第三十四話 北高へ柔道遠征
一高柔道部のレギュラーメンバーが、隣県の北高へ柔道遠征に行く。
第三十四話 北高へ柔道遠征
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
病院を後にし、夏目家に戻ってきた一同。親同士は階下で、剛太郎妹今日子は祥子弟蒼太の部屋、祥子と剛太郎は祥子の部屋でそれぞれ談笑している。
祥子「ほんと心配したんだからね。」
剛太郎「今日子が紛らわしいこと言って、ゴメンね。」
クマリン「危篤と、」
クマエル「奇特ね。」
マモリン「仮名は全く同じでも、意味が全く違う、同音異義語だね。」
祥子「あの救急車も、ナイスタイミングだったもん。気絶しそうになったよ。」
剛太郎「軽自動車で良かったよ。大型車だったら、怪我してたかもね。」
祥子「感謝状二枚目が来るかな?」
剛太郎「感謝状はもういいよ。また、手と足が一緒に動く。」
祥子「映画の原作の英字版って何?」
剛太郎「ああ、堀江先生に教えて貰った、面白い英語の勉強法だよ。」
祥子「勉強法?」
剛太郎「うん。映画の原作の英字版を読んで、映画を見て、答え合わせをするんだ。」
祥子「なるほど。」
剛太郎「英語の勉強になるし、映画も観れる。一石二鳥だよ。あ、祥子ちゃん、ちょっとトイレ借りるね。」
そう言って、剛太郎が部屋を出て、一階のトイレに行く。
クマリン「で、祥子、剛太郎との二回目のチューはどうだったの?」
クマエル「チューじゃないぞ、接吻だぞ。」
マモリン「古くさいな、キスだよ。KISS。」
祥子「あれは・・・、気持ちが高ぶってたの。あれも事故みたいなものよ。」
クマリン「自分からチューしにいって、事故はないでしょ。」
クマエル「確かに、左頬を固定しての接吻だったもんね。」
マモリン「寝てるときにキスは、ずるいな。今度は、起きてるときにしようね。」
顔が真っ赤になる祥子。
祥子「起きてるときは、無理だよー。」
クマリン「勇気と一緒。今こそ、更なる勇気を。」
クマエル「え、おなら?接吻?どっち?」
マモリン「キスは更なる勇気と命名だね。」
剛太郎が、トイレから帰ってくる。
剛太郎「祥子ちゃん、そろそろお暇する時間みたい。父さん達が降りて来てって。うん?何で顔赤いの?」
マモリン「剛太郎、さすが、世界一察しの悪い男だね。」
クマエル「銀河一かな。」
マモリン「宇宙一だね。」
剛太郎「察しって、ああ、お別れの挨拶は、無理しなくていいよ。そんなに気張ると体に良くないから。自然に出るときでいいから。」
祥子「ち・が・い・ま・す。もう、言われなくても挨拶は普通の挨拶にします。察しの悪さ、ウルトラ級。」
クマリン・クマエル・マモリン「確かに。」
玄関にそろった両家。岩田家をも送りにでる夏目家。
剛太郎父達夫「お世話になりました。お礼をするつもりが、こっちがお世話になった感じです。」
祥子父一郎「また、気軽にいらしてください。」
祥子母律子「ヨーロッパのお土産、ありがとうございました。」
剛太郎母幸子「いえいえ、つまらないものですから。お気になさらないでください。」
祥子父一郎「また、カラオケやりましょう。お父さんの98点目指して、私も練習しておきます。」
祥子母律子「ほんと、歌がお上手ですね。剛太郎君に引けをとらない上手さで、感動しました。」
剛太郎母幸子「わたしも、久しぶりに聞いて、昔を思い出せましたわ。」
剛太郎父達夫「剛太郎は、99点だったそうで、1点負けてしまいました。近いうちに再挑戦に来ますね。」
祥子父一郎「いつでも、お待ちしています。」
剛太郎妹今日子「蒼太君、また来るねー。」
祥子弟蒼太「今日子ちゃん、また、一緒に料理しようね。今度は、ワサビアイス作ろう。」
剛太郎妹今日子「ワサビアイス?楽しみにしとくね。」
祥子「剛太郎君、また、明後日、学校でね。明日の休みは柔道の遠征なんでしょ?」
剛太郎「うん。明日は、隣県の高校へ遠征なんだ、レギュラーメンバーだけだけどね。車は、石橋先生と、コーチの江藤先生が出してくれるらしい。朝八時に学校集合。」
祥子「そう。頑張ってね。」
剛太郎父達夫「では、みんな、行こうか。それでは、失礼します。」
剛太郎一家が、夏目家をあとにした。
翌日、柔道の遠征で、学校に集合したレギュラーメンバー。3年生の剛太郎、副主将内田、坪井、田中、久保山の5人であった。そこへ、顧問の石橋先生、コーチの江藤先生が到着。
石橋先生「皆、そろってるか?」
剛太郎「はい。」
石橋先生「じゃあ、行こうか。」
全員が車へ移動する。
剛太郎「石橋先生、先生のクラウンは何処ですか?」
石橋先生「ああ、今日、車検でな。代車で行くぞ。これが代車だ。」
そこには、白の可愛い軽自動車。
剛太郎「乗れますかね?」
石橋先生「うむ。体重を考えて、剛太郎と田中がこっち、内田と坪井、久保山が、江藤先生の車に乗ってくれ。」
江藤先生の車も、赤い軽である。全員が重量級なのであるが、車は軽である。全員、車に乗り込む。明らかに、車が沈む。シャコタンになる。
石橋先生「みんな乗ったか?行こう。」
隣県の北高に向け、出発である。
シャコタン状態で走る石橋先生車、前をややシャコタンの江藤先生車が走る。信号待ちでエンストする石橋先生車。
石橋先生「あ、エンストしてしまったな。うん、エンジンがかからん。マニュアル車は、久しぶりだから、みんなすまんな。」
そういって、エンジンをかけている石橋先生。後ろの車から、クラクションを鳴らされる。
後ろの車の男「おいおい、何やってんだよ、早く行けよ。」
後ろの車の助手席の女「だっさい軽じゃない。追い抜きなよ。」
後ろの車の男「抜けねえよ。横詰まってんじゃん。早くどけよーーー。」
クラクションを乱打する後ろの車。すると、石橋先生車から剛太郎と田中が降りてくる。二人ともゴツい。100kgオーバーである。のっしのっしと、首を回しながら、眼光鋭く後ろの車に向かっていく重戦車二台。凍り付く後ろの車の二人。
後ろの車の助手席の女「や、やばくない・・・。」
後ろの車の男「ど、どうしよう・・・、なんで、あんなの乗ってるの?」
後ろの車の運転席の前まで来た、剛太郎と田中。剛太郎が運転席側のガラスをノックする。
後ろの車の助手席の女「開けなよ・・・、窓割られるよ。」
後ろの車の男「う、うん。」
パワーウインドウを下げる後ろの車の男。
後ろの車の男「す、すみません・・・。」
怪訝そうな顔の剛太郎と田中が、声をかける。
剛太郎・田中「どうもすみません。」
二人が深々と頭を下げる。そして、石橋先生車から、石橋先生が剛太郎達に声をかける。
石橋先生「田中、剛太郎、エンジンかかったぞ。早く乗れ。」
剛太郎「分かりました。田中行くぞ。」
田中「おう。」
重戦車二人が、車に戻っていく。再び、シャコタンとなる。
後ろの車の助手席の女「こ、怖かったー。ちびるかと思った。」
後ろの車の男「うん。僕、もう、ちびってるよ。」
後ろの車は、すぐに左折して消えていった。
石橋先生車の中の様子。
剛太郎「謝りに行ったのに、逆に謝られました。」
田中「ああ、こっちが悪いのにな。」
石橋先生「まあ、こんな軽から、お前達二人みたいな人相の悪いのが出て行ったから、驚いたんじゃないか?」
剛太郎「人相が悪いのは自覚してます。逆に悪かったですね。」
田中「まあ、仕方ないか。俺たちの顔じゃな。」
そんなアクシデントもありながら、小一時間で、北高に到着である。
北高は、隣県の柔道強豪校である。剛太郎達は、たまに、北高へ出稽古に来ているのである。車を降り、道場へと向かう。北高柔道顧問の真辺先生が出迎える。
真辺先生「石橋先生、お久しぶり。さあ、生徒のみんなは、更衣室で着替えてきなさい。」
石橋先生「今日もお願いします。」
真辺先生「こちらこそ。」
剛太郎達は、道着に着替える為、更衣室へ行く。
いよいよ、出稽古の開始である。練習方法は、北高のメニューに従う。準備運動、打ち込み、投げ込み、寝技、乱取りと続いていった。いつもの練習よりややハードなくらいだったが、剛太郎を含め、一高の選手は皆、息が上がっていた。柔道は相手が弱ければ弱いほど楽であるが、相手が強ければ強いほど疲れるのである。柔道の練習は、筋トレや走り込みを除く本練習は、一時間半から二時間である。野球やサッカーに比べれば、短い。ただ、密度が違う。寝技にしても乱取りにしても休憩時間はなく、相手にぶつかっていくのが練習である。練習も最後というところで、石橋先生が、真辺先生に声をかける。
石橋先生「真辺先生、最後は試合形式にしませんか?」
真辺先生「ああ、いいね。望むところだよ。」
真辺先生が、皆に声をかける。
真辺先生「じゃ、今から試合をする。堤、中村、近藤、井村、白石、出ろ。」
北高の5人が並ぶ。一高も、内田、久保山、坪井、田中、剛太郎と並ぶ。
真辺先生「江藤先生、審判をお願いします。」
江藤先生「分かりました。じゃ、整列して、正面に礼、お互いに礼。」
試合開始である。
先鋒戦は、堤選手と内田選手。開始直後、内田が小内刈りから、背負い投げで一本を取る。
剛太郎「いいぞ、内田。さあ、みんな続けよ。」
次鋒戦は、中村と久保山である。次鋒戦は逆に、中村の内股で久保山が一本を取られる。
剛太郎「坪井、頼むぞ。」
中堅戦は、近藤と坪井である。両者一歩も引かず、引き分けとなる。
剛太郎「田中、お前で決めてこい。」
副将戦は、井村と田中である。序盤、内股で田中が技ありを取るも、終了間際、大外で技ありを取りかえされ、引き分けとなる。
剛太郎「よっしゃ、俺が決めてくる。」
大将戦は。白石と剛太郎である。
剛太郎「おう。」
白石「おう。」
剛太郎は左組み、白石は右組み、喧嘩四つである。技の応酬が続くが、最後に剛太郎の祥子スペシャルが決まる。祥子スペシャルとは、右に投げようとフェイントをかけ、左で支え釣り込み足、崩れたところに、引きつけてからの豪快な払い腰である。
江藤先生「一本、それまで。」
強豪校の北高に勝利した一高であった。
真辺先生「今年の一高は、強いですね。県で優勝も狙えるんじゃないですか?」
石橋先生「今度は、全国大会で会いたいですね。」
非常に充実した練習であった。
練習が終わり、車で帰る一高一行。
石橋先生「帰りは、一人一人、車で送っていくから。そうだな、家が近い順で行くと、こっちに久保山と坪井だな。江藤先生、剛太郎と田中、内田をお願いします。」
江藤先生「分かりました。」
自県へ帰って行く一行。100kg級が三人も乗っており、江藤先生車は、朝より、シャコタン状態である。途中、石橋先生車と別れる江藤先生車。ゴールド免許で、超安全運転の江藤先生。一次停止も速度もきっちり守るのである。それにイライラする後ろの車。なんと朝のあのクラクション連打のあの車である。
後ろの車の男「何だよ、今度は、おっとり運転の車かよ。どんなやつが乗ってるんだ。」
後ろの車の助手席の女「こんな、ぎこちない運転、じじいか女だろ。早く行けって、鳴らしたら?」
後ろの車の男「早く行けよー。」
クラクションを連打する男。すると、信号待ちの時に、江藤先生車から降りてくる、剛太郎と内田、それに田中であった。内田は90kg、田中は100kg、剛太郎は130kgである。皆、人相は悪い。朝の再現である。凍り付く後ろの車の二人。
後ろの車の男「また?何で?どうして?」
後ろの車の助手席の女「朝と同じ人?車・・・違うよね?」
後ろの車の運転席の前まで来た、剛太郎と田中と内田。剛太郎が運転席側のガラスをノックする。
後ろの車の助手席の女「開けなよ・・・。」
後ろの車の男「う、うん。」
パワーウインドウを下げる後ろの車の男。
後ろの車の男「す、すみません・・・。」
怪訝そうな顔の剛太郎と田中と内田が、声をかける。
剛太郎・田中・内田「どうもすみません。」
深々と頭を下げる三人。その後、三人が江藤車に戻っていく。再び、シャコタンとなる。
後ろの車の助手席の女「こ、怖かったー。今度こそちびるかと思った。」
後ろの車の男「うん。僕、今日、ちびり二回目だね。」
後ろの車は、すぐに右折して消えていった。
江藤先生車の中の様子。
剛太郎「謝りに行ったのに、また、逆に謝られました。」
内田「ああ、こっちがスピードでないのが悪いのにな。」
田中「あれ、朝と同じ車だったような・・・。」
石橋先生「まあ、お前らみたいのが三人も乗ってるから、アクセル踏んでもスピードが出ないもんな。こんな軽から、お前達三人みたいな人相の悪いのが出て行ったから、驚いたんじゃないか?」
剛太郎「人相が悪いのは生まれつきです。」
内田「整形でもしない限り、イケメンにはなれないもんな。」
田中「まあ、仕方ないか。俺たちの顔じゃな。」
江藤先生「はっはっは。お前達、高校生というより、30のオッサンだもんな。スーツ着てたら誰も近寄らんぞ。」
剛太郎「僕たち、まだ、18なんですけど・・・。」
内田「僕は早生まれで、17歳・・・。」
田中「肌はピッチピチですよ。」
江藤先生「イケメンに生まれたかったか?」
剛太郎「イケメンに生まれたら人生変わったかな?」
内田「それを言っちゃあおしまいよ。」
田中「それは、言わない約束でしょ。」
江藤先生「男は顔じゃない、心だ。」
剛太郎「江藤先生に言われてもな。」
内田「説得力がないもんな。」
田中「江藤先生も、独身ですよね、彼女いるんですか?」
江藤先生「・・・おらん!」
剛太郎・内田・田中「はーーー。」
ゴツい顔にコンプレックスを持つ、青春まっただ中の三人であった。
第三十五話に続く。
第三十五話に続く。第三十五話も書きます。