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第八話:ショットガン

 俺が天狐のために作ったのは……。


 レミルトン M870P

 全長1060mm 重量3.6kg 口径12ゲージ 装弾数六発


 ポンプアクションの傑作銃。

 堅牢かつ耐久性が高い構造のため散弾銃ショットガンの定番として世界各国で愛されているレミルトン870。その中でも装弾数を増やしたモデルだ。

 天狐は器用にトリガー部分に指をかけくるくると回していた。


「その鉄の棒は何かな? 見たところ魔力も通っていないようだけど。ただの鈍器ってわけじゃないよね」

「それは見てのお楽しみだ」


 さきほど、試し撃ちをした天狐はすっかりレミルトンM870Pを気に入ってしまっている。

 凶悪な銃も彼女にとって、面白い玩具なんだろう。


 四人で、混沌の渦があるところに行く。

 とっくに魔物は生み出されており、渦の近くで眠っていた。

 距離は五〇メートルほど。

 赤いたてがみを持った魔犬。ランクCオルトロス。


「ランクCのオルトロスは固定レベルで生み出した場合、レベル40~レベル50で生まれてくる。ランク差、ステータス差を考慮したら天狐ちゃんはかなり不利。強力な特殊能力の補正で少し不利ってところまで軽減されてるかな」


 逆に言えば、レベル1の時点でそこまでの戦闘力を持つ天狐は異常だ。

 それがランクSという存在。

 固定レベルで生み出していたらどれほどの規格外だったのだろうか?


「もし、オルトロスを魔法なしで倒せるなら、【紅蓮窟】でも狩りができるね」


 それを聞いた天狐が目を輝かせ握り拳を作る。


「やー♪ はやくたくさんレベルをあげておとーさんの役に立つの」


 嬉しいことを言ってくれる。

 天狐はその場で深呼吸する。

 さらに、ポンプアクションによる装弾を行う。カチリと硬質な音がなった。

 そして、きっと敵を睨みつけて突進。


 赤い鬣を持った魔犬オルトロスは野生の危機感知能力で天狐の存在に気付く。

 本来天狐は、炎の魔術を得意としており、遠距離から一方的に攻めることができるが、今回の想定は炎の耐性が高い相手と戦う場合だ。

 炎は使えない。


 先手を打ったのはオルトロスだ。

 口を大きく開く。天狐は素早くサイドステップをした。彼女の背後にあった岩が爆発し、四散する。

 オルトロスの攻性魔術。【音響破壊】。

 その名のとおり、高振動の音の塊をぶつける。音速かつ不可視のそれはひどく回避が難しい。

 だが、天狐は。


「天狐には通じない。あと五歩」


 連続で放たれる【音響破壊】を軽々と躱していく。

 オルトロスが口を閉じた。魔法がやんだのか? そう思った瞬間また天狐がステップを踏んだ。彼女の元いた位置を【音響破壊】が通り過ぎていく。


 オルトロスの口を開けるという仕草はおそらくダミーだ。

 口を開き、その方向に真っすぐ飛ぶという思い込みをした獲物をしとめるための悪質な罠。

 だというのに、天狐は初見で対応した。


 その秘密は天狐のスキル。【未来予知】にある。天狐は一秒後の世界を感じ取ることができる。そして、もう一つのスキル。【超反応】で、その一秒後の脅威に対応する。


 この二つを使う天狐を傷つけるのはひどく難しい。彼女をしとめるには、見えたところでどうあがいても対応できない攻撃をするしかない。

 たった、一秒だが。天狐の圧倒的な素早さと【超反応】があればお釣りがくる。


「あと一歩!」


 オルトロスとの距離は残り一〇メートル。。天狐が足を止め、ショットガン……レミルトンM870Pを構える。

 小さな天狐には不釣り合いな長い銃身。


「おとーさんの武器、使うの」


 天狐はショットガンのトリガーをひく。

 距離は一〇メートルほど離れているが十分有効射程内だ。ショットガンは射程が短いというイメージがあるが、五〇メートル程度なら十二分に殺傷力を持った弾が届く。


 実を言うと、天狐は距離を詰めるまでもなく初期位置から攻撃はできた。だが、近づくことで確実に致命傷を与えようと考えたのだろう。


 弾丸が破裂し、鉄の雨となってオルトロスに降り注ぐ。

 オルトロスは勘だけで横っ飛びに飛んだが、散弾故に躱し切るのは不可能。何発かをもらい。血まみれになってごろごろと転がる。


「あれはいったい」


 驚愕の表情でマルコはショットガンを放った天狐を見ていた。


「俺のユニークスキルで作った武器だ」

「魔力なんて全然感じないのに、あの威力、驚きだね」

「魔力じゃなくて科学の力だからな」


 天狐は、吹き飛んだオルトロスとの距離を詰める。

 そして、銃身の下部にとりつけられているポンプをかちりと動かし、次の弾丸を装填。

 ほとんどゼロ距離。


 そこで再びの射撃。

 今度は弾が破裂しない。弾丸はまっすぐにオルトロスの頭に向かって飛び、首から上を吹き飛ばした。

 青い粒子になりオルトロスが消える。


 今回使用したのはスラッグ弾。

 一言で言えば、大口径の単発弾。その威力は筆舌に尽くしがたい。

 装甲車用に開発されたアンチマテリアルライフルの一撃にも匹敵する。

 天狐のもっているショットガンには、散弾とスラッグ弾が交互に装填されている。


 基本戦術としては散弾で足をとめ、スラッグ弾で止めを刺すというものだ。


「おとーさん、倒したの!」


 天狐が誇らしげに手を降っている。

 彼女のステータスを見ると、レベルが三に上がっていた。

 レベルが五〇のオルトロスを倒したのだから、一足飛びの成長も理解できる。


「よくやった天狐、ほめてやるからこっちにおいで」

「やー♪」


 天狐は付属のストラップでショットガンを肩に吊るすと俺に抱きつき尻尾を振る。

 彼女の頭を撫でてやると、尻尾の動きが加速した。

 マルコが呆れたような顔をして口を開く。


「なるほど、確かにこれなら炎適性なんて関係なくぶち抜けるね。攻撃補正が半端ないね、その武器」


 この世界では攻撃力という概念がある。本人のステータス+武器の威力。

 すなわち、銃ですら誰が使っても同じ威力ではない。


 ただ、銃の攻撃力が高すぎてよほどステータスの高いモンスターでないと、装備者のステータスが誤差で扱えてしまう。

 だからこその、スケルトン軍団だ。銃を使うならランクCだろうがランクGだろうが変わらない。


「メダルだけじゃなくてユニークスキルにも恵まれました」


 本心からそう思う。

 この能力は応用が利く。


「これなら、明日にでも【紅蓮窟】にいけそうだ。一応念のため、天狐と君自身がレベル一〇になったらにしよう。今のままだと確かに勝てるけどランクC以上が相手なら、一発食らえば終わりだからね。マージンは持つべきだ。特に二人しかいない今は」


 彼女の言うとおり、自己と不意打ちは怖い。

 勝てるとはいえ、一発食らって終わりという状況での狩りは自殺行為。


「そうさせてもらう。天狐、レベル一〇までは毎日混沌の渦からでる魔物と戦おう」

「ぶー、天狐は早く強くなりたいのに」


 天狐は不満のようで頬をふくらませている。

 俺は苦笑すると、【創造】でキャラメルを作り出し、彼女の口に放り込んだ。

 一瞬天狐はびっくりするが、すぐににやけ顔になって、頬を押さえてキャラメルを咀嚼する。

 もう、さきほどまでの不満は忘れてしまったようだ。キャラメルに夢中になっている。


「【創造】のメダルだけでも驚いたのに、今度は武器作りか。本人の戦闘力だけじゃなくて、魔物たちの強化に役立つ能力。ほんと、君はとことん魔王に向いてるよ」

「俺もそう思う。ちなみに、マルコの能力はなんだ? 俺も自分の能力を教えたんだ。教えてくれてもいいだろう?」


 俺の問を聞いたマルコはしばらく考えこむ。

 そして、しばらく経ってから口を開いた。


「私の能力は、白狼化だね。いたってシンプル。身体能力と治癒力が跳ね上がる。それだけだ」

「シンプルだからこそ、いい能力だ」

「まっ、そうだね。この能力のおかげで一度も負けたことがない。人間にも魔王にもね」


 魔王にもという言葉を聞いて少し身構える。

 予想はしていたが、魔王同士で戦うことはあるようだ。


「【紅蓮窟】だけどね、魔物をたくさん増やして、戦力がしっかりできれば本気で攻略して水晶を壊してみるのもいいかもね」

「どうしてわざわざ、便利な狩場を壊すようなことを」


 なにせ、魔物を倒すことでレベルもあがるし、間接的にDPも補給できる。

 自由に使えるダンジョンはあったほうがいい。


「水晶を壊すとね、水晶の持ち主の魔王のメダルが作れるようになる。それを目的として、生きてる魔王の水晶を壊す魔王も居るぐらいだ」

「……その言葉が本当なら俺は相当やばいな。あっという間に狙われそうだ」

「だから、君の【創造】の情報はしっかり隠しておきなよ」


 俺は頷いた。

 水晶を砕かれても命はあるとしても、魔王の力は惜しい。

 それに……。


「おとーさん、これ甘くておいしいの。もうひとつちょーだい!」

「ああ、いいよ。ほら」

「ありがとうなの! おとーさん、大好き!」


 この子を失いたくない。

 水晶を砕かれれば、生み出した魔物は全て消える。


「わかった。一度本気で【紅蓮窟】の攻略を考えてみる。ただ、不思議なのはどうして今まで、【紅蓮窟】は無事だったんだ? 他の魔王や人間に破壊されていても不思議じゃないはずだ」


 マルコは微笑む。

 何かを思い出すように空を見上げた。


「今でこそ、【紅蓮窟】は、魔王たちの側近が見切るか、殺されるか、寿命で死んでいなくなったけど、昔は必死に魔王なき【紅蓮窟】を守っている魔物たちが居た。そして、彼らが居なくなってからは、私が守ってる。水晶を守るために何体か私のAランクの魔物を配置してるし。他の魔王には、あそこは私のレベル上げのためのファームで、手を出せば戦争だって脅してる」

「いつでも使える狩場は重要だからな」


 自分たちの魔物を共食いさせる気にはとてもなれない。


「これは半分は建前だよ。確かに、私の可愛い魔物たちのレベル上げに利用はしてるけどね。もう半分は感傷。あそこの魔王とは仲が良くて、大事な友だちの生きた証、消えるのは忍びない……そのはずなのに、不思議と君になら壊されてもいいなって思える」

「マルコはいいやつなんだな」

「さて、それはどうだろう。まあ、何はともあれいい加減今日は寝たほうがいい。不思議と魔王も魔物も睡眠だけは必須だ。天狐ともども、レベル一〇になったらサキュバスを通じて連絡してね。そしたら【紅蓮窟】に連れて行ってあげるから」


 その言葉を最後にマルコは消える。

 転送で自らの部屋に戻ったのだろう。

 今回はショットガンの実用性、そして魔王の事情。いろいろと勉強になった。


 

 

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