四つの色
瑠璃川。高校二年の秋。席替えで後ろの席になった男。一匹狼的イメージが強く、実際彼は常に不機嫌そうなむっとした顔で頬杖をついている。クラス替えから間もなかった四月五月には、彼と仲良くなってみようと近づく生徒も何人かいたけれど、彼は全て跳ね除け、結局今は誰かと一緒にいるところをほとんど見ない。言ってしまえば彼は変わり者なんだと思う。ごく稀に話しかける人もまだいるけれど、そんなことがあればその人まで周りからぎょっとした目で見られてしまうようになっていた。
ただ、それ以外にもう一つ。彼には他の人間とは一線を画す特徴があった。
目が赤いのだ。
四月に初めて彼を見た時、僕はかなり驚いた。髪型は何の変哲もない黒髪・短髪。制服を着崩すこともなく真面目に授業も受けている。それなのに、瞳は赤かった。しかもこれに関して生徒も教師も何か言ったことを見たことがなかった。これが僕には謎で仕方がなかった。
だから、ちょっとした好奇心だった。朝のホームルームが終わった後、僕は振り向いて彼に話しかけた。
「カラコン?」
「えっ」
僕の問いかけに、彼はわざとらしいくらい驚いた様子を見せた。いつもの不機嫌そうな表情はなく、大きく目を見開いて僕の方を見つめている。
「な、なにが」
「なにがって……それ」
僕は人差し指を自分の目に向けてから、彼の目の方向に向けた。
「目、赤いから」
瑠璃川の動きが止まった。それから彼は二回ほど瞬きをした。僕は何か変なことを言ってしまっただろうか。
予想外の反応に不安を感じていると、瑠璃川はいきなり立ち上がって、ぐっとこちらに身を乗り出してきた。立ち上がった時の勢いが強すぎたようで、彼の座っていた椅子が倒れて大きな音が教室内に響きわたる。しかし瑠璃川はそんなことお構いなしに、僕に顔を近づけてきた。彼のアセロラ色の瞳が大きく映った。
……ちょっと近いって。
「椅子、倒れたよ」
「僕の瞳、赤く見える?」
僕の言葉は無視された。
「え、うん」
「本当に!?」
どうしてそんなに念を押してくるのかよくわからない。僕は嘘をついているわけでもないので、黙って頷いた。そしてやんわりと彼の肩を押して、遠ざけた。
その時、ちょうど一限を告げるチャイムが鳴り響いた。
前に向き直った時、クラスメイトのほとんどの視線が僕らの方に注目していたことに気付き、思わず俯いた。
それから僕も瑠璃川もお互いに話しかけることなく、六限まで終えた。
帰りのホームルームが始まり、担任からの事務的な連絡が聞こえてくるが、僕は瑠璃川のことで頭がいっぱいだった。
朝の会話の続きをしてみようか少し迷ったけれど、普段一人で過ごしているということは何かしらの理由があると思うし、彼といるところを周りにどう見られるか考えると、なるべくもう自分からは関わらないようにしよう。そう思った。
そう決心して、ホームルームが終わった瞬間、いつも一緒に帰っている連中のところに向かおうとしたのに、
「渡辺くん」
背後から、呼ばれた。このクラスに渡辺は僕しかいないので、仕方なく振り向くと案の定瑠璃川が真剣な顔つきで立っていた。
「ちょっと、教室残れる?」
「えーと……」
僕が今立ち止まって瑠璃川と向かい合っている間にも、周りからの視線が集まりつつあるのがわかった。
……正直、断ってしまいたい。
しかし、僕はそんなに冷たい態度をとることのできる性格ではなかった。瑠璃川の、若干緊張の入り混じった真っすぐな表情を見てしまうと、なおさらノーと言うわけにもいかず。「……わかった」
教室にいる人間が僕と瑠璃川だけになるのにそう時間はかからなかった。
廊下から聞こえてくる足音や話し声も少しずつ少なくなり、やがて何も聞こえなくなると、瑠璃川は口を開いた。
「君が初めてなんだ。僕の瞳が赤く見えるって言ったの」
「物心ついた時から、僕は自分の目の色が他人とは違う赤にしか見えなかったんだけど、どうやら他の人から見たら、普通の焦げ茶色のようだった」
家族や知り合いに尋ねても、みな不思議そうに首を傾げて僕のことを心配した、と彼は続けた。
「確かに写真で見ると、なぜか僕の目は何の変哲もない焦げ茶なんだ。でも、鏡で見るといつも真っ赤で」
「そ、そうなんだ」
「だからずっと、何年も気にしないようにしてきたんだ。でも、今日君は僕の目が赤いと言った」
確かに彼の話した内容は不思議だった。こんなに目立つ、澄んだ赤色の目を持っているのに誰もそれが見えないなんて。
「だけど高校入学前の春休みに、夢を見たんだ。今でもすごくよく覚えてる」
「どんな」
「夜空が見えて、あとは声だけが聞こえるんだ。あなたは赤い目を持っている。これから、青色と黄色と緑色の目を持つ人が現れるから探せ、って。」
「随分おかしな夢だね」
「だから僕の他に青と、黄色と、緑の目の人がいるはずなんだよ。でも、僕は自分の目が赤に見えても、その人たちの目が青とか黄色とか緑に見えるかって言ったら、わからないじゃん。でも君は僕の目が赤く見えてる。だから」
「だから、その人たちを見つけられるのが僕しかいないと」
「そういうこと」
「でもそれって夢の中での話であって、本当にそんな人たちが――」
「お願いします!」
瑠璃川は深く頭を下げて、そう声を張った。土下座でも平気でやりそうな勢いだな、と思っていると本当に膝をついて体勢を整え始めたので、慌てて駆け寄った。
「わかったよ……」
無理やり彼を立たせ、協力すると約束してからその日はすぐ帰った。
その日の夜中。僕はあることを思い出した。
ベッドの上に寝転がってスマホゲームをしていた僕は、突然頭の中を駆け巡った記憶に思わず飛び起き、そのゲームを閉じてメッセージアプリを開いていた。
クラスのグループチャットから瑠璃川の名前を探し、通話ボタンを押す。しばらく待ったがなかなか彼は出ず、切りかけた時にやっと「もしもし」と声が聞こえた。いつにも増して不機嫌そうな口調だが何かあったのだろうか。少し気になったが、そんなことよりも僕は今思い出した重要な内容を話し始めた。
生徒会副会長の馬場先輩。
去年の四月。入学したてで、近くの席の生徒と出身中学だとか部活は何を考えているだとか話していた時に突如教室の扉を開いて姿を現した美少女、という記憶が強く残っている。彼女は、一瞬で静まり返った教室内を教卓の前から見渡して、「ご入学おめでとうございます。二年五組、生徒会会計の馬場と申します」とはきはきとした口調で言った。
それからその馬場先輩はどこか儚げな雰囲気のある優しい笑顔を振りまきながら、この高校の特徴を長々と説明していたが、残念ながら内容は全く思い出せない。なぜなら僕は別のことに気を取られていたからだ。
彼女は、綺麗な碧眼を持っていた。まっすぐ伸びたロングヘア―は墨汁で塗りつぶしたかのような深い黒色だったのに対して、西洋人でしか見たことのない色の瞳がなんだかアンバランスだった。ハーフなのかなあなんて考えていたらいつの間にか馬場先輩は「わからないことがあればいつでも生徒会室に来てくださいね」と締めくくって颯爽と教室を出て行ってしまっていた。
今思い返すとあの目の色はおかしい。あの時誰も彼女の目の色について言及せずに、ただただ「かわいすぎる」「前から見ても後ろから見てもまさに女神」といった感想が飛び交っていたけれど、瑠璃川のように他人からは目の色が違って見えるのだと考えれば納得がいく。
そんな馬場先輩は三年の今、生徒会副会長を務めていて、恐らく生徒会室に行けば話ができるだろう。
ここまでを瑠璃川に話して聞かせると、彼は明日の朝七時半に校門前に集合しよう、と言ってきた。普段僕が登校する時間より三十分以上早い時間だったけれど、放課後に行くよりも朝のうちに済ませてしまった方が楽だろうし、了承した。
「じゃあ、また明日」
約束を済ませると、瑠璃川は僕の返事も待たずに電話を切ってしまった。いくらなんでも冷たいなあ、さっきから不機嫌だったし……とやや腹立たしく感じたが、視界に入ってきた目覚まし時計が午前二時半を示していたことに気付いて、僕は彼に申し訳ない気持ちが大きくなってきた。
「おはよう」
「……いつも何時に寝てるの」
「あの後すぐ寝たよ」
時間に間に合うように余裕を持って来たが、瑠璃川は既に校門前で僕を待っていた。やはり不機嫌そうな雰囲気を纏っているが、これが彼の通常モードなのだから、と心で言い聞かせる。
生徒会室の扉をノックすると、中から「どうぞー」と柔らかい声が聞こえた。この鈴の音のような声は馬場先輩で間違いない。
「失礼します」
先にドアノブに手をかけて押し開けたのは瑠璃川で、僕は彼の背後から覗き込むような形で生徒会室を見た。瑠璃川が中に入っていくので、僕もついていく。
幸運なことに、そこには馬場先輩しかいなかった。机の上に無造作に置かれた書類を前にして何やら作業をしている彼女は、紛れもなくスカイブルーの瞳をしていた。久々に――下手すると去年の四月ぶりに馬場先輩を見るけれど、本当に綺麗な人だ。当時も感じたが、どこか儚いオーラに包まれていて、それがまた彼女の雰囲気を一層魅力的にしている。
「どうしたの? 生徒会室に何か用?」
僕らが何も言わないので、馬場先輩は作業を止めて微笑んできた。
「えーっと」
これは、何て言えばいいのだろうか。ああ、先に言葉を選んでくるべきだったのに。
何も言えずに愛想笑いを浮かべていると、瑠璃川が僕の顔を覗き込んできた。
「おい、渡辺」
「なに、瑠璃川」
「……本当に、この先輩の目は青いの? 僕にはわからない」
「今なんて言ったの?」
僕が答えるより、馬場先輩が口を挟む方が先だった。
「私の目のことを言ったよね?」
「そのことでちょっとお話がしたくて、来ました」
「どうぞ座って」
僕らが馬場先輩が手で示したソファに腰を下ろすと、先輩は小さなテーブルを挟んで向かいのソファに座った。
まず自己紹介を済ませると、瑠璃川が昨日僕に話した内容と同じことを丁寧に話して聞かせ、先輩もそんな感じですか? と最後に質問を付け加えた。すると彼女は大きく頷いた。
「私も同じような夢を見たことがある。あの夢、本当のことだったんだ」
それから僕らは馬場先輩と連絡先を交換して生徒会室を後にした。
今回の馬場先輩でなんとなく思ったのだが、残りの人たちもこの学校から見つけ出せるのではないだろうか。
……この調子だと、こいつの夢の通りに黄色と緑もいるかも。
馬場先輩との出来事から一週間ほど過ぎただろうか、休み時間中机の上で突っ伏して寝ていた僕は乱暴に背中を叩かれ、起こされた。
瑠璃川だった。
「ちょっと生徒を調べてたんだけど、興味深い人が見つかったんだ」
「どんなひとなの」
「身の回りが黄色いの。髪は金髪で、いつも背負ってるリュックサックも黄色」
「それだけ?」
「うん。でも確かめてみてもいいと思う」
「どうかなあ……」
試しに名前を聞いてみると、瑠璃川はすぐ答えた。
一年九組の山部くん。
次の日、瑠璃川と僕、もとい瑠璃川と半ば強制的に連れてこられた巻き込まれの僕は、一年生のフロアに来ていた。幸い九組の教室は二年生のフロアから階段をおりてすぐの位置にあるので、長く歩かなくてすむ。
「山部くんって、いますか」
教室の扉を少し開いて近くの男子生徒に尋ねると、彼は、あそこにいますよ、と顎で示した。
……本当だ、いた。すぐに駆け寄って話しかけたいところだが、僕にはそれができなかった。
なんというか、僕の苦手な人種だったからだ。一言でいうと、ちゃらい。派手な金髪の四方八方を何人もの女子生徒が囲んでいて、あの中に入っていくのは僕じゃなくても気が引ける。
「行くよ」
「無理」
「無理じゃない」
瑠璃川に手を引かれ、嫌々ながら教室の中に入っていった。少しずつ彼との距離が縮まるにつれて、群がっている女子たちが僕らに目線を移しながらもすっと道をあけてくれる。
近くで見るとよくわかるが、やはりレモン色の目をしていた。切れ長のくっきりした目つきとそれを取り囲む長い睫毛、そして鋭い犬歯がどこか猫を連想させる顔立ちだった。肌はやたら白く、目の周りには細かいラメのようなものがキラキラと輝いていた。さらに唇が赤く艶を帯びているのが印象的だった。
…こいつ、ちょっと化粧してないか?
もう少し彼を観察してみると、黄色いのは目と髪色だけではなかった。彼が羽織っているカーディガンは瞳と同じレモン色だったし、耳を縁取る幾つものピアスは全て金色だった。おまけに机の上に乗っているペンケースやその中から覗く文房具も黄一色。
……なんだこいつ。
「俺に用ですか?」
そんな山部くんとやらの正面までくると、彼は怪訝そうな表情を浮かべて僕らを見上げた。
「うん、ちょっと話があって。少し廊下で話していい?」
「何の話ですか?」
「それは……」
「君の目についてのことだよ」
僕が返答に困っていると、瑠璃川が淡々と述べた。山部くんの表情が変わる。瑠璃川や馬場先輩のような驚愕を含んだ顔ではなく、何か非常においしいご馳走にありついた時のような、満面の笑みだった。
「もしかしてですけど、あなたたち赤か青?それとも緑?」
「あ、僕は違うけど」
「僕は赤だよ」
山部くんの視線が瑠璃川を捉え、彼の笑顔が輝きを増した。さっきのがマックスの笑顔だと思っていたけれど、まだ段階があったらしい。
「マジっすかあー!?」
女子生徒たちが口々に「なになに」「何の話?」と呟いてはお互い顔を見合わせている。
廊下行きましょ、と山部くんに背中を押され、僕らはバランスを崩しかけながらも無事に教室を出て三人で話をした。
どうやら山部くんは夢の内容を信じていて、他の色の瞳の人間を探すために全身を黄色で固めていたらしい。なんとも短絡的というか……面白いアイデアだが、結果的に瑠璃川がそれに気づいて今に至ったのだから彼のやり方は正しかったのかもしれない。足元を見ると上履きの靴紐まで黄色だった!
そしてまた瑠璃川が同じ話をして、馬場先輩の時のように連絡先を教え合った。
あと一人というところまで来てしまった。
それから暫く、最後の一人は見つからなかった。逆に言えば三人目までがこれだけ簡単に見つかったのが不思議なくらいで、我らマンモス高校から緑色の瞳の生徒を探し出すというのは骨を折る作業だった。
しかし、それも突如終わりを告げた。
月曜日の朝教室に入ると、いつもと違った空気が充満していた。なんだか全体的にざわざわとしていて、ある一点に注目が集まっている。僕もその場所を見て、すぐ理解した。
僕の席の隣に見たことのない女子生徒が座っていたのだ。色素の薄い髪の毛を下の方で束ねている。天然パーマなのか、彼女の髪の毛は一つにまとめられていても毛先があっちこっちにはねていた。ブレザーの袖からのびる手首から指にかけてはやたら細く、その細い手で分厚い文庫本を開いていた。
クラスの雰囲気の原因はこれだ。四月から一度も教室に姿を現すことのなかった女子生徒。確か玄田なんとかという名前だった。なんでも重い病気を患っていて、治るまではずっと病院で治療を受けていなければいけない状態だったらしい。
しかし今学校に来ているということは、もう完治したのだろう。空席だった隣に人がいるというのは少しばかり嬉しくて、気づいた時には「あの」と声をかけていた。
彼女がゆっくりとこちらを向いた。眼鏡越しに丸い大きな目が見える。僕は「あ」と声を出してしまいそうになるのを必死でこらえた。目が離せず、まじまじと彼女を見てしまう。
「あの……あたしの顔に何かついてるかな?」
「あ、うん」
「え、ほんとに?」
「あ、いや」
生返事をしてしまった。でもそれどころじゃない。
彼女は確かに、若草色の瞳をしていた。
それからはすぐだった。席替えがあったため離れていた瑠璃川の席へ突進し、まとまらない日本語で説明し、彼を連れて席に戻って玄田さんにわけを話した。
彼女も相当驚いていた。そして彼女もまた瑠璃川たちと同じ夢を見たことがあると話した。
恐らく僕らはクラス中から注目を浴びていたが、この際どうでもよかった。
こうして、四色が揃った。しかし、それからは何もなく、ただ四色の目をした人間が揃ったというだけで、彼らにそれ以外の共通点は何も見つからなかった。何度かなぜか僕を含めて五人で集まったことがあるけれど、お互い何もわからないまま解散という流れが定型化しつつあった。
それからまたしばらくの時間が過ぎ、十二月に入っていた。マフラーを巻いてくる生徒が増え、僕も去年から使っているネックウォーマーに顔をうずめながら登校する日々が始まっていた。一度、登校中たまたま山部に遭遇したことがあったが、あいつはマフラーまで黄色で思わず笑ってしまった。
そんなある日、下校時間に雨が降った。天気予報には雨なんて書いていなかったし、折り畳み傘を常に鞄に忍ばせているような用意周到な人間でなかった僕は雨が落ち着くまで校舎で待機するしかなく、珍しく図書室に足を運んでみた。
大きな本棚を前にして何を読もうかと吟味していると、僕の横を通った、何冊も本やファイルを抱えた女子生徒が何か紙切れを落としていった。それはひらひらと舞いながらちょうど僕の目の前に落ちた。拾い上げて彼女を追いかけようとした時、その紙切れに並ぶ文字が目に入った。
どうやら昭和時代の新聞の記事らしい。黄味がかっていて読みにくい上、古い甘ったるいにおいが鼻をついてつい顔をしかめる僕だったが、その記事の内容に目を奪われた。
「……これ」
十二月×日の午後九時頃、〇県星深山で流星群を見に来ていた若い男女四人が刺され、全員の死亡が確認された。
「……星深山」
最寄りの駅から電車で十五分ほどの場所にある、なだらかな小さい山。綺麗に星が見られる、と地元では有名な場所だ。
被害者は全員同じ高校に通う生徒。それぞれの名前は赤松謙太、青木かえで、黄瀬一樹、緑川夕子。
……瑠璃川たちとは全く名前は違うけれど、それぞれの目の色が名前の中に入っている。
そして四人を刺殺した犯人は、同じ高校に通う男子生徒だった。彼は被害者たちと知り合いだった。
犯人の名前はその新聞に掲載されていなかったが、スマホで検索してみると簡単に白間という名前が出てきた。どうやらこの白間という生徒が何らかの理由で四人に襲い掛かったらしい。
この事件を瑠璃川たち四人と結びつけるのは無理がある気もするが、やってみなければいけないと思った。倫理の授業で習った、輪廻転生という言葉が僕の頭の中にふと浮かんでくる。
そこで僕は、明日は流星群が見られる、と地学の先生が言っていたのを思い出した。
偶然なのだろうか、明日は×日――この事件と同じ日にちだった。僕はメッセージアプリを開いた。
「珍しいね、渡辺から招集をかけるなんて。……そういえば馬場先輩、推薦とれたんですよね。おめでとうございます」
「あら、ありがとう」
「予定入れるなら一週間以上前からお願いしますって言ったじゃないですか。俺、今日別の子と流星群見る約束してたのに」
「こんな夜に山に登って友達と流れ星を見るなんて、嬉しいなあ」
前日に声をかけたにもかかわらず、四人全員が来てくれた。星深山の山頂には家族連れや友達同士で来ている人も多く、小学生の頃に両親と一緒に来たことを思い出す。
しばらく他愛もない話をしていると、星空が煌めいた。わっと歓声が上がり、そこにいた全員の目線が夜空に向く。
それはとても綺麗に輝いていた。誰もが寒さを忘れて、頭上の世界に魅入っていた。
「なんだろう、僕、ここで流れ星を見たことがある気がする」
「私も。どうしてかしら」
「なぜか、すごく懐かしい気分になります」
瑠璃川も馬場先輩も、山部くんも、何かに憑りつかれたかのように星空を見上げ、それぞれが呟いていた。
玄田は、空を見上げた状態で声をあげて泣いていた。
やはり、彼らはあの事件の被害者だったのだろうか。引き離されても、何か強い力がこうやってまた四人で星を見るために夢に出てきて、手掛かりを残したのだろうか。
そんなことわかるはずがないけれど、この不思議な経験を僕はいつまで経っても忘れやしないのだと思う。
……それにしても、どうして僕は彼らの目の色が見えたんだろう。
僕は少し考えようとして、やめた。やめておいた方がいい気がした。そして静かに数歩だけ後ろに下がる。
白い線を帯びて流れゆく輝きの下で、それを見上げている四人の後ろ姿は、とても美しく見えた。
かなり展開が早くなっているので、時間をかけて各キャラクターについて掘り下げたりハプニング等入れたりサスペンス色を強めたりその後について書いたり色々やって連載小説にしていきたいです。
読んでくださって本当にありがとうございました。