第四十四話 夏目家と如月家
夏目家と如月家で、剛太郎への思いが錯綜する。放課後に、クマパワーも炸裂である。
第四十四話 夏目家と如月家
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
夏目家で、夕食となった剛太郎。祥子父一郎もゴルフから帰って来ていた。
祥子父一郎「剛太郎君、個人戦はどうだった。」
剛太郎「優勝しました。」
祥子父一郎「そうか、さすがだな。」
祥子「次は、県大会だよ。」
祥子父一郎「祥子も行くのか?」
祥子「応援に行くわよ。」
剛太郎「土曜日だったと思います。学校が休みなので、祥子ちゃんも行けると思います。」
祥子母律子「じゃあ、今度は、お弁当作っていかなきゃね。」
祥子弟蒼太「大丈夫?お腹痛くなったら大変だよ。」
祥子「ちょっと、蒼太、そんなに料理下手じゃ、あ・り・ま・せ・ん。」
剛太郎「祥子ちゃん、大丈夫だから。」
祥子「剛太郎君、遠慮しないの。お弁当、作ってくるからね。」
祥子父一郎「毒味はしとくぞ。」
祥子「大丈夫だって。」
祥子母律子「わたしも、監督しますから、大丈夫でしょ。本当に、お腹壊したら大変よ。」
祥子「そこまで言うなら、監督、お願いします。」
剛太郎「いいの?」
祥子「じゃ、決まりね。」
県大会の話で賑わう、夏目家であった。夕食後、剛太郎は家路につくのであった。
一方、如月家。加奈子と加奈子父真一が話していた。
加奈子「父さん。」
加奈子父真一「何だ。」
加奈子「母さんに、どうプロポーズしたんだ?」
飲んでいたお茶を吹き出す、加奈子父真一。
加奈子父真一「な、なんだ、藪から棒に。」
ダイニングから、加奈子母文恵もやってくる。
加奈子母文恵「あらあら、ふきん、ふきん。」
リビングのテーブルを拭き、ニコニコする加奈子母文恵。
加奈子「真剣に聞いてるんだ。プロポーズは、父さんがしたのか?」
観念した加奈子父真一。
加奈子父真一「あれはだな、うん、母さん、どうだったっけ?」
加奈子母文恵「あなた、忘れたんですか?遊園地でしょ、遊園地。」
加奈子父真一「おお、そうだった。遊園地の観覧車の中で、好きですって告白したぞ。」
加奈子母文恵「観覧車が、一番高いところに来たときにね。父さん、顔真っ赤にして、可愛かったんだから。」
加奈子「この顔が?」
加奈子父真一「この顔がはないだろう。これでも昔は、紅顔の美少年だったんだぞ。」
加奈子「・・・美少年は、ないな。」
加奈子母文恵「まあ、美少年とまではいかなかったけど、結構、かっこよかったのよ。」
加奈子「ほう。」
加奈子父真一「疑り深いな、加奈子。」
加奈子母文恵「ちょっと、アルバム取ってくるわね。」
加奈子母文恵が、隣の部屋に行く。
加奈子「母さんは、OKしたのか?」
加奈子父真一「父さんの告白だぞ。はい分かりましたって言ったぞ。」
加奈子母文恵「そうでしたかねー。」
含み笑いを浮かべ、部屋に入ってくる加奈子母文恵。手には、アルバムが握られている。アルバムをテーブルに広げる、加奈子母文恵。
加奈子母文恵「はい、これが、その当時の父さんよ。」
アルバムをまじまじと見る、加奈子。
加奈子「若い。髪がある。痩せてる。」
加奈子母文恵「その頃は、かっこよかったのよ。」
加奈子父真一「今もだろ。」
加奈子母文恵「観覧車の一番上で断られて、飛び降りようとしたのは、何処のどなたさん?」
加奈子父真一「か、母さん、そんな、本当のことを言わんでも・・・。」
加奈子「母さん、断ったのか?」
加奈子母文恵「父さんが本気かどうか、試したの。そしたら、父さん、死にますって言って、飛び降りようとしたのよ。」
加奈子「父さん、危ないぞ。」
加奈子父真一「真剣だったからな。断られて、頭の中が真っ白になった。」
加奈子母文恵「この人は、本気なんだって分かって、分かりましたって、OKしたの。」
加奈子「ほう、やるな、母さん。」
加奈子母文恵「父さん、髪長いでしょ。空手の先生から切ってこいって言われたけど切らなかったのよ。」
加奈子「父さん、何故だ?」
加奈子父真一「それは・・・、母さんが、長い方が良いと言ったからだ・・・。」
加奈子母文恵「当時は、長い髪が流行っててね。まさか、空手の先生から、切れって言われてるなんて知らないから。それを知ってたら、切ってって言ったわよ。」
加奈子父真一「そうなのか?意地で、髪伸ばしとったぞ。」
加奈子母文恵「早く言ってあげれば良かったわね。でも、長い髪は素敵だったのよ。」
加奈子「父さんが、素敵・・・。」
加奈子父真一「若いときは、素敵だったんだ。」
加奈子「どうしたら、好きな人に振り向いて貰えるんだ。」
加奈子母文恵「そうねえ。自分を素敵に見せるしかないんじゃない?」
加奈子「素敵にか・・・。」
加奈子父真一「簡単だ。」
加奈子「簡単?どうするんだ?」
加奈子父真一「剛太郎君だろう?」
加奈子「そうだ。」
加奈子母文恵「剛太郎君って、あの一高の柔道部の子ね。」
加奈子父真一「剛太郎君に振り向いて貰うんじゃなくて、剛太郎君を追い抜いて、自分が振り返ればいいんじゃないか?」
加奈子「追い抜いて、自分が振り向く・・・。」
加奈子父真一「そうだ。加奈子がもっと努力して、加奈子が振り向けばいい。それだけだ。」
加奈子「父さん、分かった。」
加奈子父真一「どうだ、今日も、道場来るか?」
加奈子「行くぞ。」
加奈子母文恵「あらあら、張り切りすぎないようにね。」
父のアドバイスのお陰で、何か吹っ切れた加奈子であった。
空手の練習から戻ってきた加奈子、自分の部屋で考え中である。
加奈子「剛太郎を追い抜いて、自分が振り返るか・・・。」
クマラル「それしかないね。パパリンも上手いこと言うね。」
クマウル「相手は祥子、しかも、クマリンとクマエルだよ。」
加奈子「強敵だな。」
クマラル「まあ、相手が強ければ強いほど、燃えるんじゃない?」
クマウル「そうだね。こっちは、ぼくとクマラル居るもんね。」
加奈子「クマラル、クマウル、ありがとな。」
クマラル「加奈子は、その真っ直ぐなとこが良いんだ。」
クマウル「うんうん。そこは、剛太郎は惹かれてるはずだ。」
加奈子「わたしが努力して、素敵な女性になって、自分が振り向けば良いんだな。」
クマラル「ぼくもいるぞ。」
クマウル「ぼくだって、応援するからね。」
加奈子「まあ、努力って曖昧だけど、何をすればいいんだ?」
クマラル「豪快な一発。」
クマウル「それは、もう出来てるでしょ。」
加奈子「まだ、大きな音が必要か?」
クマラル「いや、そこは、もう祥子には勝ってるよ。」
クマウル「剛太郎の好きな女性を目指すんだ。」
加奈子「剛太郎の好きな女性って、どんなのだ?」
クマラル「わかんない。」
クマウル「おなら以外は知らない。」
加奈子「分かった・・・。剛太郎のお母さんに聞こう。」
クマラル「えっ。いきなり、お家?」
クマウル「いいじゃない。」
加奈子「じゃあ、明日行こう。」
クマラル「いいぞ。」
クマウル「積極的に行こう。」
加奈子「じゃあ、風呂行ってくる。あ、風呂には、連れて行かないからな。」
クマラル・クマウル「分かってまーす。待ってまーす。」
入浴後、再度、作戦を練り就寝する加奈子であった。
翌日、一高の校門、放課後である。加奈子が、剛太郎を待っていた。そこへ、祥子と剛太郎がやってくる。
剛太郎「あれ、加奈子さん、充電は明日だよ。」
祥子「何か、急用なの?」
加奈子「いや、今日、剛太郎の家へ行ってもいいか?」
剛太郎「家へ?それは構わないけど。」
祥子「あ、クマちゃんルーム見たいんだね。」
加奈子「ああ、そんなところだ。」
剛太郎「祥子ちゃんは?」
祥子「わたしは、今日、早く帰らないといけないから、行けないな。」
加奈子「祥子ちゃん、すまんな。」
剛太郎「じゃあ、行こうか。」
夏目家の分かれ道まで、一緒に帰る、剛太郎、祥子、加奈子。
分かれ道の手前で、中学生の男女2人と高校生の男5人が揉めていた。
中学生男子「・・・、・・・。」
中学生女子「・・・、・・・。」
高校生男1「おい、ぶつかっといて謝りも無しかよ。」
高校生男2「何、黙ってんだよ。」
中学生男子は、手を合わせて謝っている様子である。
中学生女子も、謝っている様子。
高校生男3「あ、こいつら、耳が聞こえないだ。」
高校生男4「聴覚支援学校か?」
高校生男5「みたいだな。」
高校生男1「おい、何かしゃべってみろよ。」
中学生男子「ず・び・ば・ぜ・ん・で・じ・だ。」
中学生女子「す・び・ば・ぜ・ん」
高校生男2「は、ずびばぜん?ちゃんとしゃべれねえのか?」
高校生男3「あーあ、こうはなりたくないね。」
高校生男4「す・み・ま・せ・ん・で・し・た。」
高校生男5「言えねえだろ、聞こえねえんだから。」
中学生二人、一生懸命謝っている。
その様子を見ていた剛太郎、怒りに手が震えていた。
剛太郎「加奈子さん、2人いける?」
加奈子「右の小さい2人でいいか?」
剛太郎「じゃ、僕は左の3人だね。祥子ちゃん、クマリンある?」
祥子「あるわよ。」
剛太郎「マモリン預けるね。合図したら、使って。加奈子さん、行こう。」
剛太郎と加奈子が、中学生二人の元に走る。祥子は、二人のカバンを預かる。
まだ、謝り続けている中学生2人。
高校生男1「ちゃんと言えるか?何回も練習だ。ほれ。」
男の後ろに立つ剛太郎。
剛太郎「いいかげんにしろ。」
振り向く高校生男1。
高校生男1「なんだ、お前?」
剛太郎「弱いものいじめはやめろ。」
高校生男1「はっ、5人相手に喧嘩か、やってやろうじゃねえか。」
高校生男1が剛太郎の胸ぐらを掴む。
剛太郎「これは、暴力だな。」
高校生男1「暴力?ああ、暴力だ。」
高校生男1が左拳で剛太郎を殴ろうとする。剛太郎はとっさに、左手を相手の右手に外側からかぶせ、右手親指の付け根に、自分の左手中指と薬指を引っかけて、親指付け根の母指球を押し出し、少林寺拳法の逆小手を極める。
高校生男1「あたたたた・・。」
うずくまる高校生男1。
加奈子「もう、やってもいいか?」
加奈子が高校生男4、高校生男5の前に仁王立ち。
剛太郎「加奈子さん、GO!」
加奈子が、殴りかかってきた高校生男4に、左手で上受けし、右の縦拳をみぞおちに極める。そのままうずくまる高校生男4。左から襲ってきた高校生男5に対し、左手で目打ちし、ひるんだところで、左手を取り腕十字に極め、後ろへ倒し裏十字に極める。
剛太郎「祥子ちゃん!」
祥子「クマリン、マモリン、お願い。」
クマリン「大天使ガブリエル降臨、ゴディアッククマパワー5。」
マモリン「建御雷神降臨、エゾヒグマパワー5、ダブルパワー10。」
光が剛太郎も元へ走る。
高校生男2と高校生男3が、剛太郎へ殴りかかる。剛太郎は2人を片手で一人ずつ、胸ぐらを掴み持ち上げる。
剛太郎「まだ、やるか?」
高校生男2「す、すみません。」
高校生男3「ごめんなさい。」
剛太郎「謝る相手が違うぞ。」
足、プラプラ状態の相手。剛太郎が、高校生男1の方へ投げ飛ばす。
高校生男1・2・3「あつっ、あいたたた・・・。」
そこへパトロール中の警官が駆けつける。
警官「君たち、何をしてるんだー。」
祥子「お巡りさん、こっち、こっち、助けてくださーい。」
高校生5人をひとかたまりにし、その前に仁王立ちする、剛太郎と加奈子。
警官「何があったんだ?」
加奈子「こいつらが、あの中学生をいじめてた。それを止めに入っただけだ。」
剛太郎「あの中学生2人は、聴覚支援学校の生徒だと思います。彼らを侮辱する行為を目の当たりにして、止めに入りました。」
警官「そうなのか?」
警官が高校生5人に問いただす。
高校生男1「す、すみませんでした。」
高校生男2「からかってただけです。」
高校生男3「もうしません。」
高校生男4「許してください。」
高校生男5「暴力は振るっていません。」
加奈子「中学生には、暴力はなかったようです。」
剛太郎「僕らには向かってきましたけどね。」
警官「今、応援を呼ぶ。ちょっと待っておきなさい。」
祥子「また、えらいことに・・・。」
応援の警察官2人がやってくる。警官から、内情を聞いている。ふと、一人の警察官が剛太郎に気づく。
警察官1「あ、君は岩田剛太郎君。」
警官「班長、知ってるんですか?」
警察官2「こないだ、ひったくり捕まえて、署長から感謝状の?」
警官「あー、あの高校生でしたか。」
剛太郎「すみません。また、騒ぎを起こしてしまいました。」
警察官1「いやいや、聞けば、聴覚支援学校の中学生がいじめられているのを助けたそうじゃないか。君は正義感が強いな。」
祥子「そうなんです。正義感の塊ですから。」
警察官1「早く、警察官になって欲しいもんだな。」
剛太郎「将来は、そのつもりです。」
加奈子「剛太郎は、警察官志望なんだな。」
警察官2「事情は、中学生と高校生男5人から聞くから、君たちはもういいよ。」
剛太郎「え、いいんですか?」
警察官1「感謝状貰うような男に事情聴取は、必要ないだろ。心配するな、あとは警察に任せなさい。」
剛太郎「ありがとうございました。」
応援のパトカー3台で護送される、中学生と高校生5人。剛太郎が、何か手振りで中学生2人に合図していた。中学生は、左手を横にし、右手を縦に左手の平から上に上げていた。
祥子「剛太郎君、手話できるの?」
剛太郎「少しね。」
加奈子「何でも出来るな、剛太郎。」
パトカーは去り、祥子とも分かれ道で別れ、岩田家を目指す、剛太郎と加奈子であった。
第四十五話に続く
第四十五話に続く。第四十五話も書きます。




