表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/287

古竜教会


 ゼパルで宿を探す際に安宿は避けておいた。丁度祭りの時期で商人や他所の人間が多く入ってきているため、入口付近の宿はどこも大盛況だった。その分外から来た人というのは揉め事の原因になりやすい。アキトはメイのこともあって街の中心に近い比較的高い宿をとることにした。


 まだ日は昇っているが、迷子になったときにメイが宿に戻れるよう先に宿を決める。


「もう寝るのか?あたしはまだ元気だけどアキトが寝るならあたしも一緒に寝る」


「いや、まだ寝ないかな少なくとも4日は滞在するつもりで、別れて行動したときにここを合流場所にする。それから宿のベッドは温かいから抱き枕になる必要ないからね、一緒に寝ません」


 衝撃を受けたのかメイが硬直している。要不要の話で自分からひっついてきていたという事になっているが、確かに利点はあった。メイも一人で寝るのは寒いようだし、僕もメイがいると確かに温かい。わざわざ止めろと強く言うことはなかった。


 ニバスからゼパルへの移動は5日ほどかかっていたが、結局その間の全ての野宿でメイは僕にひっついていた。時折寝言なのかなんとも甘ったるい声を出すからそれで目が覚めることもしばしばあった。


「でも、あたしが傍にいると寝付きがよくなるだろ?」

 硬直から復帰したメイが利点を挙げてくる、彼女は僕のことが分かってきたのか必要か不要かで話をしてくる。確かにメイの言い分は一理ある、教えてはいないが狐耳が僕を眠りに誘導するのだ。利点を挙げるにしても幼いからエッチなことをしては駄目ですとは言い聞かせている。


「エロ狐さんが時折出す変な声で目が覚めるから、お相撲さんがどっこいどっこいなんだよなあ」


「アキトォお相撲さんって何ぃ~」


「裸で取っ組み合う、祈りの戦士だよ」


「強そう」


 しばらくメイが僕の説得をしようとしていたが諦めて宿では別々のベッドで寝ることになった。僕は遺跡の情報集めをするために酒場などで夜まで話を聞くことにした。遺跡の場所も規模もハーゼの資料に詳しく乗っていなかったため、それを目安に滞在期間を調整することにする。宿にはあらかじめ食事なしで4日分の滞在費を払ったが小銀貨4枚とそれなりの値段だった。


 結局メイも祭りを楽しむというよりアキトの情報集めに同行することにしたようだった。酒場に入っても人が思ったよりいない、理由を聞いてみると今は祭りで外で飲んでる人が多いのとまだ夜になっていないからということであった。


(そういえば一応収穫祭なのか、街で作ったエールとかも出すから今酒場で飲む必要は確かにないのかも)


 ゼパルにある遺跡について何か知らないかと酒場のマスターに聞くと古竜教会が詳しいとのことだった。なんでも当時発見された遺跡のことはそこまで外部に漏らさないようにおふれが出たらしい、実際に街の人にも知らない人が殆どで、現場にいたという男が酒場で酔って喋るくらいしか耳にしない程度に情報統制されたとのことだ。


(ハーゼが資料を持っていたのも不思議だけど、遺跡って言ったら命知らずのゴロツキが街に来て観光とかも含めて利益が出るんじゃないだろうか・・・いやゴロツキが来ても困るか、観光も祭りを頻繁にやってるし、何よりこの街の天井になっている古竜の骨がある。何らかの不都合があるならわざわざ遺跡について告知する必要もないか)


 酒場でも情報の収集が難しいと教えてもらったので、そのまま古竜教会とやらに行ってみる。他の街や地域ではあまり聞いたことがない教会だが流石に古竜の死骸が基礎になったゼパルでは力があるのだろう。


 教会に入ろうとすると、入口に立っていた黒いローブに竜骨マスクをした人物に手を前に出されて止められる。


「ニド・ズン・サラーム」


(なんだこいつ・・・またやべえ奴が出てきてしまったのか)


「教会に入りたいのですけど」


 竜骨マスクはアキトの腰当たりを指差ししてまた同じ言葉を繰り返す。


「アキト~多分だけど帯剣して入っちゃ駄目なんじゃない?」


 悩んでいる僕に対してエルが言葉を発する。僕は黙って腰につっていたエルを外して、後ろにいるメイにエルを鞘ごと渡した。


「メイごめん、ちょっとエルを持って待っててくれる?不安なら先に宿戻っててもいいし」


「わかった。あたしはここで待ってる」


 メイにエルを渡して竜骨マスクのほうを見ると今度は手を前に出していない。


「ハイレ」


 竜骨マスクが言葉を発して教会の入り口に案内される。促されるままアキトは入っていく。


(普通にしゃべれるならしゃべればいいのに、伝わらない言葉に意味ある?)


 煽り倒したい気分を抑えながらアキトは無言で教会の中に入る、信者が結構いたが丁度司祭のような人の話が終わったのかぞろぞろと信者が出ていく。全員は黒いローブに竜骨マスクをしている。竜骨マスクは本当に竜の頭骨が使われているわけではなく模造品のようだ。


 司祭はマスクをしていないアキトをじっと見ているようだ。アキトは無言で前に進み、司祭を正面にし祭壇の近くまで寄った。


「ウル・オド・メイーズ・ラス・クリイ」


(・・・・・・)


「ゼパルで発見された遺跡について聞かせてください。よそ者ですが、力になれると思うので」


 司祭は僕が古竜教信者になりにきたと思っていたのだろう、あてが外れて少々思考しているようだった。司祭は角が二本の他の竜骨マスクと違い、四本角の竜骨マスクをしている。着ているローブも白いローブで、どのみちあまり関わりたくはないが黒いローブとは違うことを主張している。


 髪は綺麗な金髪でロング、竜骨マスクによって顔はよく見えないが美人な気配がする。ローブで体のラインが隠れているというより強調されている。黙っている司祭から情報を得るために、まず信用を得る必要があるのかもしれない。


「僕の名前はアキトといいます。ゼパルには遺跡があると噂を聞いているのですが、公にしていないようで何か困りごとがあるのかなと思い調べたところ、古竜教会が知っていると聞いたものでこう見えて僕はかなり強いです。遺跡で困りごとがあるようならばお力になれると思います。」


(これは駄目かな・・・普通に考えてそこらへんの旅人に遺跡探査しますって言われても盗掘目的と思われる。わざわざそんな奴を入れるわけないし、正規の兵や探索者を街で雇っているわけでもないのであれば、古竜教会にとってはそれだけ見せたくないものがあるのかもしれない・・・諦めて忍び込むか)


 アキトにとって人間の手がかりがあるかもしれない遺跡に入らないという選択肢はなかった。頭のスイッチがどうやって忍び込むかに切り替わりつつあるとき司祭が言葉を発した。


「アキト・・・貴方が望むのであれば、我らは道を開きましょう。教会の地下へ案内いたします。どうぞついてきてください。」


 綺麗な声で司祭がそう言うと右奥の部屋に向かって歩いて行った。アキトはその後をゆっくりついていく。遺跡の秘密について教えてくれることの意外さや司祭の声が綺麗だったことよりも古竜教会の謎言語やり取りの必要性を考えていた。


(自分がやべえ奴だと伝えるための威嚇なのかもしれない、ゴリラがドラミングをして無用な戦いを避けるように、彼らは関わる人をふるいにかけているのだろう・・・多分)



評価ポイントありがとうございます。とても励みになります。読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ