第三十一話 合唱コンクール練習開始
合唱コンクールの練習開始である。その下校時に事件発生。
第三十一話 合唱コンクール練習開始
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
翌日の一高、剛太郎と祥子のクラス。放課後、合唱コンクールの練習が始まる。
真奈美「いよいよね。」
和美「さあ、頑張るわよ。」
祥子「私たち女子が、剛太郎君の足を引っ張らないようにしないとね。」
担任「さあ、合唱の練習を始めるぞ。今日は、合唱部の原田先生が見てくださるからな。」
原田先生「さあ、今日は、パート分けしてパート事に練習。最後に合わせてみましょう。わたしは、明後日しかこれないから、明日は担任の三宅先生の指示に従ってね。ピアノ伴奏は和美さんね。」
和美「わたし、歌はダメだけど、ピアノは得意だから。」
三宅先生「じゃあ、パート分けだ。ソプラノ、アルト、テナー、バスに別れよう。一人一人、原田先生に声の高さをみて貰ってくれ。」
原田先生「一列に並んで、あーーーって発声してみて。」
生徒一人一人の声を聞き分け、パート分けをする原田先生であった。
原田先生「はい、あなたはアルトね、あなたはバス、夏目さんソプラノ、川口さんアルト、おっ、あなたは聞く必要なし、スーパーテノール剛太郎君ね、それから・・・。」
クラス全員のパート分けが終わった。
原田先生「よーし、パート分け終わり。で、曲目は何なの?」
真奈美「これでーす。」
真奈美が原田先生に楽譜を渡す。
原田先生「どれどれ・・・、考えたわね。ソロパートに剛太郎君ね。ずるいな。」
真奈美「テノールソロパートは、最強でしょ。」
原田先生「テノールソロはね。ただ、あくまで合唱だから。特に、女性パートが頑張らないと、見劣りしちゃうわよ。」
真奈美「頑張りまーす。」
原田先生「じゃ、パートに別れて、練習。パート事に、ピアノに合わせて歌ってみましょう。」
4パートに別れ、それぞれ練習に励む。歌詞を覚えるもの、リズムを覚えるもの、アカペラでパート事に歌っている。
原田先生「じゃ、ソプラノからね。」
ソプラノパートが歌う。
原田先生「うん、まあまあね。次、アルト。」
アルトパートが歌う。
原田先生「うーん、アルトがきついわね。頑張らないと。じゃテノール。」
テノールパートが歌う。
原田先生「テノール最強。みんな、剛太郎君に合わせてね。じゃバス。」
バスパートが歌う。
原田先生「ちょっと、物足りないわね。アルトよりは良いけど。じゃ、一回合わせてみましょ。」
全員で、頭から通してみる。やはり、剛太郎のソロは迫力満点、クラスメートがどよめく。一回目の通し練習終了である。
原田先生「うん。なかなか良いわね。やっぱりソロパートが効いてるわね。アルトの頑張りで、優勝いけるかもね。」
三宅先生「じゃあ、今日の練習は、ここまで。また、明日の放課後、練習だ。じゃ、解散。」
解散するなり、剛太郎の元に全員が寄ってくる。
クラスメート男子1「剛太郎、凄いな。その風貌でその声はずるいぞ。」
クラスメート男子2「一緒に歌ってて、泣きそうになったぞ。」
クラスメート女子1「人を魅了する声よね。」
クラスメート女子2「歌うの忘れて、引き込まれちゃった。」
剛太郎「そう?普通に歌ってるだけだけどね。」
皆、剛太郎の歌を絶賛である。
真奈美「さあ、明日も練習。優勝狙うわよ。」
祥子「あなたのパートが頑張らないとね。」
真奈美「そうだった。」
皆、和やかな雰囲気で解散となった。
練習終了後、一緒に下校する剛太郎と祥子。
祥子「真奈美の選曲バッチリね。剛太郎君のソロパートは鳥肌ものだもんね。」
剛太郎「そうなの?自分じゃ普通に歌ってるだけなんだけど。」
祥子「あとは、真奈美のパート次第ね。」
剛太郎「練習あるのみだね。」
と、突然、正面から女性の叫び声がする。
女性の声「きゃーーー、泥棒―――、ひったくりよーーー。」
その声に反応する、剛太郎と祥子。
祥子「泥棒?」
剛太郎「ひったくりって言ったな。」
黒い目ざし帽の男が、剛太郎と祥子の方に走ってくる。右手にはハンドバックを持っている。
目ざし帽の男「どけどけーー。」
目ざし帽の男が剛太郎に迫る。後ろから女性の声。
女性の声「その男ひったくりよ。捕まえてーーー。」
目ざし帽の男「どけーーー。」
剛太郎を左手で、払いのけようとする。とっさに、その左腕を右手で掴み、左手で奥襟を取り、払い腰で豪快に投げ飛ばす剛太郎。
剛太郎「うおりやぁーーーー。」
ズドン。剛太郎にぶん投げられ、動けなくなる男、すぐさま、裏固にとる剛太郎。
剛太郎「祥子ちゃん、110番して。」
祥子「うん、分かった。」
110番する祥子。バックをひったくられた女性もそばに来て、自分のバックの中身を確認している。程なくして、パトカーで警察官二人が到着し、駆け寄ってくる。剛太郎に話しかける警察官。
警察官1「大丈夫ですか。」
剛太郎「ええ、僕は大丈夫です。ただ、思いっきり投げてしまったので、この男の方が怪我しているかもしれません。」
警察官2が剛太郎にかわり、男を起こす。男の体を確認する警察官2。
警察官2「骨折はないようだ。打撲のようだな。自業自得だ。」
そう言って、男を引き起こす。
警察官1「ご協力、ありがとう。」
警察官1が、剛太郎に敬礼している。
剛太郎「いえ、とっさのことだったので、体が反応してしまって。気がついたら投げてました。」
警察官1「君、柔道部かね。」
剛太郎「はい、そうです。」
警察官1「頼もしい体格だな。将来は警察官になって欲しいな。」
剛太郎「ええ、そのつもりです。」
警察官1「そうか、じゃ、高校卒業したら、うちの県警受けるのか?」
剛太郎「いえ、大学進学を考えていますので、そのあとになると思います。」
警察官1「その校章は・・・、一高か。じゃ、石橋先生か?」
剛太郎「石橋先生をご存じなんですか?」
警察官1「ああ、石橋先生のお父さんをな。石橋先生のお父さんも柔道の先生だったんだ。私は石橋先生のお父さんに、柔道を教わったんだ。」
剛太郎「そうでしたか。」
警察官2「男を連行しましょう。」
警察官1「ああ、分かった。先に乗せててくれ。あと、すみません、バックを捕られたあなたも、署までご同行願えませんか。調書を取りますので、帰りはご自宅までお送りします。」
女性「はい、分かりました。あ、ちょっと待ってください。」
女性が剛太郎に声をかける。
女性「助けて頂いて、ありがとうございました。一高の生徒さんね。明日、学校へお礼に行きますね。」
そう言うと、女性は走ってパトカーに乗り込んでいった。
警察官1「君、名前は?」
剛太郎「岩田剛太郎です。」
警察官1「ははっ。名前からして強そうだな。君たちは来なくで大丈夫だ。学校へは署の方から連絡しておくよ。ご協力感謝する。」
そう言って警察官二人と、ひったくりの男、ひったくりに遭った女性が、パトカーに乗って去って行った。パトカーを見送る剛太郎と祥子。
祥子「剛太郎君、警察官志望だったの?」
剛太郎「うん、そうだよ。大学で法律学んで、警察官になろうと思ってる。」
祥子「それで、柔道なのね。」
剛太郎「まあ、柔道は自分を強くするために始めたんだけどね。」
祥子「いつから警察官を?」
剛太郎「小学校二年生くらいからかな。小学校二年生の時に、自分一人でバスに乗って、本屋さんに行こうとしたんだ。その時、本屋さんのバス停を乗り過ごしちゃって、五つくらい先のバスセンターで降りたんだ。降りるときもね、舞い上がってて、お金を大人料金払ったのを今でも覚えてるよ。」
祥子「運転手さん、ビックリしたんじゃない?」
剛太郎「うん。僕の体をまじまじと見ていたね。大人なのかって。」
祥子「で、そのあとは?」
剛太郎「バスセンターに交番があって、そこのお巡りさんにどうしたら帰れるか聞いた。それで、4番のバス停で3番のバスに乗りなさいって、丁寧におしえてくれたんだ。」
祥子「そう、それで帰れたのね。」
剛太郎「でも、僕バカ正直だったから、5番のバス停に3番のバスが来ても乗らなかったんだ。4番じゃなかったから。ただ、4番のバス停が詰まってて、5番のバス停で昇降していただけだったのにね。」
祥子「あらあら。」
剛太郎「で、次に4番のバス停に来た、3番のバスに乗って、家に帰れた。帰るときも、大人料金払ったかな。今じゃ、笑い話だけどね。」
祥子「ううん。そのお巡りさんの言葉を信じたから、帰れたんだよ。」
剛太郎「うん。その人には今でも感謝してる。その時、あんまり帰りが遅いから、母さん心配して、近くを探したみたい。」
祥子「小さな大冒険だった訳ね。」
剛太郎「今でも忘れない、忘れられないよ。あ、遅くなっちゃったね、帰ろうか。」
祥子「うん。帰ろう。」
昔話をしながら帰る剛太郎と祥子であった。
その頃、一高で一本の電話が鳴る。電話に出る教頭先生。
教頭先生「はい、一高です。えっ、警察ですか?」
職員室の先生達、皆が驚く。何かあったのではと。
教頭「はい、今、校長に代わります。」
受話器を抑え、校長先生を呼ぶ教頭先生。
教頭先生「校長、警察から電話です。校長に代わって欲しいと。」
ビックリして、急ぎ、受話器を取る校長先生。
校長先生「はい、校長の稲益です。はい、はい、岩田剛太郎は、うちの生徒です。はい。」
剛太郎が何かしでかしたか、事件に巻き込まれたのか心配する先生達。
校長先生「はい、えっ、あ、そうですか。はい、感謝状?ええ、光栄な事ですお受けします。明後日はいかがでしょう、はい、では、失礼します。」
電話を切る校長先生。
教頭先生「岩田剛太郎君、どうかしたんですか?」
担任の三宅先生「剛太郎が事件に巻き込まれたとか?」
校長先生「いや、あ、誰か、体育教官室の石橋先生を呼んできてくれないか?」
先生達の不安が募る。程なくして、石橋先生が、職員室にやってくる。
石橋先生「校長、どうしたんですか?剛太郎が何かしたんですか。」
心配げな表情の石橋先生。
校長先生「今、警察から電話があって、岩田剛太郎君が、下校途中に、ひったくりを投げ飛ばし取り押さえたみたいだ。」
三宅先生「ほーーー。」
ざわめき立つ職員室。
石橋先生「それは、凄い。お手柄ですね。」
校長先生「ひったくりに遭った女性は、明日、学校へお礼にいらっしゃるそうだ。それに、警察署長が感謝状を贈りたいとのことで、是非受けて欲しいとの電話だったよ。」
三宅先生「感謝状、それまた、凄いですね。」
石橋先生「剛太郎に怪我は?」
校長先生「剛太郎君には怪我はなかったので、そのまま帰したらしい。ひったくりの男の方が打撲してるそうだ。」
石橋先生「それは、良かった。剛太郎は正義感の固まりですからね。」
校長先生「明後日、全校集会があると伝えたところ、署長自ら、感謝状の贈呈を行いたいそうだ。」
三宅先生「新聞社とか来るんですか?」
石橋先生「いや、校長、メディアには伏せて頂けませんか。」
校長先生「何故かね?」
石橋先生「剛太郎は、目立つことを嫌がる性格です。ただ当然のことをしただけと言うでしょう。それに取材となると、本人は辞退すると思います。」
森山先生「確かに。オーケストラのテレビ取材の時も断ったと、あとから聞きましたよ。」
校長先生「うむ。新聞社等への連絡はしないでおこう。柔道部顧問の石橋先生の意見を尊重しましょう。」
石橋先生「校長、ありがとうございます。」
校長先生「ならば、サプライズとしましょうか。」
三宅先生「サプライズ・・・ですか。」
校長先生「当日まで、彼には何も伝えず、全校集会で感謝状を贈る。」
石橋先生「それは良い考えですね。剛太郎にもその方が良いでしょう。ちょっとあがり症なところがありますからね。」
校長先生「では、そうしましょう。教頭先生、準備任せましたよ。先生方、くれぐれも生徒に悟られないようにお願いしますね。」
教頭先生「分かりました。警察にもその旨伝えておきます。」
三宅先生「剛太郎、ビックリするだろうな。」
石橋先生「多分、贈呈式では、右手と右足が一緒に動くんじゃないですか?」
そこにいた全員が笑いだした。職員一同ほっとする一幕であった。
第三十二話に続く。
第三十二話に続く。第三十二話も書きます。




