自分が嫌だからという理由
ゼクスがエルザの遺体を布で覆う、どうやらゼクスはニバスまで遺体を運ぶ気らしい。僕達は向かってきた賊を殺しながら道を開け、山小屋から外に出てニバスに向かって走り出す。
エルザの遺体を抱えているのもあるが、ゼクスは目に見えて疲弊していた。探し始めたときからろくに眠らず走り続けて、あの一体を焼き払うほどの魔力だ。いや、魔力に関して言えばまだ底が見えない。どちらかというと精神的な疲労が足を引っ張っているのだ。
僕はゼクスに合わせて速度を落としている状態だった。心の底で何処かヴィルツをもう諦めているのだ。正直エルザが生きていて、助けるのがもっと早ければそしてそれを伝えてヴィルツが剣闘で奮闘して勝てば、そんな状況以外は納得出来る筋書きはなかった。
例えまだぎりぎりヴィルツが生きていたとして、何と伝えればいいのだ。大勢の客が公開処刑を見ている中どうやって助けるというのだ。僕一人がニバスの住民全員を逃さずに殺し尽くしでもしない限り無理だ。回復魔法も使えない、匿う場所もない、怪我人を連れまわす知識もない。娘だっているのだ。
僕は過去に自分がヴィルツに対して諦めないで下さいなどと軽い気持ちで口にしたことを後悔していた。
だから僕が考えているのは、ゼクスの命だけだった。彼はおそらく無謀なことをしようとしている。僕は明らかに彼に惹かれていた。溢れんばかりの感情を心が感じるままに吐き出す彼に。今の僕は彼の力になりたいという心で動いている、ゼクスはヴィルツが生きていれば闘技場に飛び込んででもヴィルツを助けようとするだろう。彼はおそらく僕を利用しようとは考えていても出来ない、ゼクスの怒りは常にゼクスの物だからだ。そして同じように僕は彼が死ぬのが嫌だから助ける方法を考えているのだ。
ゼクスは並走している僕をちらりとみて喋り出した。
「俺は何となくお前が考えていることがわかる、だけれどもそれは俺が足を緩める理由にはならない。正直お前をあてにしている自分の心を恥じている、だが俺は諦めたくないんだ。」
(ゼクスは僕に先に行ってヴィルツを助けてこいとは言わない・・・。知っている、だから助けようと思っているのだ。)
僕達の後ろから騎兵が近づいてくる音が聞こえる、馬を潰すつもりで走ればゼクスの速度に合わせてる今なら十分追いつける速度だった。賊の残党、あるいは遠征から帰ってきた者たちが報復にきたのだろう。
生き残るためと言っていたが、こうして死にに来るということは仲間の仇討か今後なめられないためかはわからないが彼らも感情のある生き物だということだ。騎兵の数は三、エルザを抱えていないヴィルツでも今の状態で相手するのはよくない。
騎兵の突進力は脅威だ。対抗する武器がなければ突撃後、走り抜けられ突撃される。それが何度も続くことになる、基本的なことだが歩兵は騎兵の突進力の前では一方的に蹂躙されることになる。
僕はゼクスに提案をすることにした。
「君の好きにするといい、だけど君は急いでいるんだろ?エルザさんは僕が責任を持ってニバスに送るから僕に預けてヴィルツのところに行くといい、騎兵は全部僕が受け持つって言いたいけど・・・そうだな騎兵の前に炎の壁を一瞬でもいいから出してくれないか」
ゼクスが頷いたのを見て、僕は右手に長柄武器を出す。遺体は申し訳ないけど地面に置かせてもらった。足を止めた僕は騎兵を正面に捉えて、位置を確認した。タイミングの指示を出してゼクスの炎の壁が騎兵の前に出現した。大きな炎のうねり、決して長くはないが馬が混乱して足を止めるには十分だった。
ゼクスはすぐにそのままニバスに向かって走り出していた。僕を信用しているのだ。振り返ることもないだろう、僕は炎の壁を突っ切った。赤い火鼠の外套が白く変色する。まず一頭目の足を止めた瞬間の騎兵に向かって右手に出した武器を振りぬく。
その長柄武器の名前は「コルセスカ」、諸説あるが僕が持っているこのコルセスカは三叉槍のようになっており中央以外の穂先は外側を向いており返し刃になっている、これはその返しをひっかけることで馬上から相手を引きずり倒すために使われるものだ。
騎兵の強さというのは突進力もそうだが何よりも高さだ。こちらの攻撃は相手の急所に届かず。相手は高さを利用した位置エネルギーと武器の重さで振り下ろすだけで高い打撃力を得られる、それに加えて突進力も乗るためその運動エネルギーは計り知れない。対抗できるとすれば相手に届く十分な長さの武器であり、そして騎兵狩りを想定されたこのコルセスカのような武器が必要になる。
足が止まった瞬間の馬上の相手に返し刃が鉤爪のように引っかかる、そして膂力に任せて地面に引き倒した。地面に落ちた賊が肺から空気が漏れ出たようなうめき声を出し、そこを容赦なくコルセスカの槍としての穂先で突いた。
すぐに走り出し、次の止まっている騎兵相手にコルセスカを突き込む、今度は引き摺り下ろすまでもなくコルセスカが突き刺さり態勢を崩し自ら落馬していた。だが深く刺さらないはずのコルセスカが深々とささり引き抜けなかったためその場に残した。
「ちくしょう、走れ!」
焦った3人目が止まった馬を走らせようとし、馬に指示を出したが上手くいかず。すぐに急加速は出来ないようだった。全力で距離を詰めてそのまま馬に体当たりした。
「無茶苦茶だよアキト」
エルが何かを言っているが、コルセスカが抜けなかったせいで頭が混乱していた僕は次の武器を考えていなかった。そのためそのまま常人をはるかに上回る膂力で馬を弾き飛ばした。最初からこれでよかったのではないかと少し思ってしまった。
倒れた賊を右手に出したハルバードを両手で持ち突きこみ殺した。
すぐに武器を全部しまい、エルザを抱えてニバスに向かって走った。急いでゼクスの元に向かわなければいけない。
読んでいただきありがとうございます。前回の話は体制× → 態勢〇 のように誤用があったり、エルが一人称を僕と呼んでいたりミスが多く、一度編集したのですが、直ってない箇所が多く編集するのも恥ずかしくなりそのままになりました。伏線とかそういうことではありません。