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怒りを信仰する者2


 赤髪の男はゼクスという名前らしい。彼は自らを怒りを信仰する者と名乗り、エルの存在に驚きながらも意気投合していた。僕がみるに彼らは似ているところがある。僕はゼクスに対してどちらかというと好印象を抱いていた。僕からみて彼はとても自由に見えた。好きに怒り感情を爆発させ、けれどもそれを御す。彼は彼のルールで動いていて、僕は素直に羨ましいと思ったのかもしれない。


「ところでよく相手の男達の言葉を信じたね?」


 エルがゼクスに問いかける、確かに命乞いの時にイカサマ仕出したタイミングや女房が・・・の下りは、くさかった。嘘をついて少しでも温情をもらおうとしているか不利を失くすように出た適当な言葉の可能性もある。


「嘘をつく必要がねえからな」

エルがえ?っと驚いた感じの言葉を出す。


 「自分に恥ずべき事がなければ堂々としていればいい、最初からダサく生きようなんて思ってる奴はいねえ俺はそう思ってる。嘘をつくってのは後ろめたいことだ、間違った行いがあったら謝ればいい。自分の心に矛盾があれば負荷になる、それを感じなくなってる奴は壊れちまってんだよ。ただ心に素直に生きる、許せねえことがあったらキレる。個人でダサくならないように心がけるって話だ。」


 長くなっちまったなっと少し気恥ずかしそうにゼクスが答える。それを聞いて僕はとても腑に落ちていた。あぁ・・この人はとてもエルと僕に似ているんだ。エルは基本的に人を信じる、それはゼクスが言う「嘘をつく必要がない」と同じだからだ。



「なぁエルから魔力のない奴を探しているって聞いたんだがよ」


(エルはそんなことまで話したのか、いつか弱みになるかもしれないからあまり明かさない約束なんだけどそれだけゼクスを信用しているということだろうか)


「ここから東にニバスって街がある。そこにな無敗の剣闘士がいるんだが、そいつは一切魔法を使わない。噂では魔力がないからと言ったような事もある。そしてその剣闘士の最後を飾る引退戦が2週間後に行われるんだ。俺と一緒に見に行かねえか?」



 アキトは思わぬところから欲しかった情報が出てきたのに驚いた。魔力がないといっても感知するのが難しいくらい魔力量が少ない人なのかもしれない、だけれども元々可能性の低い旅だ。可能性があるならばアキトの答えは決まっていた。


「ああ、僕もその人を一目みたい。連れて行ってくれ」


「ゼクスもその人に会いたいんだよね?それはなんで?」


 情報だけでなく一緒に行くということから礼だけではなく、おそらくゼクス本人にも会いたい理由があるのだと察したエルがゼクスに問いかける。エルの問いに彼は少し気まずそうな顔をしたが、身の上話になるがと前置きしてゆっくりと話し始めた。


「俺は元は孤児でな、教会で保護されて育った。奴隷ではなかったが底辺みたいなもんでな、よく自分の境遇に切れてた。それでなんだろうな、怒りにまみれてた俺はそれを原動力にのし上がった。教会で親代わりしてくれてた奴が悪いことにだけは手を染めぬよう、俺に毎日毎日言い聞かせていた。俺は言いつけこそ守っていたが、施しを受けて当たり前みたいな考えのクズだったと思う。悪い奴らってのは平気で悪いことをするもんだ。俺がそれはおかしいっていうとな不公平に思うならお前もやればいいって言うんだ。・・・そういうことじゃねえ!ってのが伝わらねえ、しばらくするとそいつらはお前が世界を知らないだけとか下賤なガキ、物知らずっていうんだ。俺は知ってるみたいな見下ろしてくる目線によ、吐き気がするんだ。手前の知っている世界が俺の世界より上等で俺の語る世界が劣ってるってよ、冗談じゃねえ!力のないガキの俺が語る世界に説得力を持たせるために俺は怒り狂ったように力をつけたさ、怒りってのはすげえ、事実俺は変わった。正確には俺を取り巻く環境が変わったのかもしれねえがな。・・・ある日な、ふと教会の連中を思い出したんだ。あいつらは何だったのかと。俺には怒りしかなかったが、自分で立ち他者に施しを与えていた人間がいた。その事実に気付いた途端にな俺の怒りが空虚な物に感じたんだ。俺はそれから時折迷うようになった・・・。それで、無敗の剣闘士の噂を思い出したんだ。無敗の剣闘士は俺と同じような環境から這い上がり、最強の地位を手に入れた。話を聞いてみたくなったのさ、何が貴方に力を与えたのですか・・・ってな」



「うーんゼクスが迷うようにね、俺はゼクスが考えているより世界はもうちょっと優しいと思うよ」


真剣にゼクスの話を聞いていたエルがそう答える。


「そうだといいな・・・。そう信じたいよ」


ゼクスはエルの言葉にそう返した。


自嘲気味に彼が自らを怒りを信仰する者と呼んでいる理由が少しわかった気がした。こうあってほしいと思う世界との乖離は彼には耐えがたいものなのだろう、そしてそれを若いからと僕は笑うつもりはなかった。知らないだけや勉強不足というのは何千年も生きている僕自身にも言えることだ。少なくともゼクスは僕より物事を考えて生きている。



それぞれ準備をし、明日の昼東門に集合して僕達はゼクスと東の街「ニバス」に向かうことになった。


ありがとうございます。

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