第六十三話 剛太郎の法律知識
剛太郎と加奈子がデート。降りかかる問題に、剛太郎の法律知識が活きる。
第六十三話 剛太郎の法律知識
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
休日、剛太郎は、加奈子をデートに誘った。駅前での待ち合わせである。剛太郎が一人待っていた。
剛太郎「もう来るかな?」
マモリン「あ、アレじゃない?」
リキリン「女版剛太郎だな。上下迷彩にクマちゃんリュック。決まっているな。」
加奈子も剛太郎に気づき、駆け寄ってくる。
加奈子「待たせたな。」
剛太郎「加奈子さん、もう走っても大丈夫なの?」
加奈子「ああ、平気だ。体がなまってしょうがないぞ。」
クマラル「久々のお出かけだね。」
クマウル「ズーッと、病院だったもんね。」
マモリン「今日は、クマウルもクマラルも一緒なんだね。」
リキリン「充電があるからな。」
クマラル「ぼくだけでもよかったんだけど、せっかくだからね。」
クマウル「クマラルに耳ハムハムしてもらって、充電でもよかったんだけど、やっぱりフル充電が気持ちいいもんね。」
マモリン・リキリン・クマラル「確かに!」
マモリン「僕とリキリンは、剛太郎にくっついているから、いつでもフル充電。」
リキリン「過充電かも。」
加奈子「充電ってどんな感じなんだ?」
クマラル「温泉にゆっくりつかって、リフレッシュって感じだね。」
クマウル「うんうん。」
剛太郎「じゃあ、加奈子さん、行こうか。」
加奈子「じゃみんな、口チャック。」
マモリン・リキリン・クマラル・クマウル「ハーーイ。」
歩き出す、剛太郎と加奈子。
加奈子「で、何処行くんだ?」
剛太郎「加奈子さんに紹介して貰った、ミリタリーショップだよ。」
加奈子「あそこ、気に入ったのか?」
剛太郎「うん、店長さんも気さくだし、迷彩グッズもいっぱいあるからね。」
加奈子「それは、よかったぞ。紹介した甲斐があったな。店長も喜ぶぞ。」
他愛もない話をしながら、ミリタリーショップを目指す二人であった。
ショップに到着した、剛太郎と加奈子。店長が浮かない顔をしていた。
加奈子「お、店長、どうした。腹でも壊したか?」
店長「ああ、加奈子ちゃんか。体はもういいのかい?」
加奈子「ああ、この通りだ。」
剛太郎「何かあったんですか?」
剛太郎が、店長に尋ねる。
店長「万引き被害だよ。」
加奈子「何盗られたんだ?」
店長「ドイツのヘルメット・・・。」
加奈子「ドイツのヘルメットって、非売品で店に飾っていたやつだろ。」
店長「そうなんだ。第二次大戦で実際に使われていたものだよ。」
剛太郎「犯人は、見つかったんですか?」
店長「見つかった、でも、ヘルメットは戻ってこなかった。」
加奈子「何でだ?」
店長「そいつが、中古ショップに売っていた。その後、売れたらしい。」
加奈子「取り戻せないのか?」
剛太郎「それは無理だね、第三者が善意取得した場合、取り戻せない。犯人に損害賠償請求するしかないんだよ。」
加奈子「そうなのか、残念だな店長。それで落ち込んでいるのか。」
店長「いや、そっちはもう諦めがついた。それよりこっちだよ。」
店長は、そう言って、スマホを剛太郎と加奈子に見せる。
加奈子「なになに、うん・・・、これは、ひどいな。」
記事にはこう書いてあった。
スマホの記事「急いでいたから、本人には言わなかったけど、この店のクロブチ眼鏡を掛けた店員の対応がひどい。ふてくされた顔、ありがとうございましたもない。マンネリ化している。この評価をみて、勉強しろ。」
剛太郎「これは、確かに、ひどいですね。」
店長「SNSに書き込むなら、直接本人に言えって思うよ。」
加奈子「店長の風貌みて、店長に直接は言えないぞ。」
店長「顔は厳ついのは生まれつき、ただ、買ってもらったお客さんには、必ず、ありがとうございましたって言っているけどな。」
加奈子「クロブチ眼鏡・・・、眼鏡かけているのは店長だけだもんな。まあ、こんなもん気にすることないぞ。店長は顔に似合わず、良い店長だぞ。」
店長「それ、褒めてんの?」
剛太郎「これは、あまりひどいようでしたら、警察か弁護士に相談することも出来ますよ。」
店長「そうなのか?」
剛太郎「威力業務妨害、名誉毀損にあたるかもしれません。あと、実際に損害が出た場合は、損害賠償請求出来ますよ。」
加奈子「犯罪になるのか?」
剛太郎「これくらいじゃ難しいかもしれなませんが、もっとエスカレートすれば、罪に問えると思いますよ。」
加奈子「店長、相手は誰か分かっているのか?」
店長「ああ、おおよそはな。うち、ポイントカードあるからな。SNSの書き込みに、名字があった。それとアカウントにアルファベットで、下の名前もあった。」
加奈子「若いやつか?」
店長「ああ、24歳だったかな。購入履歴調べて、防犯カメラで辿ったら、分かったよ。年に4回購入していたな。」
加奈子「店長、見覚えあるのか?」
店長「全くない。」
加奈子「個人的な恨みか、同業者とか?」
剛太郎「エスカレートするようでしたら、一度、警察に相談することをおすすめします。」
加奈子「警察は動いてくれるのか?」
剛太郎「犯罪ならね。刑法上の犯罪なら、警察は動くよ。威力業務妨害罪。あと、名誉毀損ならね。民事の法律違反で損害賠償請求では、警察は動かない。あと、損害賠償請求は、時効が3年だから、書き込みがエスカレートするなら、法的手段も考えた方が良いかも。告発されれば、大抵、相手が示談交渉してくるよ。」
店長「まあ、とは言っても、お客さんだからな。そこまで出来んよ。にしても、剛太郎君、法律に詳しいな。」
加奈子「剛太郎は、警察官志望だからな。」
店長「警察官に、自衛官か。夫婦げんかは大変そうだな。」
加奈子「ふ、夫婦げんかって・・。まだ、付き合ってもいないぞ。」
店長「そうなのか?」
笑いに包まれる店内であった。そこへ、店の従業員の一人が、店長へ声を掛ける。
従業員「店長、これは、何処に展示しますか?」
店長「ああ、奥のスペースに頼む。」
従業員「分かりました。」
加奈子「うん、店長、あの子、前から眼鏡かけていたか?」
剛太郎「そういえば、店員さん皆、眼鏡かけていますね。クロブチの・・・。」
店長「みんな、優しいからな。」
剛太郎「そういうことか。」
加奈子「剛太郎、どういうことだ?」
剛太郎「SNSに載っていたのは、クロブチ眼鏡の店員って事でしょ。」
加奈子「そうか、全員がクロブチ眼鏡を掛けていたら、誰か特定できないってことか。」
店長「その通り。」
加奈子「店長命令か?」
店長「おいおい、俺がそんな命令すると思うか?」
剛太郎「やっぱり、ここはいい店ですね。」
店長「ああ、みんな、いいスタッフだよ。」
幸せな気持ちに包まれつつ、買い物を楽しむ剛太郎と加奈子であった。
ミリタリーショップを後にした剛太郎と加奈子。
加奈子「すまんな、剛太郎。また、買って貰ったな。」
剛太郎「退院祝いだよ。そのブーツでよかったの?」
加奈子「ああ、編み上げブーツ欲しかったんだ。」
剛太郎「そう、よかった。」
加奈子「この後は、何処へ行くんだ?」
剛太郎「この前行ったパスタ屋さんだよ。」
加奈子「おお、それも楽しみだな。」
二人仲良く、パスタ屋を目指す剛太郎と加奈子であった。道の途中、二人の女性が言い争っていた。
おばさん「だから、ここは、私の土地なの。歩くときはもっと端っこ歩きなさいよ。」
お婆さん「殺生だねぇ。」
そこへ、みかねた加奈子がおばあさんに声を掛ける。
加奈子「お婆ちゃん、どうしたんだ?」
おばさん「あんた達に関係ないよ。これは、私たちの問題だから、首突っ込まないでくれる。」
おばあさんは、意気消沈した様子であった。
加奈子「おばさん、このおばあさんが何かしたのか?」
おばさん「私の土地を歩いていたんだよ。」
加奈子「おばさんの土地?」
おばさん「不法侵入よ。」
加奈子「お婆ちゃん、そうなのか?」
お婆さん「うちの家は、この袋小路の先なんだよ。ここを通らないと家から出られないんだよ。」
加奈子「裏に道はないのか?じゃあ、この道通るしかないだろ。おばさん、いいだろ、道通るくらい。」
おばさん「ここはね、先月亡くなった私の母から相続した土地なの。だから、この道も私のものなの。」
加奈子「そうなのか?」
困り果てた顔の加奈子とお婆さん。そこへ、剛太郎が切り出す。
剛太郎「お婆ちゃん、この道は何年くらい通っているの?」
お婆さん「そうだねぇ。私がお嫁に来てからだから、50年くらいになるかねぇ。」
剛太郎「50年か。十分だね。」
おばさん「何が十分なの。この土地は、相続した私の土地なの。」
剛太郎「ええ、確かに、この土地はおばさんのものです。ただし、通行権はお婆さんにもあります。」
加奈子「剛太郎、本当か?」
剛太郎「うん。こんな袋小路の場所には、通行権が発生するんだ。民法210条に記載されているよ。それに民法の283条で時効取得もあるよ。善意の通行権で10年。悪意の通行権で20年だよ。」
加奈子「ということは、20年通り続けていたら、通行する権利が発生するって事か?」
剛太郎「まあ、平たく言うとそうなるかな。」
おばさん「そんなの知らないわよ。土地は所有者に権利があるはずよ。」
剛太郎「確かに、所有権いわゆる財産権は、何者にも侵されない。ですが、公共の福祉を除くということです。」
加奈子「公共の福祉?」
剛太郎「端的に言うと、個人の所有権は公共の利益のためには、制限されるってこと。」
加奈子「じゃあ、今の状況がまさに当てはまるって事だな。」
おばさん「そんなこと、あるわけないじゃない。私のものは私のものよ。」
そこへ、後ろから二人の男性が声を掛ける。
おじさん「そういうと思って、本職を連れてきたぞ。」
おばさん、お婆さん、剛太郎、加奈子が振り返る。そこには、年配の男性と若い男性が立っていた。
おじさん「わしもこの先の住人だ。あんたが言うことが正しいかどうか、弁護士を連れてきた。彼は弁護士だ。わしの甥だ。」
弁護士「皆さん、初めまして。先ほどのいきさつを聞いておりました。この事案の場合、確かに通行権は認められます。通行地役権の設定登記しておくのがいいでしょう。土地家屋調査士と司法書士に頼めば設定できますよ。彼の説明に納得されていないようですね。あちらで、お話しいたしましょうか。」
おばさん「分かったわ。行きましょ。」
弁護士「叔父さん、先に行ってください。あとから追いかけます。」
そう言うと、おじさんとおばさんは、去って行った。
弁護士「君、大学生?」
弁護士が剛太郎に話しかける。
剛太郎「いえ、高校生です。一高です。」
弁護士「一高か?じゃあ、僕の後輩だね。」
剛太郎「そうなんですか?」
弁護士「いや、君の法律知識は大したものだね。将来は、弁護士目指しているの?」
加奈子「違うぞ、剛太郎は警察官志望だぞ。」
剛太郎「法律を勉強するのが好きなんです。大学は法学部へ行くつもりです。」
弁護士「警察官なんだね。その体格だしね。でも、そこまで法律が好きなら、検事を目指してもいいんじゃないか?」
剛太郎「検事・・・ですか・・・。」
弁護士「まあ、気が向いたら、訪ねてきてくれ。一度じっくり話してみたいな。一応、名刺を渡しておくね。」
そう言い残し、弁護士は去って行った。
加奈子「じゃあ、私たちも行くか。お婆ちゃん、気をつけてね。」
お婆さん「お二人さん、どうもありがとうね。」
お婆さんと別れ、パスタ屋を目指す剛太郎と加奈子であった。
歩きながら話す、剛太郎と加奈子。
加奈子「検事って、裁判の時に質問する人だな。」
剛太郎「うん。でも司法試験に受かる自信ないな。」
マモリン「検事か。剛太郎に尋問されたら、正直に話しちゃうね。」
リキリン「司法試験って、むちゃくちゃ難しいんでしょ。」
クマラル「剛太郎は、やっぱり警察官って感じだよ。」
クマウル「制服フェチだもんね。」
剛太郎「まあ、大学行ってから考えるよ。」
加奈子「司法試験なら裁判官もありえるぞ。」
マモリン「剛太郎に判決を下されたら、へこむなー。」
剛太郎「クマリン、痴漢の迷惑防止条例違反で、罰金30万!」
マモリン・リキリン・クマラル・クマウル「ひえぇ~~~。」
夏目家。
クマリン「ヘックション。」
祥子「クマリン、風邪?ぬいぐるみでも風邪ひくの?」
クマリン「誰か、噂しているな。クマリンカッコイーって。」
祥子「それは、ないと思う・・・。」
第六十四話につづく。
第六十四話に続く。第六十四話も書きます。