第二十五話 剛太郎の男道
剛太郎の過去のトラウマが明らかに。剛太郎の信念、努力は人を裏切らない。
第二十五話 剛太郎の男道
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
翌日の朝8時近くに教会を訪れた、剛太郎と祥子。祥子の存在に気づいた、幼なじみの南が、こちらに駆け寄ってくる。
南「祥子、来たのね。ビックリしたわ。急にミサに参加したいだなんて言うから。」
祥子「南、ごめんね。突然、こんなお願いして。」
南「ううん。全然いいわよ。ミサに興味がある人は、大歓迎よ。で、こちらが、剛太郎君ね。祥子、最近全然連絡くれないと思ってたら、こんな彼氏がいたんだ。」
祥子「彼氏じゃないわよ。クラスメートよ。クラスメート。」
剛太郎「祥子ちゃんのクラスメートの、剛太郎です。南さん、今日は、無理言ってすみません。聖歌隊の歌を聴いてみたくて。今度、オペラのアリアを歌うことになって、聖歌を聴いてみたいと思ったんです。」
南「そうね。発声とかは参考になるかもね。でも、いきなり参加は、難しいわ。神父様や他の聖歌隊のメンバーにも相談しないといけないからね。でも、練習や実演を聞くだけでもいい練習になるんじゃない。」
祥子「そうよね。今日は、体験と言うことで、参加しましょ。」
剛太郎「うん。南さん、ありがとうございます。
南「じゃ、神父様に紹介するね。こっちについてきて。」
案内されるがまま、南の後ろについて、協会内に入っていく、剛太郎と祥子。教会に入り、中で準備している、神父様と聖歌隊のメンバーに挨拶をする。
剛太郎「剛太郎と申します。今日は、ご無理言って、練習を見させて頂きます。神父様、ありがとうございます。」
神父「いえいえ、当教会に足を運んで頂き、心より感謝します。お二人には、今日のミサを楽しんで欲しいとです。」
祥子「祥子です。今日は、よろしくお願いします。」
神父が祥子のペンダント(クマエル)とキーホルダー(クマリン)に興味を示す。
神父「祥子さん、そのペンダントとキーホルダーをもっとよく見せてくれませんか?」
祥子「これですか?」
祥子が、クマエルを左手に、クマリンを右手に取る。
神父「おお、そのものには大いなるパワーを感じます。守護天使の力があるようですね。ここへ来られたのも、その導きでしょう。では、楽しまれてください。」
そう言って、神父との挨拶を終えた剛太郎と祥子であった。
ミサが始まる。入祭の歌、集会祈願、ことばの典礼、感謝の典礼、交わりの儀、祝福と派遣、閉祭の賛歌という流れであった。ミサ終了後、南が剛太郎と祥子に話しかける。
南「どうだった?」
祥子「うん。初めてだったけど、楽しかったよ。神父様のお話が為になった。」
剛太郎「聖歌の歌い方も参考になったよ。南さん、ありがとうございました。」
南「参考になったかな。参加したいときは、いつでも連絡してね。」
そう言って、南と別れた剛太郎と祥子、教会をあとにしようとしたとき、一人のシスターに声を掛けられた。
シスター「大天使ミカエル様、大天使ガブリエル様、本日は当教会にいらして頂き、ありがとうございました。9月29日は、私どもはあなた様へお祈りを捧げております。私達を愛し、守り、お導きください。今日のご来訪感謝いたします。」
シスターは、そう言い残し、去って行った。何のことか分からない、剛太郎と祥子は、教会をあとにした。
夏目家帰る途中の剛太郎と祥子。
祥子「シスターさんの言葉、なんだったの?」
剛太郎「さあ、分からないよ。」
クマリン「バレバレだったね。」
クマエル「神父さんには、パワーしか、見えなかったみたいだけど、シスターさんには、ボクたちが見えてたのかも。」
祥子「どういうこと?」
クマリン「9月29日は、大天使へ感謝する日なんだ。」
クマエル「天使に感謝するんじゃないけどね。」
クマリン「天使崇拝じゃなくて、天使を創造した神に感謝するという日なの。」
祥子「???いまいちよく分からない。」
クマリン「まあ、久しぶりに教会に行けたからいいや。」
クマエル「やっぱ、居心地いいよね。」
剛太郎「まあ、聖歌が聞けて良かったな。歌い方のコツはつかめたと思うよ。」
マモリン「ぼくには、わかりましぇーん。」
祥子「今度、神社行こうね、マモリン。」
クマリン「僕も行ってみたいな。」
クマエル「うん。みんなで行こう。」
家路を急ぐ、二人と三匹であった。
夏目家に到着し、お昼を済ませ、祥子の部屋で、午後の予定を立てる剛太郎と祥子。
祥子「あと、参考になるのは、何かないかな。」
剛太郎「CDでオペラはあるよね。」
祥子「じゃ、見に行こう。」
剛太郎と祥子は、近くのCDショップに行くことにした。
近くのCDショップについた剛太郎と祥子。店の外で、小学生2人が揉めているのを目の当たりにする。
小学生1「隼人、早くやってこいよ。」
隼人「そんな、出来なよ。」
小学生1「漫画一冊なんてバレないって。やらなかったら、また殴るからな。」
隼人「そんな、いやだよ。」
小学生1「殴られるのがいやなら、早くやれよ。」
隼人「でも・・・。」
二人の挙動にいち早く気づいた剛太郎、二人の小学生の元に駆け寄る。
剛太郎「こんにちは、君たち、何の相談?」
小学生1「何でもないよ。みろ、お前がグズグズしてるから。」
隼人「・・・。」
小学生1「僕、帰るとこなんです。失礼します。じゃあな、隼人。」
そう言って、隼人を睨みつけ、自転車で去って行く小学生1。
隼人「僕も失礼します・・・。」
隼人を見かねて、剛太郎が言葉を掛ける。
剛太郎「隼人君っていうの?」
隼人「うん・・・。」
振り向く隼人。
剛太郎「・・・いじめられてる?」
下を向き、泣き出しそうになる隼人。その隼人の両肩に手を掛ける剛太郎。
剛太郎「お兄ちゃんが、殴られそうなときの防御の仕方を教えてあげよっか。」
隼人「無理だよ、僕弱いもん。」
ずっと、下を向いている隼人。
剛太郎「お兄ちゃんも、昔弱かったけど、今は強くなったよ。努力したから。」
隼人「努力?」
剛太郎「うん、努力。」
隼人「でも、ケンカとかしたくないし。」
剛太郎「ケンカじゃないぞ。護身術だ。護身術、うーん、優しく言うと、ケンカにならない方法だ。」
隼人「ケンカにならない方法?」
剛太郎「うん、相手を動けなくするんだ。動けなくして、助けを呼ぶ。」
隼人「僕には、無理だよ。」
剛太郎「そうか?護身術は、女の子でも出来るぞ。一つやって見せようか。」
隼人「難しいの?」
剛太郎「簡単、簡単。」
剛太郎はそう言うと、隼人と同じ高さになるために、膝をついた状態になった。
剛太郎「隼人くん、こっちに来て。」
隼人が剛太郎の方に歩み寄る。
剛太郎「ゆっくり僕の顔を殴りに来て。」
そう言うと、隼人がスローモーションで、剛太郎の顔の左側を、右拳で殴ろうとする。その右拳を相手の外側から払うように掴み、相手の右腕を引っ張る。引っ張ると同時に、左足を一歩踏み込み、相手の右肩の上から自分の左腕を回す。相手の右肘関節のやや上の急所に自分の左手首の内側を当て、自分の右腕を下げ、胸を張る。すると相手は、右腕の急所を攻められ、動けなくなる。
剛太郎「どう?分かった?」
隼人「・・・動けなくなった。」
剛太郎「じゃ、練習だ。」
今度は、剛太郎が右拳をゆっくり伸ばしていく。同じ要領で、隼人が剛太郎の右腕を極める。
剛太郎「もう一回。どんどん、早くしていくよ。」
何度も何度も、繰り返す剛太郎。それを見ていた祥子。
剛太郎「祥子ちゃん、先にお店入ってて。CD選んでていいよ。」
そう告げると、何度も何度も、隼人と同じ動作を繰り返す剛太郎。
祥子「分かった。CD選んでくるからね。」
祥子は店に入る。
剛太郎「極めるときは、自分の背中と相手の背中がくっつくように、右足を引いて右へ回り込むんだ。」
そう言うと、また何度も何度も同じ事の繰り返し。小一時間、ずっと繰り返している剛太郎。隼人の動きも、だんだん様になってきている。
剛太郎「今度は、足さばきだけ練習。」
そういうと、隼人に足さばきだけを重点的にやらせる。
剛太郎「さあ、もう一回、今度は一歩左足を踏み出した状態で、素早く左腕を相手の右腕に巻き付かせる練習。」
また、腕の動きだけ、重点的にやらせる。
剛太郎「さあ、合わせてみよう。」
そう言うと、隼人の体さばきと技への入り方が格段に良くなっている。わずか1時間である。
剛太郎「早くいくぞ。」
そう言って右拳を振った瞬間、隼人は右手で剛太郎の手をさばき、体をさばき、左腕を剛太郎の腕に巻き付け、剛太郎の右腕を極めてしまった。右足も引いて、背中どうしがついた状態である。
剛太郎「うーん。降参。」
笑顔になる隼人。それを見て安心する剛太郎。
剛太郎「これは、相手を動けなくする護身術、決して人を傷つけるものじゃないからな。むやみに使わないように。分かった?」
隼人「お兄ちゃん、ありがとう。いっぱい練習するね。」
剛太郎「家で練習するときは、柱に長いタオルを縛って練習するといい。ただ、約束して。絶対自分から使わないこと、相手が降参したらやめること。分かった?」
隼人「うん。」
剛太郎「練習、練習、努力、努力。あとは、気持ちで負けない。いやだったらはっきりいやだという。自分に嘘をつかないこと。」
隼人「お兄ちゃん、いっぱい努力するね。」
CDショップから、買い物を終えた祥子が出てくる。
祥子「買ってきたよ。」
剛太郎「こっちも、終わった。帰ろうか。」
隼人「お兄ちゃんまたね。じゃあ、明日、夕方、また、ここで待ってるからね。」
剛太郎「5時くらいか?」
隼人「うん。待ってる。」
剛太郎「分かった。」
そう言い残し帰って行く隼人。
祥子「剛太郎君、あの子大丈夫かな?」
剛太郎「目を見たら分かるよ。明日は、部活休んで、ここに来なきゃね。」
祥子「そうね。」
CDを買って、夏目家に戻る剛太郎と祥子であった。
夏目家に戻った祥子と剛太郎、夕食を終え、剛太郎は入浴中。リビングには、祥子と剛太郎妹今日子の二人だけ。
祥子が剛太郎妹今日子に質問する。
祥子「ねえ、今日子ちゃん、剛太郎君って昔、いじめられっ子だった?」
ちょっとビックリした、剛太郎妹今日子。
剛太郎妹今日子「祥子さん、何で知ってるの?お兄ちゃんが話したの?」
祥子「ううん。今日ね、いじめられている子に護身術教えてたから。」
剛太郎妹今日子「・・・お兄ちゃんね、小学校低学年くらいの時、いじめに遭ってたらしいの、途中4年生くらいの時に、いじめっ子が転校して、いじめられなくはなったんだけど、自分を強くするんだって、柔道始めたの。」
祥子「そう。」
剛太郎妹今日子「でね、柔道だけじゃなくて、護身術やなんとか拳法とか、自分で研究してた。」
祥子「剛太郎君らしいわね。」
剛太郎妹今日子「お父さんが、よく実験台になってた。」
祥子「お父さん、気の毒ね。」
剛太郎妹今日子「でも、努力は人を裏切らないって、たくさん練習してたかな。」
祥子「努力ね。」
剛太郎妹今日子「でも、小学校6年生くらいから、ぐんぐん背が伸びて、顔も体も厳つくなって、柔道も強くなって、お兄ちゃんいじめるなんて出来なくなったんだけどね。」
祥子「あの剛太郎君をいじめる人は、居ないわね。」
剛太郎妹今日子「いじめっ子見ると、いじめを止める事が多くなったみたい。」
祥子「それでか。」
剛太郎妹今日子「自分と同じ苦しみを持ってる人は、感覚で分かるって言ってた。」
祥子「ふーん。」
剛太郎が、お風呂から上がってくる。
剛太郎「お風呂、終わったよ。祥子ちゃんどうぞ。ん、何の話してたの?」
祥子・剛太郎妹今日子「何でもない。」
その日は、剛太郎の思いもかけない過去に驚き、眠りにつく祥子であった。
翌日の放課後、校門で待ち合わせをし、昨日のCDショップの前まで来た剛太郎と祥子。昨日の隼人が、店の前で待っていた。隼人が剛太郎に気づく。
隼人「お兄ちゃん!」
隼人が剛太郎の元に駆け寄ってくる。
隼人「お兄ちゃん、いや、師匠、ありがとうございました。」
剛太郎「師匠?」
隼人「昨日の技が役に立ちました。今日、学校で、いやなことはいやだって、あいつに言ったんだ。そしたら、殴りかかってきたんで、昨日のあの技を使った。あいつは動けなくなってそのままにしてたら、先生が止めに入ってくれた。最初は、ケンカしちゃ駄目って言われたけど、今までのこと、全部話したら、先生も分かってくれた。その人に、お礼を言ってきなさいって、言ってくれた。」
剛太郎「良かったな。努力は人を裏切らないだろ。」
隼人「師匠、ありがとうございました。」
剛太郎「その、師匠はやめてくれないか。普通にお兄ちゃんでいいよ。」
隼人「でも、やっぱり、師匠は師匠です。あの技は少林寺拳法の腕がらみですね。調べました。」
剛太郎「そう、腕十字固めだよ。ほんと、お兄ちゃんでいいから。」
祥子「おじちゃんよりいいんじゃない。」
剛太郎「いや、おじちゃんはちょっと・・・。」
祥子「じゃ、師匠で決まりね。良かったね、隼人君。」
隼人「はい。僕も強くなって、お姉さんみたいな美人の彼女が欲しいです。」
祥子「美人?あら、ありがとう。」
剛太郎「う、うん。男は、先ずは、自分を磨くことだ。努力しなさい。」
隼人「はい。師匠、ありがとうございます。では、失礼します。」
隼人が手を振って去って行った。
祥子「結局、師匠にされちゃったね。」
剛太郎「まあいいよ。彼も自分に自信が持てたみたいだし、良かった。」
祥子「良かったね。お・じ・ちゃ・ん。」
剛太郎「18歳なので、そこは、お兄ちゃんで。」
祥子「ふふっ。あ、明日はいよいよ、コンサートね。帰って準備しましょ。」
剛太郎「そうだね。帰ろう。」
今日、一人の子供を男に変えた剛太郎であった。
第二十六話に続く。
第二十六話に続く。第二十六話も書きます。