のせられやすいロボ
遺跡都市の大空洞が大きく揺れる、地響きと咆哮のような音が恐怖を駆り立てていた。メイは気付けばアキトにしがみついていた。
「・・・このままだと大空洞も崩落して生き埋めだな」
メイの持っていたこん棒を人工衛星にしまい。アキトはその場で軽く膝立ちになってメイに背中にしがみつくように指示する。おんぶのような状態になったところでロープを取り出してメイごと身体にくるくると巻き付ける。
「とりあえず地上に出よう、ここからだと崩落の地とかいう縦穴のほうが近いか」
「あ、その前に」
激しい振動の中、這って逃げようとしていた死霊魔法使いの元に近づく。
「儂を殺しても止まらないぞ・・・貴様がここに来る前に既に術は発動していたのだ」
エルを鞘に納め、スレッジハンマーも手元から消し、代わりに処刑用の剣を出した。
「そう?ついでで殺すだけだし関係ないかな、さよなら・・さよなら」
以前に闘技場の支配人の首をはねた先端が死角いその剣を左手に持ち、首をはねる。首をはねたときに僕にしがみついているメイの腕の力が少し強くなった気がした。
剣と腰にぶら下げていたランタンもしまう。全力で走るためには両方とも邪魔になる。大空洞は思ったよりもちそうだが、悠長に待つ必要もないので走り出し崩落の地の縦穴に向かう。わずかだが光が射しこんでいる場所がみえ、そこを駆け上がるように上る。蔦や植物の根のようなものが縦穴には存在し、足場がないところは腕の力でそれらを掴んで無理矢理上った。
正直走って戻って階段を駆け上ったほうが早い可能性もあったが、古竜教会が無事ではない可能性と石造りのあの厚い扉を開ける見張り達がこの異常事態であの場にいない可能性もあった。僕は自分が正解のルートを選んだんだと自分に言い聞かせるように縦穴をよじ登った。想像より深くてしんどかったのだ。
登り切ったところで穴から出るとバリケードのようなものが張られている。そういえばゼパルの警備兵がスケルトンがのぼってくるから見張っているという話だった。しかし、警備兵たちはゼパルの方角を見ている。
(そりゃそうだ・・・古竜の死骸が今にも動き出しそうな咆哮を出している。それどころか既に屋根や竜骨の一部を基礎として建てられた建物は崩壊している)
ゼパルの警備兵たちが気付いていないうちに僕はすぐにバリケードから離脱してゼパルに向かって走る。遠目にみても数キロしか離れていないここからでも、異常な大きさの古竜が動き出すのがみえている。頭骨がゆっくりと動いてこちらを向いている。
眼が一瞬あった気がした。
「アキト!なんか・・やばいよ!!」
エルが珍しく真剣な声を出している、僕は全力で古竜の頭から軸をずらすように移動した。
(待て、待て、待て・・・そもそも何で僕は今ゼパルに向かおうとした、どうでもいいだろ放っておけば王国騎士なり神殿騎士なりが派遣されてそのうちに討伐される。僕が痛い思いをしてまで解決する必要があるのか?)
赤黒い光が地面から天に向かって走り、崩落の地に張られたバリケードを警備兵ごと灰にした。薙ぎ払われ削り取られたような大地には死体一つ残っていない。
「ブレスじゃない・・・魔法、死霊魔法で動いている存在が魔法を使うとはね」
エルが驚いているようだが、魔法のことなので何がおかしいのかもわからない。
それよりも、アキトは自分が軸を外して走っているのに古竜の頭がまるでアキトを正面に捉えるように動いていることが気になっていた。そのまま逃げようとしているとメイが強くしがみついて僕に何か震えながら言っていることに気付いた。
「痛いし辛い思いをすると思う、酷いこと言ってると思うけど・・・アキトお願い、逃げないで」
(何でこの子は僕の良心を削るようなことを言ってくるの!??ひぃえええここで逃げたら悪者じゃん、かっこ悪いロボじゃん・・・。)
「大丈夫だよメイ、アキトは何だかんだ言って義理堅いからね、天邪鬼だから冷めた物言いをするけど熱い心を持った正義のヒーローだから。メイたちのことだって何だかんだ面倒みてたろ?見ててみ、嫌だとかいってるけど義に背くことのほうがもっと嫌だから後悔しないように今回も立ち向かうよ」
(なんなんだこの厚い信頼は、よいしょしないでくれ)
エルが続けて僕をよいしょしてくる。
「あ~時代が求めてるんだよなぁ~ヒーローを・・・どっかにいないかなー無敵のスーパーロボが」
「うぎぎぎぎ・・・・ああああゼパルの皆の笑顔を護りてぇー!」
エルがゲラゲラ笑いながら馬鹿だわとアキトを笑っている。やけくそ気味に足がゼパルに向かい、全力で走っていく。
古竜が放ってくる謎のビームは連発出来ないようで二発目を避けたところで続けて撃ってこなくなった。一気に間合いを詰めて、ゼパルの街の中まで潜り込んだが大混乱の街中では逃げ場もなくパニック状態で悲鳴や怒声が響き渡っている。人が押し合ったり、倒れたり、大きな揺れもあってまともに行動が出来ていない。
ただ古竜を倒すだけではもうゼパルはまともに立ち行かないだろうと思い、僕は決心をしていた。この街で最も高いであろう古竜教会の屋根に駆け上り頂上に立つ。ロープを解き、メイを下から見上げても屋根で見えない位置に伏せさせる。
「メイ、風魔法で僕の言葉を拡張して街全体に届けてくれ」
「わかった!」
街全体は無理だろうけどメイの風魔法はかなりの練度と緻密なコントロールが出来ている。僕の声をそれなりの距離まで広げて届けることは十分可能なはずだ。
アキトは古竜教会でおっさんからもらった竜頭骨をかぶり、身にまとっている火鼠の外套にランタンの交換燃料で使っている油壷の油をぶっかけた。
「怯える必要はない!ゼパルの民達よ!!」
アキトが声を張り上げ、呼びかける。その声をメイが見事に広げていた。人々の視線は一気に古竜教会の頂上に向く。
「我が名はオータムマン!!黄昏の担い手!人々を脅かす不埒な古竜に終焉を齎しに来た!!」
右手に鑢剣を出し、左手にショートソードサイズの火打石の金属棒を出す。自らの頭上で交差させ、摩擦で擦り上げながら大きく開いた。派手に火花を散らしてマグネシウムの金属片が発火し、アキトの頭上から降り注いだ。
「ヘアッ!!」
その火花は火鼠の外套の表面の油を燃やしアキトが火に包まれる。
「きゃあああオータムマンが燃えてるわ!!」
「ああ!馬鹿が火だるまに!!」
「救いはないのか!」
混乱していた人々はみな火だるまになったオータムマンに釘付けになり、悲鳴を上げていた。強く燃え上がったところでメイの風とキラキラしたエルの水魔法が火を吹き消しポーズを決めたアキトが現れた。
「あの姿は!」
「まさか古竜教会の竜血の英雄!!?」
火鼠の外套が熱によって白く染まり、まるで古竜を倒したという白き衣を纏う英雄と重なる。人々の目に希望と輝きが戻った。
僕は掛け声と共に火打石セットをしまい両手持ちのピック付きウォーハンマーを握る。
「戦いの時だ!!収穫祭!!!」
一切の迷いなく古竜に向かって飛び掛かっていった。
いつも読んでいただきありがとうございます。毎日更新のつもりでしたが間に合いませんでした。