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常闇卿


「我の物になる気がないと?」


「まず、状況の説明からさせて下さい」


 僕は自分が領土を持っていたことを知らなかったことから話始め、領土などいらないから常闇卿に丸ごと渡す事。ただその代わりに殺しや積極的な追放を行わずに統治を行ってほしい事を伝えた。生活水準の向上や教育、仕事などを与えるのが難しいと思うので無理を言っているかもしれないが領土と領民を丸ごと受け取ってほしいと頼んだ。


話を聞いた常闇卿は少しも悩む表情もなく冷たく言い放った。


「無理だな、我が求めているのは其方だけであってそもそも領土も領民も興味がない」


その後、常闇卿は少し俯いて悩むような表情を見せた後少し笑み言葉をつづけた。


「しかし、領民を追い詰めれば其方が現れると思っていたが、なるほど其方に無視されていたのではなく知らなかったのか」


 僕は常闇卿の話を聞いているうちに僕が領民への興味を見せていなかったら何事もなく手出しもされないまま、あの地は平和だったんじゃないだろうかと思い始めていた。領土にも領民にも興味がないと言い放ったあたり僕が行方を眩ませていれば、彼女はこれ以上領民を追い込むことも出来ずにいたわけだ。


(もしかしてしくじったか?)


「あ、じゃあ僕はこの辺で帰ります。何か大丈夫みたいなので」


「待て」


常闇卿が言葉と共に玉座から立ち上がり僕を見つめる。


「領民の事を知った後、放っておけなかった辺り・・・我のやっていたことも存外無駄ではなかったようだ。其方は責任感のようなものを感じているな?であらば其方が今逃げれば領民達が無事で済むと思うな」


「・・・人質とは趣味が悪いですよ?」


「300年続けていたのだ。其方を手に入れるなら元より覚悟の上だ」


 常闇卿がどこまで本気かはわからないが、今までのような優しい対応ではなく文字通り領民を人質にとると言っている。僕もこうなっては解決策についてしっかり考えないといけない。


「はっきり言っておきますが、僕は自分の自由と領民全ての命を天秤に乗せるなら自分の自由を取ります。元より知らなかった事ですが、知った後も僕はそこまでの興味も義理もありません。多少は心が痛む程度です。なので貴方が僕が持ってきた話し合いでの和平交渉に彼らの命を載せても僕が貴方の物になることはありません」


「我の物になれば、衣食住何一つ不自由させない。それに大事にしてやるし、可愛がってやる」


(結構好条件を提示されている。甘さがにじみ出ているなこの娘)


「アキト、もうこの娘の物になったら?毎日優しく気持ちいい事してくれそうだよ」


「エルさん何を言っているのですか、アキト様のってはいけません!」


「僕には目的があるので駄目です。何故そんなに拘っているのですか?」


「遠い昔、其方に命を救われたのだ。そして300年前魔王様と其方の姿を見た時、我は心を決めた」


「ううーん・・・人質とか僕に嫌われるような手段を使うほど?」


「言わせるな、もう言葉に意味はない。力尽くで手に入れる」


「待った!」


 僕が待ったと強く言うとしっかり常闇卿は待つ。周囲にいる執事服の兵士達を見回して、状況の整理をする。


(やり辛い、非常に・・・。好意を寄せられているからか?意外と優しい奴っぽいのが困る。人質とかとってるなら敵意剥き出しで来てくれないと殺して終わりみたいに出来ない)



「力尽くでといいますが、着地点がありません。僕は殺されない限り戦うつもりな為、貴方の物になることはありません。そしてここでは巻き込まれる者達がいます。貴方は僕以外に興味がないと言っても城の者達を無駄にしたくはない筈だ。僕に対して人質を取ることに関してですが、横にいる二人を人質にしても僕は揺るぎません」


 エフェメラルは当然といった顔をしているがメイは尻尾と耳をぴーんと立てて驚いている。二人の命は僕の自由より下と僕が最低発言しているのだから当然だ。しかしこれはブラフである。二人が捕まって人質にされれば流石にしばらくは言うことを聞くだろう。ブラフであることをメイは悟ったのか、しばらくして尻尾は元の位置に戻った。


「そこで決闘を提案します。相手に負けを認めさせるか、戦闘不能に追い込む。あるいは殺したら終わりで周りには一切手を出さない。そして勝者に従ういかがでしょうか?」


「・・・我ら吸血鬼には決闘の掟がある。口約束では違えられると思い、我から提案しようと思っていた。其方を殺せないのは我も知っている、だからこそ吸血鬼の決闘の掟に則り心を折り契約を結ぶという条件が含まれるならその提案に同意しよう」


(決闘の掟やら契約がどういう手順で行われるのかわからないけど、魔法的な物だと一切僕には通じない気がするな。彼女は僕が殺せないことを知っている、それは彼女が僕を手に入れたいから殺せないではなく、死なない事を知っているという意味だろう。何か秘策でもあるのだろうか?だけど殺さないで済むなら、それにこしたことはない。僕もその条件に乗ることにしよう)


「わかりました。決闘の掟に則り敗者は契約を結び約束を違えないということで」


 互いに同意が取れたところで、周りの兵士達がすっと後ろに下がる。城の中の謁見の間とはいえかなり広く燭台で照らされる灯も何処となく心もとない。常闇卿という名だけあってもしかしたら暗い空間のほうが有利に戦えるのかもしれない。


 玉座を高くするための階段をゆっくり降りてきて、常闇卿の右手に赤い剣が握られる。何処から出したか不明だが少なくとも魔法というより種族特有の特性のようにみえた。次の瞬間彼女が間合いを一気に詰めて僕に向かって剣を振り下ろす。瞬間的に筋力を増加させるような魔法だろうか、今まで常時強化型の物ばかり見ていたため余りの速さに驚きつつ右手に出したショートソードで打ち払う。


 反撃をしようとすると再び常闇卿が急加速して僕の左側に移動したので攻撃に備えてタワーシールドを出す。大楯で視界が塞がりつつも防げると安堵した瞬間、背中に痛打と裂かれるような痛みが走った。大楯で防いだはずと思いすぐさま後ろに飛びのくと常闇卿は左手に赤い茨のようなトゲが付いた鞭を持っていた。そのままうねるように鞭が動いて追撃が来る。


 大楯を回り込むように鞭が僕に当たるためこれでは防ぐことが出来ない、僕はすぐさま左手にフレイル型のモーニングスターを出して常闇卿に向けて振るう。狙いは的中して常闇卿が振るった赤い鞭が絡めとられるようにモーニングスターの鎖に巻き込まれて動きを止める。モーニングスターの鉄球が常闇卿に当たることなく壁に突き刺さり、僕はすぐさまモーニングスターから手を放して。左手にレイピアを取り出し、モーニングスターの鎖の穴に向けて突きこみ地面に縫い留めた。


 巻き込み、絡めとられ赤い鞭が使えなくなったと悟った常闇卿がすぐに鞭から手を放して真っすぐ突っ込んでくる。両手に赤い剣を持っているが僕はレイピアを突きこんだ隙があり、右手の剣で片方の剣を弾くのでいっぱいだ。左手に持った赤い剣で腕を斬られる。


「ッ・・・」


 剣で斬られたくらいでは感じられないほど持続的な痛みを感じた。よく見ると彼女の持つ赤い剣は鋭い鋸刃のようなものがついていて切れ味よりも痛みや苦痛を与えるための物だとわかる。


(この娘・・・戦闘スタイルが僕に似ているだけじゃない、僕が怪我をしないけど痛みや苦痛を受ける事を知っている。棘つきの鞭や鋸刃の剣といい僕との闘いを想定した武器なんだ・・・)


 間髪おかずに二本の剣で攻撃を仕掛けてくる彼女に僕は右手のショートソードを捨ててエルを抜いて右手に持つ。左手には木製の小盾を出して鋸刃の片手剣を受けて巻き込み止める。そのまま押してエルで赤い剣を狙い打ち払うように破壊する。だが破壊した瞬間、僕は再び背中に痛撃を受けていた。わけもわからず痛みを我慢しながら彼女を蹴り飛ばす。


 蹴られたにもかかわらずふわりと離れた場所に着地する彼女の手には先ほど巻き込んで停止させたはずの鞭が握られていた。同様にエルで破壊した剣も復活している。地面のモーニングスターを見ると鎖でからめとった筈の鞭がない。


(吸血鬼の血で作った武器とかそういうものなのか?武器を消して手元に出せるなんてまるで僕と同じだ)


「エル、彼女の魔法に干渉できる?」


「無理だね、水魔法の系統じゃない。吸血鬼固有の特性魔法だ。しかもとてつもなく精密で練度を積んでる。彼女本人の血に限っては制御で俺が割り込むのは無理だ」


いつも読んでいただきありがとうございます。

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