戦いの後
「ゼクス、助けに来てくれたのが君でよかった。ありがとう」
「ああ、助けを呼んだメイに感謝するんだな」
わき腹の傷を癒しながら座り込んでるゼクスはにやりと笑っている。僕は手助けしてくれた人物のほうへ歩いていく。
「何?アキト、ゼクスじゃなきゃ嫌だったの?」
「あの場でもし子供や女の子が現れて僕を助けたとしよう・・・」
「あ、やっぱ言わなくていいよ。大体わかった」
朝焼けが地平線を照らし始める頃、僕は大怪我を負って瓦礫に寄りかかっているジークに話しかける。回復魔法と自己再生が行われているが、相当な重傷だ。すぐに動きだす事は出来ないだろう。
「ハルト、ありがとう」
「・・・貴様の元へ向かおうとしていたエフェメラルさんに頼まれた」
「そっか」
「魔王が人族領域に来て行った攻撃によって連絡が途絶えた街がいくつもある。王都の南にあるベリトも焼かれ、王国は王都の守備を固めたがおそらく今この瞬間を逃していれば魔王は倒せなかった。礼を言う」
「・・・」
「貴様を信じる者達を貴様が裏切った時、先生に代わって私が斬る」
「アキトさんごめんね、魔王に負けちゃった。人工デーモンの身体も失ってまた剣に戻ったから約束はジークが引き継ぐ」
「へぇ?ミカエルは天剣の中身を移す装置がまだ存在する場所知ってるんだ?」
「知ってるけど教えないよ、ラファが知ったら壊そうとするでしょ?」
「違いない」
エルがミカエルの言葉に賛同している。自分が引き返せないようにするという覚悟の為に他人が大事にしている装置を容赦なく破壊すると宣言するあたり相当迷惑な奴だ。場所を教えないのは賢明な判断である。ミカエルは自分の身体を失ったことでしょうがなくジークに託したのか、それともすすんで自らを預けたのかわからないが僕を殺すと息巻いていたあの時とハルトの雰囲気が違うのはわかる。
ハルトはもしかしたら王国の守備命令などを全部蹴ってここに一人で来たのではないだろうか、魔王を倒すのならば他の神殿騎士や戦力が来ていてもおかしくない。ミゲルですら勝てなかった魔王に挑むためにただ一人でここに来たというのは相当な覚悟があるはずだ。
ジークが怪我の回復に集中して黙り込み、ゼクスの様子をもう一度見に行こうと移動すると足音が聞こえた。
「アキト様!」
振り返るとエフェメラルが走ってきていたので抱き上げる。僕がそんな行動をとるとは思わなかったのか、驚いて身体が硬直しているが僕は頭を撫でて礼を言った。
「ありがとう」
「・・・お役に立てませんでした」
「いいや、誰か一人でも欠けていたら危うかったよ。ありがとう」
エフェメラルはジークに対していい感情を持っていなかった。少なくとも頭を下げてお願いすることなんておそらくありえなかっただろう。手のひらを返すような恥を晒して願い、そしてジークハルトもそれを受け取ってくれた。それによって僕は救われたのだ。
ゆっくりと地面にエフェメラルを下すとメイが両手を広げて伸びた状態で待機している。泣き腫らして少し赤くなっている。メイも同じように抱き上げて頭を撫でる。
「ありがとう」
メイがすすり泣いているので優しく揺らしながら撫でる。僕は子守ロボとして蓄積されてきた経験をフルに活用するのだ。メイを抱き上げている時間が長くなってくるとエフェメラルがかわろうとしてくるので下ろした。子供にまとわりつかれるロボになった僕をゼクスが見ている。
「これからどうするんだ?」
「魔王に襲われた南にある魔族の街オリアスの被害状況を見たい。知人がいるんだ。魔族領域は魔王を失ったことで大きく混乱すると思う。王国がこの機に戦争を仕掛ける事もないと思うけど代わりの魔王が統治するまでは魔族領域内での内戦が始まるかもしれない」
もしかしたらと一縷の望みをかけてでも僕はオリアスに向かうことを考えていた。
「旅の消耗品の補充もなんだけど、被害状況にもよるけどオリアスは他の街や周辺魔族の領土と交流が盛んで支援や物流などの連絡は途絶えていないはずだ・・・無事なことを祈りたい」
「俺はハーゼを探すがもしそこが無事ならば情報が集まる可能性もあるか?」
「ある。もし生きていてくれているなら次の魔王に推したい娘がいる。魔族領域の統治には結局魔王は必要だし、ドナーみたいな魔族や王国との関係も考えると平和的に話がまとまる道のほうがいい」
「随分入れ込んでますね?アキトさんが戦争の心配ですか?」
ミカエルの声が響く、ジークが身体をよろつかせながらこちらに来て話を聞いていたようだ。
「まあね・・・」
僕の話を聞いたゼクスは僕と一緒にオリアスへ向かうことになり。ジークとミカエルは王国への報告にいったん帰るらしい、もし僕が話を纏めるようなことがあればマリーを経由して魔族と王国側の不可侵程度の交渉口も作るとミカエルは言っていた。僕はそこまでやる気はなかったが頷いてジーク達と別れた。
ゼクスを含めた四人での野営は初めてで最初の日は魔王戦での名残から子供たちの頭を撫でているとゼクスに思わせることに成功していたが、数日たっても続けている僕に何か言ってこないかそわそわする日が続いた。ただ、特別ゼクスが僕の子供たちに対する対応に何かを言う事はなく思ったより普通のことと認識しているようにみえた。一言「好かれているな」とだけ言われたが特に皮肉というわけでもなくゼクスの言葉と考えれば単純に本音なのだろう。
オリアスの街に到着すると王城は壊れたところが目立ったが、それよりも未開拓でひとけが無かった街の外周のある場所が地面が大きくえぐれるような大きな破壊痕があった。どうやら常闇卿たちは魔王と戦う場所を誘導して被害を抑えることに成功していたようだ。
僕は気が付けば駆け出して王城へ向かっていた。走って城の中に入るとメイドや執事服の兵達が驚いて僕を見ている。
「暗黒卿!ご無事でしたか!」
「魔王は倒したよ、常闇卿は無事?」
「お嬢様は・・・」
執事服が俯いて悩ましい顔をしている。
「無事です」
(なんだこいつ・・・なんでためた)
大怪我を負って今は回復の為に療養しているがしっかり治るらしい。城の者達も犠牲は抑えられ、徹底抗戦というよりも魔王が無様な姿を見せた常闇卿に飽きて去ってくれたらしい。頑張って戦ったのに無様な姿と言われて本人からすれば酷いものだが、生きていてくれたのは何よりも嬉しい。
居場所を教えてもらおうとするとメイド達はざわついたがいつもの執事服がささっと案内してくれた。僕はすぐにその場に向かって常闇卿の無事を確認しにいく。扉を執事服が開けて中に入ると扉の鍵をかけられた。
(まさかまたこのパターンなのか)
「わぁ!?主!?なになに?なんで!?」
ベッドで安静にしていた常闇卿が血の魔法でカーテンのような物を張り体を隠す。
「無事でよかった。魔王倒したから魔王やって!」
「我が?其方がやればよいではないか、王が誰かの支配を受けているのはおかしい」
「僕は嫌だよ、じゃあ契約解除するから魔王やって!」
「・・・いきなりやってきて酷い、酷いよぉ・・・」
「アキト、惨いよ・・・心無い事しちゃ駄目だよ」
命令で強制的に魔王をやらせるより契約解除を交渉材料にして魔王をやらせようと思ったがカーテンの向こうから涙声が聞こえてきたので、どの道不服なのだろう。
「僕の為に戦ってくれたんだよね?ありがとう。魔王をやってもらいたいのは本当だから、怪我が良くなったらまた話そう。友人も来ていて知りたい事もある。しばらく滞在するから、魔王やってくれるならお礼するよ」
出来るだけゆっくり僕はそう伝えているとカーテン越しの涙声は収まりしっかり聞いている。
「本当?お礼は何でもいい?」
「何でもは駄目だわ、常識の範囲でよく考えてね」
しばらくすると部屋の鍵は開いていて出ることが出来た。エントランスまで戻ると僕一人先行して来てしまった為に置いて行かれた三人が今城にたどり着いたところだった。
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