第三十五話 合唱コンクール本番
合唱コンクール本番である。剛太郎は、負けたら、逆立ち校庭一周である。
第三十五話 合唱コンクール本番
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
翌日の一高、放課後、最後の合唱コンクール練習である。最後と言うことで、原田先生が見に来ている。
原田先生「はい、今日が最後よ。明日は、本番だからね。各パートに別れて練習。わたしが見て回るから。最後に一回合わせて終わりましょう。」
クラスが各パートに別れて、練習を始める。一パート毎に聞いてまわる原田先生。ソプラノから聞いてまわる。
原田先生「はい、ソプラノ。なかなかいいわね。高音をもっと張りましょう。」
次に、アルトにまわる原田先生。
原田先生「はい、アルト。うーん、こないだより上達してるけど、声の高さを合わせていきましょう。」
次は、剛太郎のテノールである。
原田先生「はい、テノール。剛太郎君、合唱の時は抑えて、ソロの時は思いっきりよ。そうそう、完璧ね。」
最後は、バスである。
原田先生「最後、バス。バスは安定してるわね。欲を言えば、低音の伸びが欲しいわね。」
各パートを回り終わった原田先生。
原田先生「じゃあ、ほんとに最後よ。合わせて終わりましょう。」
クラス全員での合唱である。剛太郎は、原田先生の指導通り、合唱時は抑えて、ソロでは思いっきり歌い上げた。
原田先生「ブラボー。優勝候補間違いなしね。明日が楽しみね。ライバルは、5組ね。5組は、4人合唱部がいるから、強敵よ。あ、ここにも、一人いたわね。仁美さん、自信を持って頑張ってね。」
そう言うと、原田先生は別のクラスに移動していった。
三宅先生「さあ、練習は終わり、みんな、風邪ひくなよ。じゃ、解散。」
皆、帰り支度をする。その中で、一人浮かない顔の仁美がいた。
祥子「剛太郎君、帰ろっか。」
剛太郎「ちょっと待って。」
剛太郎が、仁美に近寄っていく。
剛太郎「西田さん?」
仁美の名字は、西田である。
仁美「岩田君。岩田君は、いいね。歌がうまいから。わたし、合唱部なのに、そんなに上手くないから。お荷物だよね。」
剛太郎「いやいや、全然お荷物じゃないよ。だって、パートリーダーで頑張ったじゃない。」
祥子も剛太郎と仁美のそばにやってくる。
祥子「そうよ。アルトパートのリーダーで、真奈美の発声練習や歌い方指導して、真奈美ちょっと良くなったじゃない。」
近くで聞いていた真奈美もやってくる。
真奈美「ちょっと、なの?自分じゃ、だいぶ上達したって思ってるんだけど。」
剛太郎「うんうん。川口さん、だいぶ上達してるよ。」
仁美「でも、合唱部では、わたしお荷物だから・・・。」
祥子「明日、頑張ろう。優勝しよう。」
そこへ、5組の合唱部の辻、藤原、境、川上の4人がやってくる。辻と境は男、藤原と川上は女である。
辻「優勝だって?優勝は5組が頂くよ。」
境「合唱は、みんなの力だからな。」
藤原「いくら、剛太郎君が上手でも、他のみんなが見劣りするからね。」
川上「仁美が入ってるから、無理でしょ。」
仁美を卑下する、5組の4人。剛太郎が口を開く。
剛太郎「じゃあ、1組が勝ったら、どうする?」
剛太郎が辻に向かって話す。
辻「5組が負けたら、仁美を合唱部のパートリーダーにするよ。まあ、5組が勝つんだから、うちが勝ったときは、そっちは特に何もしなくていいよ。」
剛太郎「それじゃ、不公平だ。分かった、そっちが勝ったら、僕が逆立ちで校庭一周するよ。」
辻「まあ、いいだろ。明日が楽しみだ。」
そう言うと、帰って行く合唱部の4人。
仁美「ごめんね、岩田君。わたしのために・・・。」
剛太郎「大丈夫だよ。あ、ちょっと屋上に行かないか?」
祥子「屋上?」
剛太郎、祥子、仁美、和美、真奈美が屋上へ移動する。屋上に到着した5人。
剛太郎が仁美に話しかける。
剛太郎「西田さん、ちょっと気になってたんだけど、ちょっと下向いて歌ってない?」
仁美「下?向いてるかもしれないな。自信ないから。」
剛太郎「うん。柔道のかけ声の練習でもやるんだけど、のどが開くポイントが人それぞれ違うんだ。西田さんのポイントはもう少し上を向いたところだと思うよ。」
祥子「そんなのあるの?気にしたことなかったな。」
剛太郎「うん。下向いて、あーーーって言いながら、上を向いていくと、声が出しやすい角度があると思う。みんな、やってみて。」
真奈美、祥子、和美、仁美がやってみる。
真奈美「あ、わたしここだ。」
祥子「わたしはここね。」
和美「わたし、ここだけど、ピアノ伴奏か?」
仁美「昔、習ったかな。うん、わたしはここ。」
剛太郎「そうそう、その位置だよ。西田さんはその位置じゃないと、声が出ないはずだよ。」
仁美「自分でも分かってたんだけど、自信なくていつも下向いちゃうから・・・。」
剛太郎「じゃ、声の出るおまじない。西田さん、目つぶって。」
剛太郎が仁美の頭の上に、手を置く。
剛太郎「歌が上手くなーれ。頭ポンポン。」
剛太郎が仁美の頭を、ポンポンする。目を開けて、笑い出す仁美。
仁美「岩田君、こんなんで急に上手くならないよ。」
剛太郎「でも、笑顔になったよ。のどを開いて笑顔で歌えば、西田さん、上手いと思うよ。」
祥子「そうね。仁美は、いつも苦しそうに歌ってるから。」
真奈美「開き直って、楽しく歌いましょう。」
和美「負けても、仁美には損はないから。剛太郎君が逆立ち筋トレやるだけだから。」
剛太郎「うん。校庭一周なんて簡単だから。」
祥子「この、のどの開くの、本番前にみんなに教えよう。きっと上手くいくよ。」
仁美「そうね。明日は頑張りましょう。」
剛太郎「うん。頑張ろう。エイエイ。」
一同「オー!」
5人が皆、笑顔になった。
翌日、合唱コンクール当日である。くじ引きの結果、1組は最後、5組はその一つ前である。既に合唱が始まっており、5組が歌っていた。祥子がクラスのみんなに昨日のことを説明している。
祥子「5組に負けたら、剛太郎君は、逆立ちで校庭一周なの。うちが優勝すれば、仁美が合唱部のパートリーダーになれるの。みんな、頑張ろうね。」
一同「おおーー。」
真奈美「朝教えた、のどの開き方、やってみた?あと、上手くいかない人は、剛太郎君に頭ポンポンして貰ってね。」
クラス全員が、笑顔になる。そこへ、三宅先生が呼びに来る。
三宅先生「そろそろ、出番だぞ。舞台袖に用意だ。」
剛太郎「じゃ、行こうか。」
真奈美「みんな、頑張るわよー。」
一同「おおーー。」
5組の合唱が終わった。審査員は、合唱部顧問原田先生、オーケストラ部顧問森山先生、英語の堀江先生、あと、教頭先生と校長先生の5人である。
校長先生「5組は素晴らしいですね。」
教頭先生「パート毎の息がピッタリでしたね。」
堀江先生「今のところ、5組ですかね。」
森山先生「このあとに、剛太郎君の1組を聞いてからですね。」
原田先生「剛太郎君だけじゃ無理。みんなの力が必要ね。」
いよいよ、1組の合唱である。皆、小さい声で自分の角度を確認している。指揮者の小林君が、頭ポンポンする。1組の皆の緊張がほぐれ、皆笑顔になる。和美のピアノ伴奏が開始、合唱が始まる。皆、声の出る位置を把握したせいか、昨日の練習よりも声が良く出ている。問題だったアルトパートだが、顔を上げ自信に満ちた声で、仁美がアルトパートをひっぱっていた。テノールの剛太郎は、合唱時は皆に合わせ優しく歌い上げ、ソロでは、圧巻の歌声を披露する。1組全員が一つになる。これこそ、合唱という雰囲気を醸し出していた。ラストまで一糸乱れぬ合唱となった。
堀江先生「凄い、凄すぎる。」
森山先生「剛太郎君が周りをいかし、周りが剛太郎君をいかしている。」
原田先生「アルトパートも仁美さんを中心に、良くまとまっていたわ。」
教頭先生「これは、クラス対抗のコンクールですよね。コンサートじゃないですよね?」
校長先生「・・・、・・・。」
校長先生は、泣いていた。言葉にならないようである。
いよいよ、結果発表である。原田先生より、順位と総評が述べられる。
原田先生「第三位、2組。」
2組の生徒が喜んでいる。
原田先生「2組は、どのパートも安定して上手でした。ただ、声量に物足りなさがありました。では、第2位・・・。」
緊張の一瞬である。5組と1組の全員が祈っている。
原田先生「では、第2位。・・・5組。」
その瞬間、5組からは、悲痛の声。1組のみんなは、ガッツポーズである。
原田先生「5組は、パート毎のまとまりはありました。合唱部の4人がパートリーダーとして頑張ったのでしょう。ただ、4パートが合わさったとき、各パートの主張が強すぎていました。そこが、残念でした。」
あの合唱部の4人が肩を落とす。
原田先生「では、いよいよ、優勝の発表です。優勝は・・・1組!」
その瞬間、歓喜に沸く1組。剛太郎、祥子、真奈美、和美、仁美を含め全員が肩をたたき合う。
原田先生「圧巻の歌声でした。ソロのある合唱でしたが、そのソロを皆がいかし、皆がソロをいかす、チームワークの勝利です。声も練習よりも更に出ていましたよ。文句なしの優勝です。」
三宅先生が、クラスの皆に声をかける。
三宅先生「みんな、凄いぞ、優勝だぞ、優勝。」
剛太郎「三宅先生を、胴上げだ。」
皆で、三宅先生を剛上げする1組。
三宅先生「ちょっと待て、俺は何にもしてないぞー。」
合唱コンクールは、見事1組の優勝で幕を閉じた。
コンクール終了後、剛太郎と仁美の元に、あの合唱部の4人が近寄ってきた。
辻「負けたよ。」
境「僕たちは、自分のパートの事ばかり考えて、周りとの融和が足りなかったな。」
藤原「仁美も頑張ってたじゃない。あの調子で、合唱部でも歌ってよ。」
川上「剛太郎君のソロパート凄いわね。ってか、ずるいよー。」
辻「大丈夫、今度ピンチヒッターで、呼ぶから。」
剛太郎「おいおい、ピンチヒッターはもういいよ。」
仁美「上手く歌えたかな?岩田君のおまじないのお陰だね。」
境「剛太郎のおまじない?そんなのあるのか?」
藤原「私たちにも、今度やってよ。」
川上「仁美、今度から、アルトのパートリーダーね。」
そこへ、原田先生がやってくる。
原田先生「剛太郎君を合唱部に引き抜こうとしても、無理よ。この間、断られてるから。あ、仁美さん、今度から、合唱部のアルトのパートリーダーお願いね。今の調子なら大丈夫。上手くやれるはずよ。」
仁美が満面の笑みになる。
仁美「岩田君、本当にありがとう。」
仁美が剛太郎の手を握る。剛太郎がまた、仁美の頭をポンポンする。
剛太郎「もっと、歌が上手になーれ。」
辻「それが、おまじない?」
境「効果あるのか?」
藤原「剛太郎君、わたしにもやって。」
川上「わたしも。」
原田先生「元々、仁美は実力あるのよ。それを剛太郎君が引き出したのね。ね、剛太郎君、ほんとに、合唱部こない?」
剛太郎「先生・・・。」
原田先生「ごめんごめん。」
和やかな雰囲気で幕を閉じた、合唱コンクールであった。
第三十六話に続く。
第三十六話に続く。第三十六話も書きます。




