第三十三話 剛太郎キトク
剛太郎が危篤?剛太郎の命をあんじた祥子が病院へと走る。
第三十三話 剛太郎キトク
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
翌日、夏目家にお礼の挨拶に出かける、剛太郎一家。剛太郎妹今日子と剛太郎が、玄関へ行き、先に出発しようとする。
剛太郎妹今日子「先に行くねー。」
剛太郎父達夫に声をかける剛太郎妹今日子。
剛太郎父達夫「ああ、私と母さんは、後から行くから、先に行っててくれ。」
剛太郎「分かった。今日子、行こう。」
剛太郎と剛太郎妹今日子が、夏目家を目ざし歩き出す。
途中の交差点で、信号待ちをする剛太郎。そこへ元気の良い男の子が飛び出してくる。後ろから母親らしき声がする。
母親「そんなに急いだら、危ないわよ。」
勢い余って、道路に出てしまう男の子。軽トラックと衝突しそうになる。近くにいた剛太郎が、道路へ飛び出し、男の子を抱え、背中を向け軽トラックにぶつかる。
母親「きゃーー。」
剛太郎「ふんっ。」
受け身をとり、男の子を内側に守った剛太郎。母親と剛太郎妹今日子が駆け寄ってくる。軽トラックの運転手も、車を止め、急ぎ降りてくる。野次馬も集まってくる。
母親「大丈夫?大丈夫ですか?」
剛太郎妹今日子「お兄ちゃん、大丈夫?」
運転手「大丈夫ですか?怪我はなかったですか?」
ゆっくり立ち上がる剛太郎。
剛太郎「ええ、大丈夫です。特に怪我はありません。衝撃を飛んで逃がしましたから。」
剛太郎妹今日子「あーあ、車の方がへこんじゃってるね。」
運転手「今、警察を呼びますから、そのままで。」
運転手が110番する。
程なくして、バイクの警察官がやってくる。警察官が、各々に状況を聞いている。
警察官「では、男の子が飛び出したところで、彼がその子を守って、車と接触と言うことですね。」
母親「本当に、すみません。わたしがちょっと目を離したばっかりに、本当にすみません。」
平謝りの母親である。男の子は、ぽかーんとしている。その男の子に、声をかける剛太郎。
剛太郎「ぼく、お名前は?」
男の子「良太、田中良太。」
剛太郎「うん、良太君。交差点は危ないからね。赤は止まれ、黄色は注意、青は気をつけて進むだよ。しっかり覚えておくんだよ。」
良太「うん、分かった。車怖いね。気をつけるね。」
母親「本当にすみません。」
剛太郎「いえ、いいんです。これで、良太君も車の怖さが分かったみたいですから。」
警察官「それより、君、体は大丈夫かね。車のへこみ具合を見ると、結構な衝撃と思うが。」
剛太郎「ええ、体はどこも痛くはありません。」
剛太郎妹今日子「お兄ちゃん、柔道で鍛えてるからね。」
警察官「柔道、それで。自分で飛んで受け身をとったんだね。」
剛太郎「ええ、そうです。」
運転手「ただ、痛みはあとからくる場合もあるから、とりあえず、病院へ行こうか。」
警察官「そうですね、事故証明と事情聴取は終わりましたので、あとは当事者同士でお願いします。」
そう言うと、警察官は去っていった。野次馬も散っていった。
運転手「車の保険会社には、電話したから、病院費用とか大丈夫だからね。一人ずつ車で病院へ送ろうか?」
剛太郎「歩けますから、自分で今から行きます。」
母親「私たちも、自分たちで行きますので大丈夫です。」
運転手「そうですか、じゃ名刺をお渡ししておきますから、何かありましたらご連絡ください。車は保険で直りますから。」
そう言って、運転手も去って行った。
剛太郎「じゃ、みんなで病院まで行きましょうか。あ、今日子、祥子ちゃんに遅れるって電話しておいてくれ。」
剛太郎妹今日子「分かった。」
近くのおばさん達が、話している。
おばさん1「あの若者、いまどき奇特な人よね。」
おばさん2「うちの子にも見習って欲しいくらいだわ。」
それを聞いていた剛太郎妹今日子。
剛太郎妹今日子「ふーん。お兄ちゃんは、キトクなのか。」
剛太郎「今日子、そこの総合病院だ、分かるな。先行ってるぞ。」
剛太郎妹今日子「うん。電話終わったら、来るねー。」
剛太郎妹今日子が、祥子家に電話をかける。
一方の夏目家。剛太郎達の到着を待ちわびている、一家4人であった。そこへ一本の電話が鳴る。電話に出る祥子。
祥子「はい、もしもし、夏目です。」
剛太郎妹今日子「あ、祥子さん。今ね、そっちに向かってたんだけど、男の子助けるのに、お兄ちゃんが軽トラックとぶつかっちゃたの。病院行ってから来るから、ちょっと遅くなるね。」
あまりの出来事に驚きを隠せない祥子。
祥子「えっ、剛太郎君が事故?きょ、今日子ちゃん、剛太郎君は大丈夫なの?」
剛太郎妹今日子「あ、今、総合病院に行ってるから。」
運悪く、剛太郎妹今日子の近くを、救急車がサイレンを鳴らして通り過ぎる。
祥子「えっ、救急車?ね、ね、今日子ちゃん、剛太郎君はどうなの?」
何と説明して良いか分からない剛太郎妹今日子。さっき、おばさん達が言っていた言葉を思い出す。
剛太郎妹今日子「お兄ちゃん、キトクなんだって。」
受話器を落とし、床に座り込む祥子。
「ご、剛太郎君が・・・、危篤・・・。」
剛太郎妹今日子「祥子さん、祥子さん、もしもーし。まあいいか。お兄ちゃん待ってー。」
剛太郎妹今日子が剛太郎に追いつき、二人で歩いて病院へと向かった。
再び、夏目家。祥子の豹変に驚く、祥子父一郎と祥子母律子。
祥子父一郎「ど、どうしたんだ、祥子。何があったんだ。」
泣き崩れながら、祥子が答える。
祥子「ううっ、ご、剛太郎君が・・・、男の子を助けようとして・・・、車と接触して・・・、危篤らしい・・・ううっ。」
祥子父一郎「なにーーーーーーーーーーー!」
祥子母律子「病院は、病院はどこなの?」
祥子「総合病院・・・。」
祥子父一郎「祥子!早く、行ってあげなさい。わしらもあとから駆けつける。さあ、早く。」
祥子母律子「あなた、急ぎましょう。蒼太、出かけるわよ、一緒に来て。祥子は早く行きなさい。」
祥子「行ってくる。」
立ち上がり、とるものもとらず、玄関を飛び出し、病院へ走り出す祥子。道の反対側から歩いてくる、剛太郎父達夫と剛太郎母幸子が、走って行く祥子の後ろ姿を目撃する。
剛太郎父一郎「あれは、祥子ちゃんじゃないか?」
剛太郎母幸子「あんなに急いで、どこへ行くのかしら。」
準備を終えた、祥子父一郎、祥子母律子、祥子弟蒼太と玄関に出てきていた。剛太郎父達夫が祥子父一郎に声をかける。
剛太郎父達夫「お父さん、どうされたんですか?」
祥子父一郎「ああ、お父さん、剛太郎君が大変なことに。」
祥子母律子「男の子を助けようとして、車と接触して、病院に運ばれたみたいですよ。」
剛太郎母幸子「ええっ、さっき、元気にお宅へ向かったんですよ。」
祥子弟蒼太「危篤らしいです。」
剛太郎父達夫「ええっ、そうなんですか?」
剛太郎母幸子「あなた、どうしましょう。」
剛太郎父達夫の腕を掴む、剛太郎母幸子。
祥子父一郎「とりあえず、病院へ向かいましょう。総合病院だそうです。」
剛太郎父一郎「分かりました。その前に一度、今日子に連絡をとってみましょう。」
剛太郎父一郎が、剛太郎妹今日子へ電話をかける。
剛太郎と病院に着いた剛太郎妹今日子。父からの着信に気づき、電話に出る。
剛太郎妹今日子「もしもし、お父さん、なにー。」
剛太郎父一郎「今日子か?事故か?剛太郎は大丈夫か?」
剛太郎妹今日子「うん。大丈夫だよ。お兄ちゃん頑丈だから、軽トラックの方がへこんじゃってたよ。」
剛太郎父一郎「剛太郎は、危篤なのか?」
剛太郎妹今日子「うん。周りのおばちゃん達から、いまどき、若いのにキトクな人って言われたよ。」
剛太郎父達夫「うん?奇特な人?・・・今日子、お兄ちゃん歩いてるか?」
剛太郎妹今日子「うん。歩いて病院に来たよ。今、診察中だよ。」
全ての事を理解し、笑い出す剛太郎父達夫。
剛太郎父達夫「はっはっは。これはとんだキトク違いだな。今日子、お父さん達もじきに
そっちに行くから、剛太郎に病院で待ってるように伝えといてくれ。」
剛太郎妹今日子「うん、分かったー。」
電話を切る剛太郎妹今日子。
再び、夏目家玄関前。心配そうに電話を聞いていた、剛太郎母幸子、祥子父一郎、祥子母律子、祥子弟蒼太。
祥子父一郎「お父さん、剛太郎君は大丈夫なんですか?」
笑顔で答える剛太郎父一郎。
剛太郎父一郎「今回の件は、キトク違いのようですね。」
祥子父一郎「キトク違い・・・。」
剛太郎父一郎「おそらく、祥子さんは危篤と思ったんでしょう。今日子が電話で伝えたのは、奇特ということみたいですよ。」
一同「はーーーーーーーー?」
剛太郎父達夫「まあ、心配いらないとは思いますが、一応、病院へ行ってみますか。」
剛太郎母幸子「良かった。何もなくて。」
祥子母律子「祥子の早とちりで、すみませんね。」
祥子父一郎「良かったじゃないですか。無事でなにより。」
祥子弟蒼太「剛太郎さんなら、トラック投げ飛ばしそうだもん。」
剛太郎父達夫「祥子ちゃんの誤解も、病院で解けるでしょう。さあ、行きますか。」
旅行の話など、雑談しながら病院へ向かう一行であった。
全力疾走で総合病院へと到着した祥子。総合案内所で、剛太郎の病室を聞いている。一階にジュースを買いに降りてきていた剛太郎妹今日子が、慌てふためいている祥子を見つける。
剛太郎妹祥子「あ、祥子さんだ。祥子さー・・・。」
剛太郎妹今日子が声をかけるよりも早く、非常階段を駆け上がっていく祥子。
祥子「病室は、302、302、302。」
呪文のように病室名を口にする祥子。小走りで、302号室へ向かう。病室前で立ち止まる祥子、目を閉じて、一つ深呼吸をする。病室の扉を開ける祥子、部屋には剛太郎一人のようである。ベッドの近くまで来る祥子。ベッドに横たわる剛太郎の姿を見て、涙が止まらない。
祥子「剛太郎君・・・、死んじゃダメだよ・・・、まだ、わたし・・、剛太郎君から告白されてないよ・・・。今、分かったよ・・・、わたし、剛太郎君の事が好きなんだって。」
そう言うと、祥子は、剛太郎の顔に自分の顔を近づける。祥子の涙が、剛太郎の顔に落ちる。その落ちた涙を手でぬぐう祥子。剛太郎の左頬に右手をそえ、キスをした。
祥子「剛太郎君、起きて・・・。」
そう言うと、祥子は、ベッドに座り大粒の涙を流していた。
そこへ、ジュースを二つ持った剛太郎妹今日子が、部屋に入ってくる。
剛太郎妹今日子「お兄ちゃん、起きてーーー。」
部屋に入ってきた剛太郎妹今日子に気づいた祥子。
祥子「今日子ちゃん・・・、気持ちは分かるけど・・・。」
剛太郎が勢いよく、目を覚ます。
剛太郎「あーーー、よく寝たーーー。」
目を覚まし両手を挙げる剛太郎をみて、目を丸くする祥子。
祥子「え、え、ええええええーーーーー。」
剛太郎「昨日徹夜で、映画の英文原作を読み切ったせいか、病院のベッドで寝てしまったよ。・・・あれ、祥子ちゃんどうしたの?何で泣いてるの?」
祥子「え、だって、危篤じゃ、ええええええええーーーーーー。」
ドクターが病室に入ってくる。
ドクター「検査の結果、どこも問題なしだよ。もう帰っても大丈夫だよ。しかし、剛太郎君、体が頑丈だね。普通なら、打撲とか、骨折とか、むちうちとかになるくらいの衝撃なんだけどね。さすが柔道部、傷一つない。日頃の鍛錬の賜物だね。」
剛太郎「ありがとうございます。」
剛太郎妹今日子「お兄ちゃんは、キトクな人ですから。」
ドクター「そうだね。じゃ、失礼するよ。」
ドクターが病室をあとにする。
一人、ポカーン状態の祥子。
剛太郎妹今日子「お兄ちゃん、ほいっジュース。」
剛太郎にジュースを投げる、剛太郎妹今日子。
剛太郎「ほい、サンキュ。」
ジュースを受け取る剛太郎。そこへ、夏目一家、岩田家一家も病室に到着する。
剛太郎父達夫「剛太郎、大丈夫か?」
剛太郎母律子「体、痛いとこない?」
剛太郎「何が?あ、事故のこと?あれくらい大丈夫だよ。副主将の背負い投げの方がよっぽど痛いよ。」
祥子母律子が祥子に声をかける。
祥子母律子「早とちりさん。」
祥子父一郎「わしも、心臓が飛び出るかと思ったぞ。」
祥子弟蒼太「ほんと、人騒がせなんだから。」
祥子「だって、今日子ちゃんが、お兄ちゃん危篤って言って、後ろで救急車のサイレン鳴ってたから・・・。」
剛太郎妹今日子「野次馬のおばちゃん達が、お兄ちゃんのこと、キトクな人だって言ってたから、祥子さんにそのまま伝えたんだけど。」
祥子「危篤と奇特・・・。仮名なら同じというわけね・・・。もーーー、本気で心配したんだから。」
へたへたと床に座り込む祥子であった。
剛太郎父達夫「まあ、無事でなによりだ。」
祥子父一郎「では、我が家へ帰りますか。」
一同「帰りましょう。」
今日は、剛太郎への気持ちを再認識でき、キスも出来た祥子であった。
第三十四話に続く。
第三十四話に続く。害三十四話も書きます。




