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デッドオアラブ~Dead or Love~  作者: 平河 宗真
1/8

1.求婚者は殺し屋でした

思い切ってきりのいいところまでと書いているうちに長ったらしくなりました。

つぎは10000字を超えるかもしれない、そんなラブコメが始動します。

「あの~、念のためにもう一回言ってもらえるかな。聞き間違えかもしれないし。」

放課後。生徒は下校し教室に人がいなくなるこの時間。

夕焼けをバックに教室に残る二人の男女。

久遠(くおん) (わたる)は正直緊張していた。

その緊張の原因というのはこのいかにもラブコメにありそうなシチュエーションと自分が女子生徒に手紙で呼ばれたというものだ。

これはあれだ。告白だ。うん。

正直、ドキドキワクワクしながらスキップと鼻歌混じりにここまで来た。

しかし、そんな俺のピュアハートが謎の美少女の言葉によって大きく揺れた。

「もう一回・・・、ですか。」


正直いって好みだ。

日本人なのかと思うほどの顔立ち。

身長はどちらかといえば小柄でそれがますます可愛らしさを引き立てる。

赤いロングヘアーが西欧人に近い外見とマッチしている。

胸は……。まぁ、人は中身だ。

品もよさそうでどこかのご令嬢と言われても納得できる。

なのに・・なのに・・・。


彼女はスゥハァと息を整える。

弥の目を覗き込むように目を合わせる。

うん。なんかいい。

弥はそう思ってしまう。

なのに……なのに……。

「どうか私と付き合って、結婚して、子供が何人かできたのちに暗殺させてください!」

少しの静寂がその場を包んだ。

「どっから突っ込めばいいんだぁーー!!」

教室中に声が響いた。

出会いの春にプロポーズ、男女の営み計画、そして死に方までも告げられた弥の高校生活はここで大きく変わった。

………………………………………………………………

久遠弥はあることを除けばごく普通の高校生であった。

そのあることは日本、そして世界にも多大な影響を与えるといわれる久遠財閥の跡取りであるということ。

そのため、弥は周囲からはある意味で距離を置かれ友人と呼べる人物は少なかった。

その友人の1人の坂井 由伸(さかい よしのぶ)はそもそも公立のごく普通の高校に通っているのが間違いだと言うが弥はごく一般の暮らしを送ることで父とは違った視点で物事を見たいと考えた結果によることであったので後悔はしていなかった。

なによりもここでは何かに気を使って暮らすということをしなくてもいい。実家からも離れ一人暮らしをすることでお前は跡取りなのだから……と周囲から言われることもない。

弥は高校1年をそこそこ充実して過ごした。

そして2年に学年が上がり、新学期。心機一転してまた楽しく過ごしていこうとしていたところにこの悪魔の手紙ともいえるものが届いた。

坂井には茶化すだけ茶化され、そして昔からの友人であり、唯一の女性の友人の最上 みづきにはなんだか人を見る目ではないような冷たい目線を浴びた。

「ちょっと整理させてくれ。」

弥は頭の中で現在の状況をまとめた。

「まず、お前は俺のことが好き、でいいんだよな?」

「は、はい!それはもちろんですとも!」


「結婚したいと思っている。」

「はい!今すぐにでも!」


「そして子供をもうけたいと思っている。」

「はい!愛の結晶です!」


「そして、それが終わった後に暗殺したいと。」

「はい!できるだけ優しく痛くないように取り組ませていただきます!」


「どういうことだよ!聞いたことないぞ!愛の告白と殺害予告を同時に行うなんて!」

「じ、実はそれにはいろいろと理由がありまして……」


「理由?」

「はい、重大なことです。」


「いったいどんな理由なんだ。一応聞いておくよ。」

「あの……実は私は裏の世界では結構名の通っているアサシンでして、ある方からあなたの暗殺の依頼をされたんです。久遠財閥の跡取りの久遠弥を暗殺して欲しいと。ですがいくらプロのアサシンと言ってもある程度の情報がなければ暗殺は不可能です。なので、裏では名の通っている探偵にあなたの調査を依頼したんです。そして、あなたの情報を見て驚いたんです!顔も、性格も全てが私のどストライク貫いたんです!」


「ほ、ほぅ。」


「これは運命の出会いと思ったんです!今すぐにでもあなたのところへと向かい愛を育んでしわの数だけ笑い合うような夫婦になろうとも考えました。ですが私もプロ。1度引き受けた仕事を断るなんてことは私のプライドが許しませんでした。なので先方にお願いして暗殺期限をぎりぎりまで引き延ばしてもらってあなたとの愛の結晶を育んだ上で殺す。そうすれば私は仕事を完遂することができ、また、あなたとの愛を永遠にすることができる。ウィンウィンになるんですよ!」


「いや、俺圧倒的なルーザーなんだけど!代償に何か大事なものを失ってるんですけど!」

「いや〜、それは……尊い犠牲ということで……」


「尊すぎるんだよ!こんな話は無しだ!帰る!」

弥は踵をかえし、教室を出ようとした。

しかしその瞬間に弥は強烈な脇腹への痛みと首すじに冷たさを感じた。

先ほどまで自分から離れていた彼女が一瞬のうちに自分に一撃を入れてナイフを首にあてている。

正直弥は今までの話を冗談半分に考えていた。

しかし彼女のこの行動により彼女は本当に殺し屋で恐らくだが本気でこの話を持ちかけているということを弥に分からせた。


「それはいけません。もしもこの話を受けないとここであなたの首をチョンパですよ?」

可愛らしい表現でものすごいこと言ってきた。

今なら開国した時の幕府の気持ちが分かる。

ペリーってこんなに怖かったんだ。

さてどうするか。この話を受けても死、受けなくても死というdead or deadの2択。

どちらにせよと死ぬ。それが早いか遅いかである。

生き延びたらなんとやらと言うし、今は黙って従って回避方法を考えるのも手である。

だがなんだか分からないが1度彼女に従ってしまえば本当に彼女のシナリオ通りになってしまう気がする。


「殺せよ。無理やり恋して殺されるよりかはそっちの方がマシだ。」


「そうですか……。残念です。せめて痛みがないように殺させていただきます。」


弥は後悔はしていない。むしろ自分という人間を通しきれて良かったとさえ思っている。

短かったけれど充実していた。友達も少なかったけど楽しかった。

……。あぁ、駄目だ。

そんなことを考えてしまったらあいつらとまだ楽しみたかったと思ってしまう。

海やスキーにまた一緒に行ったり、修学旅行にいったり。


「そこまでよ。」


突然に扉が開きそんな声が聞こえた。弥はその声に聞き覚えがあった。


「何者ですか?」


「私は久遠グループから久遠弥を護衛するように命令されている。いわば久遠弥専属のSPの最上みづき。」


「みづきーーー!?」

知らなかった。みづきとは幼稚園からのなか小学校、中学校、そして高校と上がるなかで学校も一緒でクラスも一緒で何かあるのかと思っていたがまさかこういうことだったとは。


「SPですって!?そんな情報どこにもなかったはずよ!?」


「当たり前。このことを知っているのは久遠家が絶対的に信頼できると認めたごく少数。情報が洩れるはずがない。」


「ですがそれは今の状況と関係ないんですよ。このまま弥君の首をはねてしまえば・・・。」


「そうはさせない!」

みづきは懐から何かを取り出し投げる。

あれは・・・、シャープペンシル!?

シャーペンはものすごい速さでこちらに飛んできてナイフをはじいた。

すげぇ、シャーペンってあんなに強いんだ。


「くっ、なかなかやるみたいね、あなた。」


「プロだから。」

みづきは両手にシャーペンをもち、準備万端で待ち構える。


「これは、歩が悪いですね。それなら・・・。」

殺し屋は懐から何かを取り出す。それは球体で、どくろマークがついていて導火線があって・・・。


「ザ・爆弾じゃないか!!」


「危ない!!」

みづきは即座に弥をかばおうと弥に覆いかぶさる。


「それではまた!!」

殺し屋は明るい声とともに爆弾を投げる。

爆弾の導火線はあと少しでの爆発を告げていた。

爆発する。弥は目を閉じた。

・・・・・。

しばらくしたが爆発音は聞こえない。

弥は目を開き、目の前のみづきと目を合わせ、不思議そうに首をかしげる。

二人はゆっくりと起き上がり爆弾に近づく。

「・・・、これって、おもちゃ?」


「そう・・・、みたい。」

まんまと騙された。しかも丁寧にまた来ますとかいてあるのが腹立つ。


「弥、けがしてない?」


「うん、大丈夫だよ。みづきの方こそケガしてない?」


「私の心配はしなくていいの。私はあなたのSPだから。」


「いや、でもほら幼馴染だしさ。」

弥がそういうとみづきは頬を赤らめた。


「でも、知らなかったな。みづきが俺のSPだったなんて。どおりで親父が僕のひとり暮らしを認めるわけだよ。」


「私の家の仕事がこういう仕事で弥の家と親しくて、同い年の跡取り息子を不自然なく守るにはこれしかないって判断したみたい。」

「でも、こんなことが起こったからには今までのように見守る型の護衛では守りきれない。とりあえず、家まで送るから帰ろ。その間に私は策を練っているから。」

家路の途中でみづきはなにかをひらめいたようで、弥をマンションまで送ると急いでどこかに連絡しながら駆けていった。

自分の部屋の階まで上がり、認証ロックを外し自室へと入っていく。

少なくともここが一番安全な場所だ。

マンションに入るのにも玄関でロックを外さなければならないし、マンションの中でもパスコード式のロックを外してさらに鍵も外すという二段構え。

これによりうっとおしいセールスや宗教勧誘はマンションの中にすら、住人が入れない限り入れないという寸法だ。

さすがにあの殺し屋も入ってこられないだろう。

入ってこられないよね?

制服から部屋着に着替えてダラダラしているとインターホンが鳴った。

え?うそ?ばれちゃった?

と弥がドキドキしながら見るとみづきがなにやら大きな荷物をもって玄関で待っていた。

話したいことがあるから通してくれと言われマンションの中にみづきを入れ、みづきが部屋に来るのを待っていた。

きっとあの女殺し屋の話だろう。そうなるとあの大荷物は一体何なのだろうか。

念のための防犯グッズかそれとも・・・。

そうやって考えているとまたインターホンが鳴った。

みづきが部屋の前に来たのだろう。

ドアを開くと想像通り、制服姿のみづきと想定外の量の荷物がそこにはあった。

「えぇ!?なにこれ!?こんなにたくさん!どうしたのこれ!?」

弥は驚く。画面で見えていた以上の大荷物に驚いたのと、この量をおそらくは一人でもってきたみづきへの驚きの二つの驚きが弥の心ではじけた。

「これは準備。同居するための。」


「へ?」


「弥を送っていく間に少し考えた。もしもまたあの女が出たら・・・と。そうなったとき今までの個人を大尊重する見守り型の警護では守れる範囲に限界がある。なので弥のお父様に許可をとってこうして私が同居することによって24時間守れる、密着型警護とすることになった。」

と、みづきは淡々と話す。


「で、でもみづきは女の子だし、その、仕事でも同世代の男と同居するなんて、その・・・。」


「嫌?」


「いや、いやとかそういうのではなくてそのなんというか、倫理観というか・・・。」


「倫理観を気にして命をとられては元も子もない。とりあえずこれは決定事項なので。」


「は・・・はい、」

説き伏せられてみづきを部屋の中に入れ、使っていなかった部屋へと案内する。

セキュリティを考えた結果、とんでもなく広い部屋で暮らしていたのでこれに関しては助かった。

ただ家を案内していて終始みづきのテンションが高めだったのがなんかイラついた。


「お前、さては楽しんでいるな?」


「さあ?」

みづきは白を切る。

こんなみづきは久しぶりに見た気がする。

いつも一緒にいたもののなんだか若干の距離を感じていた。

こんなみづきは小学校以来か。


「よし!じゃあ飯でも作るか!」


「えぇ、そうしましょう。」

いつものように熱なくみづきは答える。

だがいつもと違いその表情には笑顔があった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夕飯は適当にあるもので済ませた。

明日からは私が作るとみづきが言ってきたが守ってもらってる分、食事まで用意してもらうなんて家主の名が泣くと言って当番制にしてもらった。

今、みづきは無駄に広い風呂に入っている。

今まで無駄に広かった家がこうして有効活用されるとうれしい反面、もしかしたら父の狙いかと疑ってもしまう。

まあ、そんなことないかと麦茶でのどを潤すと、トタトタと足音が聞こえた。

みづきが風呂から上がったのか。

さあ、俺もぼちぼち入るかと、準備をするとみづきが現れた。

だが、その姿は想定外のものでショートの銀髪はまだ少し濡れていて、そして体にはバスタオル一枚のみを巻いた何とも男子高校生にとっては攻めた格好であった。

「いいお湯でした。」


「ちょっ!!なんて格好で来てるんだよ!!俺もいるんだぞ!!」

弥は咄嗟に後ろを向いて、目を隠しつつ叫んだ。

「なにって、これが家では普通だから。」


「だからって、男の前でそんな恰好するもんじゃないんだよ!!」


「でも、幼馴染だし。」


「親しき仲にも礼儀を持て!!」


「分かった。今度からは下着を着ける。」


「そうじゃないんだよ!!」

弥の声がリビング中に響き渡った。

防音で良かった。そう後で思った四月の終わりだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あいつ、あんな感じだったか?」

浴槽で湯につかりながらそうつぶやく。

いや、きっと普段はあんな感じなのだろう。

よく考えるとみづきのことをあまり知らない。

小学校の頃はよく一緒に遊んだりもしたが、最近は気づいたら傍にいるという感じだったのでみづきのことを細かくは知らなかった。

あれが本来のみづきなのだろうか。

そう考えていると風呂場の扉に人影が映る。

「これ、バスタオル。さっきそそくさと出て行ったから忘れていってた。ここに置いておくから。」


「あぁ、ありがとう。」


「それでどうだった?」


「へ?」

突然のクエスチョンに思わず首をかしげる。


「湯上りの私。」


「は?」


「だから、湯上りの私の姿はどうでしたかと感想を聞いているのです。」

とんでもない爆弾が投下された、そう感じた。

仮に良かった、といったとしたらどうだろう。

うん。変態だな。これはだめだ。

自分の好みを語る、・・・これはこれでアウトだ。

こうなったら、・・・ごまかすか。


「そ、そういえばみづきはなんでいつも俺らと一緒につるんでたんだ?別に俺のSPだったとしても、他の女子生徒と絡んだり、もっと自分のプライベートの空間を広げてもいいんじゃないか?」


「それは、・・弥といるのが楽しかったから。」

みづきは少し間隔を開けて繰り返す。

「小学校とか小さい頃はさ、私よくみんなから避けられてたんだよね。血の関係で髪の毛が銀色だったから、親がおかしいんじゃないか、なにか悪いものをやっているんじゃないか、とか。でも弥は私に普通に接してきてくれて、私とっても嬉しかった。最近だとかっこいいとか言われるけど、でもずっと変わらず弥は接してくれるから・・・。」


「そんなことか。そんなもん当たり前じゃないか。」


「当たり前のことを他人に流されずできる、そういう人が一番すごいんだよ。」


「そんなもんかなぁ?」


「そういうものだよ。それよりも私の体の感想を・・・。」


「さっ、そろそろ上がるから出てってくれ。じゃないと家主権限使って食事抜きにするぞ。」


「・・・・・・ずるい・。」

そういい、みづきは出て行った。

この言葉便利だな。今度からこれを活用していこう。

風呂から上がった後は軽く殺し屋のことを話して、登校ルートの確認や家の安全点検等を済まして、眠ることにした。

一緒に寝ようと馬鹿なことを言われたが、すかさず自室に入り、鍵を閉めて事なきを得た。

しかし、まぁ、元気になったことだ。

謎の殺し屋に狙われたのは不幸だが、こうしてみづきが昔の活気を取り戻したのはまさに不幸中の幸いといえるだろう。

こうして、なかなかに濃くて胃もたれするような一日は終わった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「まだまだですよ。こうなったらプランBへと移行しますか。」

殺し屋は暗い部屋の中で静かに笑ってあれこれと準備を始めた。

「待っててくださいね。ダーリン♥」

















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