
「ははっ!そりゃ災難だないろいろと。」
「本当にな。」
「で、どうするんだ。その美少女の殺し屋は。」
「どうするも何も、相手のことは顔以外分からないしな。まず襲われないように守りに入るしかないかな。」
「まぁ、そうだよな。でもそんなにゆっくりしてると陰からグサリと・・・。」
「それはない。私が守るから。」
「ほう、ご立派。」
そう茶々を入れるように由伸が話すと担任が来た。
「はい、静かに。えぇ~、皆さんに急ではありますがあるお知らせがあります。」
いつもはこのままダラダラと出席をとるだけのホームルームだが、いつもとの雰囲気の違いに教室がざわつき始めた。
「まぁ、百聞は一見に如かずとも言うし、おい入ってきていいぞ!!」
教師はそう元気に廊下へと伝える。
はい。と小さな声が聞こえたと思うとなんだか見覚えのある顔が入ってきた。
「えぇ~、転校生のリリー・ガルシアさんだ。ではガルシアさんから一言。」
「みなさん初めまして。リリー・ガルシアと申します以後よろしくお願いします。」
『うおーーーー!!!』
男子たちが吠えた。
いや、それよりもあの野郎、影うちどころか正面から堂々と来やがったぞ。
(ちらっ)
うん。すごい目を合わせてきてる。
そして恐る恐るみづきの方を見る。
(じーーーっ)
うん。まるで腹ペコの獣のような目でリリーを見つめてる。てか怖っ!!
リリーはそのまま急遽用意されたであろう席へと向かう。
そこが弥の隣の席だったというような偶然はなく弥の二つ後ろの席だった。
そのことに安堵しつつあることを思い浮かぶ。
あれ?たしかあの席って・・・。
「あら、隣の方がこんなにきれいな方だなんて嬉しいわ。みづきさん。」
「ええ。私もあなたの隣でうれしいわ。短い間の付き合いになるでしょうけどよろしくね。リリーガルシアさん。」
そういい二人は握手をする。
なんというか力のこもった長い握手だった。
なんとも泥沼になりそうだと感じたホームルームを終えるとすぐにみづきは弥の手を引き廊下へと連れ出す。
リリーのほうは周りに人だかりができて動けない状況になっている。これは都合がいい。
「どういうこと!?あいつ忍ぶどころか堂々ときたよ!?」
「あんな大胆な手に出るとは思わなかった。でも大丈夫。私の席の隣ならあいつの自由を封じることができる。」
「確かにそうか!!よろしく頼むぞ。」
「ええ。」
軽い作戦会議を終えて教室へと戻る。
人だかりはまだリリーの周りにあり、みづきは自分の席に戻るのに苦労をしていた。
そしてそして弥が席に座るや否や人だかりの半数以上が弥の周りになだれ込んできた。
「ねえ!リリーさんが例の愛人さん!?」
わーお。あまりにもド直球。
「例のってなんのことかなぁ?」
しらを切ってみる。
「あの人が噂の略奪愛の人でしょ?ガルシアさんにどうして転校してきたか聞いてみたけど『愛する人を追いかけて』って言ってたから。」
あの野郎。おそらく暗殺云々のことは言ってはいないだろうが言質が取れた分随分厄介な事態にしてくれた。
返答に困っているときにちょうど救いともいえるチャイムが鳴り、さらにすぐに一時限の教師が来るというラッキーに巡り合いなんとかその場は収まった。
さて、隣の席の由伸はずっと樹の方を見てにやにやしているが細かく質問してこない分他の生徒よりかはまともだといえる。
それより、次の休み時間はどうしよう。
それに昼休みなんて長い時間をどう過ごせばいいんだ。
いや、それよりもこの時間生きて終えられるかも微妙だ。
後ろから毒針が飛んできてグさりなんてことも考えられる。ここはみづきを信じるしかない。
そんなことを考えているうちに授業は終わった。
ほとんど内容は入っていないし、時々後ろの方から聞こえてくる戦闘による金属音にびくびく教師や周りの生徒とともに怯えていた。
授業が終わると今度は由伸が樹を連れ出して、あまり使われていない男子トイレへと誘導した。
弥が礼を言うと、それには及ばないとポケットからくしゃくしゃの紙を出す。
それには『授業が終わったらすぐに弥を連れ出して次の授業まで潜伏していてください』
と書かれてあった。これは明らかにみづきの字だった。
「こんな優しい幼馴染もって幸せだな」
「まあ、SPだしな。」
「それだけじゃないと思うけどなぁ。まあ俺は優秀な盾として弥様に付き従うよ」
「それには及ばねえよ。午前中は保健室でやり過ごすさ。午後は移動授業だしなんとかなるだろうよ。」
弥は教師に欠席を伝えるように由伸に言い、保健室へと向かった。
「さてどうするか」
そうつぶやく。保健室のベットで寝てみたはいいもののどうしても寝ることができない。
いろいろと策をめぐらすものの有効だと思えるものはなに一つ浮かばない。
まあ、今考えてみて分からないものは分からない。
そう考え無理やりにでも寝ようと目をつむる。
何分かしてようやく睡魔の先っぽのようなものが見え始めたころだった。
ベットを囲っている目隠し用のカーテンが開く音がしたかと思うと、
「あらあら。眠っているお姫様には目覚めのキスを・・・。」
聞いたことのある、おそらくは今一番会いたくない人物の来訪に急いで飛び起きる。
「なんのようだ!!」
「何の用って、私はただダーリンのことが心配でここに来たんですよ?」
「・・みづきはどうした」
「彼女は今頃犬についたあなたのGPS情報を追って町中を駆け巡っているはずよ。」
「どうして!?みづきは由伸に俺を守るように指示していたはずだぞ!?」
「あぁ、あの紙片は私が書きました、みづきさんの字で。」
「は?」
「みづきさんは真面目ですね。私と争いあっている間もせっせとノートをとっているんですから。そのおかげで筆跡をコピーできましたし。そこからばれないように由伸さんに紙片を渡して、GPSのついた犬を町に放って、帰ってきた由伸さんにダーリンの場所を聞いて、そのまま監禁してと大変でした。」
正直引っかかることはいくつかあったがそれらを無視して思考する。
「なんで転入してきた?俺を殺すのにそんなリスクは背負う必要はないはずだろ?」
とりあえず時間を稼ぐ。みづきだってプロだ。自分が追いかけているのが犬だったなんてことにはすぐに気づくだろう。まぁ、来たらとりあえず何も言わずにGPSをつけていたことを聞くが。
「昨日、逃げ帰った後考えたんです。本当にこのまま殺しちゃってもいいのかって、こんな気持ちのままで殺しても後悔が残っちゃうんじゃないかって。私は一人の殺し屋である前に一人の女ですから」
リリーは今までの軽い口調から急に重々しく語る。
「だから、決めたんです。しっかりと弥さんを落として殺させてもらうって!」
「は?」
「よく考えたら私が失礼でした。よく知らないキュートな女が急に付き合ってなんて無理がありますよね。まあ、私がダーリンに告白されたらすぐに式の準備をしますが。」
「そこじゃないんだよ!俺が死ぬという結果を起こす恋愛は無理に決まっているだろ!!」
「死ななきゃいいんですか?」
顔を近づけて尋ねてくる。何とも無垢な表情で可愛らしいが殺し屋の表情と知るとなんだか怖さしか感じない。
死ななきゃという条件があるとどうだろう。こんなに自分を愛してくれて、こんなに可愛らしい女の子はそうはいないだろう。だが何かが弥の脳内にまとわりついている。
「その反応。なしではないのね?」
リリーは弥の顎を捕まえ、顔をさらに近づける。
「とりあえず、挨拶がてら先手を打ちますわ。」
そういい唇を重ね合わせ・・・・、
「そうはいきませんよ!!!」
怒鳴り声が聞こえた。この声はもしかして
そう思った瞬間。
パリン、という音とともに窓からみづきが入ってきた。右手に犬を抱えながら。
「あら、早かったですね。」
「なめないでこれでも一応プロのSP。」
みづきは犬を置き、両手にペンを構える。
それを見たリリーは弥を抱えて距離をとった。人質にはうってつけだもんなと弥は考える。
「決着をつけましょう。泥棒猫。」
「一瞬で終わらせますわ。」
二人はまさしく臨戦態勢。だが弥を抱えている分リリーが不利か、いやそれとも人質がいる分みづきが攻めにくくなっているのか。素人の弥にはさっぱりだ。
だが勝負は一瞬だったのを弥は忘れない。
両者のにらみ合いが続いてリリーの体が動いた。
ズキューーーン!!
kiss-意味口づけ、接吻、キス。
「んちゅっ。」
ほんの一瞬だったが何分にも感じる、何とも・・ディープなキスだった。
はっ、と急いで口を離した弥だったが二人の間を糸引くものがそのキスを物語っていた。
「まずは一撃目ですわ。それではダーリンまた明日。今夜でもよろしくてよ?」
そう言い残して保健室から去っていく。呆然とした二人を残して。
そのあとはしばらくボーっとしていた。二人で目を合わせながら・・。
数分経っただろうか。これも二人同時だった。
「「あぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!」」
二人の叫び声が響き渡った。
なんだあいつ!!一触即発の場面でキスかましてきやがった。
確かに衝撃を与えるにはこれ以上ない一手だが、この場面で普通やるか!?
なぜか弥よりも衝撃を受けて、崩れ落ちているみづきを見つめる。
なにやらぶつぶつ唱えながら弥を見つめるが、聞き取れない言葉が呪いのようで、上目遣いもなんだか恨みがこもっているようでなんだか怖い。
そんな触れてはいけないパンドラ状態のみづきを見つめしばらくが経った。
ふらふらと立ち上がったと思うとゆっくりと弥に近づいてくる。
そして、
ズキューーーーン!!!
kissing-意味キスの現在分詞形。接吻、口づけ。
まさかの二度目が来た。
「んちゅっ、ちゅっ。」
先ほどのリリーのようにディープなキスだ。
弥は先ほどのように離そうとするがみづきの手が弥の頭を押さえているのでそうはいかない。
頭がボーっとし時間の流れがよく分からなくなった頃にその行為は終わる。
二人とも窒息気味だったのか荒々しく呼吸を行う。
またも弥は呆然としているが、みづきは呼吸を整え、
「一分超え・・・・。私の・・勝ち。」
そういい小走りで保健室から出ていく。
この言葉がまた推理を難問にした。
そして、不在だった保健室の先生が帰ってきて割られた窓ガラス、一人呆然と立ち尽くしている青年を見て言葉を失ったのは言うまでもない。
お読み頂きありがとうございます。筆者の平河と申します。どこかで聞いたのですが恋人ができない人は自分の1番好きな2次元キャラの特徴を3次元に求めているからだと聞きました。その点でいくと私の1番好きなアニメキャラは綾波レイとなります。綾波レイの特徴といいますと、ショートヘア、青髪、物静か、いっぱいいるとなります。どうりで彼女が出来ないわけですね。恋人のいない皆さんも1番好きなキャラを思い浮かべて現実を見てください。平河でした。