出会い
「あのね、アルチュール。私、大きくなったらアルチュールのお嫁さんになるの!」
「ええ?それは嬉しいな。ありがとう。ディアナ。」
彼はそう言って笑っていた。
あの時は「冗談じゃないのに」って、私はちょっとだけ怒ったんだっけ。
私はまだ子どもだったけど、本気であなたと結婚するんだって思ってた。
ううん。今でもそう思ってるの。
あなたは覚えていないかもしれないけど、あの頃とは何もかもが違うけど、
ーーあなたが大好きよ。アルチュール。
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麻色の癖っ毛に空色の瞳、それに透き通るような白い肌。
ドアの向こうに立っているその男性は、とても驚いた顔をしていた。
でも、それも一瞬のことで、すぐに笑顔になってこう言った。
「やあ、こんばんは。お客さんかな?」
「いいえ。あのっその..、私、迷子になってしまって。すみません!すぐに出て行きます。あやしいけど、あやしいものじゃありません!」
いきなり怒鳴られなくてよかったけれど、このままじゃ私は不法侵入者だ。このままここに居座るのはよくない。記憶がなくたって、これくらいはわかる。
そのまま部屋から出ようとすると、男性が私の前に立ちふさがった。
なに!?やっぱりあやしいって思われたの?
あわてて男性に弁明しようと顔を上げると、久しく見ていない青空のような青い目があった。
顔が近い。
男性はいつの間にか身をかがめて、私の顔をのぞき込んでいた。
「あの...?」
「ねえ。君、迷子だって言ったよね。なら、このまま外に出てもどこに行けば良いか分からないだろう?」
「あっ。」
そういえばそうだった。確かに、この部屋を出たところでまた迷子になるだけだ。
どうしよう。困った。そんな気持ちが顔に出ていたのか、男性は安心させるように微笑んだ。
花が咲くような、きれいな笑顔だ。
「じゃあ、私がここを案内するよ。」
「いいんですか?」
「うん。もちろん。」
青空みたいな瞳が、笑っていた。
もう、家人は皆寝てしまったんだろうか。とても静かな、薄暗い廊下を連れだって歩く。
それにしても、やっぱり豪華な造りだなあ。シャンデリアまである。
「そういえば、君、名前は?」
「ごめんなさい。私、記憶がなくて…、名前が分からないんです。」
男性は驚く様子もなく、ただ静かに目を細めた。
「そうか。では、君のことをお嬢さんと、そう呼んでもいいかな?」
「はい。」
「私の名前は、フランシス。フランと呼んでくれ。」
「はい。フランさん、よろしくお願いします!」
思ったよりも大きな声が出てしまって恥ずかしかったけど、フランさんは嬉しそうに笑ってくれた。
優しい人のようで、よかった。
「これからよろしく。お嬢さん。」
そう言ったその人を、何故か懐かしいと思った。