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暗躍、デーモンストーカー

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「ありがとうございます」


「礼には及びません。光は全てを照らす・・・」


「おお・・・勇者ゼロ様・・・なんと素晴らしき方か」


 疲れ切っていた初老の男性は村の困りごとを解決し、走り去っていく勇者ゼロの姿を見送った。村の一同皆がゼロに感謝の言葉をささげている。


ゼロは決して振り返らず。礼の言葉を背に次のごっこ遊び場所を探していた。


「ゼロ、昼夜問わず走り回って今ので三桁超えてると思うけど、どう?」


「楽しい。まだまだ遊べる」


「わかってはいたけど開拓村が多いね」


 アキトはエルと一緒にひたすら人が住んでいる場所を探して、光の勇者ごっこに興じていた。ここ最近のアキトでは考えられないほどアクティブに動き回り次から次へと村々を救い、休む必要もなく今も動いている。


エルが言うところの開拓村とは王国の政策で行われているもので、大抵の場合困りごとを抱えており失敗に終わる。開拓村の始まりは余剰食糧にあった。この世界の農耕、栽培は魔法によってとてつもなく優れている。少ない土地で量、質、生産速度と10倍以上の効率があるといっていいだろう。そのため、大量の余剰食糧が発生しその分食うに困らない者達は暇になり。学問や宗教の発展につながっていく。様々な信仰対象があり、教会が力を持っているのもそれが理由の一つになる。


 話は戻るが、余剰食糧が発生すれば当然人口は増える。次々と子供が生まれ、育てられる。しかしここで問題が一つ上がる、土地がないのだ。王国や各街の外には魔物がひしめいている。どこからともなく出現する人を襲う魔者達が存在することによって民は土地を広げることが非常に難しい。そこで開拓村だ。人口を減らし、かつ土地を確保できる可能性があるこの政策は齢を重ね年老いた者達に任される。仕事の第一線から抜けて老後の生活となった時に住む場所を出て、開拓できる場所を探すのだ。王国や大きな街に留まるには金が必要であり、逆に開拓に参加すれば幇助が出る。成功すれば村を任されるのだ。


そのため老人たちは自ら出るか、追い出されるような形で開拓民となる。中には働き盛りの壮年男性などもそういった者達に付き合い外に出て行く、当然と言えば当然だが家族で出る場合もかなり多い。あるいは教会で保護していた孤児たちが成長し、居場所がなくなった場合や兵役を終えた腕自慢などが雇われる場合もある。


 若者が同行する多くの場合は家族での同行や居場所が無い者達が一旗揚げようとするといった理由であり、開拓後は危険な魔物達から村を守る自警団になったり、動物達を狩る狩猟民として村に残る。こういった開拓村は人口調整としての意味合いが強いが、もちろん成功を収めて定着している村も存在する。しかし始まりからわかる通り、長い年月国から支援があるわけでもないため、結局魔物や自然の力に負けて廃村となることのほう多い。


 アキトの住んでいる場所も魔物が自然発生するため定期的に絶滅させる勢いで殺して回るほど、人が住むのに適さない場所の区切りが激しい。安全なのは都市と街、そしてそれらを繋ぐ街道で国の兵達が守っている場所だけとも言える。



『おいっ!おいっ!宝石を探しに行けと!聞いているのか!!?』


「一応、人が沢山いるところ通ってるだろ?」


『貧乏くさい連中など放っておけ!!あの琥珀はとてつもなく美しいのだ!』


 入れていた植木鉢がボロボロになったため、ベルトに括り付けた紐に縛られているドライアドがしゃべる。栄養が得られなくて弱っていくかと思いきや元気だったためどんどん扱いが雑になっているのだ。なんだかんだドライアドの要望に答えるかのように人がいる方向へと移動を続けていたアキトは学問が発展している街ロノウェに近づいていた。ロノウェから離れた場所にある小さな村を救った時に赤衣の強盗団の話を聞き、今アキトは赤衣の強盗団を潰しにいこうとしていた。


そんな時、空から翼を広げアキトの進行を妨げるように一人の男が降り立った。


「ザガン・・・」


 灰色の服に独特な耳飾りをしているザガンを見て、アキトは足を止めた。ザガンから闘気のようなものは感じなかったが、以前の油断をエルに散々言われたアキトは少しだけ警戒することにした。


「楽しそうですね?アキト、いえ今はゼロを名乗っているんでしたか」


「・・・怨み言は聞かないぞ」


「そんなつもりはありません。それに今の貴方は元来の姿に近い、どちらかといえば好ましいです」


「・・・」


「貴方はゼロ、ならば私もザガンではなく仮面の男として接しましょう。お互い今は別の存在として」


 そういいながら素性を隠して活動しているアキトに真似をするようにザガンは仮面を取り出しつける。以前ブックフォルダーのようなものが腰についていたが、シャロンの日誌をアキトに渡した後は小さな革製バックがついている。そこから仮面を取り出したのだ。


「ザガン、お前俺達のことずっと上空で監視してるだろ?暇なのか?お前もやりたいことやればいいだろ」


 エルがザガンに対して呆れた感じの口調でそういうとザガンは少し困った顔をした。アキトはまさか自分のごっこ遊びが他人に監視されていると思っていなかったため驚いてザガンの顔をみていた。


「お前ヤンホモかよ!!??もっと他にやる事あるだろ!?」


「ゼロ、赤衣の強盗団についてですが向こうにアジトがあります。先行して調べておきました」


 アキトの言葉の一切を無視してザガンがウリエルの鞘を掴んで柄で方角を示す。その後一枚の丸めた羊皮紙をアキトに向かって投げる。それをアキトが受け取って広げて確認する。街の手配書か何かに追記される形で赤衣の強盗団についての情報が書かれている。どうやらザガンが手を加えたようだ。上空から観察している分、人の流れや周囲の細かな違いに気付くのだろう。


「どういうつもりだ。お前がやればいいだろ」


「私は別に人が好きではありません。ただ、貴方とはなか─────!?」


 唐突にザガンがロノウェの方角へと身体を向ける。その様子は驚きに満ちており、ありえない何かを知覚したようだ。忠誠を誓った主の血脈、途絶えた筈の契約のパスが薄っすらとか細く機能し、ザガンは都市を守らなければと意識が少し動いた。ただあまりにも弱いそれは簡単に断ち切れそうで、契約としての機能は既にないと言える。何かによって遮断されていたのかザガンには判断も出来ないがこの確かな感覚はロノウェの方角から感じ取れた。


「そんな馬鹿な・・・ザガン!?これは・・・」


 今まで無口だったウリエルがしゃべり出すとザガンは翼を大きく広げて勢いよく飛翔し、アキトの前から姿を消した。あまりに唐突な出来事にアキトは何だったんだと思いながらもザガンが置いていった赤衣の強盗団の情報を元に動き出した。


いつも読んでいただきありがとうございます。

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