第三十話 ヨーロッパ旅行からの帰宅
夏目家をあとにする剛太郎。祥子から嬉しい別れの挨拶。
第三十話 ヨーロッパ旅行からの帰宅
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
夏目家に戻ってきた剛太郎。祥子達は先に戻っていた。なにくわぬ顔で剛太郎を迎える祥子であった。
祥子「剛太郎君、おかえり。」
剛太郎「祥子ちゃん、ただいま。」
祥子「どうだったの?」
剛太郎「うん。告白された。」
祥子「えっ。それで、返事は・・・。」
剛太郎「うん。僕も気持ちの整理がついていないから、気持ちの整理がつくまで待ってねって言った。」
祥子「いつまで?」
剛太郎「それは、分からない。体のいい断り文句になったのかもしれない。けど、今の自分の気持ちを正直に話してきたから。」
祥子「そう、告白されたのは初めてだった?」
剛太郎「そうなんだ。告白は男がするものって思ってたから、正直ビックリしたかな。」
祥子「そう。」
ちょっと安心した祥子であった。
剛太郎「あ、ろろそろ、お暇する時間だね。」
祥子「剛太郎君の両親が、旅行から帰ってくるだもんね。」
剛太郎「今日子に声かけてくるか。」
そう言うと、一階のリビングにいる剛太郎妹今日子の元へ、階段を降りていった。
クマリン「祥子、お別れの挨拶は大丈夫?」
祥子「えっ、普通にさよならじゃないの?」
クマエル「芋食っとくか?」
クマリン「豪快におならで挨拶。」
祥子「・・・し・ま・せ・ん。」
クマリン「そうか?効果絶大だと思うんだけどな。」
クマエル「まあ、今日じゃなくても、いつでも出来るか。」
祥子「なんで、おならなのよ。わたし、女の子なんだからね。」
クマリン「でも、剛太郎は、その女の子の豪快なおならが好きなんだぞ。」
クマエル「如月さんに出来て、祥子に出来ないわけがない。」
祥子「・・・考えとく・・・。」
クマリン「一歩前進。」
クマエル「大丈夫、ボクらは耳ふさいでるから。」
祥子母律子が、祥子を呼ぶ。
祥子母律子「祥子、剛太郎君達が帰るわよ。」
二階の祥子が返事をする。
祥子「今、降りていくから。」
玄関先に集まった、剛太郎、剛太郎妹今日子、祥子、祥子母律子、祥子弟蒼太。祥子父一郎は仕事で不在。
剛太郎「皆さん、ほんとにお世話になりました。10日間、ありがとうございました。」
祥子母律子「寂しくなるわね。ご飯の作りがいがなくなっちゃったかな。」
祥子弟蒼太「今日子ちゃん、また、一緒に料理しようね。」
剛太郎妹今日子「うん。また来るね。」
祥子「剛太郎君、また明日、学校でね。」
剛太郎「うん。今日子、じゃ、行こうか。じゃあ、失礼します。」
剛太郎妹今日子「また来るねー。」
剛太郎と剛太郎妹今日子が歩き出す。手を振って見送る、祥子、祥子母律子、祥子弟蒼太。祥子が、剛太郎に駆け寄る。
祥子「剛太郎君。」
振り向く剛太郎と剛太郎妹今日子。
祥子「剛太郎君、ちょっと、今日子ちゃんの耳ふさいで。」
剛太郎「え、今日子の耳?」
不思議な顔をしつつも、剛太郎妹今日子の耳を手でふさぐ剛太郎。
剛太郎妹今日子「え、何?」
祥子「剛太郎君、・・・ゴメン。ぷう。」
剛太郎「えっ、しょ、祥子ちゃん、い、今のは・・・。」
超ビックリする剛太郎、顔が真っ赤になる祥子。
祥子「別れの挨拶。あーーー、恥ずかしい。」
剛太郎「祥子ちゃん・・・、ありがとう。ビックリしたな、でも何で知ってたの?」
祥子「マモリンに、剛太郎君の好きなもの聞いてたから・・・。」
剛太郎妹今日子「何?終わったの?」
耳から手を放す剛太郎。
剛太郎「うん、終わったよ。お別れの挨拶だったんだ。」
剛太郎妹今日子「じゃ、帰ろう。」
祥子「またね。」
剛太郎「また明日。」
再び、剛太郎と剛太郎妹今日子が歩き出す。その後ろ姿を、笑顔で見送る、祥子であった。
岩田家に到着した、剛太郎と剛太郎妹今日子。既に、家の電気がついていた。
剛太郎妹今日子「あ、お父さん達、もう帰ってきてるよ。」
剛太郎「そうみたいだな。急ごう。」
急ぎ、家の中へ入る剛太郎と剛太郎妹今日子。
剛太郎「ただいま。」
剛太郎妹今日子「ただいまー。」
リビングで、剛太郎父達夫と剛太郎母幸子が、荷物の整理をしていた。
剛太郎父達夫「ああ、おかえり。」
剛太郎母幸子「二人とも、おかえり。」
剛太郎「ヨーロッパはどうだった?」
剛太郎母幸子「そりゃもう、素晴らしかったわよ。」
剛太郎父達夫「ドイツ、スイス、フランス、どこも良かったな。」
剛太郎妹今日子「お土産はー。」
剛太郎母幸子「たっくさんあるわよ。」
剛太郎妹今日子「わーい。」
剛太郎「旅の話は、あとで聞くとして、祥子ちゃん家には、とてもお世話になったから、父さん、お礼言っといてね。」
剛太郎父達夫「ああ、今、電話したところだ。あいにく、お父さんは不在のようだった。今度、みんなで、お礼も兼ねて訪問しなきゃな。」
剛太郎妹今日子「また、蒼太君家行けるの。ヤッター。」
剛太郎母幸子「私たちが不在の時、変わったことはなかったの?」
剛太郎「オーケストラコンサートに出たよ。」
剛太郎母幸子「オーケストラ?剛太郎は楽器弾けるの?」
剛太郎父達夫「オーケストラか、アリアでも歌ったか?」
剛太郎「ご名答。ピンチヒッターでかり出されたんだ。」
剛太郎母幸子「お父さん譲りで、剛太郎も歌上手だからね。」
剛太郎妹今日子「何で、分かったの?」
剛太郎父達夫「父さんもな、学生時代、合唱部のピンチヒッターで良く呼ばれたんだ。陸上部なのにな、合唱の顧問の先生から入部してくれってしつこかったな。」
剛太郎母幸子「そうね。あなたの歌声聞いたら、先生が入部を迫ったのは当然ね。」
剛太郎妹今日子「お兄ちゃんも歌上手だけど、お父さんも上手いよって、蒼太君家で話したよ。お父さんのプロポーズも歌だったって言ったよ。」
剛太郎父達夫「今日子、こんなことまで、言ったのか?」
剛太郎妹今日子「うん。だから、今度、蒼太君家に行ったら、歌わされるね。」
剛太郎母幸子「あら、いいじゃない。私も久しぶりに聞いてみたいわ。」
剛太郎「父さん、観念した方が良さそうだね。」
剛太郎父達夫「まあ、今回のお礼を兼ねて一曲披露しようかな。」
剛太郎妹今日子「蒼太君家には、カラオケマシーンがあるよ。点数出るやつ。お兄ちゃん99点出したよ。お父さんなら、100点出るんじゃない?」
剛太郎父達夫「本格的だな。」
剛太郎「祥子ちゃんのお父さんの趣味で購入したらしい。」
剛太郎母幸子「じゃあ、次回の訪問は、カラオケ大会になりそうね。」
剛太郎妹今日子「うん。毎晩だったよ。」
剛太郎父達夫「毎晩か?」
剛太郎「うん。カラオケにそのアリアが入っていたから、アリアの練習でね。」
剛太郎父達夫「そりゃ、ご迷惑だったろう。」
剛太郎妹今日子「ううん。みんな、楽しんでたよ。」
剛太郎父達夫「そうか。」
剛太郎妹今日子「あとねー、お兄ちゃん、ラブレター貰ったみたい。」
剛太郎「きょ、今日子、なんで、知ってるんだ。」
剛太郎妹今日子「祥子さんとお兄ちゃんが話してるの、ちょこーーーと、聞いちゃった。」
剛太郎父達夫「祥子ちゃんからじゃないのか。」
剛太郎母幸子「誰からなの?」
剛太郎「秀英の3年生の如月加奈子さん。少林寺拳法部なんだ。」
剛太郎父達夫「出会いは?」
剛太郎「バス停で揉めていて、男が彼女を殴りそうだったから、止めに入った。」
剛太郎父達夫「それで、剛太郎に惹かれたか。」
剛太郎妹今日子「ヒューヒュー、お兄ちゃん、人生最大のモテ期だね。」
剛太郎母幸子「返事は?」
剛太郎「自分のありのままの気持ちを伝えた。僕は今、祥子ちゃんを好きになろうとしているけど、それが本物かどうかわからない。それが、本物って分かったら、祥子ちゃんに告白して、振られたら、如月さんに告白するって伝えた。」
剛太郎妹今日子「なんか、都合のいい話。」
剛太郎「でも、今の気持ちはそうなんだ。他に取られたくない気持ちと他にいい人がいるんじゃないかって気持ちが錯綜している。祥子ちゃんは美人だし、如月さんは可愛いし。二人ともタイプが違うしね。」
剛太郎父達夫「気の強いところは一緒、じゃないか?」
剛太郎「・・・確かに。そこは、共通点。」
剛太郎母幸子「剛太郎には、それくらいしっかりした人がいいのよ。で、如月さんは何ていってるの?」
剛太郎「僕が、祥子ちゃんに振られるの待つって。あと僕より好きな人が出来たら、あきらめてって言われた。」
剛太郎妹今日子「女心は複雑だね。」
剛太郎父達夫「しっかりした、お嬢さんだな。まあ、剛太郎、自分で決めるんだな。」
剛太郎母幸子「剛太郎がしっかりしないとね。」
剛太郎「うん。分かってる。自分の気持ちに嘘はつけないから、じっくり考える。」
剛太郎父達夫「じゃ、今夜は早めに休もうか。旅行で疲れたしな。剛太郎も今日子も、明日は学校だろう。」
剛太郎妹今日子「あ、そうだった。明日から車の送り迎えなくなるんだ。」
剛太郎「今日子は、お姫様通学だったもんな。」
剛太郎母幸子「さあさ、今日は早く寝ましょう。」
旅の疲れを我が家で癒す剛太郎父達夫と剛太郎母幸子、明日からの徒歩通学を憂鬱に感じる剛太郎妹今日子、人生最大のモテ期に戸惑いを感じる剛太郎、それぞれ思い思いに就寝するのであった。
一方、夏目家では、二階で祥子とクマリンクマエルが話をしていた。
クマリン「いやー、よくやった、でかした、立派なおならだったよ、祥子。」
クマエル「勇気ある、素晴らしいおならだったね。」
祥子「素晴らしいって、もう、超恥ずかしかったんだからね。」
クマリン「いやいや、あの時の剛太郎の嬉しそうな顔。」
クマエル「超激レアクマちゃんグッズを見つけたときよりも、喜んでたね。」
祥子「普通、女の子がおならしたら、引くんじゃない?」
クマリン「いや、剛太郎は変わってるからな。引くんじゃなくて、惹きつけられるんじゃないかな。」
クマエル「さすが、クマちゃんナイト。好きなものが、女の子の豪快なおならとは。」
祥子「クマちゃんナイトは関係ないような・・・。」
クマリン「祥子、音が少し小さかったから、練習しないと。」
クマエル「如月さんは、豪快だったらしいよ。」
祥子「練習って・・・。あ、クマリン、クマエル、耳ふさいどくって言ったじゃない。」
クマリン「だって、いきなりだったし、準備出来なかったもん。」
クマエル「今度は、事前に教えてね。」
祥子「二人とも置いていく。」
クマリン「いや、愛の大天使として、僕は二人を見届けないと。」
クマエル「戦士として、危ないときは、剛太郎呼ばないと・・・。」
祥子「結構です。」
クマリン「あ、でもね、あれで、剛太郎の気持ちは大きく祥子に向いたはずだよ。」
クマエル「確かに。あの勇気はたたえられるよ。」
祥子「もう、そんなんで褒められても、恥ずかしいな。」
クマリン「いや、剛太郎の考えでは、祥子を他に取られたくない気持ちと、祥子には自分より他にふさわしい人がいるって気持ちで、揺れ動いてるみたいだから。」
クマエル「祥子も如月さんに取られたくないって気持ちと、如月さんの方が剛太郎にふさわしいと思う気持ちで揺れ動いてるはず。ただ、今回の勇気は、剛太郎を取られたくないって気持ちの表れだと思うよ。」
祥子「取られたくない気持ち・・・。」
クマリン「おならは言いにくいから、勇気にしよう。」
クマエル「祥子、今度は豪快な勇気を一発、剛太郎にお見舞いするんだ。」
祥子「勇気って、結局、おならじゃない。」
クマリン「おならじゃないぞ、勇気だぞ。」
クマエル「そうだ、勇気だ。剛太郎喜ぶぞ。」
祥子「頭がこんがらがってきた。今日は、寝ましょう。明日から、合唱コンクールの練習始まるしね。クマリン、クマエル、おやすみ。」
クマリン「祥子、ファイトー。」
クマエル「いっぱーつ。」
祥子「おやすみーーー。」
クマリン・クマエル「寝よう。」
第三十一話に続く。第三十一話も書きます
第三十一話に続く。第三十一話も書きます