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友達とロボ

 ゼクスの家についてから軽食を取った後、僕とゼクスは女の子達と分かれて外に出た。僕は二人でとりあえず食事しようと思っていたが、ゼクスがザガンは来ないのかと聞いてきたので空に向かってザガンの名を呼んでみた。しばらくすると人目につかない場所にザガンが空から降りてきた。


「別々に飯の誘いをしようかと思ったんだけど」


 元々僕は誰かと食事したいと思って誘う時は大抵サシで食べるタイプだ。友達の友達とか人が多ければ飯が美味いという感覚はそんなに持っていない。僕からすればゼクスとザガンは一緒に飯を食える相手だが、ザガンとゼクスが僕を含めて三人で食事がいけるかわからなかった。だから別々に誘おうと思っていたのだ。しかし、目の前で飯に誘う話をしていたのだからこうなるのも当然かもしれない。


「おや?三人で食事する想定でしたか?」


「寂しい事を言うな、嫌か?」


「ふふふ、三人で食べましょう」


ゼクスがあまり表情を変えずにいうからそのまま普通に三人で食事に行くことになった。その場で全員これならこれでいいなという感じだった。大体が僕の段取りや人とのやりとりの問題のせいなのだが、そもそもゼクスは嫌いな相手とは飯を食わないし、割とその場で言う。ザガンに関してはよくわからないが、嫌な場合は姿を現さないと思う。空気を読んでゼクスや僕の顔色を窺うような奴じゃないからだ。


ニバスでよく食べに行く、料理店に入る。少し暗めで静かな雰囲気が料理店というよりは飲み屋のような感じだ。朝から昼過ぎまで閉じている代わりに夜はかなり遅い時間まで営業しているのでゼクスと食事をするときはよく利用する。出てくるつまみや料理を少しずつ食べながら、二人と話をした。


「今回はかなりピンチだった。助かったよ、二人ともありがとう」


「そうは見えませんでしたが?」


「止まっている間に死ぬところだったし、再起動についても死ぬほど怖かったからやりたくなかったよ」


 普通の生物からすればわからないことだろうが、僕自身が僕を停止させて起動するという行為はかなり怖い。人でいうところの寝る行為と違うのはそのまま二度と目が覚めないという可能性が僕の中に常にちらつくのだ。正直死ぬほど怖い、常に循環し動き続ける存在が自分の意思で意図的に止まるのだ。古臭い起動キーで再び動き出すのは壊れた目覚まし時計を仕掛けるような心許無さだ。


「ありがとう。ザガン」


「・・・」


ザガンが今何を考えているのかもよくわからない。僕からすればザガンが何を思って僕を守ったのか、石の竜と戦ったのかもわからない。だが、彼が命をかけて僕を守ろうとした事実だけがある。ザガンは昔の僕の古い友人らしいということはわかるが、命を賭ける程価値のあるものだったのだろうか、今の僕がそれに見合う価値を持ち合わせているとも思えない。


「次があるなら、俺に先に会いに来い」


「ハルトとは話したんだけどね、なんか誘えなかった。結局僕一人で解決出来るだろうって油断もあった」


「あの青いのか、立場とか他の何かが介在してるんだろ。俺ならそういうのはない」


「今回みたいに事前に寄る事が出来そうだったらそうする、駆け付けてくれたの嬉しかったよ」


「いつもそうなるわけじゃない。お前のその迷惑をかけまいと消極的なところはいいところでもあるが、悪いところだ。対等な友人だからこそ声をかけろ」


「わかった。次に国が亡びる規模の事が起きたらすぐ相談するよ」


(そうそう何度もあっても困るけど)


 三人で一緒の食事を食べている。食べ物を話しをしていると何処で何を食べたかという話から何故か野草やら山菜の話になっていた。ゼクスは孤児生活中に魔獣狩りをしながらついでで、ザガンと僕は長く生きている為、色々な物を食べた経験がある。無論調理くらいはするが、ゼクスはよく死ななかったものだ。キノコはその大半が毒を持つし、どれが食べられるかなんて他の動物や魔物が食べたかで判断していたらしい。タラの芽やふきのとうの天ぷらを食べながら、そんな話をしていたら女の子が僕達のテーブルにズカズカと近づいてきて相席してきた。


(ああ、この子か)


以前にアラン・イグニアスの話をゼクスと一緒に聞かせた神官の女の子だ。あれから情報収集の旅を続けている筈だが、身なりに気を使っているのか薄汚れた感じはない。どちらかというと前より少し化粧に気を使っている気がする。


「話を聞かせなさい」


 少女が男三人の食事の場に割って入っている。この雰囲気の中に突っ込んでくるのは普通覚悟が必要だと思う。ただこの子の場合は空気が読めていないのだと思う。ザガンはしれっとした顔でなんともなさそうに酒を飲んでカットされ軽く焼かれた林檎を食べる。無視を決め込むのだろう。僕も飯を誘ってない相手がいきなり割り込んでいるのは好きじゃないので怒らないように静かに心を落ち着けてザガンと同じものを食べる。ゼクスはあからさまに嫌そうな顔をした。しっしと手のひらを追い払うように動かす。


「帰れ、面倒なやつだな。俺の周りをうろつくな」


「話を聞かせてくれたっていいじゃない!」


「よくねえから、離れろって言ってんだよ、一々俺をキレさせんなよ」


 びくっと少女が身体を震わせる。おそらく一度ゼクスを怒らせた事があるのだろう。ゼクスは子供以外には普通にキレる。この感じだとこの少女は僕と別れた後も何度かゼクスと接触して、アランの話を聞いていたのだろう。ここまで言われても帰ろうとしないあたり、この少女も余程話を聞きたいのだろう。石の竜との戦いのときにゼクスは炎の翼が出ていた。元々翼をどうにかするために僕に会いに来たと言っていたし、少女もその翼を目撃したのかもしれない。

ともすれば、あれだけの力を持つゼクスに何かあるのではないかと調べるのもおかしくない。


 この子には勇気がありすぎる、今までも相当しつこくゼクスに話しかけたのだろう。僕は若干、ゼクスにこの子を引き合わせた僕のせいなのではないかと思い始めていた。


ほとんど無視しているが、少女が食い下がらないためそろそろ僕は席を立って他の食事場を探そうかと思っていた。ゼクスが物凄くキレそうな顔をしている。というよりも既にキレているが、この場合少女が強いのだろう。空気が読めていない。


「アキト、食事の場に女性を呼んで同席させていいのであれば、今度シャーベットを呼んでいいですか?」


ザガンがこの隙にと言わんばかりに僕に提案をしてきた。


「ええ?一緒に飯食いたいならいいけど、お前はなんでそんなにシャーベットを呼びたいの?」


「私にとっては娘のようなものです。誤解があって避けられているのは可哀想なものです」


(いや、あいつ僕の前で結構強烈な事言ってたからな、忘れるの難しいわ)


 それにしても飯が美味い、ザガンとゼクスとこの店に来てよかった。横の少女がうるさい以外は特に何のストレスもない。いやうるさい、いい気分から悪い気分になるのは早いものだ。


「だああ!うるさい!なんだこいつは!?帰れよ!!」


「そうだ帰れ、女子会でもしてろ、ここは男の世界なんだよ」


「帰りなさい、貴方にも故郷があるでしょう」


 男三人組から鬱陶しいと言わんばかりに帰れ帰れと言われて、ようやく取りつくしまがないことに気付いたのか涙目になって神官の女の子は出て行った。彼女の帰る場所は知らないが、どうせ宿でもとっているのだろう。女子会といえばゼクスの家でエリスとみんなが楽しくやっているだろう、彼女もそっちにいけばここまで邪険にされなかったかもしれない。


「いいんですか?追わなくて?」


食事と酒を出してくれていたマスターが声をかけてくる。おそらく、泣きながら離れる女の子は追うのが定番なのかもしれない。それに今は夜だから夜道は危険かもしれないし、送るのが紳士的なのかもしれない。でもこの三人はまじでそういうことに気を利かせる気が無い。


「いいんだよ、まじで邪魔で苛々してた。それにあいつ何だかんだしっかりしてる。時計みて、危険かどうかの時間を計っていたり、酒は一滴も飲んでいなかったし、今も俺が気配を少し辿っているだろうとあてにしてる」


(・・・ゼクスが面倒見いいの分かってるのか、ウザがられてるけど化粧や身なりに気を使ってるのはゼクスに話すためなのか)


少女が去っていた後、普通にそのまま食事を三人で続けた。エルとウリエルも交えて話をしたが、ゼクスの力に関する話が多かった。丁度あの女の子が聞きたかった部分だろう。


「ゼクス、これは失礼になりますが、貴方は先天的に強い精神疾患のようなものを抱えていますね?」


「ああ、周りの奴らを見る限りそうなんだろうな」


(・・・まあ、なんとなく予想がついてた。この世界における魔法という力について)


「俺は怒りに支配されている。常に何かにキレて、キレている自分にも弱く不甲斐ない自分にも、許せない何かにも」


「いつ頃から?」


「物心ついた頃からか?わからない、だがアキト・・・お前にあってから変化があった」


「・・・アキトと何度か話した事があるなら聞いたことがあると思いますが」


 ザガンが僕の魔法や魔力に関する仮説を説明し始めた。これは過去の僕がザガンと話したことがあるのか、あるいはザガン本人が同じようにたどり着いたのか、長く生きている者ほどこの可能性を認識している場合が多い。


魔法と感情の強い結びつきについて


高い魔力を持つ者は、常に強い感情を持ち、より強く力を求めている傾向がある。非常に不安定で、心に左右されやすく異常を抱えているものほど強い力を持っている。


安定し、現状に満足しているものには得られない力。貴族や金持ち、美貌に優れるものより、貧困で苦しみ、自らの姿の醜さなど気にかけない程力を求める強い変身願望があるもの。変わりたい変えたいと誰よりも思い、その感情に精神を侵されているものほど強くなるのだ。


醜いものが美貌を求めて力を得、それに満足すればそこで安定する。貧しいものが富を得て、食うのに困ら無くなればそこで安定する。より醜くなってでも強くなりたい、富よりも力がほしい。この世全てを破壊しつくすほどの憎しみがあれば、それはそのまま夢へと近づいて行ってしまうのだ。


 ゼクスは、病的なまでに怒りに囚われている。彼の怒りのそのほとんどを自らに向けているからこそ、より強く進化し続けているのだ。僕が知る限り、僕の周りにはゼクスの他にもう一人、病的に心を囚われている子がいる。だけれども、今は安定している。自滅する前に現状に満足したからだ。


「大抵の場合は長く生きられません。自滅するか、周りの者が殺すからです」


「・・・」


「貴方は特別という言葉では表せない、例外です。何万年という孤独を与えられた七大天剣と同じ位に来てしまった。七種の力でも上位4種は格が違う。六大天翼は進化、五法神竜は停滞、四星四季は循環。貴方は成長と共に進化をし続け、より強い力を得る事で心も変わっていた。だけれども、いつかは無理がきます」


「ゼクス、アキトと俺がいるから大丈夫だよ。気にすんな」


「そうだな」


「軽いですね・・・なるほど、停滞が循環に影響を受けたように進化もまた循環によって戻り安定している。大昔の滅びた者達の言葉遊びかと思っていましたが、どうやらそれなりの意味がありそうですね」


 そういえばゼクスと会った時にもエルが言っていたな、君はゼクスに影響を受けているって近くに居すぎてはいけないと。確かに僕はゼクスの傍にいて彼の怒りの感情を受けていた。心が引っ張られるような気持ちになっていた。それが今は逆にゼクスに影響を与えていて、彼への安定につながっているのかもしれない。ちまちまと軽食を取りながら酔う事もない酒を飲み続け、ザガンだけ飲み過ぎて酔いつぶれた。僕は酔わないし、ゼクスも酔うことが出来ない身体になってしまったのかもしれない。


「気分がいい・・・」


(酔ってはいるのかもしれないな、ただ酔いつぶれるようなことがないだけか)


「もう、朝か。そうだアキト、教会にこいよ」


「別にいいけど」


僕は何故かザガンを背負って教会に行くことになった。ザガンのほうが身長がやや高い。男が男を背負って歩いているのは正直妙な光景だ。しかも教会にデーモンを連れて行くという絵面も含めて、かなりシュールだ。しばらくすると背負われていたザガン目を覚ました。


「ありがとうございます。強力な酒を飲み過ぎましたね、時間も忘れる程・・・そう、楽しかったです」


少しキョロキョロして教会に入るところでザガンが僕の背から降りると。そのままゼクスを先頭に三人で入った。丁度朝日も昇り、教会の子供たちが起きて朝食までの自由な時間を過ごしている。


「あーゼクスお兄ちゃんだ」


 ゼクスに子供たちが群がってくるが、何故か僕の周りにも沢山子供たちがよってきた。ゼクスは教会に多額の寄付をしているし、エリスを引き取った後も教会には足を運んでいる。元々孤児で世話になったからと義を返しているのだろうが、正直ここまで好かれているとは思っていなかった。


「ねえねえ、お兄ちゃんは古竜教会の英雄でしょ?」


「まあそうかも、別の教会の事も知ってるんだね」


「うん!ゼクスお兄ちゃんに聞いたことあるの」


 色々な子供がいる、無邪気な子供も聡明な子供も様々だが、どうやらゼクスは僕の話をすることもあり。僕に対する子供達の好感度も悪くないらしい。ザガンは身長も高く、子供に対して柔らかい笑みを向けるわけでもないため、子供たちがジリジリと距離をとっている。少し離れたところで僕達をみていた。


目線を子供達の高さまで合わせる為、僕が屈んで話をしようとすると背中に乗ってきたり、腕に抱き着いてくる子供がいる。僕もかえでによってこういうのには慣れる機会があったのでじっと動かないでいると子供たちが声をかけてくる。


「ねぇねぇ無敵の人やってーー」


子供たちが僕に無敵の人をやってと言ってくる。意味は分からないが確かに僕は無敵だから、それっぽい事をすることにした。


「ムーテーキー」


ゆっくりと子供たちを腕や背中に乗せたまま立ち上がってポーズを取った。みんなが喜んでいる。


「キャッキャッ」


無敵だけじゃなくて最強も御所望してくれればエルが喜ぶが、エルは呼ばれていない為静かだった。少ししゅんとしているのが伝わってくる。


「無敵の人は働かなくていいの?」


「そうだね、僕はね、自分の為にずっと働いてきたんだ。誰の為にでもなく自分の為にね。だからもう働かなくてよくなったんだよ」


「どうすれば無敵のお兄ちゃんみたいになれるの?どうやったらヒーローになれるの?」


「・・・うーん」


(言うほど立派でもない、恥ばかりある。嘘はつきたくないし、無理だとも言いたくない、黙るしかない・・・)


「自分の心にのみ従うんだ」


「わー剣がしゃべったー」


 すぐにさっきまでの質問の内容を忘れたのか子供たちがエルが喋った事に驚いて騒いでいる。僕はしばらく黙ったまま考え込み、三人で教会を出るまでそのままだった。教会でぜひ朝食をと言われたが、僕達はたらふく食べた後だった為、丁寧に断り。祈りを捧げてから教会をあとにした。それぞれ無言で祈っていたが、全員祈りの対象が確実に違っただろう。


「・・・」


「どうしたのアキト?」


三人でゼクスの家に向かって後は解散というところだったのだけれども、ずっと考え込んでいる僕にエルが声をかけてくる。


「・・・子供の前くらいは格好をつけるべきなのかな・・・」


「ぶはははギャハハハハ」


「アキトがそういう事で悩んでると面白いわ」


ゼクスとザガンとエルが大笑いしている。ウリエルは何故か姫なら子供たちにいい言葉をかけていたなどくどくど言っている。僕は笑われながらも実際難しいだろ!?と問いかけるが、適当に答えとけばいいんだよというやつは誰一人としていなかった。


長文失礼しました。

いつも読んでいただきありがとうございます。

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