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初心と竜骨の街ゼパル


 早朝になりアキトは目を覚ました。火の番も忘れ、いつの間にか消えていた焚火に目を向ける。いつもよりやけに暖かいと思いながら、身体をゆっくり動かすとメイがひっついたまま寝ていることに気付いた。


 自分の外套を脱いで、メイを覆うようにしてその場に寝かせておく。無理な態勢で寝ていたわけではないが、いつもより体が重たい気がする。暖かいのはいいかもしれないがその分寝ている間に姿勢が変えずらいのだろう。


 アキトはそんなことを思いながら、欠伸をして桶を出した。宿に泊まったときに体を洗うのが習慣化しているがアキトは野営の時は気にすることないがない。だから今回こういった準備をしたのはメイのためであった。


人工衛星(へや)に格納するにしてもドラム缶サイズの風呂は大きいな、今まで必要性を感じてなかったけど寝袋も含めてエフェメラルの時から考えさせられる。女の子だから身綺麗にするだろうし、身体を洗える準備だけするか)


 エルにお願いして桶に水を入れてもらう。僕が気を利かせようとしているのをエルが察して素直にほめてくれた。野営の片付けをしているとメイを包んでいた外套がもぞもぞと動いて起きてきた。


 近くに置いてあった水が張った桶を見ると飲み始めた。


(そうなるか・・・動物的というかなんというか)


「メイ~、それは身体を洗うためにアキトが気を利かせて俺に出させた水だよ」


 エルに指摘されて、ハッとした様子のメイは恥ずかしそうにしていた。桶に布がかけてあるのにも気づいたのだろう。


 そういえばハーゼの研究所で読んだ獣人族の文献には種族によっては人体との構造の違いで、汗腺が発達しておらず、汗をほとんどかかないし臭いもしないというようなことが書いてあった。


「もしかしてメイは身体を洗う習慣がおありでない?」

エルが何故か上品な言葉遣いをしようとしている。


「そんなことない、あたしはちゃんと洗ってる・・・もしかして臭かったのか?」


「いや、臭くはなかった。安心したわ」


 臭くなくてもなんか嫌だという気持ちは常にある、それは僕が宿で体を洗う理由と同じだ。メイが体を洗っている暇な時間の間、アキトは武器のメンテナンスをしていた。といってもそう長い時間でもないので、ちょろちょろと状態を確認して売る物使う物を頭の中で整理するのが目的だった。


 ついでにエルの魔力瓶と装填するための構造を見る。僕はこの構造に対して実は結構不満があるのだ。

「この魔力瓶装填のための回して止めるための溝とかの構造考えた奴頭悪いよね」


ついつい考えていたことが口から出てエルに言ってしまった。


「剣に知能と感情を持たせようとするような奴だから頭が悪いのは事実だわ」


 エルがそれについて否定ではなく肯定の言葉で返してきた。そのままの勢いで魔力瓶のギミックのせいで耐久度に問題があることや重心にブレが出来てしまう事など思っていたことを口にする。


「事実だから何も言い返せないな、俺も自分の生まれには文句があるから別にいいけど、アキトに拾われてよかったよ。七大天剣(セブンス)なんてろくなもんじゃない、こんな体じゃ性欲があっても発散できないし惨い仕打ちだと思わない?本当に邪悪だよ」


 エルが性欲を解消できないことにここまで不満を持っているとは思わなかった。しかし剣に性欲の概念を埋め込むとは確かに惨い、作った奴の頭は完全におかしい。


僕はエルを鞘から何度も抜き差しした。


「アキト、何してんの?」


「気持ちいいかなと思って」


「くぅ~~ん、ってそんなわけあるか怒るぞ」



 馬鹿なやり取りをしていたら、メイの準備が出来たようだったので片付けを行い、ゼパルに向かって歩き出した。野営の時に街道から一度外れた物の基本的には街道沿いに歩いていけば、ニバスからゼパルには簡単につく。そのため迷いもせず順調な道のりだった。


「あたしはゼパルに行ったことがないんだけど、どんな街なんだ?」


 ゼパルは暗黒の時代に存在していた古竜の死骸が落ちた地で、未だにその巨大な骨が残っている。全長200mほどのとてつもないサイズの古竜であり、その骨を基礎にして建物などが建てられたのが始まりだ。最初は覆うような大きさの古竜の骨の中にぽつぽつと家屋があった物が広がり今は街の中心に古竜の骨があるといった感じだ。


 僕がゼパルについてメイに説明していると、そういえばとメイが言ってきた。


「確か、収穫祭みたいな祭りをやってるって聞いた。作りものの竜の頭骨をかぶって踊るんだって」


(祭りか、遺跡に入る前に見て行こうかな)


 ゼパルに向かって歩いてたところ、巨大な竜骨が遠くから目に入った。この距離からでも古竜の骨はみえるのだ。それを屋根にするようにその下に大きく平たい街が広がっている。


「凄い・・・聞いていたよりも凄い迫力だ。あたしアキトについてきてよかった・・・」


メイが遠くからでも視認できる、その巨大さに感動している。


「この街が気に入ったらここに住むといい」

邪険にせずさり気無くメイを置いていけるように誘導を行う。


「あたしはアキトと旅を続けて、凄い物や綺麗な物を沢山探す!だからついていく!」


 一体何が彼女の足をここまで動かすのだ。僕もお願いがなければ旅をしようとは・・・旅をしようとは?辛い事や悲しいこともあるけど楽しい、僕は自分がやりたいからやっているのだ。メイの初々しい感覚は僕が忘れていた事を思い出させていた。元々感情のまま好きに自由に生きる、そしてお願いがあるから僕は旅をしている。何もおかしくない、彼女も僕との旅を楽しみたいのだ。


 素直な子だ。エフェメラルもそうだったのだろうか、やりたくなきゃ出来ないなんて上から言ったけど最初からやりたくないと思いながら嫌々僕に同行したいなんて言うわけがなかったのかもしれない。気が付けば優しくメイの頭を撫でていた。


「アキト、やばいよメイがエロ狐みたいな目してるから」


(そうだった・・・)


 さっきまではしゃいでいたのにとろんとした目つきのメイはゆっくり僕についてくるようになっていた。難儀な体質だ。僕達はそのまま北門を通り、門番のチェックを済ませてからゼパルに入った。


 中はお祭りをやっているのか、とても賑わっており色々な出店がある。ハーゼのところで少しだけ路銀をくすねてきていたので余裕は十分あった。串焼きをメイの分も買って食べながら歩く。


 そのままの足でメイの服を買いに行った。メイは驚いていたが、預ける預けないは別としてグシオンまでは行くのだから、旅が楽になるよう装備を整えてあげることにした。女物の服は全然わからないので旅が出来る感じのでと、店員にことわりを入れて任せた。何故かスカートになった。尻尾が邪魔にならないようにと店員が選んだようだが、防御力も低いスカートを選ぶ理由がわからない、完全に旅を舐めている・・・。


 上半身は雨よけのフード付きだったり多少考えられた装備になっているように感じたが、スカートについてはもう考えるのをやめた。利点の説明があったがもうなんとなくそうかなと聞き流す様になっていた。


 メイは可愛らしい服を気に入ったのか、僕がこっちにしたらと投げやり気味に言った全身フルプレートアーマーを断った。旅に重たいフルプレートはないでしょみたいな真面目な返しをエルに言われた。


 結局支払いを済ませて、そのままの足で宿に向かった。



いつも読んでいただきありがとうございます。

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