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憎悪と命令の旅

 アキトがかえでを抱えたまま部屋から出る、施設内で治療に使えそうな衛生用品がある部屋でかえでをゆっくりと下ろして丁寧に手当てをしていく。エフェメラルが回復魔法をかえでにかけるために近づくがアキトが近寄らせない。


<定義不明の生命体が危害を加える可能性あり>


(・・・よくも騙したな、僕を騙した・・・全球凍結のたびに僕を騙してリセットしたんだな・・・絶対に許さない・・・ハルトは薄々気付いていたのかもしれない)


「アキト様・・・?その・・・」


 エフェメラルはアキトが身体でブロックしたように感じたが、まさか治療の邪魔をしたとは考えられず。普段のアキトが言っていたように自分の意思で妖精に命令を下してかえでの怪我を回復魔法で治した。妖精が包帯の下の傷を治していくがかえでにもアキトにそれは理解が出来ないものだった。


<不明な現象を確認エラー回避のために思考処理を一時停止します>


バチッと頭の中に音が聞こえる。


(・・・クソ・・・僕の・・・感情を・・・)


「お兄ちゃんありがとう」


 かえでの頭をアキトが撫でて再び優しく抱き上げて、運ぶ。施設の外に出て行くがエルもメイもエフェメラルもアキトに強い違和感を覚えていた。


 施設の外は蟻魔族と蜂魔族の死体がゴロゴロと転がっていた。城の地下での残酷な乱戦は地獄のような光景を生み出し、身体が千切れ飛んでいても上半身だけで這うように蟻魔族達が戦おうと動いている。蜂魔族達はゼクスが通り過ぎる時に既に助けられないという情報を与えられていたのだろう。信じられずに希望にすがろうとするものや逃げ出した者、無慈悲にとどめを刺す者と別れ。未だに小さいながらも戦闘音が聞こえる、しかし雄たけびのような声も聞こえず。ただ悲しむような声と武器の音が聞こえていた。


 アキトは地面に転がる死体に一切目を向けずに跨ぐように歩いていく。場所によっては魔族の遺体を簡単に踏み抜いて歩いているのだ。メイとエフェメラルはその光景に目を疑った。アキトは死者に対して敬意を払わない、でもわざわざ踏みにじることもない。普段から死んだら終わりと言うエルもアキトのその行動をみてらしくないと感じるのだ。


「アキト・・・」


 地下を進もうとすると残っていた蟻魔族がアキトの前に立ちはだかった。アキトはかえでを下ろして自分の後ろに下げる。


<オータムスフィアに銃器等、武器の在庫が確認できません。非常時に基づき確認した工具を使用します>


 アキトの手元にスレッジハンマーが握られて、蟻魔族を弾き飛ばして殺す。強く叩き殺すのだ。


<定義不明の生命体から子供を庇護します>


 蟻魔族の身体が千切れて地面を這ってくる。アキトの足を掴んでくるのを見下ろす。


「お兄ちゃん・・・こわい、きもちわるい・・・ぜんぶのけて」


<子供の精神状態が懸念されます。要請に従います>


 這ってきた蟻魔族の頭をスレッジハンマーで叩き潰し蹴り飛ばす。わずかながら動いていた通路上にいた蟻魔族達を弾き飛ばす様に叩き通路の脇に除けていく。


「やめて!!・・・アキト!」


 メイがアキトにしがみついて止めようとするがアキトの力の前では一切止めることが出来ない。


「お願い・・・アキトに酷いことをさせないで・・・」


「どうして?おにいちゃんはかえでをたすけてくれるのに」


「アキトが望んでない・・・」


 しがみついているメイをアキトが脚から引きはがそうと手で掴もうとする。強い力がこもっているのかメイの表情が歪む。


「アキト!やめろ!!」


「アキト様!お許し下さい!」


 エフェメラルが闇の大妖精の力でメイを掴んだアキトの腕を握り上げてメイを助け出す。検知出来ない未知の力に一瞬停止したアキトが無視するようにかえでを連れて歩き出す。メイはその歩幅についていくようにアキトの傍にいるがアキトは目を合わせようとしない。


「かえで、アキト様の様子がおかしくなっています。どうか元のお優しいアキト様に」


「おにいちゃんがまもってくれるののじゃましないで、もうどっかいってよ!」


 足を止めてかえでが叫び、メイもエフェメラルもその場に止まった。びくりとメイとエフェメラルがかえでから発せられた強い感情に驚き身をすくめる。


「なんでおみみがながいの!?なんであたまにおみみがついてるの!?もうやだ!!じゃましないで!」


「どうして・・・そんなこと言うの・・・?」


メイがポロポロと泣き出して、立ち尽くす。


「だって・・・ちがうんだもん・・・」


 エフェメラルが後を追おうとするとアキトが振り向いて武器を向けた。それは威嚇であることがエフェメラルにはわかってしまった。近寄れば関係なくあれで叩かれると。メイはアキトの眼を見て泣いている。アキトはそのままかえでを連れて出口へ向かう一切振り返ることはない。


「メイ、追わないのですか・・・私には武器を向けましたが、貴方には・・・」


メイの嗚咽が聞こえる中、足を止めたメイにエフェメラルが近づき抱きしめる。


「私はメイがずっと羨ましいと思っていたんです。私はアキト様に嫌われるのが怖くてついていくことが出来なかった。でも貴方は違った。ずっと自由でアキト様の事を理解していて支えていました。今のアキト様には貴方が必要な筈です」


泣き止まず抱きしめているメイが震えているのがわかる。


「違うの・・・アキトは・・・邪険にしないって言ったのに・・・」


優しくメイを抱き込むように背中と頭をエフェメラルが撫でる。


「また、あの時の眼をしていた。・・・心底嫌そうな眼だった。アキトは今、あたしに近くにいてほしくない」


「そんなことは・・・」


「今のアキトは違う・・・けどあの眼はアキトの眼だった」


 メイは希望的観測かもしれないと思いつつも確信していた。アキトがメイを傷付けることを恐れて傍に置きたくなくなったのだと。本当に嫌だからメイについてきてほしくないとメイは感じ取ったのだ。


「メイ、オリビアさんのところへ戻りましょう。私達だけでは砂漠を渡るのも危険です。ゼクスさんに相談して、駄目だったら常闇卿に助けてもらいましょう」


「うん・・・エフィ・・・ありがとう」


 温かく慰めてくれるエフェメラルと一緒に立ち上がり、二人はゼクスが向かった先へ進んだ。エフェメラルはメイと自分を守るために闇の大妖精の力を意識して使いながら城内を歩く。城内にいた蟻魔族や地下から出てきた者などでまだ城の中は混乱していた。漆黒卿の元へ行こうとするとゼクスがこちらに歩いてきているのが見えた。


「・・・お前達だけか?アキトはどうした?」


 涙で目を腫らしたメイ達の様子を見てゼクスは只事ではないと感じ取り、事情を聞いた。話を聞くうちにゼクスの眉間に皺が寄り、険しい顔をしていた。


「なるほどな、別人みたいに変わって子供を連れて行ったか・・・。あまり意味はないかもしれないが、

一度俺からアキトと話しをすることにする。お前達を人族領域に連れて行くことは任せろ、アキトと話すときお前達は離れた場所にいるんだ」


「その・・・」


「話すだけだ。俺がアキトと戦うことはこの世が滅んでもありえない」


 ほっとするエフェメラルに気付かずゼクスはアキトと旅をして別れた時のことを思い出していた。あの時ゼクスは自分を優先して子供たちをアキトに押し付けた。今度は自分が子供を守る番だと思ったのだ。


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