第二十六話 オーケストラコンサート開幕
オーケストラコンサートの開幕である。剛太郎の歌声は?歌のあとで祥子に思わぬ贈り物。
第二十六話 オーケストラコンサート開幕
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
いよいよ、オーケストラコンサート開幕である。コンサートは、市民会館で行われ、二時間の行程である。既にコンサートは、始まっている。剛太郎の出番は、ラストである。控え室で準備をしている剛太郎、付き添いの祥子。
剛太郎「さすがに、緊張してきた。」
祥子「まあ、会場の方が暗いから、お客さんの顔は見えないわよ。で、その仮面は、何なの?」
剛太郎「これ?やっぱり、テレビに映ると恥ずかしいから、この口の開いた仮面を用意したんだ。」
祥子「でも、体格で、剛太郎君ってすぐ分かっちゃうよ。仮面付けても大丈夫なの?」
剛太郎「ああ、オペラの題目だし、演出としていいんじゃないかって、OKもらった。」
そこへ、真奈美と和美がやってくる。
真奈美「剛太郎君、そろそろ出番だって、舞台袖に待機してくれって。」
和美「いよいよね。私と真奈美は、会場で見てるから、頑張ってね。」
剛太郎「さあ、行くか。」
祥子「うん。」
控え室から舞台へ向かう剛太郎。いよいよ、本番である。
会場には、テレビの地方局のカメラマン、ディレクターが来ていた。コンサートを一通り撮っていた。
カメラマン「次で、最後の曲ですね。」
ディレクター「高校生のオーケストラだから、こんなもんだろ。あとは、編集とナレーションで上手くやるかな。」
合唱部顧問の原田先生が、ディレクターに声をかける。
原田先生「テレビ局の方、お疲れ様です。最後はオペラのアリアです。ここは、きっちり撮ってくださいね。期待できますから。」
ディレクター「オペラの題目ですか。大丈夫ですよ。ちゃんと撮ってますから。安心してください。」
原田先生は、そう言うと、自分の席に戻っていった。
ディレクター「まあ、高校生の歌だから、期待はしてないけどね。まあ、しっかり撮りましょ。」
舞台袖に到着した、剛太郎。祥子に声をかける。
剛太郎「じゃ、行くね。」
祥子「うん。練習通りにやれば、大丈夫。頑張って。」
剛太郎が舞台へと歩いて行く。正面を向き、会場に一礼する剛太郎。
剛太郎を見て、驚くディレクター。
ディレクター「仮面付けてるのか。ははっ、オペラ座の怪人ってとこだな。実力ないから、カッコで来たのかな。」
剛太郎のアリアが始まる。オーケストラの前奏が始まり、一小節目から全開で歌う剛太郎。教会で聞いた聖歌、購入したCDを参考にカラオケで練習した剛太郎。更にパワーアップしていた。その声量と迫力に、会場全体が圧倒される。剛太郎の仮面やいかつい風体とは真逆の優しい歌声に、翻弄されてしまう。あまりの迫力に、会場の全員が、口が開いたままの状態。剛太郎の歌声に引き込まれていく。剛太郎はギアを一段上げ、切なさ、苦しみ、喜びなど感情豊かに、歌で表現する。ラストの一番の盛り上がりのところで、剛太郎が更にギアをあげる。会場にいる全員が鳥肌を覚える・・・。歌が終了し、剛太郎が会場に一礼する。その姿に、会場全員が立ち上がり、歓声と大拍手を送る。その姿を見て、我に返るディレクター。
ディレクター「な、なんだ、この歌は?か、彼は、何者なんだ?おい、撮ったか、ちゃんと撮っただろうな。」
カメラマンに声をかけるディレクター。泣きながら、うなずいているカメラマン。
カメラマン「ダ、ダイジョウブデズ、ウウッ、バッジリ、ドレデマズ・・・。」
声が声にならないカメラマン。歓声と拍手が鳴り止まない会場。剛太郎は、舞台袖にそっと退いていった。
剛太郎「ふうーーー。終わった、終わったよ。やっぱり、緊張するね、祥子ちゃん。」
剛太郎が祥子に話しかける。座り込んで、笑顔と涙で、泣いているのか、笑っているのか分からない祥子。
祥子「・・・練習したかいが、あったね。凄い、凄かったよ、剛太郎君・・・。」
座って、泣きながら、拍手する祥子。
剛太郎「ありがとう、じゃ、戻ろうか?」
祥子に手を伸ばす剛太郎。しかし、立ち上がれない祥子。
祥子「ごめん、ははっ、立てないや。剛太郎君、先に戻ってて。」
次の瞬間、祥子を抱きかかえる剛太郎。お姫様だっこ状態の祥子。
剛太郎「ここに置いてはいけないよ。一緒に行こう。」
そう言って、控え室へ歩き出す、剛太郎。照れつつも、剛太郎に首に、しっかり掴まる祥子。
そこに、真奈美と和美がやってくる。
真奈美「祥子、どうしたの?」
祥子「ごめん、立てなくなっちゃって・・・。」
剛太郎「祥子ちゃん立てなくなったんで、控え室まで運んでいくね。」
和美「もう、仕方ないな。ちょっと、羨ましいかも。」
祥子「何か、歌が終わった瞬間、体の力が抜けちゃって・・・。」
真奈美「練習いっぱいしたもんね。分かる、分かる。」
祥子を気遣いながら控え室へと戻る、4人であった。
ざわめく会場。オーケストラ部と顧問の森山先生が、会場に一礼している。コンサートの終了である。
ディレクター「控え室に行こう。」
カメラマン「えっ。」
ディレクター「あの仮面の男に、インタビューだよ。」
二人は急ぎ、控え室を目指す。
控え室に戻った、剛太郎、祥子、真奈美、和美。祥子も落ち着いたようで、椅子に座っている。剛太郎が仮面を外し、横に置く。そこへ、森山先生が、控え室に入ってくる。
森山先生「いやあー。剛太郎、ありがとう。素晴らしかったよ。お陰でコンサートが無事、成功したよ。本当にありがとう。」
原田先生も、控え室へ入ってくる。
原田先生「さすがね。剛太郎君。前よりも、パワーアップしてるじゃない。驚いたわ。」
剛太郎「そうですか。いろいろ練習したかいがありました。喜んで頂けたのなら幸いです。」
原田先生「どんな練習したの?」
剛太郎「教会に聖歌を聞きに行ったり、CD買って聞いたり、あと、カラオケで練習しました。」
森山先生「そこまでしてくれたのか。本当に、頭が下がるよ。ありがとう。」
原田先生「本気で、合唱部に来ない?」
剛太郎「いやいや、僕は柔道部ですから。それに、今回はピンチヒッターですから。」
原田先生「そうね。あ、今度の合唱コンクールは、出るんでしょ?」
剛太郎「去年、一昨年は、柔道の試合で出ませんでしたが、今年は大丈夫です。」
原田先生「そっちも楽しみね。剛太郎君、選択科目は音楽取らなかったの?」
剛太郎「選択科目は、書道です。」
原田先生「それで、今まで、誰も気づかなかったのね、その奇跡の歌声に。」
真奈美「初めて気づいたのは、私たちなんです。剛太郎君とカラオケ行って、女子三人泣かされました。」
和美「だって、あんなに歌上手いって思わないもん。」
祥子「剛太郎君、自分が歌うと、周りがしーんとするって言うから、下手なのかと思ったら、そっちのしーんじゃなかったんです。」
原田先生「あの歌を聴かされたら、参っちゃうわね。」
森山先生「僕たちは、これからオーケストラ部で食事会なんだが、君たちも来るかね?」
剛太郎「いえ、今日は失礼します。慣れないことをしたので、柔道の試合よりも疲れました。」
森山先生「そうか、じゃ、ここで失礼するね。また、アリアで呼ぶかもしれないよ。」
剛太郎「もう、勘弁してください。」
森山先生「冗談だよ。君も、柔道部があるからね。石橋先生には、僕からお礼を言っておくね。」
剛太郎「ありがとうございます。」
原田先生「うちも、ピンチヒッター考えてるから。次回の合唱コンクール、今から楽しみだわ。」
剛太郎「ピンチヒッターは、もうホントに勘弁してください。」
森山先生「じゃ、失礼するね。」
原田先生「私も、失礼します。」
森山先生と原田先生が去って行く。
入れ替わりで、テレビ局のディレクターとカメラマンがやってきた。
ディレクター「ちょっと、すまない。さっきのアリアを歌っていたのは君かね?」
剛太郎「いえ、オーケストラ部のメンバーだと思います。さっき、食事会するって出発したみたいですよ。」
付けていた仮面をそっと足下に隠す剛太郎。
ディレクター「そうか、ありがとう。いくぞ。」
そう言うと、ディレクターとカメラマンは、出て行った。
真奈美「剛太郎君、どうして僕ですって言わなかったの?」
剛太郎「僕って言ったら、話が長くなるし、早く帰りたいから。」
和美「そうね。私たちも帰りましょう。」
祥子「テレビ放映が楽しみね。どんな感じで映ってるんだろう。」
剛太郎「さあ、帰ろう。」
コンサート会場をあとにする4人であった。
オーケストラ部に追いついた、ディレクターが森山先生に声をかける。
ディレクター「森山先生、すみません。」
森山先生「あ、ディレクターさんどうしました?」
ディレクター「さっきのアリアを歌っていたのは、どの子ですか?」
森山先生「ああ、さっきのアリアを歌ってくれたのは、オーケストラ部の子じゃないんです。ピンチヒッターで、別の子にお願いしたんですよ。」
ディレクター「別の子?」
カメラマン「じゃ、やっぱり、さっきの・・・。」
ディレクター「戻ろう。」
急いで戻っていく、ディレクターとカメラマンであった。
既に、家路に向かっていた、剛太郎と祥子、真奈美と和美とは、既に別れていた。
剛太郎「祥子ちゃん、大丈夫?」
祥子「うん、大丈夫よ。」
剛太郎「良かった。あのあと、食事会行ったら、祥子ちゃん、もっと疲れちゃうし、インタビューとかあったら、それ以上に疲れちゃうもんね。」
祥子「まさか、わたしの為に?」
剛太郎「いやいや、僕も実際、疲れてるから。早く帰りたかったしね。」
祥子「ありがとう、剛太郎君。」
剛太郎「あ、のど渇いたから、ジュース買ってくるね。祥子ちゃん、マモリンちょっと持ってて。」
剛太郎が、自販機にジュースを買いに走る。
クマリン「ヒューヒュー。」
マモリン「凄かったね。」
クマエル「あの大ホールが、歓声に沸いてたもんね。」
クマリン「あと、あのだっこも良かったね。」
マモリン「うんうん。」
クマエル「まさに、ナイトに抱かれるプリンセスだったもんね。」
祥子「聞こえてますけど。」
クマリン「嬉しかった?」
マモリン「初のお姫様だっこじゃ?」
クマエル「女子の憧れ?」
祥子「もう・・・、嬉しかった・・・よ。」
クマリン「やっぱりー。」
マモリン「わざとじゃないよね。」
クマエル「えっ、そうなの?」
祥子「そんなわけないでしょ、あの時は、本気で立てなかったんだから。」
剛太郎が、戻ってくる。
剛太郎「あ、クマリンありがと。もらうね。何か話してたの?」
クマリン「僕の苦労は、まだまだ、続きそうって事。」
剛太郎「苦労?」
クマエル「大変だな、クマリン。君をもってしても、こんなに苦労するんだね。」
マモリン「世界一察しの悪い男だもん、しょうがない。」
剛太郎「???何の話?」
祥子「今日のコンサート、いっぱい苦労したねってこと。」
剛太郎「ああ、そういうことね。うん、大変だったもんね。」
クマリン「ああ、苦労しすぎても、その苦労が楽しい自分がここに居る。」
クマエル「分かるぞ、分かるぞクマリン。」
マモリン「みんなで、頑張ろう。」
祥子「みんなで、頑張ろうね。」
剛太郎「今度の合唱コンクール?頑張ろう。」
クマリン・クマエル・マモリン・祥子「はーーーーー。」
深いため息をつく祥子とクマちゃん達であった。
翌々日、テレビ放映の日、夏目家のリビングでテレビを見ている、剛太郎、剛太郎妹今日子、祥子、祥子父一郎、祥子母律子、祥子弟蒼太。録画の準備もばっちりである。いよいよ放送が始まる。
第二十七話に続く。
第二十七話に続く。第二十七話も書きます。