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無敵でなければ相打ちだった。

 アキトは右手を背中の後ろに回し、左手に大きめの中盾を構えた。左手の盾はカイトシールドと呼ばれる縦長のアーモンド状をしており脚を邪魔しない形状から馬上で用いるのに好まれていた物だ。


 盾の形状と身体を利用して右手を見せないような状態になっているのを見て頭目は思考していた。

(奴はどういう原理かわからねえが魔力の痕跡もないのに何もない空間から武器や盾を出しやがる、おそらく右手を後ろに下げたのは俺に次ぎ使う武器を見せないためだ。だがどんなものを出してきても関係ねえ、俺のタワーシールドを抜けねえし力負けもしない。逆に奴が構えているあの盾は最初に奴が使っていた大盾と比べりゃ、頼りなさを感じる。まだ使ってない魔力を右手のメイスに込めて爆発させりゃ、今度こそ盾ごと奴を粉砕出来るはずだ。手の内を隠してるのは手前だけだと思うんじゃねえぞ)



 頭目の思考が終わるや否やアキトは前に踏み込み背中に引いていた右手を思い切り振りかぶり縦軸で頭上を通すような軌跡で持っていた武器を振りぬいた。


(なんだこの軌道は!?関係ねえ!!盾を頭上に上げて!右手のメイスを全力で振りぬく!!)


「おおお!!」

 だがその瞬間タワーシールドを回りこむようにスパイクがついた鉄球が後頭部を直撃した。頭目は死ぬ間際、自らの視線を信頼していた盾に向けた。そこには盾の上に乗っている鎖が見えた。振り上げた盾を支点として鎖が回り、鎖の先についていた鉄球が自分の頭を殴打したのだと知った。

(クソッが・・・モーニングスターか・・・・・)


 魔力を込められた頭目のメイスは止まらず振りぬかれていたがアキトにあたると思われた瞬間輝きは失われ、アキトのカイトシールドを直撃した。カイトシールドごと弾き飛ばされたアキトは痛そうな顔をしてそのまま地面に倒れこんだ。


 右手に手にしていたのは棒状の柄にいくつもの連結した鎖、そしてその先にトゲのついた鉄球。それはモーニングスターのフレイル型と呼ばれるものだった。呼び方は様々であろうが、盾を攻略する武器として多関節武器というものは最適解とも呼べるデザインだ。故にアキトはこれを選択したが、予めこの武器を見られていれば効果は薄い。技術ではなく知識として武器を奮ったことによる勝利だった。


「アキト・・・泣いてるの?」


 アキトの体は怪我一つ、かすり傷一つもない。

「我慢できると思ったけど思った以上に痛かった。正直焼かれて蒸された時もめちゃくちゃ熱かったし痛かったし、涙も蒸発してた。」


「情けない声出すなよ、痛みは感じるけど無敵なんだろ?切り替えていこう」

「あぁああ・・・痛い物は痛いんだ・・・嫌なものは嫌なんだ!辛いの!!!」



 水蒸気の中、熱くて全力で跳躍して壁に張り付いてそこからゴキブリみたいに登攀して相手の頭上取った時も、こんな思いさせた奴らを絶対に許さないと強い意思がなければ絶対になし得なかった。アキトはそれくらい熱さと痛みで心が折れかかっていた。倒れこんだまま起き上がらないアキトにエルはしばらく無言になった。こういう時は自分から動き出すまで伏せさせてたほうがいいと永い付き合いでわかっていたからだ。


 エルはちらりと焼き尽くされ放置されているアキトの大盾に目を向けた

(表面温度が1400度は超えていただろうな、あれだけ使い倒されて道具の役目を終えるなら本望だろうか・・・不死身のアキトとこの先も旅を続ければ、道具である俺もいつか・・・)


 そんなことをエルが考えているとアキトはむくりと起き上がって使っていた武器や盾を回収し始めた。放置し置き去りにしていたスレッジハンマーやハルバード、それから頭目が使っていたタワーシールド等賊が使っていた物も含めて、拾い上げては手元から消えていった。


「毎回それ見ていると、俺もその不思議な力で消されるんじゃないかと不安になるよ」

エルがそういって不安を口にする。


「エルは生き物だから無理だよ、食べ物も・・・ちょっと嫌かな、前にも説明したけど宇宙(そら)に僕の人工衛星(へや)があって、そこに格納されるんだ。手元に戻すときは僕の位置情報からここに飛ばす。全部省いて大まかにいうと大体そんな感じさ」


「全然わからない、まあ魔法みたいなもんだろ?」


 エルがそれ以降しゃべらなくなり、羽織っていた火鼠の外套の色が赤に戻ったのを見るとアキトは武器の回収をやめて、頭目達と戦った広場の奥の通路へ進んだ。残党も残っていないようで完全に気が抜けたアキトは堂々と歩いて残った部屋に入っていった。



 部屋には鎖で繋がれた少女がいた。


 粗末な服を着ているが傷一つなく、乱暴をされずそれなりに大切に扱われていたことがわかる。まだ幼さは残っているが整った顔立ちに、綺麗な金色の髪が印象的だ。


「エルフだ・・・・。」

「エルフだねアキト!グヘヘ可愛い子ちゃんじゃん」


(確かに特異体質で珍しい奴でよそ者だ・・・。溢れんばかりの魔力、かなり高位のエルフだな。でも違うんだ・・・僕が探しているのは)


「それでアキトはこの子をどうするの?」



「どうもこうもしない・・・人間じゃないし」

読んでいただきありがとうございます。

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