マッチポンプじゃないか!
「フゴフゴフゴ、ゴッフゴッフ」
「はあ?そんな安い値段で売れる訳がないだろう」
オークと盗賊が喋っている姿をヴィヴィは呆然と眺めていた。
「フゴ!?フゴフゴ、ゴフゴゴッフ!」
「ん、ん?んーー。女二人と金貨5枚かぁ?まあそんな所か……仕方ないな」
盗賊が納得したように頷く。
「ちょっと、あんたが何言ってるか解らなかったんだけど」
「お前は最高の母体になるらしい。女二人と金貨五枚まで交渉であげておいた」
どうだ?俺の交渉術は、とでもいいたげな盗賊にヴィヴィは顔をひきつらせた。
「……金貨五枚、だと?」
「ばか、女も二人付くんだ。オークに弄ばれたとはいえ、二人いれば金貨三枚にはなる。これはもう、合計で金貨八枚といってもいいくらいだな」
満足そうに金貨八枚だ、という盗賊。
「……は?」
ヴィヴィの首に付いている隷属の首輪は白金貨五百枚。金貨に直せば五千枚はくだらない。
ヴィヴィ自体も王女である。身代金でもとれば、首輪の比じゃなくお金が手に入るはずなのだ。
「ちょ、ちょっと!?冗談でしょ?」
「いや、もう取引しちまったしな……。それにお前って胸が小さいだろ?もっとこう、手で重みを感じるようなのが欲しいわけな」
「クズ!!このクズ!!本当にクズ!!!」
「フンゴフゴゴ、フゴフゴフフフ!」
「おう、いい取引ができたぜ。じゃあ二人付けてくれるっていう女を見せて貰おうか」
交渉していたオークがヴィヴィを抱えて、盗賊に手を振り、違うオークが盗賊を手招きする。
「なんでお前は言葉が通じるんだ……」
ヴィヴィは考えを巡らせていた。
これはチャンスかもしれない、と。
隷属の首輪をつけたあいつの命令には逆らえない。
オークに金貨八枚とかいうはした金で売られたのは業腹だが、これはチャンスかもしれない。
盗賊がいなければ新しい命令はこないだろうし、逃げられるかもしれない。
オークはあまり強い魔物ではない。
あいつが立ち去った後に全員を倒して逃げればいいのだ。
王国まで戻れば首輪が取れる。
そしたらあの私を穢した盗賊を死ぬよりも辛い方法で、殺してくれというまで……
「じゃあな、俺がいなくても頑張れよ。死ぬまでここで立派なオークの子を産んでくれ。じゃあな」
「は……?」
ヴィヴィはオークに触られただけで快感が走り、力が抜けるのを感じた。
死ぬまで、ここで、オークの子を産め?
盗賊の言葉を繰り返し、ヴィヴィは目を見開いた。
「ちょ!?え、ええ?な、取り消せ!私をオークに売ってもいいが、さっきの言葉だけは取り消せ!おい、貴様、貴様ァァァァァ!!!」
ヴィヴィが声を張り上げた時、盗賊の男の姿は……既に無かった。
「こ、殺す、絶対殺す、絶対殺してやる!!!」
オークの子を産みやすいように、隷属の首輪で身体が準備をはじめたのか、身体から力が抜けていく。
「フゴフゴフゴ、ゴッフゴッフ」
「や、やめろ!ふ、服を剥ぐな!や、やめろ、やめてくれ」
服を脱がされ、汚い藁に転がされるヴィヴィ。
「た、頼む、許して……許して。た、助けて、助けてください……」
隷属の首輪の力により自分の意思に反して、
オーク達が子供を作りやすいように足を開いていくヴィヴィ。
さあ、やるか!とオークが動き始めたその時、
「フゴ!?」
「フゴゴ!!?」
盗賊がヴィヴィにのしかかっているオークの頭を斧でかちわっていた。
「……え?」
「おい、帰るぞ。ほら、お前の脱がされた服だ、さっさと着ろ」
「……あ、ああ」
ヴィヴィは盗賊の助けを嬉しいと感じて涙をこぼした後、感謝の言葉を伝えようとして気付いた。
「全部お前のせいじゃないか……!」
マッチポンプじゃないか……。
オークの洞窟から出て、ヴィヴィは盗賊に気になっていた質問をする。
「なぜ売っておいて、私を助けに来たんだ?」
「金貨五枚と女二人って約束だったんだが。その女二人が……売れそうに無かった」
「……は?」
「売れそうに無かったんだよ。ゴネたら襲ってきたから全員倒した」
「……そうか。それで、その女達はどうしたんだ?」
「売れそうに無い女に興味は無いからしらん。今頃は町に戻って身体を洗ってるんじゃないか?」
ヤギですら使うような盗賊が、売れそうに無いから女を逃がす。
そんな事があるだろうか。
ヴィヴィは、それを聞いて、ただこう呟いた。
「そうか」
どんな人間にも、良心はあるのかもしれない。口から出た笑いを抑えるように、ただそうか、と呟いた。
盗賊は照れるように頭を掻いて、続けた。
「チッ、売れそうに無い女なんかいらないんだ。本当にいらなかったから捨てただけなんだ。助けた訳じゃないんだ。勘違いするなよ?」
「そうだな」
「試しに一回ずつ使ったんだが、オークが使った後はやっぱり具合が悪くてな。やっぱり魔物との取引は物より現金が一番だ」
「……そうか」
やる事はやっていた。
オークを騙し、金と女を奪い、女を使った後で取引先のオークを殺し、女は使って面倒だからそのまま捨てた……。
「……」
ヴィヴィの善人補正は終わりを告げた。
「クズだな……」
やっぱりこいつは死んだほうがいいのではないか、とヴィヴィは盗賊を睨み付けた。