魔王労働契約見直しと新居
「ナツから常闇卿が魔王をやる対価を求めてるって言われたんだけど・・・」
僕の事をじーっと常闇卿がみている。時折視線を外すのがいじらしい。
僕は小声でエルに確認する。
「魔王業務契約内容に持続的な対価ってあった?」
「ずっと魔王やらせて一度の報酬後無給ってのも酷いと思うから、どの道契約内容を確認するべき」
常闇卿との契約内容について僕もエルも詳細を覚えていなかった。確か初回に赤い霧になった常闇卿が僕と一日一緒にいるときに何か話していたが、僕は恐怖の震えからそれが一度きりの物かどうかの話があったか覚えていない。おそらく対価は定期的に発生するのだろうと推察されるあたりから、覚えていないと言うのは彼女を傷付けるかもしれない。
「本当に申し訳ない、対価が持続的に発生するという話について覚えがない」
「アキトォオオ」
ショックを受けた常闇卿が一瞬ふらついたのがみえた。
「あ、あるじ・・・いや、其方が我にそう命令するのであれば・・・仕方あるまい・・・」
思ったよりダメージになっているようだ。魔王業務に対価なしで命令でやらされ縛られるのだ。生きている限り、一度の敗北で・・・いや思えば主従関係の契約は決闘時にそうなってたから別にいいのでは?
「アキト!!駄目だぞ、心のない事を考えているな?契約内容の見直しをするんだろ!?」
(まあ、そうだな彼女はよくやってくれる)
「覚えていないのは僕の不手際で、契約内容の見直しをしたい。君はよくやってくれているから上乗せで何かを要求していいよ。ただ僕も魔族領域の端っこの領土に家が欲しいからそこも考慮してお願い」
「それは本当か!?」
先程までのショック顔から一転してとても嬉しそうな顔をしている。今度こそ忘れないように詳細をつめて話を始めた。新居の話についてからだが、やはり常闇卿としては元々僕の城であるこの居城に住んでほしいという思いが強いようだ。しかしそこは譲れないため、領土の端っこを借りることになった。オリアスより西、ギリーガタイガー族が押し込まれた暗黒領より北西の沿岸部付近に僕の新居を建てる事になり。僕側で勝手にやらせてもらうことになっているが、ある程度の支援はさせてほしいと常闇卿に言われた。
次は対価の話になったが、まず常闇卿ではなく常闇と呼ぶようにしてほしいと言われた。ここら辺は正直違いがあまりわからない。ともかく常闇と呼ぶことになったのだが、他にも新居に常闇が定期的に通うことの許可か僕自身がオリアスの居城に定期的に来るかのどちらかを要求された。僕自身がオリアスにいくのは旅もあるので正直面倒くさいと思い5年に1度とかならといったが駄目なようだった。そうなると常闇が僕のところにくるらしいが暇な時ならいつでもとなった。ただし僕が旅でいない可能性も伝えた。
他に月1回あたり一日一緒にいる時間を後払いでもいいから魔王業務の対価でほしいと言われた。それについては赤い霧となって僕の傍にいることだと思われ、僕もそれは別に嫌ではないため強く拒否する理由もなかった。
(あれ普通に心地よいからな、纏っている間生活の邪魔になるわけでもないし)
そして未払いであった前契約の分と今回の報酬上乗せで提案された内容の中にボーナスの事項が生まれた。ボーナスは特定の期間で発生するものと働きに応じて発生することになった。
「僕の血を飲みたい?吸血鬼っぽい対価だね」
「それ以上の意味がある。契約した主の血は従者にとって大切な物だ」
こくりと頷いて僕を見た後、それに美味しいと付け加えていったのを僕は聞き逃さなかった。そういえばエルも僕の血が美味しく感じて変な気分になると言っていた。血液瓶はもう作らないと言っていたのに気づけばエルはチャンスがあったら作ろうとしている。そう思うと本当に美味しいのかもしれない。
「身体の末端の血を飲むのは力関係を強く示す。その為契約の時は指の血を」
(そういえば指をぺろぺろされて赤ちゃんプレイみたいな感じになってたな)
「今回は出来れば主の心臓に近い血を・・・その・・・許可があればだが」
(心臓ねえ・・・)
僕からするとあまり意味がないが彼女の気持ちの問題で彼女にとっては大切なことだ。しばらく考えて脇の下や胸のあたりを舐められるのはちょっと厳しいので首筋か鎖骨あたりになった。彼女は迷わず鎖骨を選んだ。とても早かった鎖骨フェチに違いない。
僕が震える手でエルを持ち、自らの鎖骨付近の窪みにあてる。骨を避けてこの隙間を通せば普通の人間なら心臓への攻撃が出来るため弱点ともいえる部位だ。僕にはあまり関係ないが、七大天剣を持っている今、そんなことを思い出すと怖くて震えが止まらない。
「ア・・ア・・・ア・・・」
エルが震えているのか僕が震えているのか・・・あるいはその両方か、自傷行為と僕を傷付けたくないエルがどちらのものともわからないマヌケな声をだしている。
「痛い・・・思ったより深く刺しちゃった・・・」
「うぎぎぎ、アキトの身体を斬る感触が・・・」
エルを鞘にしまった僕の身体から血が出たのを見て、常闇が迫ってきて僕を押し倒していた。仰向けで倒れる僕に覆いかぶさり鎖骨のあたりの傷を舌を這わせて舐め始めた。血が出てからこぼれないようにすぐに動き出していたが目つきが変わっていた。
「ちょ・・・大丈夫?これ・・・大丈夫?エッチ判定士のエルさん!?」
「オリビアも言ってたけど怪我をした動物が傷口を舐めるのは割と普通だからセーフ」
そういえば確かにオリビアが言ってた。
痛みを感じる場所に生暖かい舌が触れているがその動きには気遣いが感じられる。くすぐったさを感じながらも僕は割と冷静だった。前回との違いとして周りに誰もいないのが大きい。これでこの行為を誰かに覗かれていたらきつかったが、二人きりの今なら大丈夫だ。一生懸命に血を飲む事だけを考えていることが常闇からは伝わってくる。血を飲むための吸血鬼の習性か時折甘噛みされている気がするが彼女は余計な事をしない。つまり身を任せていても吸血行為以外のことは絶対しないのだ。
(・・・何故押し倒されたのだ?というより主従なのに上下あまり関係ないのか?)
僕が余計な事を考え始めてしまったが、常闇は余計なことはしないはずだ。絶対にだ。だから僕は彼女の吸血が終わるまで頭を優しく撫でていた。
しばらくして脱力している常闇を抱き上げて、練兵所の休憩待機するベッドに寝かせる。魔力暴走によって発動した魔法をエルを使って破壊すると苦しそうな表情は大分緩んでいた。驚いたことに前回のたった一度のみで魔力暴走を収めるコツをつかんだのか上手くコントロール出来ている。元々血液の魔法に長けているのもあるだろうが、これならば数日もかからずすぐに回復するだろう。
その後、少し休んだだけでだいぶ体調が回復した常闇は待たせているみんなのところへ赴き挨拶をした。オリビアとフユは常闇と会うのが初めてだったが普通に挨拶を交わしていた。そのまま夜食を食べて、それぞれ部屋を割り当てられて寝た。僕は子供達と一緒に寝て、大人はみなそれぞれの個室で眠りについた。かえでは僕のところではなくオリビアのところで寝ていた。
新居の建築計画のため城に泊まることが増える為、しばらくはこの城に滞在して必要なだけの準備をする。建築計画の段階で最初は城を建てる準備のような大掛かりなことをやり始めたので縮小していき別荘をイメージしてほしいと伝えた。家の建て方なんて僕は全く分からず素人なため常闇から紹介された人達に手伝ってもらいながら出来るところは自力で進めていった。新居の近くにフォカロルから出る小舟が停泊する港の作成も始まり、陸と海を行き来するモグーマ族の受け入れについても常闇と交渉が出来ていた。
家が建つまでの長い期間はみんなで釣りをしたりキャンプしたり、読書して知識の共有をしたり、適度な運動をした。
フユはほとんど城で寝ていたが、ナツは元月影領をたまに見に行ったりしていた。平和な時が流れ、家が出来上がった後の目標を考えないといけないと僕は思い始めていた。
読んでいただきありがとうございます。
誤字修正しました。気付つけ→傷付け、小舟が止まれる→小舟が停泊する。
ニャンベルタイガー族→ギリーガタイガー族




