英雄と友達
立ち上がったゼクスはアキトから渡された魔法薬を直接飲む。独特な苦みがあり、結果的に安心して意識が飛びそうになっていたゼクスには気付け薬にもなった。心が軽くなったからか先ほどまで満身創痍だったのが嘘のようにゼクスは力を取り戻していた。
「アキト、これは何だ?」
ゼクスは自分の周囲に浮かんでいる球状の赤い液体を指して聞く。
「僕の血をエルの力で干渉させて動かしてる、血の盾だよ」
目の前の紫竜が爪や尾で攻撃をしかけてくるが、全て球状の液体を突破出来ずにその場で止まる。ついには口から稲妻のようなブレスを吐き出すがそれも一切通さず掻き消えた。
「エルの水魔法を上回る現象じゃない限り絶対貫けない盾だよ、はっきり言って無敵だね。同格の七大天剣なら斬ることは出来るかもしれないけど液体だからね、結局魔法干渉で制御を破壊しないといけない。それすらも対象が元々液体な以上エルを越えるのは無理なのさ」
ゼクスはちらりとアキトの右手に握られている剣を見る。相棒の剣は褒められているのに無言でどこか不機嫌に見受けられる。アキトがゼクスに向かってパラッシュと呼ばれる長めのサーベルを手渡す。
「それあげる、ちょっと僕のほうに向けて斜めに持ち上げて」
ゼクスがわけもわからずパラッシュを抜き、掲げる様に右隣にいるアキトの前に刃を置いた。するとアキトが左手に金属棒のようなものを出してパラッシュに交差させるように擦り上げた。火の粉がアキトにかかり燃え上がる。炎を払うようにしてアキトが外套を翻すと外套は白く染まりあがり、気が付けば竜頭骨を頭にかぶっていた。
「何してんだお前」
「一応、竜血の英雄としてこの場に来ているから。でもあれを倒すのは紛い物の僕じゃなくて、君だ。防御は僕達でやるから遠慮せずに倒してしまいな」
ゼクスは呼吸を落ち着けて全身に炎を纏う。パラッシュを正面に構えて一気に紫竜へと距離を詰めていく。紫竜が距離を詰めるゼクスに向かって攻撃を放つがそのすべてを血の盾にすら頼ることなく躱し切り、空に逃れようとしたところ鎖を伸ばして飛びつき、翼に爆炎を放つ。飛びかけた巨体が地面に叩きつけられると間髪入れずにゼクスが眼にパラッシュを突き立て炎の魔法を撃ちこむ。絶え間ない激痛にのたうち回り紫竜はそのまま死に絶えた。
「呆気ない・・・一度戦えば、竜を狩るのも容易いな。要は慣れだが」
パラッシュがズタボロに破損したことについてゼクスは謝罪したが、アキトとエルはゼクスの手際の良さに唯々驚くだけだった。竜が力尽きたのを見てアキトの周りに二人の少女が駆け付ける、エルフと狐の獣人の少女たちだ。
「アキト様、傷を御見せ下さい!服を!!」
はらはらとした様子でエルフの少女がアキトの外套を捲り上げて服を脱がせようとする。獣人の少女も気が気でない様子だ。
「やめてよエッチ!もうナノマシンが修復してるから大丈夫!!」
それよりもと言いながらアキトが空中に浮かんでいる血の盾と呼ばれた赤い液体をエルに指示して回収していく、最終的には自分で飲んだ。その様子を見てエルフの少女があっと言葉を漏らすがアキトはぽんぽん壊すから駄目だよと言う。
「ゼクス、この子達は旅の仲間でメイとエフェメラルっていうんだ。遅くなる前に村に戻って報告に行こう」
あまりの目まぐるしい状況にゼクスは混乱しながらも返事をして、古竜教会がある村に向かった。急ぎ足で古竜教会に入り神父とクシナに竜を討伐したことを伝えると喜びの声が上がった。村の者達もいて困惑の中、古竜教の英雄としてアキトが村を救ったと村人達に持ち上げられる。
ゼクスは被り物を被った白い衣を纏うアキトを少し離れたところから眺めていた。そこにクシナが歩いてきた。
「ありがとうお兄ちゃん」
「あぁ・・・親父も母親もお前のことしっかり見てくれそうか?」
「うん!全部お兄ちゃんのおかげだよ」
「そうか・・・あんま言いたくねえけどよ、今まで自分の子供を犠牲にしてきた村人達はお前のことや教会を白い目で見るかもしれねえ。嫌なら逃げるといい、親はお前の味方だ。辛い事も沢山あると思うけど強く生きろよ」
「大丈夫!お兄ちゃんに優しさを貰ったから、私!竜の巫女としてお兄ちゃんの事を伝えるよ!」
「恥ずかしいからやめとけ、竜血の英雄はあっちのやつだ」
以後、竜血の英雄によって救われた古竜教会の村から広がり一つの伝承が語られるようになった。白き衣を纏う竜血の英雄には友達がいる。それは対を成す様に黒い衣を身に纏いとても優しい英雄であったと。
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アキトは村の古竜教会に羊皮紙を貰い、インクをつけた竜の大金貨で印を押した。以前にゼパルの古竜教会の報酬で貰った大金貨だが証明の代わりになるだろうと判断したのだ。大金貨ごと渡すのも考えたが、ゼパルの司祭がこういう使い方を想定していただろうと考えてアキトはそれに乗ることにした。
印を押した羊皮紙には村の信仰していた竜は悪しき振る舞いにより竜血の英雄に倒されたことを示し。村への支援や生贄になった子供たちへの補填を打ち切らぬよう竜血の英雄として効力を持たせたのだ。元々王都に向かう道中で通りがかった馬車の商人を野盗から助けたところ、恥を忍んで助けてほしい人がいると声をかけてきたのが始まりだった。
王都の道中に検問があるという有益な情報もあり、教えられた村に向かうと古竜教会と竜関連で村が揉めていたためアキトは竜の大金貨を見せて話に介入したのだ。それが結果的にゼクスを助けることにつながり、今こうして後始末をしているのだがアキトは満足していた。
ゼクスはハーゼを追うということで魔族領域に向かっているため再び別れたが、自分も後で魔族領域に行くのでまた会える日が来るだろうと思っている。アキトにとってゼクスは大事な友人の一人になっているのだ。
「古竜教会の司祭がさ、竜血の英雄としての名を使って教会の力を奮ったのだから代わりに誰かとエッチしろと言ってきたらどうする?」
「・・・大丈夫でしょ、宣伝効果あるんだしウィンウィンでしょ?」
「急にロボ?みたいなこと言い出してどうしたの?」
「えぇ??」
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