竜殺しの英雄伝説
古竜教会の司祭についていく、下り階段をひたすら降りている。ゼパルにあるこの古竜教会は外観でみるとかなり大きな建物だ。教会に入ってすぐの祭壇がある部屋は相当広い空間だったが、その他にもいくつも部屋が付属している。僕は聖堂やら礼拝堂など教会の違いもよく認識していないが、王国にあった賢王教の建物より少し小さいくらいだ。
賢王教といえば王国で最大の教会勢力で、教会騎士やら神殿騎士という謎の勢力を抱えている。以前賢王教の騎士に狙われたことをアキトは思い出していた。
(・・・馬鹿馬鹿しい、祈りに武力が必要かよ)
階段を下り終えると広い通路といくつかの部屋、そして奥には石造りの大きな扉があった。石造りの大きな扉の端には槍を持った竜骨マスクの男がそれぞれ二人立っている。槍のデザインを確認すると複合槍で、穂先に突くための機能以外にピック型の機構、そして反対側には砕くためのハンマーがついている。イメージとしてはルッツェルンハンマーが近いだろうか。
(中々いい武器だな、騎兵相手にも使えるし斧より打撃に偏っているからメンテナンス等も簡単だ)
「・・・アキト、こちらです」
僕が竜骨マスクの武器を止まってじろじろ見ていたため、声をかけられて石造りの扉のすぐ近くの部屋に案内された。部屋はたくさんの書物が入った大棚と何らかの骨と革で作られた椅子、不釣り合いな赤い上品な絨毯で構成されていた。司祭がためらいなく椅子に座り、僕にも座るように促す。机は大理石で出来ているようだった。
「・・・」
「・・・」
お互い無言でどちらかがしゃべりだすのを待っていた。呼ばれて案内されたのだから先に司祭がしゃべるだろうとアキトは考えていたので面を食らった。
「この椅子は何ですか?」
「ワイバーンの骨と革で作られています」
(・・・座りにくくないかこれ)
僕の様子を見て司祭が戸惑っているように感じるが竜頭骨のマスクのせいで表情は窺えない。
「・・あ、椅子は別の物を用意するようにします」
「ああ、交換する必要は別にないです。気になったもので、それで質問形式で答えていただけるということでしょうか?」
「失礼しました。・・・こちらから遺跡の状況について話させていただきます。ご不明な点は話を止めてでもお聞きください。」
(・・・この子、初対面の時より印象が違うな?対応を変える何かがあったとも思えないんだけど)
アキトが黙って頷くと司祭は説明を始めた。まず発見された遺跡というものが、石造りの扉の先にあるカタコンベの壁からつながっていると。ある日カタコンベの内壁の表層が崩れて、建築関連の業者に修繕などを依頼してみてもらったところ表層から見えていた部分にひびが入り崩れさった。
その先が空洞になっており好奇心を募らせた業者の人が奥へ奥へと向かったが帰ってこなかったらしい。何人かのチームで確認をして戻ったところ空洞の先は遺跡につながっていることがわかったらしい。
ここまではよかったが、数日後に突如として空洞がつながった影響かカタコンベに安置されていた骨が動き出した。それはスケルトンと呼ばれる魔物であり生者に危害を加えるように人を襲い始めたため、戦える竜骨マスクの数名が対応を行いスケルトンを粉砕したが、数が多く無理だと判断した。
そのため石造りの扉を固く閉ざし、封印したということらしい。扉の横に警備を置いてあるのもそれが理由だとのことだった。
(なるほどね、骨を砕く為のハンマー付属の複合槍なのか思ったより合理的だな。教会みたいなところの信徒は頭が固いのか教会専用武器みたいなのに拘る傾向があるから好感が持てるな。・・・ってそうじゃない、仮にも教会であるここの地下にアンデットが出たのだ。それは遺跡が発見されたとはいえ名に傷がつく可能性のほうが高い情報が閉鎖されるわけだ。)
「見つかっている入口はカタコンベの先だけですか?」
「おそらくですが、西に数キロ進んだ先にある崩落の地とつながっています。そこからも同様にアンデットが這い出てきているという情報があります。そちらはゼパルの警備兵が閉鎖を行い、見張りも置かれて人が近づけないようになっているため入ることができません。」
崩落の地とは円形の縦穴がある場所で深さはわからないが半径50mほどの穴らしい、何故そんな穴があるかはわからないが、ガスだまりが爆発して穴をあけたや古い時代に巨大生物がそこから出てきたなど色々な説が出ている場所らしい。
そんな穴から這い出てきたアンデットは相当苦労して昇って来たのだろう確認されたのは少数でそこから大量にアンデットが押し寄せることもなく逆にその穴を調査で降りていくのもリスクがあるらしい。大量の予算がつけば可能かもしれないが現状ではそこまでの必要性がないとのことだった。
(とはいえ警備兵を常駐させるような状況であれば人件費は発生しているな、どうにかはしたいんだろうけど緊急度で言えば石造りの扉のすぐ先がスケルトンであふれている古竜教会のほうが高いか)
「僕以外の人に依頼したことはないのですか?」
「いいえ」
ゆっくりと司祭が首を振り否定する。
「僕にとっては都合がいいのですが、何故僕にこの話を?」
そこがわからない、正直教会にとって都合の悪い秘密を知る僕を殺すための罠なのではないかと疑ってしまうくらい不自然だ。石造りの扉を開けて僕を放り込んだ後固く締めて、かかったなアホめがとか言われそうな気がするのだ。
「同じだからです。」
「・・・はい?」
「貴方の名が、遠い昔に古竜を倒し血を浴びた英雄と・・・我ら古竜教会は運命と循環を大事にします。白き衣を纏う者、古の竜を殺し血を浴びる、その血は呪いと毒を吐き出すが不死を与えん。英雄はゼパルに危機が訪れし時再び姿を現すだろう」
「・・・都合がいいのでゲン担ぎには乗らせてもらいますが、僕はゼパルに興味なんてないですよ」
(下らな、竜の血を浴びたくらいで不死になるかよ・・・まあ僕も大概だから口にはださないけど)
「それにしても古竜教っていうくらいだから古竜の味方かと思えば、殺す側だったとは驚きですね」
「我らは元々竜に神聖を見ています。正しくはその竜血を求め、永遠を得る神秘を
そのため竜はもちろん信仰対象ではありますが、同時に英雄に焦がれているのです」
「誰もが永遠を手に入れたい・・・か、わかりました。外に仲間を待たせているので一度戻らせてもらっていいですか?あと教会に入る前に武器を預けているんですけど、今度は帯剣した状態で入れるように手続きをお願いします。明日の早朝からすぐに遺跡の探査をさせてもらいます」
遺跡の内部構造をマッピングすることと、アンデットの発生原因を特定することが依頼として取り決められ報酬まで用意してくれるようだった。僕は司祭と詳しく内容の確認をしていると司祭が命じていたのか白いローブの竜骨マスクのおっさんが部屋に入ってきてガラス瓶を置いてきた。中は水で満たされている。
司祭とほぼ同格のおっさんが用意した聖水らしい、竜頭骨で隠れてはいるがこのハゲのおっさんは優秀だった。古竜教会で聖水というと竜血を表すのではないかと聞いたところ、そういう捉え方もあるがこれは対アンデット用におっさんが用意したものらしい。ハゲのおっさんは元は別の教会で信仰魔法を得意とするそれなりの立場にいたらしいが、古竜教会に鞍替えしたとのことだった。
(何故、こんな怪しいところにわざわざ・・・というか簡単に変わるものか?祈りとはその程度の物なのか)
「プルザハー・ゼイマ・ナールナハ」
竜頭骨をかぶったハゲおっさんは僕に頭にかぶっていた竜頭骨を微笑みながら手渡してきた。
(ああ、こいつもヤベエ奴らの同類だったか、思わず僕も微笑んでしまった)
心の中では否定的だが、誰かが大切に思っている物をわざわざ口に出して踏みにじる必要もない。自分に素直に生きるおっさんにアキトは思わず共感し、笑みを漏らしていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。