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慣れていない野営


 旅立ちの朝を迎えて、妖精教会を出る時にオリビアから声を掛けられた。


「賢王教に目をつけられて、もしかしたら私もここにいなくなるかもしれない。予め隠遁先として出会った故郷の森と守り人の遺跡を候補に伝えておくよ、もしここにいなかったらの話だけど」


「わかった。ここにオリビアがいなかったらその二つに探しに行くよ」


オリビアは言うべきか考えていたことだが、アキトが探してくれると答えたことで優しく微笑んだ。


「それじゃあ気を付けて行ってくるんだよ」


 オリビアの言葉にエフェメラルとメイも頭を下げて礼を言う。アキトはいつも通りオリビアと握手をした後、グシオンを発った。



 グシオンからフォルネウスに向かうには街道を利用し、歩いていくことになった。直通の街道沿いには途中に立ち寄る村も特になく、急いでいるわけでもないので馬車は利用しなかった。エフェメラルが僕の横についてエルと話しながら街道の脇に生えている野草などについて話している。どうやら森の中だけでなく植物にエフェメラルは詳しいようだ。エルも知識として蓄えているため詳しく話している。メイはその話を真剣に聞き入っており、自分の物にしようとしていた。


 僕は特定の植物については詳しいが野草についてはあまり詳しくない、食べられるか食べられないかくらいだ。しかも食べられないといっても毒があるからといった場合は僕には関係がないため、エルと一緒に旅をしていたときは毒ありの野草やキノコはよく食べていた。ベニィーテンクダケというキノコは毒があり内臓をやられることがあるらしいがめちゃくちゃ旨い、そのためよく食べていた。こういったことは僕が一人だから出来たことで、今後闇鍋の中にいつも通り放り込むことは出来ない。そのためいつもの調子で僕は採取しないようになった。


「これから行く街はエフェメラルが売られそうになっていた先なんだけど、大丈夫?」


 事前確認で少しこういった話はしていたのだが、未だに執着してきているであろう領主と話に行くので不安になっていないかもう一度確認する。


「アキト様と一緒であればどこへでも」


(妖精にとっての神が僕とか人間ってのは分かるんだけど、何でこの子は僕にこんなに入れ込んでいるんだろ?元々頼る物が妖精しかなくて、それらが僕を上位としているからだけでは・・・感情の動きが読めないな)


「まあ、無理だと思ったり辛いことがあったら言ってね、必要な事だから」


「はい」


 個々でやりたいことをやるといっても結局責任を持つと決めたのだから面倒はみないといけないとアキトは感じていた。嫌な気分にならない程度ですませたいのだが、自分ではわからないことが多すぎるのだ。日が落ち始めて、あたりが暗くなってきているので野営の準備を始めた。道具屋で揃えた組み立て式の簡易テントや布、大きめの桶などとりあえず次々と出していく。今までと比べて人数が増えた分準備が大掛かりになったのだ。


 アキトが慣れない手つきで準備をしていると率先してメイが手伝いを行っている。今まではアキト主導の野営がメイによって動いているようにアキトは感じていた。


(なんか子供に気を使わせているみたいで嫌だな、・・・僕が我儘なだけなんだろうけど言ったら気まずくなるだろうし、メイにとってやりたいことで必死に取り組んでいるのだから受け入れるか・・・)


 メイが道具屋で寝袋やその他の物を買っている時に否定的ではあったが、しっかりと使い方や手順などを確認していたのをアキトは知っていた。アキトはまあなんとかなるだろう程度に考えていたが、段取りがしっかりしているメイに今は野営が握られている。気が付けば食事まで準備されていた。火起こしさえもエフェメラルに取られて、ありとあらゆることが先を越されていた。エルも気が付けば僕からの依頼ではなく二人のお願いで水魔法を使っていた。


(・・・これは・・・楽だ。諦めて元気な子供たちに働いてもらおう。僕はもうただの収納出し入れロボだ。子供よりも手を動かせない役立たずの置物マシーンなんだ・・・)


無言になってその場に立ち尽くす。

「アキト、すねてない?」


 エルが話しかけてきているのに対してそんなことないと答える。エルにそう思われたのなら、子供たちに感づかれ心配されるかもしれないと思い。アキトは薪になる枝を探して集めてくることにした。



 以前メイがアキトが作った闇鍋より美味しくできると言っていた通り。メイが用意した食事はアキトが作った物より美味しかった。野営用の道具はほとんどアキトが人工衛星(へや)に格納しているのだが、メイはサイドポーチに自分用の調理道具をいくつか持っているようでそれを使っている。メイがほしがりアキトが与えたナイフがあったのだが、調理刃物にそれを使っているようだ。普段は革製の鞘に入れてベルトに固定している。


 食事と片付けが終わり、テントで眠ることになったがアキトはいつも通り火鼠の外套で自身を包んで火の番をしていた。こればっかりは慣れもあり、すぐにテントで寝ろと言われても難しい。メイとエフェメラルにはテントで寝袋を使って寝るように指示をしたが、二人ともテントの外にいた。


「・・・」


 僕は焚火に薪を放り込んで燃えるのをじっとみている。エフェメラルは周囲を警戒しているのか気を張っているように感じた。メイもテントで寝袋で寝るのが嫌なのか僕の機嫌を見ているように感じた。


僕は薪を焚火に入れながらぼーっとしていた。


(・・・二人とも寝ないな?・・・僕の機嫌を窺ってる、慣れないなこういうの)


「二人とも寝ないの?」


「あの・・・アキト様が寝ていないので、もし見張りが必要ということでしたら交代制の提案を」


「うん・・・そっか見張りが必要か、考えてなかった。ありがとうエフェメラル、先に寝てて大丈夫だよ」


 心配そうにしながらもエフェメラルがテントの中に入っていった。メイがどうしていいかわからないと言った感じでその場にいるので手招きをした。


「おいで・・・ちょっと話をしよう」


傍にきたメイを膝の上にのせて頭を優しく撫でる。

「野営の準備ありがとう。怒っているわけじゃないんだ。こういうのに慣れていなくてね、気を使わせてごめんね。だから無理して気を張る必要はないよ、ゆっくりと適当に今まで通りでいいんだ。全然出来ていない僕が言うのもなんだけどね。相手に気を使って無理する必要はない、お互いが自分のためにやっていることで自然と一緒にいれるようになるといいなって思う。」


「一緒に寝てもいいの?」


心地よさそうな声でメイがアキトに尋ねてくる。


「うーん、じゃあ寝るまでは撫でてあげる。そしたらねテントでしっかり休むんだ。僕にとってはそれが丁度いいから、メイが受け入れてくれると嬉しいかな」


「わかった」


 火の番を続けながらゆっくりとメイの頭を撫でる。体温の暖かいメイを撫でていると力が抜けたようにメイが脱力してしばらく続けているとうとうとして眠りについたようだった。抱き上げて、テントの中に運んでいくとエフェメラルが起きていた。


「やっぱり起きていたか・・・大丈夫だからそのままで」


 エフェメラルもまたメイと同じように僕の機嫌を気にしていた。不安を与えないように優しい口調でゆっくりと話しかける、元々アキトはこういったことにそこまで気が回らない筈だったがオリビアに優しくされてうれしく感じ、自分もそうありたいと考えるようになっていた。


「オリビアに教えられたこともあるんだろうけど。全部完璧にこなそうと思わなくていいんだよ、メイにも言ったけど気を張り続けている必要はない。これから三人で野営をすることも多くなる、一生懸命やるのはいいけどしっかり休むように」


抱き上げているメイをエフェメラルに渡す。

「はいこれ、暖かいからよく眠れるよ」


困惑気味のエフェメラルの頭を撫でる。

「自然に起きるのに任せてしっかり眠っていいんだよ。僕もエルも永い旅の中でね、危険が迫ったら自然に目が覚めるんだ。見張りのことは気にしなくていい、自然に起きてそれでもやりたいようだったら止めないよ。寝ておきて、時間があるようだったら話にも付き合うから今は寝なさい」


「はい、アキト様」


 エフェメラルが礼を僕に言ってメイを受け取り寝袋で一緒に寝た。元々素直な子達だ。僕が考えていることを言えば聞いてくれる、僕も我慢する必要などないのだ。そんな単純なことに気付かなかった。


 からかってくるエルと話しながらゆっくりと火の番をしながら眠り、次の朝を迎えた。二人とも疲れからかごく自然にぐっすり眠れたようだった。





読んでいただきありがとうございます。

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