第五十二話 剛太郎、火災現場へ出動
レンジャーに間違われた剛太郎、火災現場で人命救助?
第五十二話 剛太郎、火災現場へ出動
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
消防署で職場体験の剛太郎。レンジャーの石田と間違われ、なんと、火災現場へ出動。自家用車タイプの赤い車で、現場に到着である。
消防隊員1「岩田さん、申し遅れました。私、今年配属になった、今井と申します。隣の署に配属になりました。よろしくお願いします。今回は、後方支援で、野次馬整理です。」
剛太郎「はあ、ここは?」
今井「火災現場です。」
剛太郎「現場?訓練ですか?」
今井「いえ、実際の火災現場です。さあ、ここは、私が受け持ちます。前線へ行ってください。さあ、早く。」
剛太郎「わ、分かりました。」
急ぎ、前線へ向かう剛太郎。
火災現場前線、民家の一軒家が燃えていた。一人の女性が叫んでいる。
女性「こ、子供が、3歳の娘が、まだ居るんです。助けてください、お願いします。」
前線へ到着した剛太郎に、泣きついてくる女性。
剛太郎「そうなんですか?娘さんの名前は?」
女性「かすみ・・・、香澄です。」
消防隊員が駆け寄ってくる。
消防隊員2「おお、君は、応援か、ありがたい。おい、だれか、この女性を救急車へ頼む。」
女性消防隊員に、女性の保護を頼む、消防隊員2。
消防隊員2「まだ、一人居るようだな。」
剛太郎「そのようですね。」
消防隊員2「君、放水銃は使えるか?」
剛太郎「はい、使えます。」
消防隊員2「じゃあ、突入口に放水を頼む。火が弱まったら、突入だ。私は、隣の署の室井だ。君は?」
剛太郎「岩田です。」
室井「岩田?今日配属のレンジャーか?心強いな。名前は石田じゃなかったか。石と岩と読み間違えたかな。まあいい、放水を頼む。」
家の玄関へ向け放水をする剛太郎。
室井「もういいだろう。さあ、岩田君、いくぞ。」
剛太郎「はい。」
剛太郎は、放水銃を他隊員に渡し、室井とともに、屋内へ突入する。
室井「おーーーい。どこだーーー。」
剛太郎「かすみちゃーーーん、どこだーーー。」
室井「かすみちゃんと言うのか、よし、かすみちゃーーーん、どこだーーー。」
剛太郎「かすみちゃーーーん。」
女の子の声「ここーーー。」
台所から声が聞こえる。
室井「あっちだ。」
台所へ向かう、室井と剛太郎。
台所へ続くドアを開ける。煙が充満していた。見ると、テーブルの下で座っている女の子を発見する。子供の背の低さが功を奏し、煙を回避出来ていた。
室井「かすみちゃんだね?」
香澄「うん・・・。」
室井は香澄の元に寄り添い、自分のハンカチを香澄の口元に当て抱きかかえる。剛太郎も安心した様子。しかし、次の瞬間、天井が崩れ落ちてくる。室井は、香澄を守るため消防服の中に香澄を巻き込んで守る。室井と香澄、二人とも目を閉じる。
剛太郎「マモリン、リキリン、頼む!」
マモリン「建御雷神降臨。エゾヒグマパワーソロ2.5。」
リキリン「雨手力男命降臨。エゾヒグマパワーソロ2.5、ダブルパワー5発動。」
剛太郎「ふおおおおーーーーー。」
目を開ける室井、自分の真上から落ちてきた天井を、両手で支えている剛太郎を目撃する。
室井「岩田君・・・、大丈夫か・・・。」
剛太郎のパワーに驚きを隠せない室井。
剛太郎「大丈夫です。早く、玄関へ。」
室井「ああ、分かった。」
足を引きずりながら、香澄を抱え、玄関へ向かう室井。剛太郎も、天井を投げ飛ばし、玄関へと向かう。
剛太郎「室井さん、大丈夫ですか?」
室井「ああ、足を少しひねっただけだ。」
剛太郎「香澄ちゃん、代わります。」
室井「すまんな。」
香澄を剛太郎が抱きかかえる。
剛太郎「香澄ちゃん、ハンカチで口と鼻を押さえられる?」
香澄「うん、出来る。」
剛太郎「室井さん、僕が肩を貸します。掴まってください。」
室井「すまん。肩借りるぞ。」
剛太郎「行きましょう。」
突入口へ向かう3人。
建物の外で待つ女性と消防隊員達。そこへ、石井隊員と職場体験中の3人もやってくる。
石井が今井に話しかける。
石井「消防無線で、レンジャーと室井さんが突入したと聞いたので、もしやと思い駆けつけました。」
野次馬整理担当の今井が答える。
今井「えっ、レンジャーの岩田さんですか?先ほど突入したようです。」
石井「やっぱり。」
今井「岩田さんは、レンジャーなんですよね。」
野村「剛太郎、いや、岩田君は、高校生です。職場体験で、今日、訓練体験に来ていたんです。」
今井「えええええええーーーーーー。」
石井「大丈夫か・・・。」
そうこうしているうちに、玄関に人影。剛太郎が右肩で室井を支え、左手で香澄を抱きかかえて脱出してきた。剛太郎は、疲労困憊の様子である。
女性「かすみーーー。」
香澄「ママーーー。」
女性が剛太郎に駆け寄り、香澄を抱きかかえる。泣きながら、剛太郎に深々と頭を下げる。
女性「ありがとうございました。本当に、ありがとうございました。」
香澄「お兄ちゃん、凄いんだよー。すっごい力持ちなんだよー。」
そう言うと、女性と女の子は、女性消防隊員に連れられ、救急車で病院へと搬送された。
石井も剛太郎達の元に駆け寄る。室井に肩を貸し、話しかける。
石井「室井さん、大丈夫ですか?」
室井「ああ、石井君か。君の部隊のレンジャー岩田君に助けられたよ。危ない状況だった。私は、足を捻挫しただけだ。大丈夫だ。岩田君は、流石だな。」
石井「いや・・・、彼は、レンジャーではありません。職場体験の・・・高校生です。」
室井「はあああーーーー?いや、しかし、放水銃は、普通に使ってたぞ。」
石井「放水銃は、訓練で使いましたから。」
室井「岩田君、そうなのか?早く言ってくれれば・・・。」
剛太郎「すみません。言いそびれて・・・。ただ、女の子を助けようと思い、必死でした。」
石井「岩田君、すまない。私の監督不足だ。」
そこへ、今井と消防署長もやってくる。
今井「僕の勘違いが元凶です。申し訳ありません。体格が、伺っていたレンジャーの方と同じだったので、本当に、すみません。」
石井「確かに、明日赴任する、石田も大柄だったな。」
消防署長「まあ、事なきを得て良かったんじゃないですか。職場体験の岩田君には、とんでもない職場体験になったみたいですけどね。」
剛太郎「女の子を助けられて、本当に良かったです。」
消防署長「学校長へは、私から説明しておきます。この事が公になっても、色々支障がでますからね。」
室井「素人の高校生を、火災現場に。更に現場突入・・・。」
石井「それは・・・マズい・・・ですね。」
剛太郎「そんな、僕が暴走しただけですから、それに、皆さんは、僕を本物のレンジャーと思って対応されただけですから・・・。」
消防署長「それでも、公には出来ませんよ。」
室井「君の、現場での、その落ち着きや対応力は、本物のレンジャーと思ったよ。あと、あのパワーには、驚かされた。」
石井「室井さんが褒めるのは珍しいですね。あ、岩田君、体は大丈夫?」
田沢「剛太郎、顔、真っ黒だぞ。」
高山「髪の毛、焦げてるな。」
剛太郎「え、何処何処?」
高山「嘘だよ。」
石井「その元気があるなら、大丈夫だね。」
消防署長「さあ、署に戻りましょうか。」
全員「はい。」
全員が署に戻っていった。職場体験の4人は、消防車での移動となった。
一方、一高の職員室。電話が鳴り、教頭が出る。
教頭「はい、一高です。はい、はい、校長に代わります。」
校長「どこからですか?」
教頭「消防署からです。お願いします。」
職員室がざわめく。
三宅先生「また、剛太郎が何かしでかしたのかな。」
電話を代わる校長先生。
校長「はい、代わりました。ああ、消防署長、お久しぶりです。ええ、はあ、はい?救助した?火災現場に飛び込んで?ほーーー。いえいえ、問題視はいたしません。大丈夫です。ええ、では、失礼します。」
電話を切る校長先生。
校長「ふーーー。」
校長の様子に身構える先生達。
三宅先生「また、剛太郎ですか?」
石橋先生「今度は、何を?」
校長先生「いや、岩田剛太郎君が、消防訓練中に、レンジャー部隊に間違われて、火災現場に行き、突入したらしい。」
三宅先生「はあああああーーーー?」
石橋先生「間違われて?突入?」
校長先生「女の子を助け出し、負傷した消防隊員と一緒に助け出したらしい。」
三宅先生「なんと、それは、また、すさまじい・・・。」
石橋先生「剛太郎らしいな。」
校長先生「間違いとはいえ、素人の高校生を火災現場に連れて行き、しかも突入させてしまい、申し訳ないとの電話でした。この事は、公にしないで欲しいとのことでした。」
石橋先生「剛太郎が、暴走したんでしょう。で、剛太郎に怪我は?」
校長先生「ピンピンしとるそうだ。明日も訓練で、記録を狙うと張り切っているそうだ。」
三宅先生「大丈夫のようですね。火災から人命救助とは、消防隊員も顔負けですね。」
石橋先生「困っている人を放っておけない性分ですからね、剛太郎は。」
校長先生「こっそり、感謝状を出すとのことでした。公には出来ないからと。明日の職場体験最終日に、本人に渡すそうです。」
三宅先生「感謝状、二枚目ですね。凄いな。」
石橋先生「明後日、事情を聞いておきます。」
またも、剛太郎の武勇伝で、話がわき上がる職員室であった。
一方、消防署。石井と職場体験の4人が、終礼を行っていた。
石井「とんでもない職場体験になってしまったね。本当に申し訳ない。」
剛太郎「いえ、僕が勝手にやったことです。消防署の皆さんには、責任はありません。」
石井「いやいや、私たちの責任だよ。明日は、絶対に、君たちから目を離さないからね。」
野村「剛太郎は凄いな。火災現場から出てくるとき、本物のレンジャーみたいだったもんな。」
高山「二人も抱えて救助だもんね。」
田沢「警察官より消防士の方がむいてるんじゃない?」
石井「それはいいな。岩田君も、消防士になる?」
剛太郎「いえ、僕は警察官志望ですから。」
石井「はっはっは、冗談だよ。君なら、立派な警察官になれるよ。」
剛太郎「ポンプ操法が役に立ちました。放水銃が上手く使えました。ご指導ありがとうございます。」
石井「それは良かった。じゃあ、明日のポンプ操法は、41秒出せるかな。」
野村「41秒出そう。」
高山「おう、頑張るぞ。」
田沢「頑張ろう。」
剛太郎「41秒出すぞ。えいえい。」
全員「おおーーー。」
レンジャーに間違われ、火災現場で人命救助と、とんでもない職場体験になった剛太郎達であった。
第五十三話に続く。
第五十三話に続く。第五十三話も書きます。