第六十話 剛太郎、職務質問に遭遇
剛太郎が職務質問の現場に遭遇する。
第六十話 剛太郎、職務質問に遭遇
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
夏目家の二階、クマリンとクマエル、祥子が話をしている。
クマリン「えっとね、僕が剛太郎のところに来た理由なんだけど。」
祥子「ふむふむ。」
クマエル「ぼくが来る前の話だね。」
クマリン「そう、僕らは意識体って話はしたよね。」
クマエル「うん、意識体、意識体。」
祥子「幽霊?」
クマリン「うーん、怖くない幽霊みたいな感じだね。」
クマエル「霊っていうか、御神体の一部って感じだよ。」
祥子「二人とも、神様だもんね。」
クマリン「神様的な扱いは、されていないような・・・。」
クマエル「まあ、ぼくらはクマちゃんだからね。」
祥子「それで、クマリンは何で剛太郎君のところに来たの?」
クマリン「じゃあ、中学時代の剛太郎の話からしようか。」
祥子「中学時代って、クマリンまだ来てないよね、何で知ってるの?」
クマエル「クマちゃん達の記憶だね。」
クマエル「そう、僕らがクマちゃんに入るとき、そのクマちゃんの記憶が入ってくるんだ。」
祥子「それでか、クマリンが幼なじみの南ちゃんの事知ってたもんね。」
クマリン「でね、剛太郎の中学時代なんだけど、今より一回り小さくした感じで、ほとんど変わっていなかったらしい。」
祥子「そうなの?」
クマリン「剛太郎の第一印象は?」
クマエル「ゴツい、怖い、近寄りがたい。」
祥子「確かに、そうね。」
クマリン「剛太郎は、悩んでいたらしい。何で、自分には女の子の友達が出来ないんだろうって。」
祥子「剛太郎君も、男の子だね。」
クマリン「中学三年の時なんか、夏祭りで高校生の女子から声を掛けられたらしいんだけど・・・。」
祥子「剛太郎君を逆ナン?物好きな・・・。」
クマエル「自分に言ってない?」
祥子「で、結果は?」
クマリン「顔真っ赤にして、一言も喋れず、撃沈。」
祥子「剛太郎君・・・、ウブすぎる。」
クマエル「まあ、剛太郎ですからね。」
クマリン「剛太郎は、人見知りだからね。特に女子には。それで、剛太郎は、家のクマちゃん達に悩みを告白してたんだ。」
祥子「女の子と仲良くなれますように?」
クマエル「さすが、剛太郎の彼女候補No1だね。」
クマリン「そのクマちゃん達の願い、叫びが僕のとこに届いたの。」
祥子「何故、クマリンのとこなの?」
クマエル「一番をお願いしますって事だよ。」
祥子「一番?」
クマエル「そう、一番。クマリンは四大天使のガブリエル。ガブリエルは愛の大天使、コミュニケーションの神様なの。」
クマリン「もの凄い願いの力だったね。こりゃ一大事って感じだった。」
祥子「それで、剛太郎君のところに?」
クマリン「そう、僕は、剛太郎に愛を教えるためにやってきたの。」
クマエル「クマリン、カッコいい。」
祥子「クマリンは、断ったりしなかったんだ。」
クマリン「うん、どんな男なのか気になったしね。」
クマエル「で、あまりの朴訥さに超ビックリ。」
クマリン「武士か?江戸時代か?ってくらい堅物。」
祥子「確かに、最初は敬語だったもんね。」
クマリン「その朴訥さを柔らかくするのが、僕の役目って事。」
祥子「うん、だいぶ柔らかくなったね。」
クマリン「祥子やみんなの力で、ここまでこれたと思う。」
クマエル「ここからが、勝負なんじゃない?」
祥子「勝負?」
クマリン「加奈子ちゃんだよ。彼女もプリンセスだし、ラファエルのクマラル、ウリエルのクマウルもいるしね。」
クマエル「智の神、癒やしの神か・・・、強敵だな。」
祥子「勝算は?」
クマエル「お、祥子もやる気になってきたね。」
クマリン「加奈子は剛太郎と同類、一緒に居て心地いい、祥子は剛太郎を包み込む優しさがある。今のところ、祥子が一歩リードしてると思う。」
クマエル「彼女にするなら加奈子、結婚するなら祥子だな。」
祥子「いやいやいや、まだ、結婚は、早いわよ。」
クマリン「そう?両親の同意があれば、18歳でも出来るよ。」
クマエル「祥子のパパリン、ママリンは、大賛成じゃない?」
祥子「まだ、就職もしてないのに、結婚は無理よ。その前に、剛太郎君から告白もまだだし。」
クマリン「そうだった。」
クマエル「そこが、問題だな。」
祥子「そうそう、ゆっくりでいいの。」
クマエル「勝算と言えば、クマリン、ウリエルに鬼ごっこ勝ったことないね。」
クマリン「ウリエル、ああ、クマウル頭いいんだもん。」
祥子「それ、駄目じゃーん。」
笑いに包まれる、祥子とクマリン、クマエルであった。
翌日、一高の校門、いつもの下校時間である。剛太郎と祥子が話ながらの下校である。
祥子「剛太郎君、昨日は大丈夫だった?」
剛太郎「うん。お父さんの同級生と食事会だったよ。僕が、亡くなった同級生の一人に似ているらしい。」
祥子「そうだったの。」
昨晩の事を話しながら、歩く二人。交差点のところで、警察官と若者が揉めているのを見つける。
警察官と外国人らしき男が話をしている。
警察官「パスポートはあるんですか?」
外国人の男「エエ、アリマス。ジタクニオイテイマス。」
警察官「ここで、何をしているんですか?」
外国人の男「キョウ、シゴトガヤスミデ、ショッピングニキマシタ。」
警察官「国籍は?」
外国人の男「ベトナムデス。」
警察官「ちょっと、そこの交番までご同行願えませんか。」
ベトナム人の男「ソレハ、チョットムリデス。イソイデマス。」
警察官のベトナム人への職務質問が行われていた。
剛太郎と祥子には、ベトナム人が困っているように見えた。
剛太郎「揉めてるようだね。」
祥子「行ってみる?」
剛太郎と祥子が、揉めている警察官とベトナム人の男のところに向かった。
警察官とベトナム人の話がヒートアップしていた。
警察官「ですから、少しの時間ですみますから・・・。」
ベトナム人の男「ナゼデスカ、ボクガナニカシタンデスカ・・・。」
剛太郎が話しかける。
剛太郎「どうしたんですか?」
警察官「あ、今、職質中なの、学生さんには関係ないから、早く行って。」
祥子「何かあったんですか?」
警察官「この先で、ひったくり事件があってね。容疑者が外国人らしいので、職務質問中だよ。」
剛太郎「外国人ってアジア人ですか?」
警察官「いや、外国人ということだけだが。」
剛太郎「あっちに、白人の外国人の方もいるようですが、あの人へは職質は?」
警察官「いや、まだだよ。」
ベトナム人の男「モウ、イッテイイデスカ?」
警察官「まだ、終わっていませんよ。それと、君たち高校生には関係ないから、早く行きなさい。」
剛太郎「お兄さん、お名前は?」
ベトナム人の男「ヤム、トイイマス。」
剛太郎「ヤムさん、安心してください。僕らが通訳しますから。」
警察官「彼は、日本語分かるんだから、通訳は必要ないよ。」
ヤム「オネガイシマス。」
剛太郎「ガン・ウン。」
警察官「がんうん?」
剛太郎「ベトナム語でありがとうという意味です。」
そこへ、ちょっと大柄な男性が近づいてきた。
大柄な男「剛太郎君かな?」
剛太郎「えっ。」
剛太郎が振り向くと、そこには、昨晩一緒に食事をした、祥子父一郎の同級生、江上拓也が立っていた。
江上「どうした、剛太郎君、何か、もめ事か?」
剛太郎「え、江上さん。何故ここに?」
江上「仕事でな。どうしたんだ?」
剛太郎「ええ、実は・・・。」
斯く斯く然々、説明をする剛太郎。怒りの表情に変わる江上。警察官へ逆に質問していく。
江上「あなた、何処の所轄ですか?」
警察官「言う必要はありません。」
江上「ほう、では、警察手帳を提示して頂けませんか?」
警察官「必要ないでしょう。この格好みれば分かるでしょう。」
江上「あなたがやっているのは、アジア人いじめじゃないですか?」
警察官「あくまで、職務質問です。」
江上「では、任意という事ですよね。」
警察官「任意です、だから、お願いしているんです。」
江上「では、先ず、私に職務質問してみてください。」
警察官「あ、あなたにですか?」
江上「ええ、職務質問は、こんな感じなんだと、あのベトナムの方に見せたいんです。その後なら、受けてもらえるんじゃないですか?」
警察官「ええ、分かりました。じゃあ、あなたに先に、質問します。」
剛太郎「あのー、この方は・・・。」
江上「剛太郎君、いいんだ。このまま続けよう。剛太郎君、私のスマホで動画撮影頼めるかな?」
警察官「動画ですか。肖像権侵害ですよ。」
江上「証拠として残すだけです。顔は撮りませんので。」
警察官「まあ、いいでしょう。では、ご職業は?」
江上「警察関係です。警察といっても事務系ですが。」
警察官「警察事務の方ですか。それで、入ってこられたんですね。そんな正義感ぶっても・・・。」
江上「今日は、東署に用事がありまして、今から伺うところです。」
警察官「えっ、私も東署管轄です。ご用とは?管轄は何処です?」
江上「県警本部です。後藤署長に用事がありまして。」
警察官の表情がこわばる。そこへ、先輩警察官がやってくる。
先輩警察官「武藤君どうした。容疑者は向こうの通りで確保したぞ、うん。」
先輩警察官が、江上を見て驚く。
先輩警察官「え、え、江上本部長・・・、ど、どうされたのですか!」
江上本部長「ああ、北沢君か、久しぶりだな。今日、後藤署長と食事なんだよ。いや、今、武藤君に職質を受けていたところだ。」
警察官武藤巡査の血の気が引いていく。
北沢「本部長に・・・職質?はああーーー?武藤君、どういう事だ?」
武藤巡査「いえ、あの、その・・・。」
剛太郎「だから、この方は、県警の本部長さんだって言いかけたのに。」
江上「北沢巡査部長、武藤巡査は何年目かな?今年の警察学校卒業式にはいなかったから、2年目かな。」
北沢巡査部長「は、はい、彼は2年目の巡査です。」
江上「武藤巡査、自分の県警本部長の顔くらい覚えておくように。それに、警職法をもう一度勉強し直しだな。」
武藤巡査「申し訳ありません!!!」
深々と頭を下げる武藤巡査。
江上本部長「武藤巡査、職務質問の際、警察官は所轄、氏名を尋ねられた場合、名乗らなければならない。」
武藤巡査「はい!」
江上本部長「警察手帳の提示を受けた場合は、提示しなければならない。」
武藤巡査「はい!」
江上本部長「職務質問は、あくまで任意である。執拗に行ってはならない。執拗な職質は違法だと、最高裁判例も出ている。」
武藤巡査「はい!」
江上本部長「君は警察官だ、警察官は公務員だ。公務員の公務中、肖像権は発生しない。」
武藤巡査「はい。肝に銘じます!」
北沢巡査部長「江上本部長、申し訳ありません。私の監督不行き届きです。」
江上本部長「いやいや、彼の仕事に対する熱意には、感心するが、そのやり方を間違えないように指導をお願いしたい。」
武藤巡査・北沢巡査部長「申し訳ございませんでした。」
江上本部長「謝罪する相手が違うぞ。」
はっとする、警察官二人。
武藤巡査「ヤムさん、申し訳ありません。」
ヤム「モウイインデスカ?デハ、シツレイシマス。ゴウタロウサン、ガン・ウン」
ベトナム人のヤムさんは、去って行った。警察官二人と江上本部長も東署へ、剛太郎・祥子と別れた。
再び、家路を急ぐ、剛太郎と祥子。
祥子「一件落着ね。」
剛太郎「まさか、江上本部長と再会するなんて、びっくりしたよ。」
次の瞬間、二人のスマホに同時にラインが入る。
祥子「なんだろ。」
剛太郎「僕のも鳴ったよね。」
お互いのスマホを確認する二人。
祥子「え、ええーーー。」
剛太郎「・・・加奈子さん・・・入院?」
第六十一話に続く。
第六十一話に続く。第六十一話も書きます。