伝えるべき事
「胡椒の栽培?」
あれから僕は法を執行できる立場にありながら、見逃した罪で常闇にお仕置きを受けた。暗い独房で三日間、何も食べさせてもらえず。用意された小石を積み上げる苦行をやらされるのだ。
ある一定の高さまでくるといじわるな執事がやってきて積み上げた小石の山を崩される。そしてまた積み上げが始まるのだ。ようやく刑務を終えて、今は常闇の城でモンドと二人で話している。
「うん、モンド君には暗黒領の南のほうの暖かい地域で胡椒を育ててほしい」
出来れば高温多湿な地域を多く保有する漆黒領でやってほしかったが、漆黒領民は胡椒を嫌がる。物凄くお願いすればやってくれるかもしれないが、無理強いはよくないし、彼らにとって胡椒は少しだけ毒性があるようだ。漆黒領民は甘いものとタンパク質を好むし、腐肉を好んで食べる種族もいる。彼らが栽培するものは大抵果物で、のんびりやって様々な果物から蜜を集めたりするのが一般的だ。魔法で通常より遥かに栽培速度と管理が楽なため、無理に適地だけで育てる必要もない。暗黒領にもまあまあ適した場所があるのだ。
魔族領域で胡椒を欲しがっている種族はとても少ない。しかし、僕は胡椒が欲しい。王国から少量輸入することもあるが、魔族領域での他種族とのお食事会で僕は色々な物を食べる。その時、調味料の種類が豊富だと助かるし、色々と味の好みを発見出来る場合もあるからだ。
「魔法で植物育てた事ある?」
「漁業で使う網の為に麻の栽培ならある」
「うーん、王国で胡椒栽培の本と現物、それから知識を持った人を一時的に雇用出来ないか聞いてくるか」
「オラの労役刑なんだよね?その間何をしていればいい?」
モンド君はただ飯を食うチャンスなのにしっかり空いた時間を自分から労働で埋めに行こうとしている。とても真面目だ。僕は彼を特に贔屓するつもりはなかったが、労役刑も彼の感覚からするとかなり短い期間になったようだ。労働対価が刑を減らすだけではなく、給金も少額出る。現物支給か王国貨幣で支給されるのだ。王国貨幣は少しずつだが、魔族領域にも流通していて常闇の元で備蓄されていた。大抵の場合流通の中心である常闇の街に最終的に集まるため、そこで城側で通常より高い現物と交換する事で王国貨幣を買い取るのだ。
王国貨幣をそのまま持っておきたい魔族達もいるが、大抵の場合は城に集まる為、王国貨幣が通貨として強く根付くことはない。相手の思うままに貨幣価値がかわってしまうため、国内の通貨を他所の国に握られるのはとてもまずいからだ。
話は戻るが王国貨幣の備蓄は十分なため、モンド君への給金以外にも王国の労働者の雇用にも使えるだろう。もし、王国民じゃなく帝国や共和国出身だったとしても人族側で使われている貨幣を選択報酬に入れる意味はそのままだ。つまり彼が刑を終えて帰りたいとなった時にその後の人生における備蓄を示唆している。
まあ、魔族を疑っている場合は現物以外だと最終的に殺されて奪われるとか騙されて労役をのばされ、飼殺しのようになり最後までお金を使う機会を与えられないとか、選択権を与えられていると錯覚させて洗脳されてるとか考えてしまうだろう。その点モンド君は僕を一切疑わず信用して、労役の軽さと対価の多さに喜んでいた。
「漁業の為の網は鳥魔族のところでかなり需要があるから、麻の繊維から紐から縄を作る手順を暗黒領民に教えてほしい」
「栽培はやってたけど繊維の取り出しは専門的にやってたわけじゃないからあまり自信が」
「必要な道具や効率は後から学んで勝手に生まれてくるから大丈夫、うちの領土で物凄く原始的な種族がいて狩猟をしているうちに縄の作り方すら失伝した奴らがいる。ギリーガタイガー族っていうんだけど彼らに技術を授けてほしい。彼らは僕の仕事を手伝いたがるんだけど今の状態では難しい」
「わかった」
「のちの胡椒の栽培に乗り気な者が居たらそれも勧誘していいから、親睦を深めてきて」
「それは・・・いいの?オラの労役刑なのに」
「部下としてじゃなくて仲間として連れてって、彼らにとっては労役ではなく仕事だし、僕への忠誠度が異常だからある意味で君の監視にもなる」
モンド君は獣人族だし、ギリーガタイガー族と見た目もそんなに離れていない。彼が今までの労働でつけた筋肉をみれば、しょうもない苛めも発生しないだろう。嫉妬よりも義理を優先するはずだし、彼らならモンド君との労働は価値がある筈だ。繊維から生まれる糸は単純に織物にも使える。様々な物を失い動物の毛皮を簡単に加工して着ていた彼らも自分達で布の作り方を思い出す時が来たのだ。狩猟へのこだわりはあるだろうが、農耕も根気よく教えてそこから生まれる物がどう使われているのか知ってくれれば彼らも生活に取り入れていくはずだ。
僕はモンド君をギリーガタイガー族のところに案内して顔つなぎをした後、一度家に戻り一週間くらい後に定期便で来る猫親方の船を待った。二、三日のずれはあるがその間エフェメラルとメイが僕の傍にずっといたので僕は結婚しようという話をした。あまり大袈裟な話でもないが思い返せば、僕はオリビアにも愛を告げたし、常闇にも変な形だが愛を囁いた覚えがある。
気が向いてお互いが良ければという状態が続く中、僕の消極的な態度がエルは気に入らないと言った。僕もまた、もう今更彼女達と離れる気もない。だから口に出そうと思ったのだ。当たり前だけど僕が考えている事を彼女達は全部理解できるわけではない、僕の言葉にどの程度の価値があるかは知らないけど、今まで随分と甘えさせて貰ったのだ。この時の為に僕は予め贈り物を用意していた。それを二人に渡す。エフェメラルがポロポロ泣き出してしまい、メイはとても嬉しそうに笑った。
「アキト様が、言葉にしてくれた事、そして不安に思っているという私の気持ちに寄り添ってくれたことが何より嬉しいんです」
(・・・何も言えない、もっと早く言うべきだったかな)
「アキトの思う適当が、本当の意味でちょうどうまく相応しいとは限らないんだよ、アキトがそれを好んでいるのは知ってるけど。今、泣いているのは君のせいだよ」
「子供のうちに結婚しようなんて婚約の言葉を交わすとは思わなかったよ、まだまだ早いとつい最近まで思ってたんだ」
「だから、あたしは大人だってアキトに何度も言ったのに」
僕の大人判定とメイの大人判定には認識のズレがあるから当てにならない。それにしてもいつかは僕から告白する事になるかもしれないと言ってエルと笑っていたが、エルから早くしろと言われるとは思わなかった。言われた時にすぐに腑に落ちたあたり、エルは僕とエフェメラルやメイの状態を見ていて頃合いを考えていたのだろう。
「ありがとうございます」
「指輪以外に欲しいものある?」
「その・・・色の変わった御髪を・・・」
(でたよ、闇の暗黒妖精教)
「あたしは子供が欲しい!」
(エロ狐さん・・・)
「分かった。僕はゼクスとザガンと飯を食いに行く約束がある。帰ってきてから応じるということで」
胡椒の話も含めて、王国ではやる事が多数ある。色々な道具と出来れば本も買い集めて魔族領域に持ち帰ろう。僕がゼクスの家に行く事を伝えるとかえでがエリスと会いたいから連れていってと騒ぎ出した。人族の年齢が近い友達が少ないかえでからすればエリスは外の数少ない友達だ。そういえばエリスがメイとエフェメラルにも会いたがっていた。男だけの食事会には着いてこない約束をして、三人を連れていく事にした。
「アキ、外に出かけるの?クズ石でもいいから安い魔石も仕入れてくれない?王国製と魔族領域での産出物にも少し差異があるのよ」
「わかった。あとなんかいらないものあったら王国貨幣にしたいから親方を通してか街で売ってくるよ」
使わなそうな資材といまいちな武器、商品を月影領から集めて詰め込んだ箱をオータムスフィアと猫親方の船に積み込む。積み込んだ時点で今まで交換品目にあった物は猫親方が買い取り、猫親方が向こうで売る。その値段について僕は知らない、これは商売だから当然だ。猫親方が買わなかった物は僕が自分で王国の販路を探さなければいけない。屑鉄の類であれば武器を扱ってる店に少量ずつ売りさばけばいいだけだ。オータムスフィアは石化によって一時的に機能を止めていたが、あの戦の時に僕が再起動した後すぐに復旧した。特に以前と比べて機能が落ちているなどは今のところ感じていない。
船が出航し、僕達は船旅を楽しみながらウェパルについた。かえでを連れて何処かに行くとそのほとんどがかえでのお勉強に使われる。かえでがどんどん教えて教えてと言ってくるので色々な事をその場にいる者達で教え合うのだ。魔法を使えないのに知識や考え方まで覚えようとするあたり知識に貪欲だ。船に乗っていると網漁や寄った先の港町などの話を猫親方や猫獣人から聞ける。それらも体験談から来るもので大抵面白い。一般論みたいな話は大抵の場合僕にはつまらないものでその人個人の考えや経験の話を聞くほうが楽しい。僕も旅の話を聞かれたので結構長い事話していた。
読んでいただきありがとうございます。




