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黄昏の心


「貴様が世界を破滅に導くのは間違いないな?」


ジークハルトが手に持っているミカエルを右手で慣らすように軽く振ってからこちらに向ける。


「ジーク、もう少し詳しく話を聞くんだ。アキトさんだって世界の破滅を望んでいるわけじゃない筈だ」


ミゲルがジークに静止をかけてアキトに続きを話すようにうながした。


「・・・この星の南極点にワールドエンドと呼ばれる場所への入り口がある。特定の条件を満たした場合のみ入れる場所だ。そこには僕が言うところの人間が創った大きな仕組みがある。この星を効率よく管理するために循環を制御するための物だ。古代よりも暗黒の時代より前、過去何度もこの星ではその循環の仕組みが利用されてきた。全球凍結(スノーボールアース)と呼ばれるそれを迎えることで循環を促し、再生産によって停滞を止める。詳しい事は僕もわからないが様々な文明や魔力などというものが生まれたのもそれが一つの原因だと考えられる」


「貴様は何者なんだ」


「・・・僕は循環を動かすためのモジュールだよ。世界の停滞を検知して判断を仰ぐ」


「アキトさん、その話だと最後に選択する者がいるということですよね?」


「それが人間だ。多数決によって行われる」


「・・・?待ってくれ、人間がいない場合はどうなる?」


「もう既にかなり遅延と延期を僕の命令で繰り返した。100年後には自動実行がかかるだろう」


 ミゲルが頭を抱えている、実際馬鹿な話だ。彼らからすれば古代人が創った仕組みに現代人が翻弄されているのだから。しばらくしてミゲルが思ったことを次々と聞いてくる。


「停滞を避ける仕組みだというのならば全球凍結が行われた後に再生の季節が訪れないのはおかしいのでは?」


「だから困っているんだ。本来であればハルトが役目を負う、フユとナツはそれぞれの期間での正常動作の為の仕組みなんだ。僕達とは少しばかり違う」


「では、全球凍結という停滞が起きた時に次ぎに行く仕組みが動かないと?」


「可能性はあるけど回避する仕組みが創られていたという話は聞いていない」


(・・・停滞があるとすれば凍り付いたこの星の環境に適応した生物が生まれてくる可能性があるくらいか、まあそんな皮肉めいた話をしても仕方がない。僕達以外全員死ぬだろうな)


「人間達も循環の仕組みとは言え、死にたくないでしょう?何かあるんじゃないんですか?」


「街の地下や遺跡にシェルターのようなものがあったけど全部お前達がぶっ壊しただろ、とはいえ現行人類だけじゃなくて、様々な文明の奴らが奪って再利用したというのが正解か。それにシェルターに篭ったところで星は凍り付いたままだ」


「貴方は遠い昔の知識がある筈だ。経緯や人間の行方を把握してはいないのですか?」


「・・・最後の全球凍結(スノーボールアース)が終わって春を迎えた頃、人間は完全にいなくなっていたよ。僕達は正常動作をするために休眠期に一度リセットされる。メンテナンスが行われるんだ。七大天剣(セブンス)やデーモンの知識は他の媒体に蓄積されていたけどね、人間は平和主義でかなり枯れていたんだろう。全球凍結を生き残るために必死な新人類や竜などの生物に比べればそりゃ脆弱で数も減っていた。人間が新人類に同化されたのか、シェルターを奪われたことで死んだのか、何らかの進化をしたのか全く分からないよ」


 僕は嫌な気分になってきていた。そもそもハルトが生きていれば現存人類が少なくなる程度で済んでたのが絶滅するまで追い込まれるであろう事実と僕がハルトと同じように死ぬ可能性があるという事実。未だに胸を締め付けるような恐怖がのどまでせりあがってきているのだ。手は震えていないが、僕が悪いというようなジークハルトの態度にも苛々している。


「アキトさんはこれからどうするおつもりですか?」


「お願いのために人間探しを続けるよ、見つけるまでがお願いなんだ。何千年と続けているからね、100年が早まろうが大した違いはないならお願いを果たすほうが僕は納得できる」


「アキトが嘘を言っているのがあたしにはわかる」


「・・・」


話を聞いていたメイが唐突に口を開いた。体調が悪い筈のメイだが話はしっかり聞いていたらしい。


「アキトは今の人達がどうなろうと構わないとは思っていない、お願いと同じ天秤には乗っていない」


(・・・メイ、僕は今少し怯えているんだ。僕はお願いによって動いている。今まで通り続けるのはいい、だけどこれをやめたら・・・?僕は動かなくなってしまうんじゃないか?ハルトと同じように死んでしまうんじゃないかって、君は僕を買いかぶりすぎている。僕は君が思うような存在じゃない)


「元々予定されていた出来事で大量の人々を見殺しにするつもりだった奴だ。100年後に同じことが起きるなら情も何も持っていないだろ、こいつはそういう奴だ。人類が100年でも永く生きながらえるなら私にとっては十分戦う意味になる」


 ジークが僕に向かって鋭い突きを放つ、僕はカイトシールドを左手に出して突きを受けるが。地面から体が浮き上がるほどの衝撃を受けて、そのまま後ろに飛びのく。ジークの追撃と魔法が見えたので走ってハルトの部屋から飛び出し、資料室を抜けて石像がある大広間まで逃げた。


「エルはどっちの味方?」


死にたくない不安で世界中を敵に回すなんて馬鹿げているんだろうか?僕の声が少し震えている、当たり前の事なのに親友に確認せざる得ない。


「アキトの」


 手元に他の剣を出そうと思っていた僕の迷いは消えてエルを腰から抜き放つ。追いかけて追撃に来ていたジークハルトのミカエルを切り上げで弾き、肩で体当たりをする。


「アキトは情けない奴じゃないよ、俺は知ってる。アキトがいなければ暗黒の時代に現行人類なんて滅ぼされてるんだからデーモンも竜も、今まで人の為に戦ってきただろ?悪ぶる必要なんてない、君は死ななくていいんだ」


「ありがとう」


 ジークが間合いを詰めて、連撃を放ってくる。僕を斬れないとジークは言っていたが七大天剣であるミカエルの攻撃を僕は間違っても受けたくなかった。全ての連撃を丁寧にエルで切り払い、流す。死ぬかもしれないという恐怖が極限まで集中力を高めているのかもしれない。


 間に合わない物は蹴りを入れて態勢を崩して避ける。しかし隙間を縫うようにジークの雷の魔法が次々と降り注ぐ。エルが水魔法で雷の通り道を作って僕に直撃しないように逃がしていく。何度も続く攻防に一切の気が抜けない、ついに剣の腕で僕は押されてジークがそのまま回避不能な突きを放ってきた。負う傷を抑えるために僕は身体を捻り致命傷を避けながら、左手に出した短槍をカウンターにジークの腹にねじ込んだ。


 互いの距離が離れ、僕は鋭い痛みが走った場所を確認するが傷を負っていなかった。逆にジークは腹に突き刺さった短槍を苦しそうに抜いている。血が滴り地面を汚している。槍を抜き地面に捨てると傷口はナノマシン特有の回復がみられ、それに加えて回復魔法ですぐに再生していく。


「何故だ!!何故ミカエルは私に答えない!!誰かのために、人類を守るために戦うというのは応じる理由にはならいのか!?」


 今までジークからは感じた事のない怒り交じりの罵声が響く。僕はミカエルに斬られたのに無傷だったことによる安堵と冷静じゃないジークを見ることで心に落ち着きを取り戻していた。


「嘘くさいからだよ」


そのような言葉が大広間に聞こえてくる、ゆっくりとミゲルが姿を現した。


「先生・・・」


「初代ハルトは自分の為に生きていたし、自分の感情を優先していた。ジーク、君は薄っぺらいね?人はまず自分の為に生きなければいけない、誰かの為になんていう奴はボクは信じてない。ましてや子供がいるあの場でいきなり斬りつけた君が他人を思っているなんて思えないな、戦う場所を選んで逃げたアキトさんのほうがまだ人を思っているよ」


不意を突いてミゲルがジークの顎を叩く。全く反応が出来なかったジークは膝から地面に崩れて倒れる。


「再生持ちでも脳を揺らせばしばらく無力化できる、そこで見ているといい。レクチャーだジーク」


ジークが手元から落としたミカエルを拾い上げてミゲルがゆったりと構える。


「アキトさん、貴方はハルトのように止まって死ぬのが嫌なんですよね?でもエルに斬られて死ぬ最後なら本当は納得するんじゃないですか?」


「死にたくない・・・。けど・・・そうかもしれない」


「ボクが試してあげますよ、本当のエルで斬られれば貴方の本心がわかる筈だ」


 ミゲルがジークと同じ構えをする。しかし、先ほどまでと威圧感が全く違う。形容しがたい圧倒的な差をその身から感じ取れる。瞬きをした瞬間、いつの間にか間合いを詰められていた。初動も見えない、その動きに僕は焦ってエルによる迎撃で斬りつけた。容易くその攻撃をミゲルが流して僕を斬りつける。痛みと同時に体から血が吹き出た。


「──なっ」


 焦るように僕は左手からショートソードを出しながら切り払いを行うが見切るように最小限の動きで避けられ左肩に突きを貰った。その攻撃もまた、僕の体を傷つけて血が滴る。僕が感じたのは死への恐怖より、頭の中を支配するような怒りだった。何処かでわかっていたのかもしれない、僕は自分勝手な奴だから周りがどんな条件で僕の心を責め立て、世界中の人のために死ねと言ったところで。ただふざけるなと怒鳴り散らして一人でも生きようとすると。でもそれはとても醜悪で恰好悪くて汚いから、ずっと自分では隠していたい心だった。


「酷い・・・な、本当に」


 僕を殺させまいとエルが僕の周りや大広間に血の盾を大量に作り出す。赤い小さなシャボン玉のようなものがその場にとどまり、七大天剣以外の一切を阻むのだ。


「これは敵いませんね、アキトさん貴方まるで魔王みたいですよ」


ミゲルの自嘲気味な笑い声が響く。


いつも読んでいただきありがとうございます。

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