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ゼクスと古竜教会

━━━━━━━


「兄ちゃん、見た目ではわからないけどかなりの重装なんだな」


 北に向かう馬車に乗って移動中、御者が若い男に話しかけてくる。男は黒に赤いラインの入った外套で身を包んでおり、その下には重さの原因である鎖が身体に巻き付いている。特徴的な手甲と鉄板で補強されている厚いブーツも使い込まれていることがわかる。男の名前はゼクス、身内となるエリスという少女を教会に預けて狩りなどで金を稼ぎ。自らが装備する武具以外全ての身銭を生活費として教会へ送った。エリスが過ごす分には十分なほどの遺産が元々教会には支払われていたが、ゼクスが教会への寄付をすることで教会の子供たちへの環境はかなり良くなった。


「ああ?追加料金でも払ったほうがいいか?」


「いや、必要ないよ馬車に乗り込む時に普通より傾いたからね。驚いただけさ」


 ゼクスはエリスが落ち着くまで教会に寄付をしながら面倒を見ていたが、今はひと段落がついたことによってゼクスはハーゼを追うために北へ向かっていた。あの日取り逃がしたハーゼが北の魔族領域に向かっていることがわかった為である。


 馬車に揺られながらゼクスは考え事をしていた。感じた怒りのままハーゼを殺すと宣言し、今も追っているが時間の経過と共にエリスを放っておいてまでやることなのかと思い始めているのだ。そんなことを考えながらも自らは怒りによって行動を決めてきたと頭を整理する。これが終わるまでは止まるつもりがない、そう言い聞かせていた。


「兄ちゃん、ゼパルに古竜教の英雄が出たという話を聞いたかい?」


「初耳だな、何かあるのか?」


「王都から神殿騎士が派遣されてな、確認のためとは言うが古竜教会がこれ以上力を持つのが気に食わないんだろう。教会同士で対立するようなことは目に見えてはないがな、賢王教は王国で最大の教会だ。他教会の同行が気になるのさ」


「教会同士の争いか、それで?」


「古竜教会の英雄が現地から既に移動しているらしく、北に向かうルート上に王都側から検問を敷いているらしい、大きな橋や街道で確認のための税を取っているって噂だ」


「はぁ?民は納得してるのかよ、何でもありじゃたまんねえだろ」


「勿論納得していないさ、だから今王都から離れてハーゲンティという街側の道を使って北に向かっている」


「北西の街じゃねえか、随分回り道にならねえか?」


「王都に向かうほど検問も多いらしくてな、迷惑な話だ。強い力を持つ個人というのは警戒されがちだが、今回は国を挙げて警戒しているようだからな。儂はゼパルに商いにいったことがないが古竜ってのはそんな凄い物なのかね?」


「そうだな、もし倒せる奴がいるなら確かに大事なのかもしれない」


 白い外套のオータムマンと名乗る竜頭骨を被った男という話を聞いてゼクスは頭をかしげていた。みるからに怪しそうなそんな人物がそれほどの力を持っていて今まで目立たなかったこと、古竜教会の英雄というわりに古竜教会に止まらず自由奔放にさっていくこと。賢王教ほど警戒することはないが、とにかく不気味な存在であることは確かだった。


「遠回りになるのはそれが理由だ。検問とやらで取られる代金がどの程度かわからないが、悪いな兄ちゃん」


「理由があるなら構わねえよ、謝ることじゃねえ」


 御者からすればかなり年下に見えるゼクスだが、軽い言葉遣いの中にも嫌味のような物は感じなかった。御者はゼクスから十分な運賃を受け取っていたのもあるが、ゼクスが嘘をつかないタイプの人だと感じ取り様々な話をしていた。



 暗くなりゆっくり馬車を歩かせていた頃、近隣の村に寄る道中で森の中から少女が現れた。少女といっても大分幼く、8歳やそこらの女の子だ。服は真っ白な衣のようなものでそれなりに上等に見えるが、森を抜けたことで傷やほつれが散見された。御者が馬車を止めてゼクスが少女に話しかける。


「どうした。家族とはぐれたか?」


「パパとママのところに帰りたい・・・」


 ゼクスに話しかけられた少女は暗い顔をして俯き泣き出した。御者は困った顔をしながらも訳ありだと理解し、ひとまず馬車に乗って近隣の村まで送ることにした。


 村についてゼクスが少女の手を引いて歩く。日も落ちて完全に暗くなっているため、外に村人の姿はない。面倒見のいい御者は積み荷を宿に預けてゼクス達についてきてくれた。ゼクスが手を引いて連れてきた先は教会だった。


特定の地方以外では珍しい古竜教会がこの村にあり、他の教会がここには存在しなかったのだ。


「わたしのいえ・・・」


メソメソと泣きながら少女がゼクスに言う。偶然連れて行った先が少女の家ということにゼクスは驚き問いかけた。


「孤児なのか?」


「ちがうの・・・」


 教会に親がいると聞いたゼクスは少女を連れそのまま中に入っていった。古竜教会の中に入ると竜頭骨のようなものを被った神父が駆け寄ってきた。


「クシナ!何故戻って来た!」


神父がクシナと呼ばれた少女に怒鳴りつける。俯いたまま少女が泣き出している。


「あんた余計な事をしてくれたな!村が危機に晒されるんだぞ!!今すぐにでも竜神様の元へゆけ!!他の村人達に気付かれれば酷いことになる!」


「おい何でそんな言葉をかけるんだ?手前のガキじゃねえのか?」


 ゼクスが苛立った声で神父に問いかけると神父が事情を話しだした。この村は近隣にある竜の谷に住む竜と契約していると、竜は村を守るために毎年生贄を要求し村は子供をさしだす。今年は古竜教会の神父の娘であるクシナが選ばれたのだ。クシナは特に特別で竜の巫女としてこの古竜教会で育てていた子供であり、実際に竜が村を守るようなことはしていないがクシナが竜の生贄にならないということであれば怒り狂った竜が村を滅ぼすというのだ。


「・・・たまんねえな」


「部外者のあんたが何と言おうと村には村の決まり事があるんだ!」


「親がよ、娘の意思を無視して生贄って。教会だ神父だなんだとそんなに大切なことか?なんでガキ連れて逃げねえんだ?村もよ、下らない風習なんてさっさと捨てろよ」


「竜の庇護下にある村ということで古竜教会からの支援だってある!土地を捨てるってことは死ぬってことと同義なんだ!そう簡単に離れられるもんじゃないんだ!」


「一緒に居たいっていうガキの言い分だってあるだろ!ガキにはお前に親をやってもらいたいんだよ!!

何で守ってやれねえんだ!!」


「私達だって心苦しいのだ・・・。あんたが知らないだけで簡単なことじゃないんだ」


ゼクスが強い怒りを持って拳を握りこむが静かに力を抜いていき言葉を口にした。


「竜の谷にいる竜をぶっ殺せばそのガキは犠牲にならねえな?」


「な・・・そうだが、それでは古竜教会からの支援がなくなる。村人から追求もある」


「元から支援目当てで生活が成り立たないところに住んでるんじゃねえよ、死ぬ気で働いたらどうだ?それともそれすらガキと天秤にかけてガキの命が軽いか?全部保身じゃねえか何が心苦しいだよふざけんな!」


神父が黙ってゼクスの言葉を待つ、泣いているクシナは親の顔をみているようだ。


「わかった・・・しかし出来るのかそんなことが?」


「俺が竜をぶっ殺してお前はガキを守って親をやる、嘘にするなよ」


 ゼクスにそう言い切られ、クシナはしばらく教会に身を隠して過ごすことになった。竜の住む場所の詳細を神父から聞いたゼクスはすぐにでも向かおうとする。御者がそんなゼクスを見て申し訳なさそうに伝えた。


「兄ちゃんすまねえ、儂は付き合ってやれない・・・命も大切だし、商売だってある。期日内に荷を届けなきゃいけねんだ。」


「謝ることじゃねえよ、ここまでありがとうな」


「もしかして兄ちゃんは古竜教会の英雄なのか?何でそんなに強くいられる?」


「違うな、そんな都合のいい存在じゃねえよ。竜と戦ったことなんざねえし怖えよ、でもここで自分の怒りに言い訳をつけて見過ごして腐っていく事のほうがもっと怖いことなんだよ」


いつも読んでいただきありがとうございます。

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