第五十四話 親友の死
突然の親友の死、剛太郎は受け止められるか。
第五十四話 親友の死
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
いつもの下校時、祥子と剛太郎が帰宅中である。
祥子「剛太郎君、今日、お邪魔していいかな。」
剛太郎「ああ、構わないよ。何か、用事?」
祥子「うん。昨日、お父さんが旅行から帰って来たんだけど、剛太郎君家にお土産を渡してきて欲しいって頼まれたの。食べ物だから、早いほうがいいって、今朝、預かってきたの。」
剛太郎「そんな、わざわざ、すまないね。みんな喜ぶよ。」
そう言って、岩田家を目指す、剛太郎と祥子であった。
岩田家に着く寸前、剛太郎のスマホが鳴る。
剛太郎「あ、母さんからだ。」
電話に出る剛太郎。
剛太郎「もしもし、母さん、どうしたの?えっ、英和君が・・・。分かった、すぐ帰るから。」
祥子「どうしたの、剛太郎君。」
剛太郎「友達が・・・、亡くなったらしい・・・。」
祥子「えっ・・・、亡くなった・・・。」
剛太郎「・・・急ごう。」
急ぎ、岩田家を目指す剛太郎と祥子であった。
自宅に着いた剛太郎、祥子も一緒である。リビングにいた剛太郎母幸子に話しかける。
剛太郎「母さん、英和君が亡くなったって。病気?事故?」
剛太郎母幸子「交通事故らしいわ、今夜が通夜で、明日がお葬式だそうよ。」
持っていたスクールバックを落とし、膝から崩れ落ちる剛太郎。
剛太郎「そ、そんな・・・。」
下を向き、涙を流す剛太郎。祥子が声をかける。
祥子「剛太郎君、大丈夫?」
剛太郎母幸子「吉田君とは、仲良しだったからね。・・・残念ね。あ、祥子ちゃん、こんな時に申し訳ないんだけど、ちょっと、お留守番頼めない?」
祥子「あ、ええ、私は構いませんけど。」
剛太郎「通夜のお手伝いだね。」
剛太郎母幸子「そう、ご近所がお通夜の受付しなくちゃいけないから。10時までには戻ってくるわ。帰りはうちの人が、祥子ちゃんを車で送っていくから。」
祥子「分かりました。あ、これ、父からの言づてです。旅行のお土産みたいです。こんな時にすみません。」
剛太郎母幸子「わざわざ、ありがとうね。今日子ももうすぐ帰ってくるから。剛太郎は、今日子と後から来てね。」
剛太郎「うん。分かった。」
剛太郎母幸子「じゃ、行ってくるわね。」
剛太郎母幸子が、通夜会場へ向かう。
祥子「大変なことになったわね。」
剛太郎「祥子ちゃんは、大丈夫なの?」
祥子「ええ、大丈夫よ。あ、家に連絡入れとくね。」
祥子が、自宅へ斯く斯く然々連絡をする。そこへ、剛太郎妹今日子が帰ってくる。
剛太郎妹今日子「たっだいまーーー。」
剛太郎「お帰り。」
祥子「お帰りなさい。」
剛太郎妹今日子「あら、祥子さん、来てたんだ。あれ?お母さんは?」
剛太郎「通夜だ。」
剛太郎妹今日子「えっ、誰の?」
剛太郎「英和君だ。」
剛太郎妹今日子「英和君?えっ、吉田英和君?お兄ちゃんの親友の?」
祥子「剛太郎君の・・・親友・・・。」
剛太郎「交通事故らしい。」
剛太郎妹今日子「お兄ちゃん、大丈夫?」
剛太郎「ああ、大丈夫だ。じゃあ、今から行こう。祥子ちゃん、お留守番お願い。」
祥子「うん。気にしないで。」
剛太郎「お参り終わったら、すぐ戻るから。今日子、行こうか。」
剛太郎妹今日子「うん。お参りだね。」
祥子に留守番を頼み、今日子と通夜会場へ向かう剛太郎であった。
通夜会場である。剛太郎の両親他、近所の者が受付をしている。剛太郎と今日子が会場へ到着する。通夜の式は、終わっていた。剛太郎母幸子が剛太郎達に気づく。
剛太郎母幸子「剛太郎、こっち、こっち。」
剛太郎「あ、母さん。」
剛太郎父達夫「剛太郎、ビックリしただろう。」
剛太郎「父さん・・・。」
剛太郎父達夫「剛太郎、英和君のご両親に挨拶してきなさい。もちろん、英和君にもね。」
剛太郎「分かった。今日子、行こう。」
剛太郎と今日子が、英和君の両親の元へ歩く。
英和君の両親へ声をかける剛太郎。
剛太郎「こんばんは。剛太郎です。」
剛太郎妹今日子「今日子です、こんばんは。」
英和父「おお、剛太郎君か。久しぶりだな・・・。ふう、こんなことになって・・・。」
英和母「剛太郎君、今日子ちゃん、ありがとう。先に、英和に会ってきて・・・。」
剛太郎は会釈し、中央の棺桶に進む。焼香を済ませ、棺桶のそばに来る。棺桶の扉は開いていた。中をのぞき込んだ剛太郎。その瞬間、涙が止まらない。剛太郎妹今日子も、泣いている。
英和母「アルバイトの郵便配達中にね、車と接触したらしいの。その時は、なんともなかったらしいんだけど、翌日ね・・・。」
英和母が、言葉を詰まらせる。
剛太郎「病院へは?」
英和母「・・・翌日ね・・・、具合が急変して・・・、病院へ行ったときは・・・、もう・・・。」
更に言葉を詰まらせる英和母。
剛太郎「そうですか・・・。」
英和父「脳内出血らしい。・・・片腕を・・・もがれた気持ちだよ・・・。」
剛太郎「・・・。」
英和父「あの遺影の写真、就職の履歴書用に撮った写真だよ。」
剛太郎「車の整備士・・・でしたよね・・・。」
英和父「第一希望のメーカーに、就職もほぼ内定しててね。高校卒業したら、車を買うんだって、アルバイトしてたんだよ。」
剛太郎「知っています。第一希望に決まっていたんですね。英和君、あのメーカーが好きでしたからね。」
英和母「綺麗な顔してるでしょ・・・。母さん、お腹すいた、何かない?って、話し出しそうでしょ・・・。」
英和父「・・・そうだな・・・。」
剛太郎「食いしん坊だったからな・・・、英和君・・・。」
英和母「剛太郎君、今日はありがとうね。」
英和父「英和も、剛太郎君に会えて、嬉しがってるよ。」
息子の死に直面しながらも、気丈に振る舞う英和の両親であった。
剛太郎「では、失礼します。今日子、行こうか。」
剛太郎妹今日子「・・・うん・・・。」
深々と英和両親に頭を下げる、剛太郎と剛太郎妹今日子であった。
帰ろうとする剛太郎達に声をかける、剛太郎母幸子。
剛太郎母幸子「先に、帰っててね。私たちも、後から帰ってくるから。」
剛太郎父達夫「祥子さんに、お礼を言っといてくれ。あ、後から、父さんが送るからな。」
剛太郎「うん。分かった。」
そう言うと、剛太郎と剛太郎妹今日子は会場をあとにし、自宅へと向かった。
自宅へ戻った、剛太郎と剛太郎妹今日子、リビングで祥子と話していた。
祥子「お疲れ様。」
剛太郎「祥子ちゃん、お留守番、ありがとうね。」
剛太郎妹今日子「祥子さん、晩ご飯、ごちそうさまでした。」
祥子「お口にあったかしら。」
剛太郎妹今日子「うん。美味しかったよ。」
祥子「今日子ちゃん、ありがと。で、どうだったの。」
剛太郎「あ、英和君かい。郵便配達のアルバイト中に、車と接触して、翌日に脳内出血で亡くなったらしい・・・。」
祥子「そう・・・、残念ね。」
剛太郎妹今日子「お兄ちゃん、英和君と仲良かったもんね。」
剛太郎「ああ、英和君は小学校4年生の時に転校してきたんだけど、それから中学校3年まで一緒に遊んでいたもんな。」
祥子「気があったの?」
剛太郎「うん。背格好も同じくらいで、いつも一緒に遊んでいた。転校生だったから、始めいじめみたいなのがあったときに、僕がホームルームの時間に問題提議したんだ。英和君を何故いじめるのかってね。」
祥子「剛太郎君、いじめは許せないもんね。」
剛太郎「その時ね。クラスの男子と対立してしまって、僕は英和君と二人で遊ぶことが多くなった。」
祥子「剛太郎君までいじめの対象に?」
剛太郎「いじめじゃないよ。クラスの雰囲気は良かったよ。ただ、遊ぶのが二人が多かっただけだよ。」
祥子「そうなんだ。」
剛太郎「いつも二人で遊んでいたから、野球とかサッカーとか球技が全くやらなかったんで、超へたくそになったよ。」
祥子「それで、球技が下手ってことなのね。」
剛太郎「棺桶の英和君見たら、・・・涙が止まらなかったよ・・・。」
祥子「そうね・・・。」
剛太郎「遺影の写真、車メーカーに就職するための履歴書写真だったよ。凜々しくなってたな・・・。」
祥子「車の整備士志望だったの?」
剛太郎「そう。第一志望のメーカーに、ほぼ内定していたらしい。」
祥子「ご両親、いたたまれないでしょうね。」
剛太郎「交通事故だからね。ご両親も、肩を落とされてた。お父さんは、片腕をもがれた感じだって。」
祥子「悲痛な叫び・・・だね。」
剛太郎「英和君のために、決めたことがあるんだ。」
祥子「何?」
剛太郎「うん。将来、車の免許を取って、車を買うと思うんだけど、彼が就職しようとしたメーカーの車しか買わないって。」
祥子「そう、それはいいかもね。」
剛太郎「僕も彼が就職しようとした車メーカー、好きだからね。」
祥子「親友だもんね。」
剛太郎「明日、お葬式で彼に言ってくるよ。」
祥子「無理するなよって、言われるんじゃない?」
剛太郎「僕は意志が強いから、大丈夫。」
剛太郎妹今日子「お兄ちゃん、意志が強いんじゃなくて、頑固だもんね。」
祥子「そう、頑固だもんね。」
そこへ、剛太郎の両親も帰ってきた。リビングに入ってくる。
剛太郎母幸子「祥子さん、お留守番、本当にありがとうね、助かったわ。」
剛太郎父達夫「祥子さん、いきなりのお願いですまなかったね。」
祥子「いえ、私は大丈夫です。明日がお葬式ですか。」
剛太郎母「そう。明日も受付しなくちゃいけないから。式はお昼からだから。」
剛太郎「僕も出席した方が良いかな。」
剛太郎父達夫「いや、葬儀終了後に、吉田さんの家にお参りに行きなさい。その方が良い。」
剛太郎「分かった、そうするよ。」
剛太郎父達夫「祥子さん、遅くなったね。今から送ろう。」
剛太郎「僕も行くよ。」
祥子「じゃあ、お願いします。」
剛太郎母幸子「祥子さん、また来てね。お土産ありがとうね。」
剛太郎妹今日子「祥子さん、またねー。」
玄関に出る、剛太郎、剛太郎父達夫、祥子の3人。剛太郎父達夫が車を出し、祥子と剛太郎が乗り込む。車内で話す、剛太郎と祥子。
祥子「親友が亡くなるなんて。」
剛太郎「祥子ちゃんの親友は?」
祥子「南ちゃんかな。今、南ちゃんが死んだら・・・、ショックよね。今、剛太郎君がその状態なのね。」
剛太郎「中学卒業して3年経ってるから、でも・・・英和君の顔見てたら・・・。」
剛太郎父達夫「・・・辛いか、剛太郎。」
剛太郎「父さん・・・。」
剛太郎父達夫「父さんの歳になると、同い年の友人が亡くなることはあるけどな。剛太郎の歳で経験はなかったな。・・・受け止められるか?」
剛太郎「受け止めるしかないよ。」
剛太郎父達夫「乗り越えるしかないぞ。」
剛太郎「ああ、分かってる。」
そうこうしているうちに、夏目家に到着。玄関に祥子父一郎と祥子母律子、祥子弟蒼太が出てきた。
祥子父一郎「お父さん、わざわざありがとうございます。連絡頂ければ、私が迎えにいったんですが、すみませんね。」
剛太郎父達夫「いえいえ、こちらが留守番をお願いしたんですから。」
祥子母律子「剛太郎君、大変だったわね。」
剛太郎「はい。驚きました。」
剛太郎父達夫「剛太郎、帰るか。では、皆さん失礼します。」
祥子「剛太郎君、また、明日ね。」
剛太郎「うん。また明日。」
剛太郎と剛太郎父達夫が、車に乗り込み、夏目家を後にする。
岩田家に戻る車内の様子。
剛太郎「父さん・・・。」
剛太郎父達夫「おもいっきり・・・、泣いていいぞ・・・。」
剛太郎「ううっ・・・、ううっ・・・、うわーーーーーーーー。」
突然の親友の死、緊張の糸が切れたのか、車の中で大号泣する剛太郎であった。
第五十五話に続く。
第五十五話に続く。第五十五話も書きます。




