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獣人族とメイ


「はーい、檻に戻りましょうねー」


 アキトは容赦なく子供たちをそれぞれの檻へと戻した。ただ大体の子供たちは自発的に戻るかよくわかっていない様子だった。


「ハーゼ先生がいないので僕が君達の面倒を見ることになりました。ここでのルールはよくわからないので教えてください。ご飯は朝昼晩ちゃんと出します」


 最初に話した獣人の男の子がまだ檻に戻らず。アキトの横でわめいている。

「ハーゼ先生を追い出した奴の仲間だろ!お前が居たら先生が帰ってこれないだろうが!!」


「おーワシャシャシャシャ」


アキトは変な声を出しながら暴れまわる獣人の男の子の頭を撫でまわした。

「えぇ??」


アキトの奇行を前にエルが思わず声をもらす。

「アキト、完全にやばい奴だよ・・・」


 一通り頭を撫でられた獣人の男の子は力が抜けたように座り込み、アキトはそれを抱えて牢に入れた。全員が檻に入ったのを確認し、それぞれの檻にしっかり鍵がかかっていることをチェックした。


(正直迷うな、ニバスに対応を全部任せちゃってさよならしてもいいんだけど、物が物だしこの子達もどうなるかわからない。せめてある程度治ってからだろうな1か月くらいで済めばいいけど)



 一日目は普通に食事を出して、子供たちに配った。檻には配膳用のスペースがあって、しっかりと受け取り食べていた。食事は朝晩しか出ていなかったらしくハーゼが出していたものより美味しいらしい。食料がため込まれている区画があったのでそこにある食材を利用している。面倒を見るための費用は十分足りそうであった。



 二日目になって一度診療所の外に様子をうかがいながら出て診療所のクローズの札などを確認する。噂などを聞いて回ってもハーゼは研究に没頭していて診療所は閉じているということでみんなが理解しているようだった。


(この薬草についてニバスは禁制品にしてないどころか存在を知らないようだった。まいったな研究機関に公表したりニバスの公務をしている人たちに任せるルートは完全に消えそうだ。そうなると子供たちの理解も得ずらいし・・・ううん終わり際にハーゼが怪しい実験してたと言って研究機関に投げ込んでくるか)


 地下室にあった銀貨や銅貨で必要な物を買ってきて、再度診療所に戻る。子供たちは皆檻の中にいるようだが、獣人の男の子は相変わらず元気だった。僕を非難する罵詈雑言を何度も浴びせてくる。料理を出してもその子は僕が出した料理を台無しにしたりするから僕の微笑みマスクが時折へし曲がりそうになった。


「コグマさ、やめなよ。今あたし達の面倒を見てくれているのはこのお兄さんなんだよ酷いことを言うもんじゃない」


 獣人の男の子はどうやらコグマという名前らしい、ゴリラ獣人なのに名前がコグマだとは思わなかった。


「君の名前は?」


僕をかばってくれた女の子に名前を尋ねる、女の子は狐耳にふさふさの尻尾で可愛らしい子だった。


「あたいの名前はメイ」


 メイと名乗る獣人の女の子にその日の夜はこっそり多めに料理を出した。エルが小物過ぎぃと僕の名前を呼びながら言っていたが気にしなかった。



 三日目のお昼になって僕はこれから起こることを子供たちに説明することにした。散々悩んだのだが、予め説明しておいたほうがやはりいいだろうと思ったからだ。


「まず君達は本当は健康です。」


「嘘をつくな!!僕達は薬を飲まなければ苦しむ事は知っているんだ!!先生が研究で何処か行っちゃう時はいつもみんな苦しい思いをしてるんだ」


「先生はもう帰ってきません。先生が本当に貴方達の事を大切と思っているのであれば既に戻ってきてます。そして実際は貴方達は自然に良くなることを知っているからというのもあります。」


「それはお前がいるから戻ってこれないんだろ!殺されちゃうから!!」


「まあ僕がいるから戻れないってことであればハーゼ先生はニバスの衛兵や権力者に連絡を取って兵を派遣してここを制圧するという手段がありますが、もう三日経っていても誰も来る気配がありません。実はハーゼ先生がやっていたことは後ろめたいことで法で裁かれるかもしれないから出来ないんです」


「嘘をつくな!!」

コグマが興奮してドラミングをしている。


(うーん・・・)


「とりあえず確認ですが、これ知ってる?」


 そういって僕は植物園にあった鉢に植えられていた苗木を見せる。これは以前僕が採取していた時に疑問に思った薬草の一つであった。


「???それは僕達の薬の原料だってハーゼ先生が言ってた!寄越せ!!」

コグマがさらに暴れている。


「これね、ミギィブルーンの苗木。君達はこれによって強い依存症を持っています。」


「????」


 アキトは丁寧にミギィブルーンについて説明した。少し傷をつけて出た汁を乾燥させたものを薬として君達は使われていたはずだと。それはアルカロイド系の麻薬と呼ばれるもので、痛みの緩和などに医療目的で使われることもあるが幻覚作用や強い依存症を起こすという事。始めは君達は本当に何らかの病気の孤児だったかもしれないが、治った後は都合のいいモルモットとして飼っておくためかこの麻薬の研究のための被験者だということ。


 全てを説明したときに泣き出す子供や信じないといった反応をする者など様々だった。コグマ君は檻をよじ登ったりして僕を威嚇してきていた。


「とにかくこの後、強い副作用として麻薬が欲しくて仕方無くなると思うからそれが終わるまで檻に入れたまま君達の面倒を見ます。食事はちゃんと出すので挫けず頑張りましょう」



 アキトは研究所内を片付けて、本や巻物が沢山ある部屋を自室にしていた。そこで本を読んだり寝たりしているのである。ハーゼの集めてきた色々な文献や資料、ハーゼの研究記録など読んでいて飽きない。また魔力を持たない者の情報が手に入る可能性にも期待していた。


 しかしこの部屋に入って誰にも見られなくなったところでストレス発散をしていた。子供たちの相手をしている間中罵詈雑言を浴びせてくるコグマ君が厄介なのだ。アキトはコグマ君がやっていたようにドラミングをしていた。子供たちの前では決してやらない、悲しみのドラミングであった。


「アキト、嫌ならやめたほうがいいよ。嫌だと思ってる奴がやるのは迷惑だし、本当に必要なことならやりたい奴がやるってよく言ってるじゃないか。放り出したっていいんだよ」


 エルが同情的な声を出す。ここ数日の僕の奇行を見て、可哀想な奴を見る目で見ているに違いない。


「もうちょっと面倒見る」

闘技場の件でこの街の上層部は信用できないことを感じていたアキトはハーゼ診療所の報告をためらっていた。ニバスの連中にミギィブルーンについて公表して麻薬が大量に流通するようになっても面倒だ。


 麻薬は戦争の理由にもなるほど取り扱いの難しい物で、僕がそれをどうこうする必要もないかもしれないが見つけたら排除しておく程度の認識はある。子供たちは被検体としての扱いを続けられるかもしれないし、全部終わったらニバスの研究機関に報告するか闇に葬るかだ。



 四日目になるとついに副作用が現れだしたようだった。子供たちは依存症から暴れまわり、口々にクスリ・・・クスリ・・と言っている。うめき声のような声が聞こえてきており、これが幽霊事件の真相だろうなとアキトは思っていた。


 子供たちの様子が窺える場所で世話や食事を準備し、本を読みながら日々を過ごした。



 そんな生活が長く続き、丁度一か月頃に副作用が抜けたようだった。ミギィブルーンについて知っていたアキトは一番強い離脱症状が出る時期を越えたあたりで安心をしていた。副作用がなくなったからか子供たちもアキトが言っていたことを信用しているようだ。


「それでは今日で檻から出て好きな事をしていいです。依存症も抜けたようなので君達の好きに生きてください。教会に行くもよし、僕を告発するのもよし!ちなみに僕は走って逃げます!!皆さんでよく相談してください。危険なので残ったミギィブルーンは廃棄しました。研究資料用に提供する一株だけ残しています。この株についてどうするかは君達に判断を委ねることにしました」


一呼吸をおいてからアキトは重要なことを言った。


「一応、言っておきますが麻薬について報告した場合君達と同じ辛い目に会う人たちが沢山生まれるかもしれません。なのでやめておいたほうがいいと思います。」



 子供たちはざわついているが、大半はアキトを信じる子が多かった。礼を言ってくれる子達もいる。問題はコグマだが、コグマは考えているようだった。


「あんたはお兄さんに謝ったら?酷い罵詈雑言浴びせておいて、今はもう病気完全に治ってるじゃない」


メイがコグマに向かって言葉を発している。


「いや・・・まだわからない」


 ぶつぶつとコグマは独り言のように何かを言っている。ハーゼ先生は確かに長い間戻ってこなかったや食事の面倒を見てくれていなければ死んでいたなどそれでもニバスの人々に任せず一人でこそこそ物事を片付けた僕をやはりいい目では見ていない。


「礼を言うチャンス二度とこないかもしれないのよ?」


「・・・食事の世話をしてくれたのは事実だ。ありがとう。もし先生が帰ってきても今までと同じなら病気は治らなかったかもしれないし、先生が帰ってこずお前を追い出して僕達だけで自由に外に出ても、多分病気のこともあってのたれ死んでいたと思う。だけど・・お前の事がいまいちよくわからない。」


コグマは悩みながら事実と思ったことを口にしていた。


「だから僕は勉強して、医者になる。知識をつけて何が正しかったのかを知ることにする」


「へぇ・・まあ好きに生きてよ」

 アキトはすっかり興味がなくなっていた。浴びせられていた罵詈雑言が頭の中に駆け巡る。ドラミングをした日々からの解放感か、牢の鍵を全部開けてふらふらと診療所を出て行った。開放することを決めていた日で準備は既に万端だった。



 荷物をまとめているアキトはそのまま診療所を出る勢いでニバスを出た。ところが街道を歩いていると女の子が一人ついてきていることに気付いた。


狐獣人の女の子のメイだった。

「あたしも連れて行ってほしい」


「好きにしろとは言ったけどついてくるとはね・・・恐るべき行動力だ。危ないから森へお帰り」


「ダメでしょ」

子供たちの世話から解放されたアキトは変なことを口走っていたがエルに否定される。


 アキトはメイの頭を軽く撫でて、諭すように説得したが話を聞いていないようだった。メイの様子を見るととろんとした目つきをしている。


「えぇ・・・お薬がまだ抜けてないのかな?」


「アキトさ、これあれじゃない?ハーゼの資料に乗っていた獣人についての記載。獣人は遠い昔に愛玩用として生まれた生物でって奴、実際にこんな状態になってるの見た事なかったけどもしかしたらアキトが特殊だからなんじゃないかな?コグマ君もおとなしくなってたし」


 エルに言われてアキトは思い出していた。沢山の本や資料の中に獣人を集めた理由について遠い昔の情報が真実かどうか調べるという理由もあったと、しかし結局それらしき習性や特性は確認できず。遺跡などで見られたこの情報については保留とすると書かれていたことを。


(嘘だろ、じゃあ僕が巨漢のガチムチオスゴリラ獣人を撫でたとしてもこんな反応なのか・・?????なんて恐ろしい愛玩動物を生み出してしまっているんだ。大丈夫なのか・・これはやばいんじゃないか?最初に生み出そうとした奴らの責任だ。時を経て定着しているとはいえこんな恐ろしいことになるとは)


「な、なぁもう一回あたいを撫でてくれないか?」


「エッチな目つきになるから駄目です・・・。」


メイはどうあってもついてくる気のようだった。



いつも読んでいただきありがとうございます。ニバスにバイバイさよなら、僕はこいつと旅に出るヤク中

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