手に負えない迷惑なロボと姫
城の兵士達が両手で剣を握り込み、アキトに向かって斬りつけてくる。それをタワーシールドを出して受け、そのまま強く盾で叩く。弾かれたように吹き飛ぶ兵を尻目に盾を持っていない方向から突きこんできた兵士の攻撃を避けて胸倉をつかんで兵士の集団のほうへ投げ飛ばす。
(西の監視塔は身分の高い者を軟禁するための座敷牢のような役目を持っていると聞いた。場所は王城の城壁内でも少しだけ離れた場所だ。このまま城と塔の連絡路を突っ走って監視塔の回廊を駆け上がっていけば問題ないはず)
「邪魔をしなければ誰も死なずに済む!!近寄った者は弾き飛ばす!!」
「ふざけたことを!目的はなんだ!!」
「自由ッ!!」
タワーシールドを両手で持ち、盾を横にした状態で正面に構えて監視塔への道に向かって突っ走っていく。道中前に立ちはだかる者達は充分な助走が乗ったアキトの機動力によって弾き飛ばされていく。軍馬を遥かに凌駕する一切のためらいがない突進力に次々蹂躙されていく。この突進を止めるには加速がつかない通路に複数の重装騎士が陣を組まない限り止まらないだろう。
「なんて突進力だ・・・馬鹿げている・・・」
弾き飛ばされた者達は宙を舞い、地面に落ちる。すぐにでも回復魔法を施さなければ死んでしまう者も出ているだろう。走り抜けていく背中に魔法を撃ちこむ者達もいるが、アキトは痛みを我慢して走り抜けていく。
(火魔法だけは撃たないでくれ、火で焼いて僕を全裸にして楽しいか!!頼む許してくれ!!)
エルがいない今、僕は火の魔法が恐ろしかった。全裸で城内を駆け巡り姫に会いに行くなど、狂人のすることだからだ。大事な火鼠の外套が槍や剣で傷つくのを恐れ温存してしまったのだ。
王城を走り抜けて西の監視塔の回廊を上り、扉を蹴りで蹴破る。何度か続けたところ運よく、かなり早い段階でマリー姫と出会うことが出来た。僕は自分の服が無事なことを確認してタワーシールドの構えを解く。
「約束通り来たけどね、本当に僕の名前出すとは思わなかった無茶苦茶だよ」
酒場で開いたしょうもないお悩み相談室が原因でここまで発展するとは思わなかった。そんな疲れ顔の僕を見てマリーが言葉を口にする。
「アキトさんでなければとっくに死んでいて、ここまでこれなかったでしょう。やはり強い者だから言えるだけで、本当は感情の通りに嫌だなどと言ってはいけないのではないでしょうか?」
「・・・確かに・・・と言いたいところだけどね、普通は監禁してでもやらせようとか意見の違う者を殺そうとか声を上げた者の口を全部封じようとかそんな腐ったことしないんだよ!!僕を全裸にして!ムチ打ってよぉ!!クソむかつくわ!!ていうかね・・・君の周りの奴らがうんこすぎ、多分だけど軟禁生活続いたら不憫に思ったまともな騎士とか重鎮が出てきて城で話し合いがされて結果的に僕以外の奴が救ってくれたと思うよ・・・。だから強くなくても言うことに意味があるのは間違ってない!!・・・だから僕は間違ってない」
「そうですね・・・申し訳ありません。アキトさんが一番に救いにきてくれたことは忘れません。ありがとうございます」
感情の発露が目立ち、すねる子供のようなアキトにマリーは礼を言って頭を下げる。
「もうここまで好き放題したんだから王様のところに一緒に文句言いに行く?場合によっては君はあれだ・・・縁を切られて国外追放とかされてしまうかもしれないけど・・・」
「お父様のところにいきましょう!言いたいことを言っただけで処刑はされないでしょう」
酒場で話したアキトの持論に感化されてしまう程度には世間知らずのお姫様だ。今回のこの立ち回りがどういう結果をもたらすかを考えるのをやめてテンションとノリで押し切ろうとしているのがアキトにも伝わってくる。
(死なない僕はまだしも、どうにでもなれみたいな事が出来るのは素直に凄いな。関わりたくないけど面白い人だ)
マリーを連れて監視塔を下りて行き、玉座の間に向かって移動していく。道中の兵や騎士はマリーに攻撃が当たることを恐れて魔法や飛び道具を使うことが出来ず。また、危害を加えようとする者達に道を開けるように強く言葉を発していた。アキトもテンションが上がって右手に出したシミターを悪役のように舌で舐めてやばい奴感を出している。これによって人質にしていないが、迂闊なことが出来ない事を騎士や兵士達に伝えて牽制しているのだ。稀に取り押さえようとするものが出てもすぐさま反応してアキトが蹴り飛ばしていた。
そしてついに王様の元に二人は辿り着いた。少し離れたところを騎士や兵士達がぞろぞろとついてきて様子を窺っている。王様はこの騒動で命の危険などがあることを理由に逃げるかと思ったが、落ち着いた様子で座っていた。熟練の騎士達の中にはアキトが殺しを目的にしていないこと、マリーに危害を加える気がないことを悟ったのか落ち着き払った様子で成り行きを見ている者もいるように感じる。
王様はどうやら話に付き合ってくれるようだった。
(ここでマリーが僕に誑かされて~みたいなことを言ったら僕は怒りでこの国を滅ぼしてしまうだろうな。信じていないわけではないけど・・・不安はあるな)
「お父様、私は自由を得たいと口にするだけで軟禁されてしまい。相談に乗ってくれただけのこの方は理不尽で不当な暴力を受けました。真実を捻じ曲げてこの方を悪とすることは我慢なりません。城を抜け出したのも自由になりたいと言ったことも悪とするならば、悪いのは全て私です。どうかこの方にこれ以上の暴力を振るうのを禁じてください」
「・・・考えは代わったのか?」
「はい、自分の立場をよく理解しました。こういったことが起きるのであれば私は自由な振る舞いはすべきでないでしょう。国やお父様がまだ、私を人形のように扱うつもりがあるのであれば従います。しかし、腫れ物のようでもう無理でしょう?追放や罰を与えるというのならば受け入れます。それだけ大きな混乱を起こした自覚はあります」
(言いたいこと言っただけでテロリストみたいになるのやばいな、これが責任か~)
後は他の人がどう思うかというところであると僕は考えていた。王の娘がこんなことを言い出す国に居たくない~とか政権が混乱する~とか不安があるみたいなことをしたり顔で言い出す奴らがおそらくいるのだ。別にそれを思うのも言うのも自由である。じゃあね、国を出るなり。政権交代するために国盗りするなり、気に入らないと思った人たちが変えて行けばいい。僕からすると国王の娘が変な事言った程度で兵を使って反乱を起こして人殺してまで国盗る気ないし、国を出るほどの事でもないし、国王に座を降りろって騒ぐほどのことじゃないんですわ。
無責任でどうでもいいからってのもあるけど自由になりてえっていう事すら言えない状況がそもそもおかしいからね。国民全員がお前は自由になっちゃだめだよとか考えてるわけないからね。
「貴様が姫様を誑かしたせいでこのようなことに!・・・社会秩序を乱す害虫が!!」
僕に向かって若い騎士が変なことを言い出した。僕個人の言葉に社会秩序を大きく乱す程の力があったことに驚きだ。確かに全員が僕みたいなことを言い出したら、秩序が保てないかもしれない・・・?だがそれよりも国王と姫が話している場でこんなことを言い出せる勇気があることを僕は評価した。
「あるとは思いますが具体的にどのようなデメリットが?」
「貴様が招いた混乱により兵や騎士の士気が落ちる、国への信用や忠誠そして今この瞬間にも他国から攻撃を受ければ指揮系統に問題が起きる!!」
(すげえ発狂芸みたいなのかまされてる、僕に似てるなこいつ)
「その程度で揺らぐならやめたら?騎士むいてないよ君。毎日姫が何考えてるか気になりながら訓練してんの?国の事を誠実に考えて人形みたいに過ごしてるから自分も努力して国を守れるとか思ってんの?姫がそんなのじゃ国が守れない~みたいな奴ならさ、軍を乗っ取って国盗って納得いく姫を立てれば?朝起きて、剣振って。真面目に国防してる奴がそんなこと考えてんの?お前には任せられんわ、やめたら?」
剣を抜いて若い騎士が斬りかかってくる。僕は右手にサーベルを出して攻撃を受け流して、サーベルについてるナックルガードで顎を殴りつけた。
(弱っ・・・)
「失礼しました・・・。収拾がつかなくなってしまうので、僕は帰ります。軟禁されることや人形のように扱われることにはもう納得したようなので姫様を処刑する場合にのみ決めた奴を殺しに来ます。あと姫様の言葉が考慮されるとは思いたいのですが、僕に危害を加えてくる者が居たら殺しに行きます」
「待て、アキトと言ったかな?」
王様がその場で僕に向かって言葉をかける。
「アキトという名に覚えはあったのだ。王室が所持する文献に記載されている。遠い昔この王都に住まうデーモンを殺した者の名だ。だが礼も受け取らずに去ったと言い伝えられている。王都アスモデウスを救った不死身の存在であるのならば、手を出さないことを約束しよう。皆が納得するためにどうか証拠をみせてほしいのだ」
「具体的にどうすれば?」
王様が一人の老練な騎士の名を呼び命令を下す。そして騎士が両手剣を持ち真っすぐ構える。
「・・・貴方は強いですね、大人しく一撃斬られるので納得してください」
アキトは特に武器も構えずにその老練な騎士の剣を直撃で受けた。泣きたくなるような痛みを感じたが、やせ我慢してなんともないように振舞う。一切の魔法痕跡もなく、防御もせずに斬られたアキトを見て周囲の騎士や兵、重鎮達がどよめく。
「これでいいですか?」
「約束しよう、アキト。遠い昔に国を救ってくれたことを感謝する」
小さい声で周囲の人達から化け物といったようなヒソヒソ話が聞こえてくる。わざわざ付き合ったが、これで手だしをしないことを確約してくれるならとアキトは納得してその場を去っていった。どよめく者達の中、礼を言うマリーの声だけがアキトの耳に聞こえていた。
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