第五十一話 剛太郎の職場体験
消防署で宿場体験の剛太郎。ポンプ操法を体験する。訓練中、火災発生・・・。
第五十一話 剛太郎の職場体験
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
翌日、剛太郎は、消防署での職場体験である。クラスからは、高山と野村も一緒である。また、理系クラスの田沢も参加である。
消防署前に整列し訓練開始である。
職場体験担当消防士「お早う。私が、今日の職場体験担当です。石井と言います、よろしく。岩田君、田沢君、高山君、野村君だね。」
消防訓練服に着替えて、集合した4人。
剛太郎・田沢・野村・高山「よろしくお願いします。」
石井「まず、みんなに質問。何故、消防署を選んだのか、体験前に教えて欲しいな。」
剛太郎たちが、順番に答える。
剛太郎「岩田です。本当は、警察が良かったのですが、さすがに警察署の職場体験はなかったので、同じ命を賭ける仕事として、消防署を選びました。よろしくお願いします。」
田沢「田沢です。消防車に興味があります。高圧ポンプがどんな構造になっているのか知りたくて、参加希望しました。よろしくお願いします。」
高山「高山です。消防士、カッコいいし、訓練に興味があったので、参加希望しました。よろしくお願いします。」
野村「野村です。僕は、消防士を目指していますので、参加できて嬉しいです。よろしくお願いします。」
石井「みんな、それぞれ、熱意を持って参加ということだね。さすがは、一高の生徒さんだ。今回は、ポンプ操法をやって貰うからね。手順を教える前に、まず、持ち場を決めよう。適材適所あるからね、そうだな、部活は入ってる?みんな何部なの?」
剛太郎「柔道部です。」
石井「はい、1番ね。」
田沢「化学部です。」
石井「4番ね。」
高山「サッカー部です。」
石井「2番か、3番だね。」
野村「陸上部です。」
石井「じゃ、野村君が3番、高山君が2番に決まり。これは、良いチームだね。じゃ、一人ずつ役割を説明していこう。まず、1番の剛太郎君、放水係だ。放水銃を背負って走る、放水銃を構えて、標的に放水する役目。結構な水圧がくるから、力が強い人が有利、柔道部の岩田君は、ピッタリだよ。」
剛太郎「了解しました。」
石井「高山君は、2番。丸めたホースを担いで、ホースを繋げる中間点まで走って、ホースを伸ばし、ホースを連結させる。」
高山「脚力には自信あります。了解しました。」
石井「野村君は、3番。高山君と同じくホースを担いで走るんだけど、走る距離が高山君の2倍で、高山君よりも速く走らないといけない、高山君のホースと岩田君の放水銃を繋げる役割だよ。」
野村「100m10秒台の実力を発揮します。了解しました。」
石井「最後に、田沢君の4番。みんながホースを繋ぎ終わったら、ポンプを作動させ、水を送る役割。今回は、ポンプ車を使うからね。エンジン始動から、高圧装置、送水と手順があるから、化学部の田沢君にはうってつけだね。」
田沢「その高圧装置がどんな構造なのか、気になってました。送水までの流れを覚えます。了解しました。」
石井「じゃあ、まずは、ゆっくり、やってみよう。」
訓練開始である。指導員の石井が、一人ずつ説明していく。手順は、皆、理解したようである。
石井「じゃあ、1回やってみようか、放水はせずに、その前までいってみよう。」
剛太郎・野村・高山・田沢「はい。」
石井「実際は、規律も重要だけど、タイムもあるからね。ストップウォッチで計ってるからね。あ、指揮者は、私がやるから。」
そう言うと、石井が、4人を開始線に並ばせる。
石井「一高分団、ポンプ操法開始。手びろめによる二重巻きホース、一線延長、始め!」
剛太郎・高山・野村・田沢「はい!」
皆、持ち場に別れる。田沢は、ポンプ車のエンジン始動、高圧装置起動と、素早く行う。1番手、剛太郎が放水銃を背負い、放水位置まで走る。2番手、高山がホースを担ぎ、連結地点まで走る。3番手、野村もホースを担ぎ、一気に走る。やはり、陸上部野村、速い。2番手の高山に追いつきそうなくらい、速い。野村が剛太郎の元へ到着、放水銃とホースを繋ぐ。2番手高山もホースを連結、放水準備完了の手を上げる。4番手田沢が、それを確認し、送水とボタンを押す代わりに、発声する。そこで、石井がストップウォッチと止める。
石井「はいっ、そこまで。うん・・・、悪くない。みんな、訓練初めてだよね。」
田沢「何秒なんですか?」
石井「48秒だね。」
剛太郎と高山、野村も戻ってくる。
野村「石井さん、何秒でした?50秒切れました?」
石井「48秒だよ。君たち、・・・凄いな。」
高山「48秒って凄いの?」
剛太郎「普通じゃないの?」
野村「48秒か、まだ、いけるね。全国レベルで41秒くらいだからね。」
石井「さすが、野村君。詳しいね。」
高山「もう一回、いってみよう。」
石井「じゃあ、次は、標的立てて、実際に放水、標的を倒すまで計ってみよう。」
田沢「いよいよ、高圧装置使えるんですね。楽しみだ。」
剛太郎「今度は、僕が、標的を倒すまでだね。水圧に負けないようにしないと。」
高山「ダッシュでいこう。ホース連結を素早く、連結の合図を素早くするね。」
野村「一気に走るね。連結のスピード、合図をしっかりやっていこう。」
石井「さあ、実践だ。何秒出るかな。」
石井を前に、4人が整列する。
石井「一高分団、ポンプ操法開始。手びろめによる二重巻きホース、一線延長、始め!」
剛太郎・高山・野村・田沢「はい!」
皆、持ち場に別れる。田沢は、ポンプ車のエンジン始動、高圧装置起動と、素早く行う。1番手、剛太郎が放水銃を背負い、一気に放水位置まで走る。2番手、高山がホースを担ぎ、連結地点まで走る。3番手、野村もホースを担ぎ、一気に走る。先ほどより速い。2番手の高山を追い抜きそうになる。野村が剛太郎の元へ到着、放水銃とホースを繋ぐ。2番手高山もホースを連結、放水準備完了の手を上げる。4番手田沢が、それを確認し、送水開始の発声とともに、送水とボタンを押す。ホースに水が送り込まれる。まるで、生きた蛇のようにホースが動く。剛太郎の元まで、送水される。放水開始のかけ声とともに、剛太郎が、標的に放水する。標的が倒れる。そこで、石井がストップウォッチと止める。
石井「はい、そこまで。・・・おいおいおい、君たち・・・、ほんとに凄いな。」
田沢「何秒ですか?」
そこへ、他の3人も戻ってくる。
野村「何秒ですか?」
高山「必死で走りましたよ、良いタイム出たでしょ。」
剛太郎「石井さん、何秒ですか?」
石井「42秒・・・、うちのチームでも出せるかどうかのタイムだよ。」
野村「ヨッシャー、41秒台狙うぞー。」
剛太郎「野村のスピードが、半端ないからな。」
高山「3番手が、キーマンだね。」
石井「確かに、3番手のスピードがキーだよ。さすが、100m10秒台だね。将来はうちの広域に入隊して欲しいな。」
野村「そのつもりです。」
石井「そうか、じゃあ、待ってるよ。」
高山「消防官採用試験に合格しないとな。」
野村「採用試験勉強してるよ。大学進学も考えたけど、早く消防士になりたいんだ。レンジャー目指してるからね。」
石井「レンジャー志望なの?心強いな。今のうちに、うちの隊員に挨拶しといたら。一高なら、試験も大丈夫だろ。あ、試験で懸垂あるから、その練習はしといたほうが良いね。」
野村「懸垂の練習もしていますよ。」
高山「それでか。陸上部なのに、校庭の鉄棒で懸垂してるもんな。」
剛太郎「懸垂なら、体育館の綱登りがおすすめだよ。」
石井「確かに、綱登りはいいね。」
野村「じゃ、剛太郎、今度、綱登り教えてくれ。」
剛太郎「いつでも良いよ。」
田沢「懸垂は、鉄棒を腕を開いて握るより、真っ直ぐにして、脇の筋肉で鉄棒を引きつけるようにした方が、力の伝達が良いよ。あと、体重を絞った方が良い。」
剛太郎「さすが、化学部。ナイスアドバイスだね。」
田沢「たしか、柔道のハラバイ?って練習あるよね。あれも効くよ。」
剛太郎「そうだな、ハラバイも脇と背筋の強化になるもんな。」
野村「剛太郎、それも教えてくれ。」
剛太郎「いつでもどうぞ。」
石井「さあ、ポンプ操法はここまで、最後にもう一回やろう。」
野村「次は何ですか?」
石井「階段上りだよ。今度は、消防服を着て、ホース担いで階段を3往復してみようか。」
田沢「それ、苦手です。」
石井「自分の体力に合わせてやればいいから。さあ、銀色の消防服に着替えよう。あ、私は、署長室に寄っていくから、着替えたら、さっきのところで待っててくれ。」
剛太郎・高山・野村・田沢「はい。」
全員が、着替えに消防署内へ戻る。
消防署署長室で、署長と石井が話をしている。
署長「石井君、高校生の職場体験頼んで、すまないね。」
石井「いえ、初心に帰れて、逆に良い刺激を貰っています。」
署長「そうですか、引き続き頼みますね。」
石井「署長、来年度、良い隊員が増えますよ。」
署長「誰ですか?」
石井「今回、職場体験の野村君です。彼は、消防士志望だそうです。うちの広域受けるようですよ。足も相当速いし、レンジャー志望だそうです。」
署長「野村君といえば、全国大会に出てた子だね。100mだったかな。」
石井「そうなんですか。期待大ですね。」
署長「あ、そういえば、今日、新しい隊員が赴任しますよね。彼もレンジャーじゃなかったですかね。」
石井「石田隊員ですね。彼とは同期なんですが、先ほど、1日遅れると連絡がありました。」
署長「何か災害ですかね。」
石井「丁度、火災が発生したらしく、そっちへ向かったとのことです。」
署長「そうですか。向こうも大変そうですな。」
署内に警報が鳴る。
館内放送「火災発生、火災発生、署員は直ちに出動態勢を取ってください。」
署長「石井君、君は、高校生を頼む。」
石井「分かりました。」
石井は、急ぎ、剛太郎達の元へ戻る。
消防服に着替え、待っている、剛太郎達。
剛太郎「さっきのサイレンは何?」
野村「出動だよ。」
田沢「出動なの?」
高山「僕らは体験は無いでしょ。」
隊員達が、一斉に降りてきて、出動準備をし、サイレンを鳴らし、緊急出動していく。
そこへ、石井が戻ってくる。
石井「君たちに、出動は無いよ。階段上りする前に、せっかくだから、署内を見学しよう。みんな、ついてきてね。」
剛太郎「石井さん、トイレは外には無いんですか?」
石井「ああ、あるよ。あそこの建物の一階だよ。行っておいで、僕らは、先に入ってるから。」
石井と剛太郎以外の体験学生が、建物内に入っていく。剛太郎は、一人、外のトイレに行く。
トイレを済ませた剛太郎、そこへ、隣の署から普通車タイプの赤い車が来る。
消防隊員1「あ、今日、到着されたんですね。石田さん。」
剛太郎「えっ、岩田ですけど・・・。」
消防隊員1「あ、石田さんじゃなくて、岩田さんでしたか。今日から出勤でしたよね。」
剛太郎「はい、今日から、こちらで訓練です。」
消防隊員1「レンジャーでしたよね。火災現場で、まだ、取り残された人が居るようです。急いで現場に向かいましょう。消防車が出動した後のようですね。私がお送りします。」
剛太郎「えっ、石井さんのところですか?」
消防隊員1「石井さんも、向かってるんですね。じゃあ、行きましょう。」
乗用車に乗せられる剛太郎、火災現場へと出動である。
なかなか戻ってこない剛太郎を見に来た、石井隊員。トイレまで確認に行くが、居ない。
石井「岩田君、何処へ行ったんだ。」
レンジャーと勘違いされた剛太郎。火災現場へ出動である。彼の運命や如何に。
第五十二話に続く。
第五十二話に続く。第五十二話も書きます。




