第四話 クマちゃんワールド全開
とうとう、剛太郎の部屋に入った祥子。しかし、違和感を抱く。そしてついに・・・。
第四話 クマちゃんワールド全開
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
剛太郎の部屋の扉が開く。
祥子「失礼しまーす。」
部屋に入る祥子。部屋を見回す。
祥子「ふーん。綺麗じゃない。昨日、散らかってるって言ってたけど。さては、昨日、大掃除したな。」
剛太郎「ははっ。そうなんだ。お陰で、昨日、宿題出来なかったよ。」
祥子「何か、気を遣わしちゃったみたいで、ゴメンね。そのままでいいって言ったのに。」
剛太郎「女の子が来るのに、散らかしてたらやっぱりマズいって、母さんに言われて。」
祥子「でも、殺風景だね。机と教科書、テーブルとベッドしかないのね。テレビも無いんだ。」
剛太郎「テレビ、あんまり見ないから、見るときはリビングで見るかな。」
会話を合わせるのに必死の剛太郎。本当は父の書斎なのだから。
祥子「男の子の部屋ってこんなのなのかな。あ、ところで、クマちゃんは?」
剛太郎「ああ、机の上にカードケースとキーホルダー置いているよ。」
祥子「昨日のコップは?」
剛太郎「下のダイニングに置いているよ。昨日から使ってる。」
コンコンコン、ノックの音。開けっ放しのドアをノックする母幸子。
母幸子「紅茶入れてきたから、あと、ケーキもどうぞ。」
テーブルの上に、ダージリンティーと苺のショートケーキを並べる母幸子。
祥子「すみません、ありがとうございます。」
ドアのところにゴツい男がもう一人。
父達夫「いつも、剛太郎がお世話になってます。」
頭を下げる父達夫。
剛太郎「父さん。早かったね。まだ、5時半だけど。」
父達夫「現地調査で、直帰してきた。」
ドアからチョコッと首を出す妹今日子。
妹今日子「何の現地調査?お兄ちゃんの彼女調査?」
クスッと笑う祥子。
剛太郎父「いや、ブロック塀の調査が近くであったんで、そのまま、現地調査して帰るってことになったんだ。」
祥子「お邪魔しております。剛太郎君と同じクラスの、夏目祥子と申します。剛太郎君には、いろいろと助けて頂いて、お礼のご挨拶でお伺いしました。」
剛太郎「遅くなったけど、紹介するね。見て分かると思うけど、父と母、妹の今日子。」
祥子「楽しいご家族ですね。」
母幸子「そうなの。この男二人ゴツいんだけど、カワイイの。」
祥子「分かる気がします。」
妹今日子「わたしはー?」
母幸子「あなたは、おてんばさん。」
父達夫「じゃ、ごゆっくり。幸子、今日子、下へ行こう。」
妹今日子「はーい。」
母幸子「失礼しますね。お代わりあるから、言ってね。」
祥子「ありがとうございます。」
下へ降りていく三人。
下に降りてきた三人。
父達夫「すっごい、美人じゃないか。父さんびっくりしたぞ。」
妹今日子「ね、リアル美女と野獣でしょ。」
母幸子「感じの良いお嬢さんね。挨拶もしっかりしているし、玄関入ってきたとき、自分の靴だけじゃなく、剛太郎の靴も揃えてくれていたのよ。」
父達夫「脈ありだな。ただ、今回の件、だましているみたいで、あの子に悪いな。」
母幸子「まあ、今日のところはいいんじゃないですか、後は、剛太郎に任せましょう。」
妹今日子「夏目さんに弟さんのこと聞くの忘れた。お兄ちゃん聞いてくれてるかな。」
母幸子「さあさ、晩ご飯の支度しますからね、今日子手伝ってね。」
妹今日子「早く帰ってきたら、それがあったか。まあ、部活も早めに切り上げたから、疲れてないし、手伝うね。」
父達夫「父さんも何かするかな。」
母幸子「まあ、珍しい。明日は嵐が来るんじゃない?じゃ、お皿並べてくださる?」
父達夫「了解。」
階下では、賑やかに夕飯の支度が始まった。
一方、二階の剛太郎の部屋。
祥子「面白い家族ね。」
剛太郎「そう?普通だけど。」
祥子「とりあえず、ケーキ頂きます。」
剛太郎「どうぞ。」
祥子「わたし、コーヒーよりも紅茶が好き、ケーキも苺ショートが一番好きなの。知ってたの?」
ケーキを頬張り喋れない剛太郎。首を横に振り返事をする剛太郎。
二口でケーキを食べてしまった剛太郎。
祥子「早っ。」
紅茶も一気飲みの剛太郎。
祥子「ワイルドだねー。」
ケーキのフォークを持ち、食べる祥子。ふと、フォークの絵柄に気づく。
祥子「これ、クマちゃんじゃない?」
しまったの表情の剛太郎。
剛太郎「ああ、昨日、買ったんだった。」
祥子「え、でも、昨日の包装袋には、コップとカードケースだけだったよね。」
剛太郎「その前に買ってたんだ。」
祥子「ふーん。」
何か怪しいと感じる祥子。ケーキと紅茶を完食し、また、何かに気づく。
祥子「ねえ。このベッド、小さくない?剛太郎君だと、足はみ出ちゃうんじゃない?」
しまったしまった、どうしようの剛太郎。
剛太郎「横向きで、足を曲げて寝てるから。」
祥子「大変ね。大きいベッド買ってもらえばいいのに。」
剛太郎「今度、そうするよ。」
机に近づく祥子。
机の引き出しを開ける。中を見て一言。
祥子「ゴ・ウ・タ・ロ・ウ・ク・ン!」
ゴクンと息をのむ剛太郎。
祥子「この部屋、剛太郎君の部屋じゃないでしょ。」
しまったしまったしまったの表情の剛太郎。
剛太郎「え、な、なんで?」
祥子「だって、机の中、お父さんの書類しかないもん。」
机の中身の移動を忘れていた、もう冷や汗しか出ない剛太郎。
剛太郎「こないだまで父さんの机だったんだ、それを譲り受けたから・・・。」
部屋を出ようとする祥子。
剛太郎「どこ行くの?」
祥子「トイレどこ?」
玄関横のトイレに案内する剛太郎。
祥子「二階で待ってていいよ。」
剛太郎「じゃ、二階で待っとくから。」
階段の踊り場に待っている剛太郎。トイレから祥子が出てくる。
一階の賑々しさに微笑む祥子。ゆっくり階段を上がってくる。
祥子「トイレさあ、クマちゃんいっぱいいたけど・・・。」
もう、言い訳出来ない剛太郎。トイレは、盲点だったなと反省する剛太郎。
祥子「タオル、便座カバー、トイレットペーパーカバー、芳香剤、壁紙・・・。」
剛太郎「あ、あの・・・。」
剛太郎の立っている後ろに部屋があるのに気づく祥子、更に何かに気づいた祥子。剛太郎の部屋のドアに行き、あのGOUTAROUのクマちゃんネームプレートを外して持ってくる。プレートを握りしめ、そして、泣き出しそうな顔になる祥子。
もう観念した剛太郎。
剛太郎「ちょっと待ってて。」
そう言い残し、一階へ降りていく。
ダイニングに行き、夕飯の支度をしている三人に声を掛ける。
剛太郎「ふう。」
父達夫「どうした?」
母幸子「お代わりなの?」
妹今日子「わたし、持って行こうか?弟さんのこと聞きたいし。」
俯く剛太郎。
剛太郎「バレた。」
父達夫「えっ。」
母幸子「あらー。」
妹今日子「昨日の努力が・・・。」
剛太郎「もう、正直に言うね。」
それだけ言って、二階へと戻る剛太郎。
プレートを胸に抱える祥子。
剛太郎「ゴメン。本当にゴメン。もうごまかすのはやめた。お察しの通り、あの部屋は父さんの書斎、本当の僕の部屋はそこ。」
指を指す剛太郎。
祥子「やっぱり。おかしいと思った。あれだけトイレにクマちゃんがあるのに、自分の部屋にほとんどないなんておかしいもん。でも、なんで嘘ついたの?」
剛太郎「夏目さんが本当の僕の部屋をみて、ドン引きするんじゃないかと思って、学校のみんなにバレたら、恥ずかしくて。」
祥子「昨日、ガールズハウスで剛太郎君をこっそりみてたから、どんだけクマちゃん好きか知ってるし、約束通り部屋見せてくれたら、わたし、絶対誰にも言わないから。」
剛太郎「うん、夏目さんをだましている自分が、許せなくなった。本当にゴメン。」
祥子「うむ。よかろう。」
笑顔に戻る祥子。
剛太郎「でも、なんでこの部屋って分かったの?」
祥子「じゃーん。」
ネームプレートを出す祥子。それをそのドアのところに合わせる。
剛太郎「あっ。」
ドアがネームプレートの形を残し、日焼けしていた。
祥子「この形で日焼けしてないってことは、これが元々ここにあったって事でしょ。」
剛太郎「夏目さん、鋭い!」
祥子「わたし、掃除得意って言ってたでしょ、こういうの気になるから。」
剛太郎「なるほど、では、心の準備は大丈夫?ほんと、ドン引きしないでね。」
祥子「大丈夫。もうガールズハウスで悟ってるから。」
ドアノブに手を掛ける剛太郎。
剛太郎「では、どうぞ。クマちゃんワールドへようこそ。」
ドアを開ける剛太郎。
一方、一階の、三人。
父達夫「大丈夫かな。」
母幸子「もういいじゃないですか。あの子だったら受け入れてくれそうな感じですし。」
妹今日子「多分、クマちゃんワールド全開なんだろうな。」
父達夫「降りてきたら、どう声かけよう。」
母幸子「普通に謝ればいいんじゃないですか。だまそうとしてごめんなさいって。」
妹今日子「お兄ちゃん暴走モード突入だね。」
父達夫「よし、彼女が降りてきたら、みんなで謝ろう。」
母幸子「そうしましょう。」
妹今日子「多分、一時間後に解放かな。」
再び二階。
扉の向こうを見た祥子。
祥子「すごーい!!!なに、ここー!!!。」
剛太郎「ようこそ、クマちゃんワールドへ。」
本当の剛太郎の部屋、ありとあらゆるものが、クマちゃん。
壁六面にポスター、タンス、ベッド、布団、ソファー、筆記用具、はさみ、ホッチキス、ティッシュ、電気、スタンドライト、本棚、クリアファイル、手帳、机、椅子、テーブル、パソコン、スマホ、置き時計、腕時計、鏡、バック、帽子、シャツ、ズボン、手袋、お守り、財布などなど、全て、クマちゃん。何が何でもクマちゃん。
あっけにとられる祥子。
祥子「・・・剛太郎君・・・。」
剛太郎「いかがですか?」
祥子「全部全部、ぜーんぶ、クマちゃんじゃない。」
剛太郎「ちょっと、着替えてくるね。夏目さん、座ってて。」
おとぎの国にきたような感覚の祥子。
剛太郎「お待たせしました。正装です。」
クマちゃんTシャツにクマちゃん短パンの剛太郎。
剛太郎「これが僕です。ドン引きしないでね。」
笑顔の祥子。
祥子「格好いいじゃない。ここまでクマちゃん集めるの大変だよー。」
剛太郎「写真はご遠慮願います。」
祥子「撮らない撮らない。目に焼き付けていくから。」
剛太郎「満足いただけましたか?」
祥子「うん。納得。」
クマちゃん時計を見る剛太郎。
剛太郎「あ、もう六時半だよ。夏目さん、そろそろ帰る時間じゃない。」
祥子「えー。もっと、いろいろ細かく見たいのに、シンデレラの気分だよ。」
剛太郎「大丈夫。時間が経っても、魔法は消えないから。」
降りてくる二人。
剛太郎は、学校の制服にまた着替えている。
迎える三人。
父達夫「夏目さん、だまそうとして申し訳ない。」
頭を下げる父達夫。
祥子「いいんです。わたしのために、皆さん、昨日はすみません。遅くまで、家具移動させてしまって。」
母幸子「また、すぐ戻すから大丈夫よ、それより、本当にごめんなさいね。」
妹今日子「でも、夏目さん、クマちゃんランド行けたんでしょ。」
祥子「うん、行けたよ。今度は、お弁当もって、ゆっくり来るから。」
父達夫「また、来てください、うちはいつでも構いませんから。」
母幸子「お弁当無くても、うちで何か食べれば良いから。」
妹今日子「ところで、お兄ちゃん、弟さんのこと聞いてくれた?」
剛太郎「いや、聞いてない。」
妹今日子「もー。聞いといてっていったじゃん。」
祥子「蒼太のこと?蒼太知ってるの?」
妹今日子「ううん、大丈夫。」
剛太郎「じゃ、夏目さん送ってくね。」
父達夫「そうだな、もう暗くなってきたしな。」
祥子「遅くまで、お邪魔しました。」
剛太郎「じゃ、行ってくる。」
父達夫「夏目さん、気をつけて帰ってくださいね。」
母幸子「さよなら、また、いつでもいらしてね。」
妹今日子「さよならー。」
夏目家に向かい歩く、祥子と剛太郎。
祥子「剛太郎君、今回、わたしに嘘ついた罰として。」
剛太郎「えっ、罰。」
祥子「武士でしょ、罰は甘んじて受けてもらいます。」
剛太郎「で、何を・・・。」
祥子「明日は土曜日、学校休み。」
剛太郎「ふむふむ。」
祥子「わたしを遊園地に連れて行くこと。」
剛太郎「明日・・・ですか?」
祥子「何か予定でも?」
剛太郎「無いです・・・。」
祥子「オッケー。」
夏目宅前に到着。
祥子「じゃ、明日、駅に朝7時ね。」
剛太郎「了解。」
祥子「じゃ、また明日。バイバーイ。」
家に入る祥子。
手を振る剛太郎。
来た道を戻る剛太郎、途中、イケメン中学生とすれ違う。
イケメン蒼太「あの人・・・。」
岩田家に到着した、剛太郎。
剛太郎「ただいま。」
母幸子「お帰り、ご飯にしましょう。」
四人で食卓を囲む。
剛太郎「母さん、明日、遊園地行ってくる。」
父達夫「一人でか?クマちゃん集めか?」
妹今日子「デーーート。だね。」
母幸子「あらあら。」
剛太郎「いや、嘘の罰らしい。武士は甘んじて受けなさいと。」
父達夫「ごもっとも。」
母幸子「じゃあ、早く寝なきゃ、何時出発なの?」
剛太郎「駅に7時だから、6時半には、家を出るよ。」
妹今日子「やっぱり、夏目さんの弟さん、蒼太だったね。今度遊びに行こうっと。」
食べ終わる剛太郎。
剛太郎「じゃ、宿題して、風呂入って寝るね。」
父達夫がアイコンタクト。
父達夫「剛太郎、パワーのことは?」
剛太郎「バレてないよ。」
父達夫「そうか。じゃ、おやすみ。」
母幸子「おやすみなさい。」
妹今日子「がんばれー、おやすみー。」
第五話に続く。
第五話に続きます。読者の皆様、宜しければ、評価をお願いします。低評価でも甘んじてお受けします。武士ですから(笑)。第五話も書きます。