第六十五話 剛太郎の読書法
剛太郎の読書法伝授!牛丼屋騒動!
第六十五話 剛太郎の読書法
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
一高、剛太郎の教室。祥子と剛太郎が話していた。
祥子「剛太郎君、本読むの速いよね。どんな風に読んでるの?」
剛太郎「速いかな?普通だと思うけど。」
祥子「速いよ。昨日、図書室で借りてきた本、もう読んじゃったんでしょ。」
剛太郎「うん。小説じゃなくて、自己啓発の本だったからね。」
祥子「小説と読み方が違うの?」
剛太郎「方法論とかだと速いかな。」
祥子「どんな風に読むの?」
剛太郎「僕の独自の読み方だけど。」
祥子「ふむふむ。」
剛太郎「本を読む前に準備が必要。」
祥子「準備?」
剛太郎「うん、先ずは、表紙と帯。」
祥子「そこから?」
剛太郎「一番大事だよ。本買うときのインスピレーションにもなるよね。」
祥子「確かに。」
剛太郎「次に、前書きを読む。」
祥子「普通だね。」
剛太郎「そして、後書きを読む。」
祥子「普通と違うね。」
剛太郎「作者のプロフィールを読む。」
祥子「なるほど。」
剛太郎「目次を読む。」
祥子「目次?」
剛太郎「そう、ここが大事!」
祥子「目次が大事なの?」
剛太郎「目次に書いてある言葉から、内容を予測する。仮説を立てる。」
祥子「仮説・・・。」
剛太郎「そう、例えば、笑顔は脳に良いと、目次にあったら?」
祥子「笑うと気分が晴れるから?」
剛太郎「僕もそう思った。でも、その章には、こう書いてあった。」
祥子「何て?」
剛太郎「笑顔にすると、脳が勘違いする。」
祥子「勘違い?」
剛太郎「そう、脳は勘違いを起こし安い器官、辛いことがあっても、笑顔でいると楽しいのか?と勘違いしてしまうみたい。」
祥子「予想が外れたね。」
剛太郎「それ!」
祥子「外れが良いの?」
剛太郎「予想が外れると記憶に残りやすい、予想通りだと忘れやすい。」
祥子「それで、予想なのね。」
剛太郎「予想通りならスラスラ読み進める、外れたところはじっくり読む。」
祥子「その読み方いいね。」
剛太郎「理解だけならこのやり方するかな。」
祥子「理解だけ?」
剛太郎「記憶するなら、別の方法を使う。」
祥子「どうやるの?」
剛太郎「目で見て、耳で聞いて、手で書いて、口で話す。」
祥子「それは、効きそう。」
剛太郎「記憶は、最初、脳の海馬に入るんだけど、それを繰り返していると、側頭葉に格納されて、記憶になるんらしいんだ。」
祥子「剛太郎君、文系だよね。」
剛太郎「はい、文系です。だから、本デ読みました。」
祥子「なるほど、じゃあ、小説は?」
剛太郎「小説は、僕の場合は、入り込む感じ。」
祥子「入り込む?」
剛太郎「そう、登場人物をイメージして、実際に話をしている映像として想像する。」
祥子「頭の中で、演劇してる感じ?」
剛太郎「そう、そう。人それぞれだと思うけど、僕にはそれがあってるかな。」
祥子「ほーーー、レクチャーありがとうございました。」
剛太郎「でも、テストの点数は上がりません。」
剛太郎と祥子、和気藹々としていた。
下校時間、いつもの一高の校門。剛太郎と祥子、クラスメートの和美と真奈美も一緒である。
真奈美「帰りに何か食べない?」
和美「何が良い?」
祥子「今日、うちの両親出かけてるから、夕ご飯くらい食べてもいいよ。」
真奈美「そう。じゃあ、剛太郎君に決めてもらおう。」
剛太郎「僕が、決めて良いの?」
和美「どこ行きましょうか?」
祥子「何でもいいよ。」
剛太郎「じゃあ、牛丼。」
真奈美「おお!いいねー。」
和美「流石、ヘビー級。」
祥子「じゃあ、行きましょう。」
高校生4人、牛丼屋を目指す。
牛丼屋に到着、テーブル席につく4人。
和美「ささ、メニュー、メニュー。」
真奈美「色々あるじゃん。あ、私、チーズのこれにしよ。」
祥子「じゃあ、私は並で。」
和美「私は、ヘルシータイプで。今晩、すき焼きだったの忘れてた。」
真奈美「そりゃ、帰って食べなきゃね。剛太郎君は?」
剛太郎「僕はいつもので。」
祥子「いつもの?」
剛太郎「店員さんにそう言えば、通じるから。」
和美「常連なのね。」
真奈美「じゃあ、ボタン押すね。」
程なくして、店員さんがオーダーを取りに来た。
店員の女性「お決まりですか?」
真奈美「私、並のチーズトッピング。」
祥子「並で。」
和美「ヘルシーの並で。」
店員の女性「あ、剛太郎君はいつものね。」
剛太郎「はい。中村さん、いつもありがとうございます。」
中村「何言ってるのよ、こっちこそ、ありがとうございます。」
オーダーを取り終わると、厨房へと向かう中村さん。
和美「流石、常連、顔パスね。」
真奈美「多分、剛太郎君入ってきた瞬間、もう作ってるとか?」
祥子「それはないでしょ。」
剛太郎「いや、この間、店長さんの時は、注文する前に、注文が来たね。」
和美「剛太郎君メニューなの?」
剛太郎「それしか頼まないから、覚えられてしまった。」
和美「毎回同じもので飽きないの?」
剛太郎「食に関して、あまりこだわりがないから、色々考えるより決めてた方が早いし。」
真奈美「早いはあるね。」
和美「食にこだわりがないって、剛太郎のお嫁さんは楽そうね。」
祥子「そんな、楽しないわよ、ちゃんとしたもの作るわよ。」
和美「なぜに、おぬしが怒るのだ?」
真奈美「もう、ちゃんと作ってあげてね。岩田祥子さん!」
剛太郎「い、いわたって・・・。」
祥子「ご、剛太郎君が困ってるじゃない。あ、牛丼来たよ、食べよう、食べよう。」
真っ赤になる剛太郎と祥子であった。
中村「さあ、おまちどおさま。チーズと並と、ヘルシーね。あとは、剛太郎スペシャルね。」
和美「名前からして凄そう。」
真奈美「デカっ!」
祥子「剛太郎君、これ凄いね。」
剛太郎「メガ盛りに、ご飯減らして、その分、肉を増やしてるんだ。あと卵トッピング。」
和美「焼き魚が乗っているのは何故?」
剛太郎「肉だけだと偏るから、鮭をトッピング。」
真奈美「トッピングって。」
剛太郎「鯖にするときもあるよ。」
和美「確かに、剛太郎スペシャルね。」
中村「こんなの頼むの他には居ないもんね。みんな覚えちゃったから。」
祥子「でも、鮭が食べたいときに、鯖が来たときは?」
剛太郎「出されたものは、食べる!」
真奈美「うん、武士だ。」
和美「漢だ。」
祥子「剛太郎君らしいね。」
中村「さあ、食べて食べて。」
4人「頂きまーす。」
食事を楽しむ4人。そこに、カウンターから怒鳴り声が聞こえてくる。
男「だから、おあいそって何回言ったらいいんじゃ。」
中村「すみません。」
剛太郎「何か、もめてるね。」
和美「あの人食べ終わってるよね。」
真奈美「お金払ってる感じ?」
祥子「レジに行けば良いのに。」
カウンター席では、男と店員の中村さんがもめていた。
男「さっき、おあいそって言っただろ、お金ここにおいとけばいいだる。」
中村「すみません、レジの方へお願いできませんか。」
男「さっきの女は、ここでいいと言ったぞ。レジに伝票持っていって、別の客のレジ打ってるじゃないか。どうなっとるんだ。」
中村「あのお客様は、レジに先に並ばれていたからですね・・・。」
男「いや、伝票を持ったのは、おれの伝票の方が先だろう。俺の方を先にやれよ。」
中村「そう言われても、、、ですね・・・。」
食事を終えた剛太郎が女子3人に声をかける。
剛太郎「助けてくる。」
和美「えっ。」
真奈美「行くの?」
祥子「やっぱり。」
もめている男と中村さんに、剛太郎が声をかける。
剛太郎「おじさん、何故レジに行かないんですか?」
男「ああ!俺の勝手だろ。普通、食堂は、カウンターに置いて帰るのが普通なんだよ。」
剛太郎「普通・・・ですか?」
男「普通だろうが。」
剛太郎「じゃあ、やかましいところで、ご飯食べるのは普通ですか?」
男「ああ、飯は静かに食うもんだろ、飯がまずくなる。それが普通だろ。」
剛太郎「ええ、普通そうですよね。じゃあ、貴方が怒鳴り散らしているところで、食べなくちゃいけない僕たちは、普通ですか?」
男「・・・・。」
剛太郎「周りの迷惑、考えてますか?」
男「・・・・。」
剛太郎「出口の横がレジですよね。あそこ通らないんですか?」
男「・・・・。」
剛太郎「足、悪いんですか?」
男「大きなお世話だ!」
そこへ、一人の女の子とその母親が、剛太郎の脇をすり抜け、レジに向かった。
剛太郎「中村さん、レジいいですよ。」
中村「お客様、すみません、ちょっと失礼しますね。」
男「おい、おれの方が先だろ!」
中村さんがレジを打とうとしたその時、
女の子「あのおじちゃん、急いでるんだよ。先にいいよ。だって急いでる人には、順番を変わってって、先生言ってたから。おじちゃん、先、いいよー。」
母親「あ、あの方先にどうぞ。」
中村「すみません、では、そちらでお待ち下さい。」
中村さんは、男のレジの精算をしようとする。
すると、男は剛太郎の横を通り、レジへと向かった。
男「お嬢ちゃん、ありがとうな。声荒げて申し訳ない。虫の居所が悪かってん。すまんな。おい、兄ちゃん、ありがとうな。」
そう言うと、男は去って行った。
何事もなかったような店内に戻った。剛太郎は、自分の席に戻った。
祥子「もうー、正義感の固まりなんだから。」
和美「まあ、剛太郎君には勝てない。」
真奈美「言葉でも勝てない。」
剛太郎「あの人は、引くに引けなくなっていたんだと思う。あの女の子に救われたね。出しゃばった僕もだけど。」
そこへ、店長と中村さんがやってきた。
剛太郎「店長さん、居たんですか?」
店長「居たよ。」
中村さん「店長は、最後の砦だからね。大概のことは、私たちで対応するんだけどね。」
店長「剛太郎君、ありがとう。」
剛太郎「いえ、あの女の子のお陰ですよ。僕は相手の駄目なところを非難しました。でも、あの子は、相手の困っていることに目を向けた。相手は否定すれば反発する。共感されると自分を省みる、相手を考えるようになる。あの子に教わりましたね。」
和美「よっ、哲学者!」
真奈美「子供は素直だからね。」
祥子「でも、あの子偉かったね。」
剛太郎「心に余裕を感じたね。」
店長「剛太郎君、君の代金は今日はいいよ。助けてもらったから。」
剛太郎「いえ、払います。あ、店長、さっきの女の子は、知ってます?」
店長「ああ、近くに住んでる子だよ。」
剛太郎「じゃあ、今度、あの子が来たときに、ご馳走してあげて下さい。」
和美「うん、武士だ!」
真奈美「漢だ!」
祥子「剛太郎君らしい。」
牛丼屋を出で、和美と真奈美と別れた、剛太郎と祥子。
剛太郎「相手を否定せずに肯定する、共感する。今の僕に必要なことだな。」
祥子「共感は、大事ね。」
剛太郎「同情ではなく、共感、これもまた、難しいね。」
クマリン「相手の立場に立ってみる、だね。」
マモリン「クマの世界でも大事、だね。」
祥子「でも、クマリン、クマエルを出し抜いて、色々やってそう。」
クマリン「見てたの?」
剛太郎「何かしたのか?」
クマリン「充電切れそうなときこっそり、クマエルの口に耳を・・・。」
祥子「ハムハムね。」
マモリン「クマリンらしい。」
クマリン「えっへん!」
剛太郎・祥子・マモリン「褒めてない!」
第六十六話に続く
一年ぶりに、戻ってきました。
転職、独立、学びと忙しい日々が続き、更新できていませんでした。
少しずつですが、更新していきます。