気まぐれとお願いの旅
木漏れ日の中ゆっくりと歩く男が居た。見た目は青年といえ、顔立ちは整っている。身軽な服装に腰には片手で扱う長さの剣が革製の鞘に収まっており、その上から雨風を凌ぐためか外套を羽織っている。
歩いている道は街から村を繋ぐ道であり、頻繁にではないが荷車の往来があるため比較的歩きやすいと言える。
「アキトォ・・・今何考えてる?」
その言葉は腰に下げている剣から青年に向かって投げかけられた質問だった。アキトと呼ばれた青年は無視をしていた。永い間何度もやり取りしてきた言葉で実際のところ、質問を投げかけている剣自身も実はさほど興味がない事。
ただ剣は無言の時間が稀に苦になるタイプの剣だった。そんな時はこうしてアキトに話かける
「アキトォ・・・ォオゥオゥ」
無視された時は質問なんてどうでもいいのか、誤魔化す様に歌いだす。ずっとこの調子なのだ。かれこれ永いこと一緒に旅をしていれば話すこともなくなり無言になる、仕方のないことではあるがお互い気が狂いそうだ。
静寂の中ゆっくりと確実に進む、目的のある旅だが街を行き来するだけでは駄目だ。森も洞窟も遺跡もどんな悪路であろうと可能性を求めて探さねばならない。だから馬を買わないし、必要な時以外馬車にも乗らない。何千年と続けているが、発見できない。それほど悲観的な可能性の中、まだ続けられている。続けられているんだ。
しばらく歩いていると自分の後方から馬車の音が聞こえてくる。馬と車輪の特徴的な音だ。道を譲るようにアキトは端によったが、馬車はゆっくりと減速し目の前で止まった。
こちらに気付いていた御者が軽い調子で声をかけてきた。
「よう兄ちゃん、村まで行くなら乗っていかないか?駄賃は小銅貨2枚でいいぞ」
アキトは小さな布袋から小銅貨2枚を取り出し手渡した。そしてそのまま馬車の荷台に入り込む。雨避けの天幕もついており、中はそれなりに快適そうだ。中にはほとんど積み荷がなく腰をかけるスペースにかなりの余裕があったので適当な場所で座り込んだ。
「アキトってさ、必要な時以外馬車は利用しないみたいなこと言ってなかった?」
腰をかけて早速、剣に煽られた。
「僕は脚が疲れたんだ。へとへとなんだよ永く生きていれば主義主張も変化する、実際はそんなに考えてないし、日和るし、適当なんだ。」
(僕は感情で動くロボだから、感情の動くまま流されていいんだ)
「へぇ?そういうものか??たまに矛盾に対してぶちぎれる癖に・・・自分は棚に上げるわけだ?」
剣の煽りが終わりそうになかったから若干不機嫌気味に返した。
「よくはないけど、いいんだこれで・・・他所は他所、うちはうち・・・それはそれ、これはこれ」
「ええ?・・・オカンかな?」
若干呆れ気味の声で返されたが、効果はあったようでそれ以上の追求はなかった。ただ剣は止まらずにしゃべり続ける、先ほどまで何もない道だったところ馬車に乗ることでようやく暇をつぶす話題が出来た事で彼は饒舌になった。
「この馬車さ、なんで荷がないんだろうね物を売るのなら荷を載せているだろうし、売ってきたのならお金や物品があるでしょ」
馬車の進路的には街から村に今向かっている、つまり村から出た馬車で物を売るか買うかしてきた帰りか、あるいは街から村に何か売りにいくかとなる。
「アキトみたいな滅多に通らない旅人を載せて小銭を稼ぐための馬車じゃないから村に戻るにしても、折角の荷馬車を空で移動するのは勿体ないでしょ?何か都会で売れてそうなものを村に運んでちょっと割高で提供すればいいんだからさ」
「あまり流行り物の調査が出来ていないだけじゃない?食べ物や生活必需品は街に頼るようでは村は成り立たないから余ってるだろうし」
そういいながらアキトは荷馬車の少ない積み荷に目を配る
「おう兄ちゃん、騒がしいが独り言か?」
御者が後ろを向いて訝し気に覗き込んでくる。
「違うよおじさん、俺と喋ってるの」
剣から声が聞こえてきてうおっ・・・と小さい驚き声を御者がもらす。
「魔法剣の類か!?すげえなしゃべるのは初めてみたぞ・・・」
「語呂が悪くて自分の名前好きじゃないからエルって呼んでよおじさん」
御者は剣であるエルと会話していることに初めは驚いていたがしばらくするとすぐ馴染んだ。最初は驚くが魔法の概念があるこの世界であれば喋るだけであれば珍しいで事足りる。
「───それで、この荷馬車は何で荷がないのかって話をアキトとしていたんだ。」
「おぉエルは自我があるだけじゃなく賢いな、確かにお前の指摘は正しいよこの荷馬車はな村の事業で使っているもんでな、前金を受け取って荷を街に運んだあとなんだ。各家庭に払われた金を俺が持っているわけじゃないから俺自身は金がほとんどない、だから小遣い稼ぎ程度に頼まれた物品をちょっろと買って乗せている程度なんだよ」
「俺が金を大量に持っていて村の荷馬車じゃなけりゃちまちませこいことしなくてもどかっと街の物を持ってこれるけどな・・・」
「で、結局荷は何を載せていたんだ?」
エルが早く知りたいのかせかすように聞く、間を置いて御者が答えた。
「ああ、人だよ」
(人・・・。労働者か?しかし各家庭で前金・・・。あぁ人売りか何かだ。子供とか奴隷とかまあ村の規模によってはそんなに珍しくないかもな、しかしそれが村の事業か、なんていうかそんなに貧しいのか?)
「・・・」
エルも気づいたのか黙っていた。お調子者とはいえ空気を読むようだ。
「お前さん達、結構勘も鋭いんだな。珍しい剣につられてペラペラしゃべっちまった。明るい話でもないが、村には村の事情があるのさ。俺たちもやりたくなかったが、この間とても価値がある珍しい奴を載せてる時に賊に襲われてな、それでその分の埋め合わせで今回があったんだ。普段からこんなことしてるわけじゃねーよ」
明るい話じゃないといってやめようとするかと思えば後ろめたさがあるのか言い訳をするように御者が次々言葉を発する、口が軽いというやつだ。
(そりゃそうだろうな頻繁にやっているならそれこそ人攫いか何かしている。・・待てよ?)
「今、珍しい人を乗せていたけど賊に襲われたといいましたね?」
「おう、興味があるのか?」
アキトは詳細を聞こうと頷いた。
「ガキなんだが、元々村の住人じゃなくて外から迷い込んで来た奴なんだ。特異な体質をしているやつでな、村にも馴染めてなかった。いや・・・なんだ、まあ経緯はわからんが街に運んでる最中に賊に襲われて攫われた。受け取った前金でいい思いをしようとしてた奴らが焦って探したが賊の規模がでかそうでな・・・思ったがやっぱり俺が噂話程度に話すようなもんじゃねーな、村についたら村長に聞いてみろ」
「わかりました。ありがとうございます。」
それ以降は特に会話もなく村まで馬車に揺られ、うたた寝をしていた。馬車が止まりゆっくりと降りる、村はそこまで寂れているわけではないが辿り着いたのが夜だったからか活気のなさを感じた。静寂の中、ぽつぽつと離れた家屋を灯が照らす。
「俺はここまでだな、村長の家はあそこだ。今日は遅いから明日会いに行けば話くらいできるだろう。夜遅くまでやっている小さな酒場が民宿を兼ねているから、そこで寝るといい。安いから大丈夫だと思うが、金がないなら野宿だな。」
そういいながら御者は村長の家と酒場の場所を指で示してくれた。礼と別れを告げてアキトは小さな酒場に入った。
酒場の中に入ると場末の酒場らしさは思ったよりなく、客もそれなりにいるようだ。その日仕事を終えた労働者と思われる者などが酒につぶれて丸机に突っ伏す様に寝ている。カウンターに向かい、夜食と一泊できる部屋があるか聞いた。小銅貨3枚で提供できると言われ、素直に渡した。御者の男がいうように確かに安かった。
食事は調理方法が大雑把なのか野菜が適当に切られたポトフのようなものだったが、それなりの農地があるのか具の種類は多かった。水が入った桶と体を拭く為の布切れを渡され、二階の部屋へと案内された。アキトは部屋に入り扉を閉めて一息ついた。
「歩いていたら野宿だったし、情報も得られなかったから今回はアキトの適当さが功を成したな」
僕が装備を全部外して体を洗って、布で拭いている間エルが話しかけてくる。
「こうだからこうだった。みたいな事を毎回考えても仕方ない・・かな?脚が痛くなかったら馬車に乗っただけだし・・・でも確かにラッキーだったよ」
身体を拭き終えた後、肌着をいくつか洗って窓の近くに干しておく、交換用の肌着を着てベットで横になった。
「アキトォ・・・寝る前に恋バナしよ?」
「やだよエッチ」
「えぇ・・・??」
疲れからか雑な返し言葉を口にしてそのまま眠りに付いた。
こうやって文章書くのは初めてなのでよろしくお願いいたします。