エフェメラル
準備も終わり、焚火を囲みながら鍋が出来上がるのを待つ間、エルが少女と話していた内容を聞いた。まず、エルが何故野営を早めに始めたかというところからだった。理由は少女が裸足だったからだ。僕は衝撃を受けた。エルも気が付いたのが野営を提案する少し前だったそうだ。
今まで旅の同行者がいなかったため、僕達は感覚が麻痺していたのだ。アキトは汚れないし傷を負わないし怪我をしない。街や村で不信感を与えないためにだけ靴を履いている。攻撃対象でもない限り相手の装備を見る事もないのだ。少女もよく何も言わずに黙って従い、ついてきたものだ・・・。これについて素直に謝った。
幸い彼女は森の加護というものを持っているらしく、森の中での疲労や樹木との接触などによる怪我を防ぐらしい。それでも足に多少の擦り傷があり、回復魔法によって治癒を行っていた。
少女の名前はエフェメラルというらしい。エルと話している間は自分の事をそれほど話さず。ずっと僕を見て何をやっているのかを聞いていたようだ。全ての人が魔法を使う中、火を起こすのに奇妙な道具を使っていたのが気になったのだろう。
今後のことについてエルが聞くと僕についていきたいと言っている。村に戻れば居場所はなく、また売られるだけであるし、頼る同族もいない。そんな彼女の心境は推し量れないが、僕は彼女を旅に同行させる気はなかった。素直に旅のペースについていけないと思ったからだ。僕は自分本位で動くし、気を遣うことに慣れていない。
実際彼女が靴も装備も万全だとしても、ついてくるのが精一杯だろう。僕は自分の身は守れるが彼女を護り切る自信はなかった。
「今の君を連れ歩くのは無理だ。」
だから素直に理由を説明して彼女は次の街にいる僕の知り合いに預けることにした。
「神様の仰ることはよくわかりました。」
(うん?)
「最初に会った時も言ってたけどその神様ってのは何?」
「妖精が貴方様の事を古き盟約の神であると」
(でた・・・妖精だ。苦手なんだよな妖精教)
「へぇ!?凄いじゃん!妖精が言葉を発してるなんて頭のおかしい学者が300年に1回くらい唱える説だと思ってたよ!それが真実だってことはエフェメラルはとてつもない才能があるってこと?」
エルはエフェメラルが嘘をついているとは思っていないようだ。彼のいいところは仲良くなった相手の言うことはまず信じる。
ゆっくりと何もない空間をエフェメラルが視線で追い、エルもおお!!というような声を出している。「闇の大妖精の加護です。今傍にいるのは普通の闇の妖精ですが、私はこれで故郷から捨てられました。」エルが凄い凄いとはしゃいでいる。
僕から見ると何もないところに視線を動かして痛い事を言っている人にしか見えない。かろうじて周辺の魔力がなんかちょっと変かな程度には検知できている気がする。
「エフェメラルは凄いよアキト!残念だね・・・妖精が見えなくて」
アキトは妖精が認識できなかった。魔力を一切持たないアキトだが、魔力は未知のエネルギーとして認識出来ていた。それゆえに彼は人間であるかないか、この気持ち悪い物はなにかと魔力について詳しく知ることになった。
しかし、妖精は違った。魔法はいくつかのカテゴリー分けがされているが、妖精魔法というものはアキトにとっていきなり変なところから魔力が行使されるという謎の多い魔法となってしまった。妖精を認識出来ず本当に存在するのか疑うも全ての人は妖精をしっかり認識しており、妖精の存在を妖精魔法によって何度も知り合いに目の前で実演してもらったことでおそらくあるのだろうというところで思考停止し、それ以降は関わらないようにしている。
実演を手伝ってもらった知り合いからも最低な奴だよ君はと辛辣な言葉を言われたが全部流した。丁度向かっている次の街にいる知り合いがその妖精教会の者なのでエフェメラルを預けるには都合がいい気がしていた。
「妖精教は苦手なんだ。妖精が何か言ってるとして何で僕が神様なの?」
「神様は魔力を一切持たず、自分たちを認識することが出来ないけれど、何もないのに祈りがあった。祈りと定義が妖精を生んだと言っています。意思の疎通も魔力を扱えず干渉することもできなかったけど祈りがあったと」
「それが古き盟約?へぇ~暗黒の時代より前の話かな?」
(この子実はやべー奴なんじゃないかな・・・つまりあれか?何もないところに祭壇置いて精霊信仰みたいに適当に祈りまくってた奴らの中に真剣な奴らがいてそれによって妖精が生まれたってことか?妖精は実際に信仰者たちに何かすることもできないし信仰者も自分の心の中で全部済ませてたけど結果的に生まれたってことか、その中でたまたま妖精が好む物事があってそれが盟約になったと・・・。)
「・・・大体わかった。君は次の街にいる妖精教会の知り合いに預けるよ」
「神様の旅に同行出来るようになるにはどうすればいいかお導き下さい。」
「まず神様って呼ぶのをやめて、後は預けた先で勉強して自分の身を護れるようになって、自己中心的な僕の行動に振り回されてもついてこれるくらいじゃないと無理だよ。何より自分がやりたいと思ってないと出来ない、僕に期待したり理由を妖精みたいな他者に求めているなら絶対に無理だから諦めなさい。」
「かしこまりました。」
(随分突き放すつもりの言葉で言ったが、何をわかったんだ・・・。)
「アキト真剣に考えているのはわかるけどちょっと酷いよ、女の子には優しくしなきゃ」
エフェメラルの略称があれば文字打つのが楽になるけど何が正しいかわからない。
エフィとか適当にやればいいんだろうか・・・。略称の付け方が謎だ。
読んでいただきありがとうございます。