第二十話 剛太郎、夏目家でカラオケ披露
カーニバルでの戦いを祥子父一郎に説明する剛太郎、一郎の予測が半端ない。剛太郎の歌も半端ない。
第二十話 剛太郎、夏目家でカラオケ披露
その男の名は、岩田剛太郎。
高校3年生18歳、ゴツいのは名前だけではなく、見た目もゴツい。身長185cm体重135kg、柔道部主将、屈強な体。目つきも鋭く、強面、かなりゴツい男。
見た目に反して、この男、気は優しく、あまり怒らない。
頭も良く、県下でトップクラスの進学校(一高)に通う。文武両道の男。
ただ、彼には、人に言えない秘密があったのです。
家に上がる剛太郎、今日子とともに、リビングへ案内される。
祥子弟蒼太「今日子ちゃん、僕の部屋に来る?」
剛太郎妹今日子「うん、行く。」
祥子弟蒼太「お母さん、いいでしょ。」
祥子母律子「ええ、いいわよ。呼んだら、降りてくるのよ。」
祥子弟蒼太「うん。今日子ちゃん、行こう。」
剛太郎妹今日子「うん、二階ね。」
祥子弟蒼太と剛太郎妹今日子が、元気に二階へ上がっていく。
祥子母律子「元気のいいこと。」
剛太郎、祥子、祥子父一郎がリビングを囲む。祥子母幸子は、ダイニングへ。
祥子父一郎「じゃあ、早速、世界相撲大会の話をしてくれんか。この一ヶ月待ちに待っとったぞ。祥子から聞いても今一分からんでな。」
祥子「だって、競技の名前とか、技の名前とか全然知らないもん。」
剛太郎「そうだよね。分かりました。」
祥子父一郎「最初は、誰と試合したんだ?」
剛太郎「オーストリアランゲルンの選手でした。」
祥子父一郎「ランゲルン、たしかグレコローマンみたいなやつだな。」
剛太郎「そうなんですね。3秒で、払い腰決めたので、よく分かりませんでした。」
祥子「そう、早かったもん、組んだ瞬間だったもんね。」
祥子父一郎「秒殺か、相手選手には、気の毒だな。で、次は?」
剛太郎「次は、フィリピンブノの選手でした。」
祥子父一郎「フィリピンの格闘技だな、また、秒殺か?」
剛太郎「秒殺とまでは、いきませんが、大内刈りからの連絡技で大外刈りを決めました。」
祥子「豪快だったわよ。」
祥子父一郎「ほう、で、次が予選の最終戦だな。」
剛太郎「はい、予選の最後はセネガル相撲の選手でした。」
祥子父一郎「なんと、アフリカの選手か。しかもセネガル相撲とは。強かったろう。」
祥子「剛太郎君よりも、大きかったもんね。」
剛太郎「ええ、力は半端なかったですね。ただ、着衣の競技でしたから、相手が、右から外掛けにきたのですが、上手く左釣り手で防御出来ました。マワシで勝負だったら、危なかったですね。」
祥子父一郎「右下手の引きつけを、左釣り手で防御か。着衣だと、その手が使えるか。」
剛太郎「逆に、左奥襟を引きつけ、右に体を開き、相手を左前に崩し・・・。」
祥子父一郎「内股か?」
祥子「お父さん、分かるの?」
祥子父一郎「ああ、剛太郎君が奥襟を引きつけたなら、相手は頭を下げる。強引に、払い腰や大外にいくより、内股で跳ね上げた方が、投げやすいだろう。ただ、内股すかしを食らう危険はあるがな。」
剛太郎「さすがですね。そこまでお分かりになるとは、柔道もされてたんですか?」
祥子父一郎「いや、大学の時に、部活交流として柔道も少しやったぐらいだよ。その時に、内股を教わったんでな。相撲では、掛け投げというがな。」
剛太郎「おっしゃる通り、内股で勝ちました。」
祥子父一郎「そして、トーナメントか、どんな選手が勝ち残ったんだ?」
剛太郎「はい、日本柔道、韓国シルム、スペインルチャカナリヤ、ロシアサンボ、スイスシュピンゲン、ウズベキスタンクラッシュ、中国シュワイジャオ、日本相撲でした。」
祥子父一郎「凄いな、強敵ばかりじゃないか。初戦は?」
剛太郎「準々決勝は、韓国シルムの選手でした。」
祥子父一郎「韓国相撲だな。密着されると厄介だな。間合いが重要だな。」
剛太郎「ええ、間合いを取り、相手を左に回し、あいての右足を左足でさばき・・・。」
祥子父一郎「一歩踏み込み、払い腰か体落としだな。」
祥子「お父さん、見てたの?」
祥子父一郎「いやいや、剛太郎君の体のさばき方を聞いてると、多分それが一番じゃないかと思っただけだよ。」
剛太郎「鋭いですね。そうです、そこから腰を密着させ、払い腰で投げました。」
祥子父一郎「準決勝だな。選手は?」
剛太郎「ロシアのサンボ選手でした。」
祥子父一郎「サンボの選手は、組み手が厳しいし、変則な投げもあるからな厄介だな。」
剛太郎「ええ、最初は防戦一方でした、ただ、左釣り手を小刻みに動かして、徐々に崩し、大内刈りから大外刈り、そのまま左足をつき体落としに移行しました。」
祥子父一郎「相手の下半身を攻めたな。その連続技で勝ったか。上背はあるが、下半身が弱いタイプらしいな。」
祥子「お父さん、ほんとに見てなかった?」
祥子父一郎「見てないよ、剛太郎君の攻めが的確だから、そうじゃないかなって思っただけだ。」
剛太郎「確かに、上半身は強く感じましたが、下半身に弱点があると思いましたので、そこを攻めました。」
祥子父一郎「いよいよ、決勝だな。相手は、ウズベキスタンの選手かな。」
祥子「お父さん、見に来てた?」
祥子父一郎「いや、多分、そうじゃないかなって、推測だ。ウズベキスタンクラッシュは着衣で投げだけの競技だ。組み方も柔道に似ている。マワシやベルトを掴む他の競技より、防御に長けているからな。あと中国シュワイジャオの選手も強いとは思うが、体格や力を考えると、ウズベキスタンかなと。国技だしな。」
剛太郎「ご名答です。お父さん、推測が凄いですね。谷落としで一度崩し、右に投げると見せかけ、左の支え釣り込み足、さらに崩れたところで前に体重が戻って来るところを相手を左前に引き出し、半歩踏みだし、釣り手で釣り上げ引きつけて、一気に・・・。」
祥子父一郎「払いあげろ、払い腰だ、いけーーー。」
興奮して立ち上がる祥子父一郎。
祥子「・・・なんで、分かるの・・・?」
剛太郎「・・・はい、一気に払いあげました。優勝です。」
はっとして、座り直す祥子父一郎。
祥子父一郎「おお、すまん、すまん。剛太郎君の戦い方を聞いていると、こっちが力が入ってしまった。説明が詳細だから、頭の中で相手の体勢を思い浮かべられた。いやはや、力の入る一戦だったね。」
剛太郎「確かに、戦いのあとは、精も根も尽き果てて、動かなくなったみたいです。」
祥子「あの時、ほんと、心配したんだから。そのあと、気がついてくれて、ほっとしたけど。」
祥子父一郎「二人とも、大変だったな。まあ、剛太郎君、戦いの話、ありがとう。久々に、血湧き肉躍る話を聞けたよ。」
剛太郎「いや、お父さんの推察には感服しました。分かる人には分かるんですね。」
祥子「分からなくて、すみませんねー。」
祥子父一郎「いやいや、父さんも、格闘技をやってたから分かっただけだよ。普通の人が聞いたら何でもない話だけど、格闘技をしたことのある人なら想像してしまうからな。」
祥子「ふーん、そうなんだ。」
祥子父一郎「剛太郎君、貴重な話をありがとう。まだ、10日間もあるからな。また、詳しく聞かせてもらうよ。今度は、実践形式でな。」
祥子「実践?」
祥子父一郎「いや、軽く組んで、技の入り方なんかを聞くだけだよ。」
祥子「軽く組むだけで済むかな。」
祥子母幸子がリビングに入ってくる。
祥子母律子「年甲斐もなく、ご無理なさらないようにね。もう若くないんですから。」
祥子父一郎「大丈夫だよ。本気でやっても、剛太郎君に勝てんのは分かっとるよ。」
剛太郎「でも、相撲はお強いですよね。」
祥子父一郎「そうか、まだ、いけるか?」
祥子「この間みたいに、また、うっちゃりで投げられるよ。あのあと、お父さん、腰が痛いっていうから、湿布貼ってあげたの忘れたの?」
祥子父一郎「そうだったな。でも、あの相撲は嬉しかったな。一生忘れられない相撲だよ。」
祥子母律子「さあさ、夕飯にしましょう。祥子、蒼太と今日子ちゃん、呼んできてくれる?」
祥子「うん。分かった、呼んでくるね。」
祥子が二階に、蒼太達を呼びに行く。
祥子母律子「剛太郎君、夕飯のあとにお願いがあるんだけど。」
剛太郎「何でしょうか?」
祥子母律子「実はね、祥子から剛太郎君の歌が凄いって聞いたから、それを披露して欲しいの、いいかな?」
剛太郎「歌ですか、ええ、構いません。でも、僕が歌うと周りがしーんとなりますけど、それで大丈夫なら。」
祥子父一郎「そうそう、この日のためにカラオケマシーンも買ったからな。」
剛太郎「購入されたんですか?」
祥子父一郎「わしの趣味の分もあるんだよ。じゃあ、一曲目は、わしが歌うとするかな。」
二階から降りてくる祥子、祥子弟蒼太、剛太郎妹今日子。
祥子弟蒼太「ご飯なの?今日は何?」
剛太郎妹今日子「言ってくれたら、お手伝いしたのに。」
祥子母律子「今日子ちゃん、いいのよ。手伝ってもらうときは、祥子か蒼太にお願いするから。さあ、ご飯にしましょう。」
全員がダイニングに移動し、夕飯が始まる。
祥子弟蒼太「トンカツ、唐揚げ、スープ・・・いろいろ、今日は豪勢だね。」
祥子母律子「剛太郎君がたくさん食べると思ったから、作りすぎちゃったかな?」
剛太郎妹今日子「やっぱり大変だね、明日から、わたし、お手伝いするね。」
祥子母律子「あら、ありがとう、今日子ちゃん。じゃあ、お願いするね。」
剛太郎妹今日子「うん。別のお家の味も勉強しないと。」
祥子「今日子ちゃん、偉いね。」
祥子父一郎「さあ、遠慮しないで、たくさん食べてくれよ。」
全員「頂きます。」
夕食後のダイニング、片付けをしている、祥子母律子、祥子、剛太郎妹今日子。
祥子母律子「やっぱり、大人数になると大変ね。」
祥子「でも、あれだけあったのに、全部なくなったもんね。」
剛太郎妹今日子「お兄ちゃん、いっぱい食べるからね。お兄ちゃんのお嫁さんになる人、大変だね。」
祥子が赤くなる。
祥子「でも、たくさん食べてくれるなら、作りがいがあるもんね。」
祥子母律子「いい練習になるんじゃない?明日は、手伝ってね。」
剛太郎妹今日子「練習?」
祥子「ううん、何でもないよ今日子ちゃん。ちょっとお母さん・・・。」
祥子母律子「料理は練習、練習よ。」
剛太郎妹今日子「うん、練習だね。」
祥子母律子「そうそう、さっき、剛太郎君に、歌のリクエストしといたから。」
祥子「えっ、今から?」
祥子母律子「そう、でも、一番は、お父さんが歌うって。」
剛太郎妹今日子「何するの?」
祥子「このあと、カラオケするの。」
剛太郎妹今日子「凄ーい、お家にカラオケあるんだ。わたしも歌っていい?」
祥子母律子「ええ、順番に歌いましょう。」
祥子「ご近所に迷惑にならないようにボリューム気をつけないとね。」
祥子母律子「そうね。」
剛太郎妹今日子「お兄ちゃん、上手だよ。お父さんもだけど。」
祥子「歌の上手さは、お父さん譲りなのね。」
剛太郎妹今日子「お父さん、歌でプロポーズしたって言ってたから。」
祥子母律子「まあ、今度聞かせてもらおうかしら。」
リビングに全員集合、男性陣は、カラオケの準備を済ませていた。
祥子父一郎「さあ、歌うぞ。」
祥子「お父さん、音量、気をつけてね。」
祥子母律子「お父さんの歌聞くの久しぶりね。」
祥子弟蒼太「さあ、いってみよう。」
懐メロが流れ出し、歌い出す祥子父一郎、中々上手である。皆で手拍子、盛り上がる。歌い終わりマイクを置く祥子父一郎。
祥子父一郎「さあ、何点出るかな?」
祥子「これ、採点機能もあるの?」
祥子母律子「そうなの。それで、お父さん、これじゃなきゃ駄目って、取り寄せたのよ。」
ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ドン。75点と表示される。
機械の声「音程を守りましょう、抑揚をもっとつけましょう。頑張りましょう」
祥子「この、カラオケ、しゃべるんだ。」
祥子父一郎「75点か、自分じゃ上手く歌えたんだがな。まあ、練習だな。剛太郎君、次いってみよう。」
剛太郎に祥子父一郎がマイクを渡す。
剛太郎がリモコンに曲を打ち込む。先日、カラオケで歌ったバラードが流れてくる。
祥子「お父さん、お母さん、心して聞いてね。」
祥子父一郎「お、バラードか。」
祥子母律子「楽しみだわ。」
祥子弟蒼太「どんな声なんだろう。」
剛太郎妹今日子「お兄ちゃん、頑張れー。」
一小節目を歌う剛太郎。祥子父一郎、祥子母律子、祥子弟蒼太、祥子の4人の心が持って行かれる。Aメロで頷く4人、Bメロで下を向く4人、サビで泣いている4人。涙が止まらない4人。2番と最後のサビを歌い上げる剛太郎。マイクを置く剛太郎。
剛太郎妹今日子「お兄ちゃん、上手い、上手い。」
剛太郎妹今日子が一人、拍手している。
剛太郎「あ、やっぱり、また、しーーーーんとなっちゃいましたね。ごめんなさい。」
動けなくなる4人。
涙声で剛太郎に話しかける祥子。
祥子「二回目だけど・・・、やっぱり、剛太郎君、歌・・・凄いね。」
祥子弟蒼太「・・・言葉が・・・出ないや・・・。」
祥子父一郎「剛太郎君・・・、ありがとう・・・。」
祥子母律子「心に刺さる歌って・・・あるのね。」
剛太郎妹今日子「何点かなー。」
ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ドン。なんと、99点と表示される。
祥子父一郎「はい?」
祥子母律子「まあ。」
祥子弟蒼太「やっぱり。」
祥子「す・ご・い。」
剛太郎妹今日子「お、99点だ、お兄ちゃん、今度は100点だそうよ。」
機械の声「音程、抑揚、ビブラート、素晴らしいです、完璧です。もしかして、プロの方ですか?」
剛太郎「このカラオケ、壊れてるんじゃ?」
祥子・祥子父一郎・祥子母律子・祥子弟蒼太「壊れてません!」
この日の夜、夏目家はカラオケ大会になりました。
第二十一話に続く。
第二十一話に続く。第二十一話も書きます。




