一人で生きていると思わない時
鍋が出来上がっていたので、木製の器にうつしてエフェメラルに渡す。金属のコップを持っていたので交換で受け取って、そのまま格納した。自分の分の木製の器にもよそってゆっくり食べた。
(結構美味しいな、見た目はちょっと悪かったけど及第点だ。)
残さず全部食べたので、洗い物を全部エルに水魔法でやってもらってから焚火の煤がつかないように軽く乾かしてから格納していく。
片付けが終わったので火鼠の外套にくるまって眠りにつこうとしたが、エフェメラルが眠れないかと考えなおし火鼠の外套を渡して、それで寝るように伝えた。寝具のようなものは人工衛星に格納されていないが、今後必要となるかもしれないと思った。自分の体は汚れないし負傷しないからどんな場所でも寝られるが、今回みたいに誰かを保護した時は必要になるかもしれない。
今までそんなことを何度かおそらく考えたのだろうが考えるだけで毎回忘れていた。他者に気を使うのなんて本当に久しぶりの経験だった。寝るのはやめて放心状態で焚火を眺めていた。ボーっとしながら火が小さくなってきたら薪をくべる。
薪が燃える。
火が小さくなる。
薪をくべる。
火が小さくなる。
薪をくべる。
ずっと続けていたらいつの間にかうたた寝し朝になっていた。火の番をすると見せかけて寝る、永い間旅を続けることで得た技の一つであった。
朝になったことで火の始末と準備を終え、エルを鞘に仕舞い剣帯にぶら下げる。留め具の確認も終わったところで火鼠の外套をエフェメラルから返してもらい羽織る。
「薪を燃やしている間ずっと考えてたんだけど、君を抱えて運ぼうと思う。足の怪我やスタミナを考慮してもそのほうが効率がいい。嫌だったら言ってくれればいいし」
「どうしたのアキト!?積極的じゃないか」
「茶化さないでくれよ、僕がただ薪を燃やすだけのロボだと思ったかい?・・・計算してたんだよずっと」
(女の子を抱き上げて運ぶ計算をしていたとか今思うと変態なんじゃないか)
「・・・ずっとではなかった。ちょっと考えただけだった。嫌なら断ってね」
「よろしくお願いします。」
エフェメラルが頭を下げて来たので、お姫様だっこのように抱き上げる。身を任されてわかったがやはり軽かった。
抱き上げて移動するのも最初のほうは少々の気恥ずかしさと安全に気を使っておっかなびっくりで移動速度もそんなに出なかったが、段々慣れてきて一切の無遠慮というべきか早く教会に預けてしまいたい
気持ちに支配されて。足取りが早くなっていた。
そんな僕の様子をエフェメラルがじっと見ていて、エルがもうちょっとゆっくり行ったらと言ってきた。抱き上げたのは早く移動するためだから、遅く移動することはありえない。僕は最大限の努力を行った。ここ数十年で一番頑張ったと言っても過言ではないと思う。
野営の回数を大幅に短縮し、片手で数えるほどの道程で目的の街についたのだった。
街の名前は「グシオン」
隊商も頻繁に出入りし、教会も統一されておらず。複数の教会が存在している。元々多神教の考えが王国には浸透しており、崇める対象も人それぞれだ。アキトは街についてエフェメラルを抱きかかえたまま直ぐに知り合いのいる妖精教会へと踏み入った。急いできたからか若干息が荒くなっていた。
「あら?アキトじゃないか」
そういって祈りを捧げていた人物が近寄ってくる。軽装の上から緑色のローブに身を包んだエルフの女性だ。優し気な雰囲気と柔らかい印象を持つ女性だ。名前はオリビア、そして彼女の胸はでかい。
オリビアは僕が抱きかかえているエフェメラルをじろじろ見た後にハァハァ吐息を漏らしている僕を見つめた。だが、特に何も言わず僕が息を整えて喋り出すのを待っていた。
「この子の名前はエフェメラル、わけがあって保護した。身よりもなく、頼る相手がいない。ただ、妖精との親和性も高くこの妖精教会にとっても庇護下に入れる意味があると思う。服と靴、生活費は1月分渡すから妖精教会で保護してほしい。」
ゆっくりと抱きかかえていたエフェメラルを地面に下した。すると彼女は静かにオリビアに礼をした。
「突然来て、いきなりお願いだなんて君は無茶苦茶だな。お茶を出すから詳しく聞かせてよ」
すぐにでも出立したかったがあまりにも不義理過ぎると思いなおし、オリビアに案内され奥の部屋で話をすることになった。
ゆっくりとした動作でオリビアが木製の机にお茶を人数分置いた。手前に一つと奥に二つ、僕は一つ側の席に案内されたので二人とは対面で話すことになった。三人は木製の質素な椅子に座り、アキトが経緯の話をし始めた。途中エルが補足のように言葉を付け足しているが、主に僕が認識出来ない妖精についての話だった。オリビアは妖精魔法の使い手なため、エルが言うエフェメラルの凄さがしっかり伝わっているようだった。
「しかし君がこんな可愛い子を保護ね~、私の時はさっと助けてさっといなくなったのに。追いかけていったら散々妖精魔法の実証を手伝わされた後、よくわかんないわみたいなこと言って行方くらました事
忘れてないからね」
(なんでこんなに根に持っているんだ・・・。もう何百年前の事だよ?)
「オリビア、それで彼女を預かってくれるのか?生活費としては大銀貨3枚は出すつもりだ。」
「あら?随分条件がいいね、そんなに貰わなくても大丈夫だよ。大銀貨1枚で十分。それよりも賊討伐の結果を村に簡単にでも報告したほうがいいんじゃないかしら、女の子は居ませんでしたみたいに」
(そうだった。正式に受けた依頼ではなかったといえ、村には賊討伐が住んだから怯えなくていい事とエフェメラルのことでこじれないように手紙でも出すつもりだったんだ。)
「手紙を村の村長宛てに書いて村に行く荷馬車に届けてもらう事にする。村在中の狩人が確認にいけば賊の討伐が終わっていることは理解してくれるだろう。」
アキトはゆっくりと出されたお茶を飲む、永年味の好みは変わっておらず。アキトはこのお茶がとても美味しく感じた。以前ここに来た時もお茶が美味しかったことを思い出していた。
「お茶が美味しいって顔をしているよ」
オリビアから指摘されて驚いた。そんなに顔に出していた覚えはないが、何故わかったのだろうか?
ふふふっとオリビアが柔らかい笑みを浮かべる。彼女は頼れる女性だ。自分はこの繋がりを大切にするべきだろうとアキトはそう感じていた。
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