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常闇卿と褒美

 エリゴスで再び砂漠越えの準備をして砂漠を抜けてからは一気にオリアスまで移動出来た。以前の経験もあってか砂漠越えはそれほど苦労することなく、砂漠が苦手だったエフェメラルも慣れてきているようだった。


 オリアスについて薬屋のお婆さんのところで魔力薬の補給を済ませる。街の様子も変わらず、とても戦争状態とは思えない為、おばあさんに話を聞いてみると漆黒卿は早くに失脚して漆黒領は敗北宣言をしてすぐに常闇領に下った。漆黒卿が崩御後に倒した者に座を継いでもらう事が出来ずに空席化したとのことだが、自治に問題がなければそのままになるそうだ。ただ、帝国側から亡命者がちょくちょく来るためのっとられないためにも結局統治者は必要になるだろう。


 早期に一つの領土が潰れたため、残るは月影卿との闘いだけだが漆黒領の敗北宣言後に月影領内で内戦が発生した。混乱に乗じてつぶしてもよかったが、どうも常闇卿こそが魔王に相応しいという派閥がいるようで状況が収まるまで傍観している状態らしい。


「もう終戦ムードなんですね」


「元々戦争や紛争なんていう程のものじゃなかったのさ・・・常闇卿以外に相応しい人物もいない。力比べで決める古いやり方に拘る連中が騒いだだけで、そんなものは流行っちゃいない」


(犠牲者が殆ど出ていないとはいえ結構冷めてるな)


「魔王決めるだけの内戦ならまあ種族が滅びるまで戦うわけでもないし、次は平和的にいくといいですね」


「そうさな、大体魔族もバラバラで生態系も大きく違う。もう今の主流だと力比べをするにしても納得しない者が出てくるだろうからね。言葉が通じるなら話し合いで決めるのが一番だろうね」


「まじで何で戦争になったんだ」


「アキト、思考がループしてるよ。武力派が魔王選挙に納得しなくてパワー勝負したかったからだよ」


 何も変わりない魔族領域に安心して、そのまま城に向かう。アキトが散々圧勝すると言っていた事に若干疑っていたエルだが結果が的中しており、被害など全くない状況だった。漆黒領は蟻魔族こそハーゼの手によって犠牲になったが他の魔族は皆、元に戻り敗北を受け入れたことで落ち着いているという。城の中に入ると執事服の兵達がアキトを迎え入れた。


いつもの執事服が現れたので挨拶を交わして常闇卿と話すことにする。


「こちらの部屋です」


 すぐに部屋に案内されたのでいつものやつだと僕は学習していた。彼は待合室のようなところに案内するのではなく本人の寝室や休んでいる場所、個室等とにかく何処でもお構いなしに僕を即連れて来る。そして常闇卿にも僕が来ることを伝えていないのだ。ノックをして扉越しに声をかけた。


「常闇卿いる?話したいことがあるから何処で待ってればいいか教えて」


しばらくの沈黙の後、返事が返ってきた。


「謁見の間で玉座に座りお待ちください、我が主」


「暗黒卿・・・お嬢様に考える時間を与えては面白くございませんよ?」


 執事服が失望した顔で僕をみている。ついてきていた数人のメイド達も面白い物が見れると期待していたのかがっかりしている。


「君らのお嬢様への対応がヤバすぎるだけでしょ・・・」


 以前に常闇卿と戦った謁見の間まで向かい、立って待つことにした。玉座に座るのはなんだか嫌だからだ。玉座自体は魔族領域ではそんなに意味を持たない。何故ならば四大魔族それぞれの城にそれぞれ玉座があるからだ。魔王のみの物ではなく、元々バラバラの魔族達がそれぞれ王を立てて名乗ってきていた。魔王というものがまとめる事になった後も種族単位での統治があり、魔王側から玉座の事や取り決めに口出しが殆どなかったため残り続けている。


 謁見の間は人払いされていて僕達以外は見えるところに誰もいない、おそらく左右のカーテンの裏に執事服の兵が数名隠れているのだろう。しばらく待っているとメイド達が楽器を持って現れ、謁見の間が薄暗くなってクラシックな演奏を始めた。


「え?何これは?」


「暇つぶしの余興じゃない?」


 僕達は突然の出来事に無言になって立ち尽くす。音楽が盛り上がってきたところで謁見の間の燭台のロウソクに火がともり辺りを照らし出されていく明るくなり赤い絨毯には膝を折り玉座に向けて礼をしている常闇卿が現れていた。


「・・・」


「・・・」


「アキト、座ってなきゃ気まずい奴だったんだよ・・・」


頭を下げたままの常闇卿が若干震えているのでメイもあわあわしている。


「・・・こういうのって一生懸命練習したりするの?」


「アキト、やめなって・・・まずいよ」


 周囲を窺うと例の執事服がニヤニヤしているのが見えた。僕はなるほどと納得した。派手な登場を彼女がやりたがったと見せかけてこれは家来達に嵌められたな。



───────



 流石に自らの主の前で度々恥をかかされたことを許せなかったのか執事服と多くのメイド達が連行されてお仕置きされていた。落ち着いて話せるようになったので僕は常闇卿に火鼠の外套を直してもらうか新しく縫ってくれないか依頼した。彼女は僕からの依頼を渋ることなく受け入れて、僕は魔族領域の状況について再度確認した。薬屋のお婆さんのところで聞いた話とほとんど変わらず。追加の情報があるとすれば月影領の現在の代表という者が明後日常闇卿に挨拶に来るとのことだ。


「領内での革命が終わって、挨拶に来るのか」


「そのようだ。我も受け入れるつもりだが、予め送られてきた封書に暗黒卿が滞在していないかを度々聞いて確認していた」


「うーん?僕がいると嫌なの?でも明後日来るんだよね?」


「我が主が本日城に戻られるとは思わず。いないといった内容で既に返事を出している」


「どうしよう?隠れていたほうがいいかな?それとも城から出たほうが良い?」


「降伏に来る者の為に主を蔑ろにすることは出来ない」


「うーん、何か企んでいる可能性もあるから同席するか」


 僕と会いたくないというのも気になるし、僕がいると武力的に制圧出来ないとかそういうことではないと思うが念のため僕は明後日の会談に同席することにした。火鼠の外套も常闇卿に預けているしすぐにこの城から出る気もない。夜食の時間が近づいてきたのでメイとエフェメラルをメイド達が食堂まで案内する。僕も食堂に向かおうとすると常闇卿が予備の外套を引っ張って僕を止めた。


「それで、その・・・我は約束通り魔王になる」


「うん、僕が育てた」


「あ、いやそうではなく・・・褒美を」


「アキト、お礼するって約束してたでしょ」


「大丈夫忘れてないから」


 常闇卿は恥ずかしそうにしながら僕に褒美の内容を伝えてくる。僕はそれを聞いた瞬間、身体に震えがきて動悸が激しくなったが冷静に振る舞い了解した。


──────



「あれ?アキト、常闇卿は一緒にご飯食べないの?」


食堂に僕が向かうとメイが不思議そうに僕を見て言う。


「常闇卿は食事いらないってさ・・・」


「体調が悪いのでしょうか?」


「いや、むしろ凄い調子がいいからご飯もいらないってさ」


「アキト様の周囲が少しだけ赤みがかって見えるのですが」


「うん・・・そうだね」


 僕は震える手でナイフフォークを手に取って食事を食べる。喉を通っても味もわからない、段々慣れてきてはいるが落ち着かない。正直食事内容がなんだったのかも覚えておらず、僕の顔色はおそらく青くなっていたのだろうが薄っすらと覆う赤が僕の顔色を隠していたのだろう。メイ達に心配されることはなかった。


 食事が終わり寝室に案内されるが、メイとエフェメラルは僕と別室になった。これは常闇卿の褒美内容に含まれていたからである。勿論二人には怪しまれたが、オリビアとの約束で僕がエッチしないことは知っているから褒美内容について理由説明をした。


「つまり今アキト様を包んでいるこの薄い赤い霧が常闇卿で丸一日出来る限り二人きりで傍にいたいと」


「エッチ判定士の俺の意見ではこれはセーフ」


「ご褒美デートになるの?あたしも抱っこしてほしい」


 僕が過度に震えているのは常闇卿と戦ったときにこの霧に包まれて全身を針で刺される様な拷問を受けたからだ。やってこないと信じていてもトラウマが蘇ってしまう。温もりのような物を感じて少しずつ慣れてはきている。


 結局赤い霧は夜寝ている間も僕を包み続け、僕は段々恐怖心よりも温かい心地よさを感じていた。時折身体を撫でられているような感覚があるがエッチは禁止しているので契約上彼女がそれを破ることはない。約束通り本当に丸一日、つまり開始した夜食のタイミングから次の日の夜食まで彼女は僕を包んでいた。霧化から元に戻った彼女は満足そうに僕から離れた。僕は解放されたもののなんとも言えない気分になっていた。寝る前にエルから話しかけられからかわれた。


「アキト、癖になっちゃたの?」


「正直言うと気持ちよかった・・・うとうとするような温かさがある」


「アキトって自分に甘く優しくしてくれる女性に弱いよね」


「厳しいより優しいのが好きなのは自然」


「速攻で骨抜きにされて駄目男まっしぐらダゾ」



読んでいただきありがとうございます。

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