第三十二話 感謝状授賞式
警察署長の感謝状授与式が、サプライズで行われる。
第三十二話 感謝状授賞式
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
翌日の一校。昨日、バックをひったくられた女性が、学校へお礼の挨拶に校長室を訪れていた。柔道部顧問の石橋先生とともに、剛太郎が校長室を訪れる。校長室をノックし。室内へ入る石橋先生と剛太郎。
石橋先生「失礼します。」
剛太郎「失礼します。」
校長先生「おお、剛太郎君、さあ、そこへ座りなさい。」
剛太郎と石橋先生がソファーに案内され、座る。正面に、校長先生、隣に昨日のひったくりに遭った女性が座っている。
剛太郎「あ、昨日の・・。」
女性「岩田剛太郎君って言うのね。昨日は、本当にありがとうね。」
剛太郎「いえ、体がとっさに動いただけです。それに、当然のことをしただけですから。わざわざ来て頂いて、こちらが心苦しいです。」
女性「さすが、一高の生徒さん。受け答えも礼儀正しいわね。それに加えて、あんなに強いんですもの。先生達の教育の賜物ですね。」
石橋先生「柔道は、格闘技ですが、心の武道でもあります。剛太郎始め、生徒へはそう言った指導を心がけています。」
校長先生「剛太郎君、これは、お礼だそうだ。」
校長先生が、剛太郎へ菓子折を渡す。
剛太郎「いえ、そんな、頂くわけにはいけません。そんなつもりは毛頭ありませんでしたから。」
女性「いいえ。受け取って頂きます。そうしないと、わたしの気が収まりません。」
剛太郎「ですが・・・。」
石橋先生「ありがたく頂戴いたします。剛太郎、相手の好意は、甘んじて受けるものだ。断ることは、逆に失礼になるぞ。」
校長先生「そうだよ。君はそれだけのことをしたと言うことだ。受け取っておきなさい。」
剛太郎「よろしいんですか?」
女性「その体で、その謙虚さ、素晴らしいですね。先生方もこんな生徒を持ってらっしゃって誇りでしょう。」
校長先生「いえいえ、我が校はモットーは、文武両道ですから。」
石橋先生「それに、剛太郎は柔道部の主将ですから、人一倍、礼儀礼節を重んじる男なんです。」
剛太郎「本日は、ご訪問頂き、ありがとうございました。これから部活ですので、失礼します。
女性「ほんと、ありがとうございました。」
石橋先生「剛太郎、先に戻ってくれ。私は、教官室に寄ってから、道場に行くから。」
剛太郎「分かりました。では、失礼します。」
剛太郎が、校長室から出てくる。丁度そこへ、英語担当の堀江先生が、剛太郎に声をかける。
堀江先生「剛太郎、凄いな。ひったくりを投げ飛ばしたそうじゃないか。お手柄だったな。」
剛太郎「いえ、体が勝手に反応しただけですから。あ、堀江先生、ちょっと質問があるのですがよろしいですか。」
堀江先生「何だ?」
剛太郎「先生、僕、英語があまり分からないんです。どうしたらいいでしょうか?」
堀江先生「えっ、剛太郎こないだの英語のテスト96点じゃなかったか?」
剛太郎「はい。96点でした。」
堀江先生「96点とってて、英語が分からないとは、凄いな。」
剛太郎「自分の和訳や英訳が、本当に合っているのかがよく分からないんです。」
堀江先生「96点だ、自分に自信を持って良いと思うぞ。まあ、アドバイスとしては、英語を英語のまま理解できるようになれば、いいんじゃないか?」
剛太郎「英語を英語のまま?」
堀江先生「そうだ。たとえば、Appleはリンゴだろ。Appleをリンゴと和訳してリンゴを思い浮かべるだろ。そうじゃなくて、Appleと聞いてリンゴの形を思い浮かべられるようになれば、読解力はつくんじゃないか?AppleはAppleとね。」
剛太郎「なるほど。」
堀江先生「おすすめとしては、英英辞書を使う。あと、映画の原作の英字版を読んで、映画を見て答え合わせをするなんて勉強法もあるぞ。」
剛太郎「映画で勉強、それ良いですね。試してみます。ありがとうございました。」
剛太郎は、柔道場へ戻っていった。
その日の放課後、剛太郎は部活だったが、祥子は合唱コンクールの練習であった。二人が各々の練習を終え、下校時間が一緒となった。
祥子「ねえ、剛太郎君は、なんで一高に入ったの?進学校だったから?」
剛太郎「うん、僕が幼稚園の時なんだけど、母さんと車で買い物の時に、一高の校門の前を通ったんだ。その時、母さんが、あなたがここにはいってくれたらねって言ってたから、一高を目指したんだ。」
祥子「幼稚園の時?それは凄いね。」
剛太郎「祥子ちゃんは?」
祥子「私は、将来、学校の先生になりたいから、大学に行くには一高かなって。それくらいの気持ちだったかな。やっぱり、勉強はしたけどね。」
剛太郎「僕も、警察官になるには、法律を勉強しないといけない。法学部に入るには、一高かなって。ただ、それだけ、高校から警察官になれると分かったのは入学したあとだった。」
祥子「受験は余裕だった?」
剛太郎「いや、中学2年まではギリギリラインだったかな。中学3年で結構勉強したね。あと入試の合格発表の時、自分で番号を見つける予定だったんだけど、一緒に受験した同級生が合格してるよって教えてくれた。ただ、そいつは落ちてたから気まずかったな。」
祥子「なんの教科が得意だった?」
剛太郎「数学と英語。特に数学は面白かったね。解き方を覚えて、それを応用して問題を解いていく、答えに巡り会えると嬉しかった。ゲーム感覚でやってたね。」
祥子「英語は?」
剛太郎「中学英語だから、数学みたいな解き方してた。疑問文になると、主語と動詞がひっくり返る、一般動詞の時は、助動詞のdoが必要になる。副詞は動詞の前に来る、三人称だとsがつくとか、否定文はnotをつけるとかね。公式みたいに覚えていたよ。」
祥子「へえ。」
剛太郎「ただ、高校になって、数学の難しさに直面した。公式を覚えるだけじゃだめ。ひらめきが必要ってね。あと、英語は、長文になると解くのに時間がかかる。あ、今日、堀江先生に英語が分かりませんって、質問したんだ。」
祥子「えっ、剛太郎君、こないだの英語のテスト90点以上とってたよね。」
剛太郎「うん。96点だったよ。」
祥子「十分じゃないの?」
剛太郎「堀江先生も同じ事言ってた。ただ、僕の悩みに的確に答えてくれた。」
祥子「何て?」
剛太郎「英語を英語のまま、理解しなさいって。」
祥子「どういうこと?」
剛太郎「Appleはリンゴでしょ。リンゴと和訳してリンゴの形を思い浮かべるんじゃなく、Appleと言われたらリンゴの形を思い浮かべるってこと。AppleはAppleって。」
祥子「なるほど。」
剛太郎「He is angry.なら、彼は怒っています。と訳さず、怒っている彼を思い浮かべるって事かな。」
祥子「英語を英語のまま理解するね。私もやってみよ。」
剛太郎「もう一つ、面白い勉強法を教えて貰ったよ。」
祥子「なになに?」
剛太郎「僕が試してみてからのお楽しみ。」
祥子「ずるいー。」
剛太郎「上手くいくか分からないよ。実践してみていいなって思ったら教えるよ。」
祥子「どれくらい時間かかるの?」
剛太郎「本読んで、映画見てだから、うーん、頑張れば2、3日くらいかな。」
祥子「本?映画?」
剛太郎「また教えるから。」
祥子「がんばって早く教えてね。」
剛太郎「頑張ります。」
祥子「そうそう、剛太郎君。好きな食べものってある?お菓子とか?」
剛太郎「パインアメかな?」
祥子「えっ。パインアメって、あのパインの形した、あのちっちゃいアメ?」
剛太郎「うん。あの素朴な味が好きなんだ。どうして?」
祥子「ふーん。パインアメね。分かった。」
剛太郎「スナック菓子は、太っちゃうもん。」
祥子「剛太郎君、十分大きくなってると思うけど・・・。」
意味深な笑みを浮かべる祥子であった。
翌日、表彰状授与の日である。全校集会は、1時限目である。学校内に止めてあるパトカーには、カバーが掛けられていた。警察署長は、既に校長室で待機していた。先生と生徒は既に、体育館に集合していた。サプライズ開始である。
教頭先生「えー、皆さん、今から全校集会を始めます。校歌斉唱。」
一高の全校集会では、校歌斉唱から始まる。全校生徒が、校歌の1番と3番を歌う。時間短縮のためである。校長の挨拶が始まる。続いて、各先生からの連絡事項と続く。そろそろ終わりというときに校長先生が再度、壇上に上がる。
校長先生「実は、今日、皆さんにお伝えしたいことがあります。一昨日、ひったくりに遭った女性を助けるため、そのひったくりを投げ飛ばし取り押さえたとのことです。勇気ある行動です。その勇気ある行動に対し、警察署より感謝状が届いております。」
剛太郎「えっ、感謝状?」
祥子「剛太郎君、凄いじゃない。」
校長先生「そこで、感謝状授与に際し、警察署長さんがいらっしゃっております。署長どうぞ。」
先生達の拍手で迎えられる署長。感謝状を左手に壇上へ上がって行き、校長に挨拶する。
校長先生「では、その勇気ある者を紹介しましょう。3年1組岩田剛太郎君。」
全校生徒がざわつく。ドキドキが止まらない剛太郎。
石橋先生「剛太郎、返事は。早く壇上へ上がれ。」
剛太郎「は、はい。」
急いで壇上へ上がろうとする剛太郎。やはり、右手と右足が一緒に動いていた。
署長が感謝状を読み上げる。
署長「感謝状、岩田剛太郎殿、貴殿の勇気ある行動に対し、ここに感謝状を進呈します。警察署署長より。剛太郎君、本当に、ありがとう君の勇気を称えるよ。」
剛太郎「ありがとうございます。僕は当然のことをしただけです。身に余る思いです。」
校長先生「さあ、剛太郎君の勇気に、皆で、拍手を送ろう。」
先生生徒全員が剛太郎へ拍手を送る。
祥子「すごーい。やったね、剛太郎君。」
壇上で一人照れている剛太郎であった。
全校集会終了である。各々教室へ戻りホームルームである。剛太郎のクラスでは、一昨日の再現が行われていた。三宅先生が、ひったくり役となり、剛太郎と祥子が、事細かに説明した。
その日の放課後、合唱コンクールの練習を終え、一緒に帰る剛太郎と祥子。
剛太郎「ビックリしたよ。感謝状なんて、先生達も黙ってるなんて人が悪いな。」
祥子「剛太郎君の事を思ってじゃない?事前に言ったら、辞退しますって、剛太郎君言いそうだもん。」
剛太郎「確かに、辞退したかな。」
祥子「でしょ。学校としても名誉あることだから、剛太郎君に内緒で進めたんじゃない?」
剛太郎「だろうね。今日聞いたんだけど、メディアへ連絡しないように、石橋先生が言ってくれたみたい。」
祥子「さすが、柔道部顧問。剛太郎君の性格を知り尽くしてるわね。メディアの取材とか剛太郎君、絶対受けないでしょ。」
剛太郎「多分、辞退したね。目立つの嫌いだから。」
祥子「謙虚だもんね。剛太郎君。あ、でも、感謝状がもう一つあるわよ。」
剛太郎「何?」
祥子が袋を渡す。
祥子「はいっ。私からの感謝状。この度の、君の勇気に対し、これを送ろう。」
剛太郎「感謝状?」
祥子「感謝状って言っても、賞状じゃないわよ。感謝賞品ね。」
剛太郎が袋を開ける。中にはパインアメが5袋入っていた。
剛太郎「あ、パインアメだ」
祥子「うん。この度の、君の勇気に対し、これを送ります。」
剛太郎「ありがとう。」
祥子「感謝状なんてまさか貰うと思ってなかったから、私の感謝状なんて全然たいしたものじゃなくてゴメンね。」
剛太郎「ううん。僕、こっちの方が嬉しいよ。だって、パインアメ5袋だよ。五日分あるね。」
祥子「剛太郎君、一日一袋食べちゃうの?」
剛太郎「だって、美味しいんだもん。パインアメ。」
クマリン「剛太郎、安上がりだな。」
クマエル「僕なら、高級食材おねだりするけどな。」
マモリン「ま、剛太郎らしいといえば、剛太郎らしいね、祥子、安上がりで良かったね。」
祥子「剛太郎君は、武士ですから、武士は食わねど高楊枝。質素は大切よ。」
クマリン「祥子の勇気で、祝福だ。」
クマエル「芋買うか。」
マモリン「豪快な勇気を一発。」
祥子「し・ま・せ・ん。すぐそっちに話を持っていくんだから。」
剛太郎「祥子ちゃん、明日の休みに、家族みんなで、こないだお世話になったお礼に行くよ。」
祥子「明日でしょ、剛太郎君のお父さんから、連絡来てたよ。」
クマリン「このまま、お泊まりでも。」
クマエル「いいね。」
マモリン「今日子ちゃんがひがむよ。」
祥子「明日の楽しみは、明日にとっておくの。その方がいいの。」
クマリン・クマエル・マモリン「はーーーい。」
剛太郎「じゃ、また明日。」
祥子「待ってるからね。」
岩田家と夏目家の分かれ道で、別れる二人、それぞれの家へと帰っていく二人で会った。
第三十三話に続く。
第三十三話に続く。第三十三話も書きます。




